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冒険者用の道具類を扱う店舗で、アシュリーさんと共に道具袋と言う、袋のサイズ以上の物を収納できる、ファンタジーラノベでは定番のアイテムについて話をしていると
「おいおい、にーちゃん、冒険者の店に来ておいて、道具袋の使い方もしらねーのかよ!」
と、大柄な体躯で、猫耳をつけたおっさんが声をかけてきた。そして、その猫耳大男は、売り場に並んでいる小さめの布袋を手に取り、こちらに軽く放り投げてきた。
「ほれ、それが道具袋だ。ちょっと魔力を通してやれば収納空間が開く、たったそれだけだろうが、そんなこともできねーで冒険者やるつもりか? お前大丈夫か?」
投げられた布袋を受けとめ、口を少し開いてみるものの、収納空間とやらが開くわけものなく、小さな布の内部が見えているだけ……。
魔力が必要という事だろうか? 魔力ってなんだよ、いや魔力は魔力だよな。 でも、そんなものは元の世界にもVMBにもないし、どういうことだ? 俺には使えないのか?
「ん? どうした、まさかおめー、魔力の使い方がわからねぇのか? いや、まさかおめー……マヌケか?」
その言葉にアシュリーさんが動揺したようで、目を見開き、俺の袖を引いてその場を離れようと力を入れてくる。
俺はこの猫耳大男に何を言われてるのかよくわからない、いや魔力は使えないわけだが、それだけでマヌケ呼ばわりか。
「ガァーッハッハ! 本当にマヌケ野郎かよ! 初めて見たぜ! おめぇらも初めてだろ?! 本当にいるんだなマヌケ野郎ってのは!!」
「ええ! あっしも初めて見やしたよ、リーダー!」
「おいらもでさぁ、マヌケでよく冒険者なんてやる気になったもんす、マヌケなんて何もできない役立たずなのに、組んだ仲間を殺すだけの能無しでさぁ!」
おいおい、なんだこの流れは、なんだよマヌケって、何か少し前にも聞いた気がするが、俺は何を言われているんだ?
この3人組に、何を笑われてるのかよく理解できない。マヌケ、マヌケと道具袋の使い方を知らなかった無知を言われているのか? しかし、道具袋の使い方を知らないだけで、仲間を殺す能無しとまで言われるだろうか?
そんな疑問で頭が一杯になりかけたが、袖を引かれる力に、後ろにいるアシュリーさんを思い出す。アシュリーさんの手は、いつの間にか袖を引くだけではなく、袖を掴みながら震えていた。
「あなた達、いい加減にして下さい! シュバルツさんは、魔力がなくとも十分に戦う力を持っておられます! 能無しなどと言われるほど弱くはありません!」
「はっ! 言うじゃねーか、お嬢ちゃんよ! おめー、このマヌケのパーティーメンバーか? 大変だな! マヌケの世話して冒険者やるのもよー! どうよ、俺のパーティーにこねぇか? こんなマヌケ野郎と別れてよ! マヌケ野郎の身体能力じゃ、夜も満足できねーだろ? ガァーッハッハー!」
「そりゃぁ名案っす! リーダーの身体強化スキルは、オークと殴り合えるほどっすからね!」
「そんだぁ! そんな魔力のないマヌケより、リーダーの方が有能でさぁ!」
「お断りです! あなた方よりも頼りになるシュバルツがいるのに、離れる必要性がありません!」
あ、さん付いてないや、恐怖で震えてるのか思ったが、怒りに震えているのか。 それに、マヌケってのは魔力がない人のことを呼ぶ蔑称のことか……。
「ほぅ! 言うじゃねぇーか! なら頼りになるところを見せてもらおうじゃねーか! おいマヌケ! ちょっと外でろや! 冒険者の先輩が、魔力の使い方を教えてやんよ! そんでお嬢ちゃんには、冒険者の夜がどんな夜かたっぷりと教えてやんよ!」
「はぁ~…… 総合ギルドでこの手のイベントが起きなかったから、もうないと思ってたけど、やはり。(さすがは異世界転移か……)」
「ごちゃごちゃ言ってねぇーで、付いてこいや!」
俺とアシュリーは、猫耳大男を先頭に店を出ると大通りの横道へと入っていった。気付けばネズミ顔と狸顔が俺達の後ろにいる、逃げないように囲んでいるつもりだろうか。少し歩いて人の気配が遠のいたところで、猫耳大男は振り返った。
「この辺でいいだろう、武器は使わないでおいてやる、殺すと厄介だからな」
つまり、怪我くらいなら罪にもならないと言いたいのか?
「アシュリーさん、この都市では喧嘩で相手に怪我をさせると、どうなる?」
「冒険者と平民や職人なら冒険者が罰せられますが、冒険者同士なら死に至るほどでなければ、ほとんど不問です」
アシュリーさんは小声で聞いた俺の質問に、小声で返してくれた。そして、「御迷惑をおかけしてすいません」と消入りそうなほどの小声で答えてくれた。
「ほら、マヌケ野郎! ぼけっとしてんじゃねぇーよ、頼りになるところをみせてみろや!」
猫耳大男は両手を広げ、かかってこいと言わんばかりの構えだ。目の錯覚か、猫耳大男の体が僅かに赤く膨れ上がったように見える。あれが魔力による身体強化なのだろうか。
さて、どうするか……ハッキリ言って、俺はただのFPSプレイヤーだ。元の世界では喧嘩なんてしたこともないし、何かしらの格闘技系のジムに通ったことも、そういった知識も持ち合わせていない。もやしっ子ではなかったので、球技や陸上系のスポーツは苦手ではなかったが……。
この猫耳大男に付き合って、拳を突き合わせたところで勝てるわけもなく、相手は武器を使わないと宣言しているが、俺もそれに付き合う必要はないか、この茶番をさっさと終らせてしまいたい。
俺はショルダーホルスターからFive-seveNを引き抜き、同時に安全装置を解除、猫耳大男の膝に2発撃ち放った。あまりショルダーからの隠し撃ちというのはやらないのだが、2発とも膝を撃ち抜き、猫耳大男は突然の発砲音と膝への激痛で倒れこんでいる。後ろにいたネズミ顔と狸顔も、慌てて猫耳大男のところへと駆け寄っている。
「いでぇぇぇぇっ-!」
「あまりにも呆気ない……俺は魔力が抜けているらしいが、お前の膝は撃ち抜けたな」
「お、おめぇー、な、なにしやがったっ……」
「冒険者が、易々と手の内晒すわけないだろ。さぁ、アシュリーさん、今日はもう戻ろう。買い物を続ける雰囲気では、なくなってしまったからね。時間がまだあるなら、一緒に夕食はどうですか?」
俺は極めて軽い口調でアシュリーさんを連れ、その路地を離れた。もういい時間なのは確かだが、折角のデートのような雰囲気だったのだ、せめてディナーで終りたい。
◆◆◇◆◆◇◆◆
冒険者向けの道具屋で絡まれた後、俺はFive-seveNの銃声を聞いて人が集まるのを避けるため、すぐにその場を去った。アシュリーさんを夕食へ誘いつつ、「迷宮の白い花亭」へと帰ることにした。
本当はイタ飯屋にでも行きたいところだが、今日の買い物でお金ないしな……いや、イタ飯屋がないか……。
「迷宮の白い花亭」の食堂で夕食を食べてる間、アシュリーさんは一言も話さなかった。何度か食事を共にすることで、彼女が食事中に話をしない人だとは判っていたが、この雰囲気はそういうものじゃないよな……。
「シュバルツさん、少しお話ししたいことがあります」
食事を終え、果実水を飲みながらまったりしているところで、アシュリーさんが切り出してきた。
「もちろん構いませんが、改まって何でしょうか?」
「先ほどの冒険者達が口にしていたマヌケ、いや『魔抜け』についてです」
「『魔抜け』? ですか?」
「はい、『魔抜け』というのは、極稀に見つかる、生まれたときから体内で魔力を練る事が出来ず、外部から魔力を吸収することも出来ない、『魔力に関する技能が抜け落ちた人』の事です。
本来、この世に生きとし生ける者のみならず、この世に存在するもの全てに、魔力は宿っています。このテーブルにも、道に落ちる石にも、空にも魔力は満ちています。
シュバルツさんが、これまでどのような場所で生活されてきたかはわかりませんが、このクルトメルガ王国では、あらゆる所で魔力が使われ、様々な道具を魔力を使って動かします。
しかし、『魔抜け』ではそれら全てを利用することが出来ません。シュバルツさんが戦う力をお持ちなのは知っていますが、ここで生きていくには非常に、その……」
そこでアシュリーは俯いてしまった。なるほど、たしかに俺はこの世界で生まれたわけではない、この世界にVMBの力を持って落ちてきただけだ。
魔力なんてあるわけがない、俺は異物だ。この異世界にとって、俺は異物でしかないんだ。
使用兵装
FN Five-seveN
ベルギーのFN社が開発したハンドガンで、マガジンの装弾数が20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガン