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 海洋都市アマールへ向かう道中で訪れた鉱山街ブリトラ。街の総合ギルド出張所でアマールの状況を確認しているところに、オークによる鉱山の坑道占拠が知らされた。



 総合ギルドの職員、トールさんに占拠された八番坑道の場所を確認し、一報を届けてくれたドワーフに先導してもらい、まずは俺とシャルさんの二人で事にあたることとなる。



「シャルさん、後続を待つのですか?」


「待たないわ、相手はオーク六匹。場所は坑道の中、わたしの魔動弓を回避する術は無いわ」


「わかりました。援護しましょう」


「あなた短剣よね、オークの体は大きく硬いわ。刃渡りが短い武器では刺突も切断も通用しない、膝を狙いなさい。動きを止めた個体はきっちり仕留めるわ!」


「わかりました」


「オークの武器は棍棒が多いわ、しっかり避けなさいよ」



 八番坑道の穴の前には、大勢のドワーフが集まっていた。手にはつるはしなどの大型工具を持ち、穴を囲うようにして包囲していた。



「冒険者を連れてきたぞ!」



 先導してくれていたドワーフがその囲いに合流し、「たった二人か」、「小娘じゃないか」と囁く声が聞こえる。



「Cランク冒険者のシャルよ、現状と中の様子はどうなっているの?」


「六匹の豚共が突然現れて穴へ入ってきたんだ。今のところは怪我人はいないんだが、ここを奴らの巣にされたらたまらん、早く排除してくれ!」


「任せなさい! いくわよ、シュバルツ」



 坑道の穴は思っていたよりも広かった。迷宮の地下道と同等の広さで、魔法灯が一定間隔で設置されている。

 俺が先頭に立ち、後衛にシャルさんが着く。すでにその両手には大きな和弓に似ている魔動弓”アトリビュートボウ”が握られている。


 俺も両足の太ももにつけているVMBオリジナルのレッグホルスターから、CZ75 SP-01銃剣バヨネット装備を引き抜く。



「変わった短剣ね、それも二刀流なんて」


「私の短剣も魔法武器マジックウエポンですからね、ちょっと大きな音が出てびっくりするかもしれませんが」


「ふーん――Dランクが魔法武器ね」



 俺の後方で聞こえるその声は、呟くような小さなものだったが、集音センサーはしっかりとその呟きを拾っていた。

 俺の力を正確に把握しようとしているのか、それともどこか疑問に思うところがあるのか、俺の背中に感じる視線を躱しながら、坑道の奥へと進んでいく。


 視界に浮かぶマップには、この八番坑道のマッピングが続々と進んでいく。八番坑道は曲線を描きながら地下へと降りていくように続いている。所々に採掘のための横穴が掘られ、採掘の為の道具が放置されていた。



「結構深いわね」


「ええ、でも、どうやら巣に近づいたようですよ」



 俺の返答に、後方から光が発するのが分かる。マップには坑道の先に動く光点が浮かんでいる。集音センサーにもゆっくりと動く、重量のある足音が聞こえる。明らか人ではない足音、間違いなく亜人種だろう。



「行きますよ」


「いつでも」



 光点は一つ、まずは先制を狙いこちらから仕掛ける。


 坑道を光点に向けて走り出す。カーブしていく坑道の先に大樽のような巨躯が見えた。上半身は裸、しかしその筋肉質と言うよりも脂肪の塊とも言える肌の色はピンク、短足で汚らしいズボンだけを穿き、頭には赤い目の豚の顔がそのまま載っている。


 右手に持つのは採掘用の大型工具であるつるはし、この坑道で拾ったのか巨躯と見比べると少し小さく見える。オークも駆けよる俺に気付いたようだ、正面から向かい合うこの距離なら、本来ならば一度足を止め、銃撃から攻撃をスタートするべきだろう。

 しかし、バヨネットを装着したCZ75を持ってそれではつまらない。この銃器を使いこなす意味でも、まずはCQC(近接格闘)を意識して、そこから戦闘へ入っていく。


 接近してくる俺を振り払うかのように振られるつるはしの横薙ぎを、右手のバヨネットで内に逸らしながら一歩踏み込み、左手のバヨネットをオークの右腋へ突き刺し、同時にトリガーを引く。


 坑道に鈍く響く発砲音が、すぐさまオークの痛苦の叫びに掻き消された。痛みにつるはしを落とす音を聞きながら、オークの腋からバヨネットを抜き、そのまま回転するようにオークの後方へと回り込み、同時に両膝の裏を斬る。オークがその脂肪の塊を支えきれなくなっているところを、更に背中へ両手での連続突き八回の刺突を刺し込んだ。



「離れなさい!」



 巨躯を支えきれずに膝から崩れていくオークに止めをと思ったところで、シャルさんの指示が聞こえた。

 オークの背後から横に移動し、射線から外れた瞬間に、オークの頭が光に包まれて吹き飛んだ。



「あなた、ランク詐欺も甚だしいわね」



 頭部の吹き飛んだオークの胴体が仰向けに倒れていくのを見送り、光の矢が放たれた先に目を向けると、シャルさんの手にはすでに二射目の準備が出来ていた。その狙いの先は、俺だ。



「オークは倒れましたよ」


「判っているわ、シュバルツ。わたし、あなたに聞いていないことを思い出したの」


「なんでしょうか?」


「あなた、アマールに何の用で向かっているのかしら?」


「それと、矢が向けられている理由が関係あるのですか?」


「あるわ、もしもあなたがアマールに害を成す刺客の類なら、わたしは自分の名に掛けて、あなたをここで討つわ! 答えなさいシュバルツ! あなたは分家の刺客? それとも海賊や闇ギルドからの暗殺者なの?」



 シャルさんからの問いに、正直にアシュリーの手伝いだと言うべきかを悩んだ。仮にそう言っても、それを証明することが出来ない。他に何を言っても、何か証明できる物証を提示しなければ、この場は収まりそうもなかった。



 

 シャルさんと視線を外さず、左手のCZ75をレッグホルスターに戻し、空いた左手をフィールドジャケットの内ポケットにいれ、そこに入れておいた一通の手紙を取り出した。



「私の目的地は海洋都市アマールのマリーダ商会、商船所です。この手紙は商会長のマルタより預った、商船所の所長宛の手紙です。これを届ける為にアマールへ向かっています」


「その手紙の裏を見せなさい、魔法印があるはずよ」



 魔法印? 言われて手紙を見直すと、封蝋のように手紙を閉じている魔法陣のようなものが鈍い光を発している。これのことだろうか?

 手紙の反対側をシャルさんに見せると、彼女は目を細めるようにして魔法印と思われる小さな魔法陣を見つめている。



「たしかにマリーダ商会の魔法印……ごめんなさい、わたしの早とちりだったようね」



 そう言いながら、シャルさんの引く魔動弓の弦から、光の輝きが消えていく。



 魔動弓の弦が緩められていくのと同時に、シャルさんの気を張った雰囲気が萎んでいくように見えた。この少女、どうやらただのCランク冒険者ではないようだ。

 麓の街で出会ったときから、随分と気を張った少女だとは思っていたが、その張られた糸が緩められたように見える今の彼女は、歳相応の少女にしか見えなかった。



「シュバルツ、本当にごめんなさい」



「いえ、ランク詐欺をやっているのは間違いないですから構いませんよ。それよりも先へ行きましょう、残り五匹のはずです。さっさと片付けて、街の食堂で鹿肉を調理してもらいましょう」


「そうね――そうね、行くわよ!」



 俺を追いこして先へ進むシャルさんの背を追いつつ、頭を吹き飛ばしたオークはどうするんだろうか? そんなことを不意に疑問に感じながら、シャルさんの後を追った。




 

使用兵装

CZ75 SP-01

かつてのチェコスロバキア、現在のチェコが開発・発展をさせ続けているCZ75シリーズの一つで、装弾数十八発に加え正式なアタッチメントオプションとして、刃渡り十七センチ程の銃剣バヨネットが装着できる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 護衛依頼の依頼主に弓を向けるCランク冒険者wwwww
[一言] 「シュバルツ、本当にごめんなさい」 「いえ、ランク詐欺をやっているのは間違いないですから構いませんよ。それよりも先へ行きましょう、残り五匹のはずです。さっさと片付けて、街の食堂で鹿肉を調理し…
[一言] 女の納得する自身の証明出来なかったら弓で射られたわけですかね?難癖酷くない? そもそもそういう潔白証明なんてのはこんな場所では無理でしょう。謝罪しても許せる行為ではないよ。 散々世話になって…
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