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海洋都市アマールの護衛船団第一陣が、盗賊船団”海棠”討伐に向けた出航を明日に控え、俺も船団を追跡する為の準備を行っていた。
VMBに用意された多数の艦船の中から選んだのは、ステルス性に富んだ潜水艦のUボートVII型だ。これを操舵し、まずはこの世界の海戦を知るところから始めるつもりだ。
Uボートの操作性や居住性を確認し、数週間は掛かると思われる作戦行動中の食料を確保する為に、アマールのマリーダ商会を訪れていた。
「お客人、必要なのは食料だけで、水は大丈夫ですかい?」
「ええ、水に関しては魔道具でまかないます」
実際にはUボートに貯水タンクがあるので、燃料ゲージと引き換えにはなるが、それを利用するつもりだ。基本的にVMBに登場する車両や艦船は、ゲームバランスを取る為に現実の兵器とは乖離した性能にされている。
海上航行速度や海中航行速度も、海上の方が速く移動できるが、艦船のカテゴリーによってその速度が統一されていたり、魚雷の性能や発射ルールの統一化されている。
もちろん、高速と名のつく艦船は最高速度の上限が上がっていたり、専用魚雷などの高威力の弾頭を持つ艦船も多く用意されている。
マリーダ商会商船所のボルロイ所長と共に、食料品以外の生活用品なども購入していく。料金は全てマリーダ商会持ちだ、そこまでしてくれなくてもいいと一度は断ったのだが、商会長のマルタさんからの厳命らしく、俺に支払いをさせたことが知られると困るらしい。
マルタさん、クルトメルガ王国でも有数の商会を仕切るだけあって、締めるところはきっちりと締めているようだ。
買い物を済ませた後は、約束してあった通りに食事を一緒にとりながら、目指す海域についての話を聞いていた。
貴重な海図も見せてもらい、スクリーンショットの撮影を意識すると、カメラのシャッター音に似たキャプチャー音が脳内に響く。
視界のモード変更やUI情報がゴーグル無しで見れるようになったのと同様に、スクリーンキャプチャーも意識するだけで保存できるようになっていたようだ。
「しかし、お客人。本当にお一人で海に出るんですかい? こういっちゃなんですが、今の時期の海は比較的穏やかと言っても、もう少しすれば嵐が多くなる時期でございやす。お客人の船がどういったものかは知りやせんが、重々注意して航海してください」
「ありがとうございます。道中は近くに護衛船団もいますから、危なくなったらそちらに助けてもらいます」
その後も海での生活の助言を貰いながら、最低限の知識を詰め込み。夜間のうちに沖へと出発した。
翌朝、Uボートの司令塔部分だけを海上に露出させ、俺は港を出港してくる第一陣の船団を待っていた。すでに追跡の準備は出来ている、俺の足元には黒い補給BOXが開かれるのを待っていた。
しばらく波に揺られていると、水平線に護衛船団と思われる船影が見えてきた。数は七隻か……多いのか、それとも少ないのか判らないが、商船とは違った形状の――キャラック船に形状が似ている気がする。
内六隻は三本マストでUボートの半分ほどの大きさ、全長三十メートル弱だろうか、一隻だけその倍近い大きさで四本マストの船がいる。たぶん、あれが旗艦なのだろう。
まだ距離があるうちに足元の補給BOXに手を入れ、今回の海賊船団討伐に必要なもう一つの重要アイテムを取り出す。
補給BOXから取り出したのは、灰色の小型無人偵察機、RQ-11 レイヴンだ。この小型偵察機は、主にアメリカ軍やその同盟国で運用されており、全長一メートルほどの細い胴体に翼長一メートルの翼と小さな電動プロペラが一基ついている。
小さなコクピット部分にカメラが載っており、レイブンが映した映像がTSSのウィンドウモニターに映し出され、車両やUボート同様にウィンドウモニターでレイブンをコントロールすることできる。
レイブンのスタートスイッチを押すと、電動プロペラが中々いい音を出して回転していく。船団に近すぎると気付かれる可能性があるが、レイブンは高度三○○メートルから四○○メートルほど上空に上がる事ができる。
Uボートの司令塔から護衛船団に向けて、投げるようにレイブンを飛ばす。空高く上がっていくレイブンを確認し、すぐにウィンドウモニターを使いレイブンを護衛船団の上空へ向かわせる。
まだ距離があるが、今のうちにやるべきことをやっておく。VMBには幾つかの偵察機が利用できるが、どの偵察機もウィンドウモニターに映る目標をタッチする事で、その目標をターゲットロックすることができる。
ロックされた目標には四角い枠取りがなされ、ウィンドウモニターの中だけではなく、俺の視界にもその枠がAR(拡張現実)となって映し出される。
さらにARの枠色を変更する事ができ、追跡する護衛船団の船舶七隻をロックし、黄色のカラーリングにしておく。
これで準備完了だ。はっきり言って目的の海域までの航路がわからない。そこで、護衛船団をターゲットロックし、それを追跡するつもりでいた。
付かず離れずの距離をとっていく予定だが、もしも船団を見失った場合、大海原で孤立する可能性があった。しかし、これでその心配もないだろう。
船団を映し続けているレイブンは、帰還ボタン一つで自動で俺の下に戻ってくる。レイブンが壊れるとロックが消失するので、俺の下へ帰還させインベントリにいれておく。
俺もUボートの内部へと降り、操作対象をUボートに変更し、護衛船団を追って航海をスタートさせた。
◆◆◇◆◆◇◆◆
海洋都市アマールを出航してから一週間が経過した。航海をしながら潜望鏡やレイブンを飛ばし、護衛船団を観察してきたが、護衛船団の速力は想像以上に速かった。
その要因は、造船技術が優れている、のではなく魔法だ。帆船なので風任せな速力かと思っていたが、度々船尾に力強い航跡が浮かび、速力が一時的に増して、また風任せな速力と自然な航跡に戻る。
それを繰り返しながら船団は航海を続けていた。実際に海中に潜って確かめないと判らないが、どうやらこの世界の船は、船尾にスクリューを持つ船が存在するようで、それを魔法か魔石で回転させ、速力を増しているのだと考えた。
速力が増せば、目的の海域に到着するのが早まるかとも思えたが、船団は戦闘訓練と思われる陣形の組み換えを頻繁に行っていたり、大砲代わりと思われる遠距離魔法を海に打ち込んでいたりと、訓練に余念がなかった。
逆に俺はこの一週間何をしていたかと言えば、護衛船団の観察の他、これから予想される戦闘にどのように、何を使って介入するか、最終的にどこまでやるのかなどを考え、その為の準備や練習に明け暮れていた。
そして、いよいよ中継地点の無人島がある海域へと到着した。
護衛船団は、無人島から少し離れたところに停泊し、小型艇を下ろして船員たちが無人島に向かうのが見える。
商船所のボルロイさんの話によれば、あの島はかなり大きな無人島で、果樹の群生地帯や清流の流れる滝などがあり、そこで水と食料を追加できる他、誰が建てたか判らない石造の簡易宿泊所があり、一時的なキャンプ地として利用する事ができるのだと言っていた。
護衛船団もこの無人島を前線基地として活用し、周囲の島々の中から海賊船団の本拠地を割り出し、完全討伐を目指すつもりなのだろう。
次々と無人島に向かう小型艇を、潜望鏡からウィンドウモニター経由で見ながら俺は、いよいよやってくる海戦に、なんだかワクワクが止まらなかった。
使用兵装
UボートVII型
ドイツ海軍が用いた潜水艦の総称で、このVII型は約六十七メートル、全幅約六メートル。VMBの中では艦首四基の魚雷発射管を持ち、魚雷の総本数は十四本、船体中央に載せられた司令塔には八十八ミリ砲が一基備えられている。
明日は所用で書く時間が取れないので休みます。火曜日からまた頑張ります。




