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 海洋都市アマールを出発し、中継地点の無人島へと到着した。護衛船団は中継基地を前線基地へと変えるべく、次々に小船を降ろし無人島へと向かっていった。


 俺はどうするか? とりあえずはUボートVII型に留まり、海上の監視をしつつ護衛船団が周辺の調査に動き出すのを待つつもりでいる。

 中継地点の島にも興味はあったが、Uボートから出るには浮上するしかない、現在は海面ぎりぎりまで浮上し、バッテリーの回復機能が作動する位置を維持しながら様子を見ている。


 どうやら今日はもう動き出さないようだ。バッテリーの回復を行いながら、無人島の周囲を周るように航行し、TSSタクティカルサポートシステムをUボートの操作モードに変更する。これにより、最大表示範囲が半径五キロにまで広がったマップをマッピングしていく。


 潜水艦にはパッシブソナーとアクティブソナーと言われる索敵手段があるのだが、VMBの仕様でソナーの効果は統合され、マップ表示範囲内で水上・水中船舶が何かしらの音を発すれば、マップに船影が光点となって表示されるようになっている。

 このソナーにはクールタイムが設定されており、水上船もソナーを搭載し、水中の潜水艦を探索できるが、クールタイムが潜水艦よりかなり長い。逆に潜水艦はクールタイムが短いが、マップの最大表示範囲が水上船より狭くなっている。



 無人島の周囲を周りながら、潜望鏡で監視を行い、ソナーを打って見逃しがないかを確認する。そんな地味な作業を繰り返しながら無人島の警護を行っていた。



 翌朝、海上に停泊している護衛船団に小船が戻っていくのが見えた。前線基地として島を整備している人影はまだ見えている、人員を分けて前線基地の設営と周辺調査を並行するつもりなのだろう。



 護衛船団七隻の内、旗艦だと思われる巨大な帆船を含めた五隻が動き出した。その後ろに潜航しながら追跡し、ついに海賊船団の捜索が始まった。






 朝から中継地点周辺の別の無人島を周り、海賊船団の拠点となっている無人島を探していく、無人島が近付くにつれ、護衛船団は単縦陣をとり、航路は細かく修正され蛇行しながら進んでいく。

 この海域の無人島周辺には暗礁海域が広がっており、アマールから交易相手国であるフィルトニア諸島連合国まで航海ができるほどの帆船では、この暗礁海域を進むには座礁する可能性が高すぎた。


 護衛船団は幾つかの島の周りを調査し、旗艦が進めないほどの海域は避けながら調査しているようだった。

 Uボートのマップには暗礁海域の岩礁がしっかりと表示されているが、たしかにこの広がり方では、帆船では全く近づけそうもない島が出てくるだろう。


 昼を過ぎ、そろそろ中継地点へ向け舵を切る頃だろうかと思ったところで、それが映りだした。

 海賊船団”海棠カイドウ”だ、最大範囲にしていたマップの端に光点がいくつも映っている



 同時に護衛船団から敵影発見を知らせる鐘だろうか? けたたましい鐘の音が鳴り響く。



 護衛船団は単縦陣を維持しながら、海賊船団”海棠”が現れた方角へと舵を切った。俺もその最後尾につけ、少し距離を離して司令塔を海上に浮上させる。

 護衛船団の船員達の目は正面の海賊船団へ向いているだろう、今の内にRQ-11 レイブンを飛ばし、海賊船団の船舶を纏めてターゲットロックするつもりだ。


 発令所から司令塔一階へ上がり、上部ハッチを開いて船上へと出る。すぐさまTSSからインベントリを選択する。

 黒い補給BOXが召喚され、その中から灰色の無人偵察機レイブンを取り出した。すぐにスタートスイッチを押し、甲高い電動モーター音を鳴らしながら、プロペラが高速回転していく。護衛船団の後方から、その真上を通過するように飛ばしては、さすがに誰かが気付く可能性がある。

 大きく上空を迂回するルートを考え、レイブンを放り投げた。そして、すぐに司令室へとハッチを降り、Uボートを急速潜航させる。続いて操作モードを直進しか出来ない自動航行モードに変更し、操作対象をレイブンに変更する。


 海賊船団とは別方向に向かっていたレイブンを更に上空へと上げ、方角を修正し、上空から海賊船団をカメラに収める。

 見えている船影数は二十隻、それら全てを赤色の枠でターゲットロックし、それがAR(拡張現実)となって、俺の視界にも浮かびだす。


 上空のレイブンから見える映像から考えると、海賊船団の船舶は護衛船団よりも小さく見える。マストの数は二本、船体が少し小ぶりに見えるから、前の世界でキャラックと呼ばれていた帆船に近い形状に見えた。

 しかし、異なる点も幾つか見て取れる。護衛船団同様に船尾に力強い航跡が吹き出ている。魔法による速力増加が可能なのだろう、そして外観で特徴的なのが船首が異様に突き出ているのが見える。体当たり――衝角戦術を採るのだろう。



 護衛船団の速力が上がっていく、単縦陣形はそのままだが船舶間の距離が更に開き、船尾からは噴出すような航跡が海上に帯を引いていく。

 海賊船団は集団で固まりながらも、護衛船団の頭を遮るように移動している。両船団の距離がどんどん近付き、護衛船団の先頭を行く船から火線が放たれるのが見えた。


 まるで無音の大砲のように飛ぶ赤い光弾、たぶん火属性の魔法攻撃だろう。護衛船団の帆船はどれも木造だった、レイブンからの映像でははっきりとはわからないが、海賊船団も間違いなく木造だろう。

 魔法攻撃をするならば、延焼が期待できる火属性を選択するのは当然だろう。しかし、ここは海上であり、船を攻撃する手段が魔法ならば、船を守る手段もまた魔法だった。


 放たれる赤い光弾を防ぐように、海賊船前方の波が直立するように迫り上がり、海水の壁が出来上がる。光弾を受け止めた海水の壁を、内側から突き破るように海賊船が加速しながら突き進むのが見えた。

 船首にある衝角には、それよりも更に大きな風の膜が張ってあるように見える。その風の膜が、突き破った海水が船に掛かることがないように、左右に弾き飛ばしていく。



 なんだが流れが良くない気がする。護衛船団の船舶よりも小ぶりな海賊船は、確実に速力と機動性で上回ってた。赤い光弾を防ぎ、進行を妨げるような護衛船団側からの海水による防壁を躱し、ついに風の膜でより巨大化した衝角が護衛船団を捉えだした。


 海賊船団二十隻のうち十五隻が衝角戦を挑み、残り五隻が護衛船団を囲うように周回している。


 俺はレイブンの操作を中断し、自動帰還ボタンを押して船上に出た。レイブンの帰還を待ち、収納が終了した頃には、護衛船団は完全に捉まっていた。

 ソナーに映る船影を見ると、船足が完全に止まっている。また、衝角攻撃を受けていない護衛船までもが速力が低下しているのが見て取れる。


 どうやら、周囲を周っている五隻が波の流れに何かしているようだ。その内側だけ、渦潮のようにゆっくりと回転している。



 どうする? 戦況は衝角戦から帆船に乗り込まれ、白兵戦に移行しているだろう。仮に魚雷を撃ち込んだとしても、護衛船ごと破壊してしまい意味がない。船体上部の八十八ミリ砲でも同じ結果になるだろう。


 いや、それでもまずは周囲を旋回している海賊船か……攻撃目標を定めUボートを操船していく。



 Uボートを潜望鏡深度まで上げ、魚雷発射の準備をすると、レイブンでのターゲットロックにより、魚雷には通常存在しない誘導機能が付加されていた。レイブンなどの偵察機によるターゲットロック本来目的は、ロケットランチャー系の重火器や、魚雷のような兵器の補助が目的なのだ。


 誘導可能距離までUボートを航行させ、護衛船団を取り囲む五隻の内、四隻を攻撃目標としてマルチロックし、船首魚雷管四基から魚雷を連続発射していった。





使用兵装

UボートVII型

ドイツ海軍が用いた潜水艦の総称で、このVII型は約六十七メートル、全幅約六メートル。VMBの中では艦首四基の魚雷発射管を持ち、魚雷の総本数は十四本、船体中央に載せられた司令塔には八十八ミリ砲が一基備えられている。


RQ-11 レイブン

灰色の小型無人偵察機、全長一メートルほどの細い胴体に翼長一メートルの翼と電動プロペラが一基ついている。小さなコクピット部分にカメラが載っており、映した映像がTSSのウィンドウモニターに映し出され、ウィンドウモニターでコントロールできる。


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