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 海洋都市アマールの護衛船団を襲撃した海賊船団”海棠カイドウ”を撤退に追い込み、RQ-11 レイブンによってターゲットロックされたAR(拡張現実)の赤枠を頼りに海賊船団の本拠地へと向かった。



 海棠の本拠地らしき島が見えてきたのは、水平線が赤く染まり周囲が段々と闇に染まっていく頃だった。

 Uボートの動きを止め、発令所内でTSSタクティカルサポートシステムからマップを開き、海賊船団の本拠地を映し出していく。


 本拠地の島は思ったより大きくはなかった。潜望鏡から見えた外観は、一言で言えば岩壁。

岩壁の頂点に僅かに緑が見えるだけで、岩礁や暗礁に囲まれているだろう海域の中央にそそり立つ岩壁の島の内部に赤枠が集中して重なっていた。マップから見下ろす岩壁の島の形状は、中央が空いたドーナツ型。


 どうやら、岩壁の内側を利用して本拠地化しているのだろう。外から見れば人が住める島には見えない岩壁の島。岩礁、暗礁に囲まれて近付くのも苦労する島を、わざわざ細かく調査する気にはならなかったのだろう。


 しかし、この島でどうやって食料の確保や船の修理・加工資材を確保し続けているかは疑問だ。野生動物や果実が採れるとは思えない、全てを海賊行為で賄っているのか、もしくはどこかに外部協力者がいるのか……。



 ここからどう動くか……最初の襲撃で捕縛した賊から、この島の位置は知れるだろう。しかし、護衛船団の帆船では、岩礁と暗礁を抜けて岩壁の島へと辿り着く事は不可能と思える。

 もっと小船に乗り換えて進んだ時に、海賊側からの攻撃がないとも限らない。まずは一度内部へ潜入し、この岩壁の島の防衛状況などを調べるか……。



 潜入すると決めたとは言え、幾つか考えなければならない事がある。


 一つ目は、俺がここにいるという事実が知られるのは不味い。どうやって辿り着いた? と聞かれて、正直に潜水艦で、と答えても理解はされないだろうし、あの豚レモンが突っかかってくる可能性が考えられる。

 それに、観方を変えれば、そもそも俺が海賊船団”海棠”の一員では? とも考え付く状況だ。となると、シャフトのように顔を隠すか……。


 二つ目がこれだ。俺の偽りの姿であるシャフトが、何の前触れもなく南部の無人島に現れるのは、不自然を通り越して異常だ。シュバルツでもシャフトでもない、三人目の姿が必要だ。



 TSSのアバターカスタマイズを開き、現状で購入済みのアバター衣装やアクセサリーを確認し、SHOPを開いて未購入の衣装も確認する。これから行う潜入に必要なアイテムと絡め、この南部の海とマッチした不自然でなく、更に俺の顔を隠せる組み合わせ……。




 衣装を変更し終わった姿を、TSSのアバターカスタマイズに描画されている立体映像で確認する。

 服は皮製の海賊船船長のコスチューム、それにキャプテンハット。しかし共にボロボロになった亡霊のような衣装だ。


 そして顔にはシャフトのケブラーマスクの下に着けているのと同種の、スケルトンフェイス。このフェイスと衣装は、アバター衣装の幽霊海賊パックに収録されているセットアイテムで、スケルトンフェイスを設定すると、頭部が骸骨に変わり、眼底に青白い炎が浮いている。


 周囲からスケルトンに見えているのは頭部と首付近までで、体全体がスケルトンになっているわけではない。衣装の下にはパワードスーツも着ているので、運動能力の低下を心配する必要はないが、出来るだけ地肌を見せないようにしなくてはならない。


 アバターカスタマイズのセットをリストに保存し、いつでも着替えられるように登録しておく。アバター衣装のセットリストに並ぶシュバルツ、シャフトの下に幽霊船長「ヨーナ」と名付けた。



 続けて、潜入用のアイテムとして、救命ボートと同じように消費アイテムとして用意されている小型酸素ボンベと交換用ボンベを数本用意する。岩壁の島まで泳いでいくのは時間が掛かるだろう、海中を進む為の移動手段として水中スクーターも取り出した。


 これらの消費アイテムは、すべてVMBのPvEモードの海底基地ミッションで使われるものだ。あのミッションもこれから行う潜入と似たようなものだった……少しだけ懐かしく思い出しながらも、アイテム達を取り出し夜の闇が染まっていくのを待った。






 周囲が完全に闇に包まれ、僅かな星明りだけが波に返る。俺はすでにUボートから出発し、海中を水中スクーターで進んでいた。この水中スクーターは、両手で固定するフックとスクリュー部分、そして電動モーターだけの小型の物で、速度こそ出ないが海中を進むだけなら手軽な移動手段だった。


 スケルトンフェイスの口に小型酸素ボンベを咥え、アイマスクを着けた絵はシュールとしか言いようがない、もしや呼吸の必要がないのでは? などと心まで化け物になったかのような想像をしたが、さすがにそれはなかった。

 視覚には骸骨に見えるだけで、その内側は人の肉体なのだ。その当たり前の事実に少しだけ安堵した。


 Uボートは出発の際に外部からのリモートコントロールで潜航させ、そこからガレージへと戻した。海上で戻すと、光の粒子が発生を見張りなどに見られる心配があったため、一手間掛けての収納だ。



 視界に浮かぶマップを頼りに、岩礁を避けながら岩壁に近づくと、海上から続く洞窟が見える。あの先が海賊船団”海棠”の本拠地なのだろう。周りを警戒しながら、洞窟内部へと進んだ。


 洞窟内部には所々に燭台が置かれ、今にも消えそうな炎の光が揺れていた。周囲に人がいる様子はない。燭代に浮かぶ魔法の光は、込めた魔力によって照らし続ける時間が変わる、洞窟内の明かりはまもなく完全に消えるのだろう。


 海族達の眠りの時間が近いのかと思ったが、洞窟の先からは男達の騒ぐ声が聞こえてくる。いや――、正確には男の歓声、喚声、怒声、兎に角騒ぐ声。そして、その声に消されるように小さく聞こえる悲鳴、嘆声、泣き叫ぶ女達の声が聞こえた。


 

 残る仕事は海賊どもの殲滅だけだと思っていたが……もしかすると、その考えは早計だったのかも知れない。




 洞窟の先がぼんやりと明るくなっている。マップを見るとこの先が大きく広がり、港になっている事がわかる。

 海中から顔だけ出しながら、周囲に監視などがいないかを確認しつつ、ゆっくりと港へと入っていった。



 海賊船団の港には、日中の襲撃で見た帆船と同サイズの帆船や、それよりも更に小さな小船タイプなどを合わせ、多数の船舶が停泊していた。


 俺が日中に十隻近く沈めたのに、まだこんなにも多数の船舶を保有していたのか……。


 停泊している帆船の陰に潜み周囲を見渡すと、港部分の周囲は倉庫と思われる小屋が建ち並び、その奥に石造の階段が見える。ゆっくりと上を見上げていくと、ドーナツ状にく空いた上空を塞ぐように掛けられた橋、橋、橋。


 岩壁の内側は、岩壁の上部の方まで何階層にも及ぶ洞窟住居として加工され、石造の階段に通路、木製の柵が唯一の通り道を造っている。そして、それを繋ぐ橋が向かい側と結ぶように掛けられていた。


 洞窟住居から洩れる明かりの光、そして男女の性質が全く違う声。この形状は動きにくい……移動の為の通路が他から丸見えになっているし、どこにどのような部屋があるのか、何人の海賊たちがいるのかがわかりにくい。一度でも見つかれば、大乱戦に突入するのは間違いないだろう。



「きゃぁーー!」


「歯をたてるなと言っただろうが! この下手糞が、テメェはもういらねぇ!」


「や、やめっ、ごめ、ごめんなさい! 許して!」



 なんだ? 岩壁の洞窟住居の一番上辺りから、よりクリアな声が聞こえた。帆船の陰を移動し上を見上げると、大男が小柄の女性を片手で持ち上げ、石造の通路の外へと放り投げたところだった。





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