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ちょっと短め
6/17 微修正
「トール、戻ったわよ!」
俺とシャルさんは魔鉱石の鉱脈、八番坑道からブリトラの総合ギルド出張所へと戻ってきた。シャルさんが勢いよく出張所へと入っていくと、中にはトールさんの他に数人の冒険者たちが集まっていた。
「シャルさん! それと、シュバルツさん。八番坑道はどうなりましたか?」
「オーク六匹を排除してきたわ、鉱山夫達に後始末を頼んだから、後で報酬を調整して頂戴!」
「了解しました。皮はこちらで引き取ります、6:4で構いませんか?」
「それで十分よ、明日の朝一で貰いにくるわ。それと、坑道の周囲はあまり調べてないから、その辺は後続に頼んでよ」
「ええ、彼らに調査依頼を出す予定です」
出張所の奥では、数人の冒険者たちが簡易の地図を広げて調査ルートか何かを話し合っていた。その後、トールさんから依頼の形について説明を受け、シャルさんは緊急指名依頼と言う形で受けたことになり、その場で報酬を受け取ったが、俺は出張所発の通常依頼になる。この場合、報酬の受け取りは出張所ではなく支部がある都市でないと受け取れないそうだ。
俺としては手持ちの資金に困ってもいないし、ギルドポイントを貯めるつもりもないので、受け取りは気が向いたらと言うことにしておこう。仮にギルドポイントが貯まっても、昇級試験を受けなければいいだけの話でもあるが。
総合ギルド出張所を出れば、周囲はすっかり暗くなっていた。出る前にトールさんに聞いておいた食材の持込が出来る料理店へとシャルさんと向かい、鹿肉を買い取ってもらいつつ、何箇所かの上質な肉部分を夕食として出してもらった。
やはり、本職が調理するとまた格別に美味い……料理覚えようかな……。
翌朝、夕食の後に探した宿の一室で目を覚ました。シャルさんとは別室で部屋を取る事ができたので、出発の前に兵装を確認しておく。CZ75 SP-01銃剣装備の感触はかなりいい。本来ならば、拳銃に装備した銃剣を、目標に突き刺してから発砲すると言う行為は、運用方法としては正解ではない。
これが実銃だった場合、銃器本体に様々な不具合を起こしかねないからだ。しかし、VMBというゲームの銃器が実体化しただけの俺の銃器たちには、その常識は当てはまらない。
発砲したときに、硝煙の臭いも火薬の熱も出さない俺の銃器たち。コストの安い銃器を召喚し、力任せに岩に叩きつけても銃身が歪む事はなく、一定以上のダメージで突然光の粒子となって砕ける。
そんな、この世界とも前の世界とも違う理で存在する銃器たちを手入れしながら、隣の部屋の光点が動き出すのを待つ。出発の予定時刻までは、まだもう少しあるが、シャルさんは依然として起き上がる様子がない。あの少女は朝弱いのだろうか?
結局、約束の時間になっても光点が動かないので、シャルさんを起こしに隣の部屋へと向かった。
「シャルさーん、起きてますかー?」
ドアをノックするが、俺の集音センサーに聞こえるのは、「うにゅ~」とか「ふにゅ~」とか唸る声だけだ。
「先に行きますよー!」
寝ぼすけは放置し、報酬額の確定した依頼達成証を受けとりに、総合ギルド出張所へと向かう事にした。
朝から事務仕事をしているトールさんに挨拶をし、依頼達成証だけを受け取る。あれから後続の冒険者たちが何か見つけたかどうかを確認したが、坑道の周囲には他のオークの姿はなかったそうだ。
しかし、魔鉱石の鉱脈が存続する限り、オークのような亜人種が時おり誘われて近付いてくるのは仕方のないことらしい、警備などは置かないのか質問したが、頻度と雇用コストが釣り合わないそうだ。基本的にはブリトラの住人や、街の西にあるという領主の住む、山岳都市バレイラーの総合ギルドの支部に依頼を出すそうだ。
そんなブリトラ周辺の地理について説明を受けていると、出張所へ向けて真っ直ぐに近付いてくる光点がマップに映った。
「シュバルツいるー!?」
ドアを蹴飛ばす勢いで、予想通りにシャルさんが飛び込んできた。
「おはようございます、シャルさん」
「シュバルツ! あなた、まだ護衛費と教育費を払っていないんだから勝手に消えないでよ!」
そこか……。
「ちゃんとここで待っていましたよ。ねぇ、トールさん」
「そうですよシャルさん。シュバルツさん、だいぶ待っていましたよ」
「うっ、それは――ごめんなさい……」
「さっ、シャルさんも報酬の受け取り完全に終わらせてください、先払い分だけでは満足できないでしょう?」
「と、当然よ! トール! 報酬の残りを準備なさい!」
「はいはい、ちょっと待っていてください、今もってきますので」
昨夜の夕食代を出す為に、シャルさんは報酬の一部をすでに受け取っていた。その残りを受け取り、俺達はブリトラの街を出発する事にした。
トールさんに別れを告げ、更に南ヘと向かい歩いていく。最終目的地の海洋都市アマールはもう少しだ。シャルさんが言うには、馬車で五日掛かる距離を獣道を利用する事によって二日で踏破し、アマールの入り口に到着する予定だと言う。
◆◆◇◆◆◇◆◆
そして予定通りの二日後、俺とシャルさんは最後の山の頂まで、もう少しと言うところまで来ていた。
「もうすぐ到着よ、シュバルツ!」
「到着と言っても、アマールは海洋都市ですよね? まだ山の頂付近にいる気がしますけど」
「ふふん、もう少し上がればわかるわ!」
最後の山道を上がっていき、山頂を回り込むようにして反対側へ出ると、目に映ったのは青い海だった。
山の山頂から見下ろす下に見えるのは、山を削るように建てられた家々と急勾配の階段やスロープのつづら折、そして青い海がどこまでも広がり、白い雲と共に青い空へと続いていた。
すごい――。海岸線の狭い土地には、大きな商館のような建物がひしめき合い、海岸には多数の船が浮かんでいるのが見える。
「やっと到着したわ。ようこそ、海と山に囲われた海洋都市、アマールへ!」
シャルさんが胸を張るように振り返り、山頂から見下ろす風景を誇るように示した。
ここが海洋都市アマールか、ここでアシュリーが戦っているのか。その美しい風景とは裏腹に、これから起こるであろう激しい戦いを想像し、一歩ずつ坂を降っていった。
明日は仕事で忙しいので間に合わない”かも”




