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トントン
「アシュリー、まだ起きてるか?」
「はい、レミ先輩。明日の出発の準備に時間が掛かってしまいまして」
「そうか、で、どうだった?」
「シュバルツさんですね? 冒険者登録自体は問題なく……とは言いがたいかもしれませんが……」
私は、レミ先輩に今日の総合ギルドでの、シュバルツさんの冒険者登録時の様子を報告しました。 レミ先輩も私と同じように、生体情報登録時の事を気にかけていました。
「ふむ、アシュリー、君は明日からの調査団への帯同はしなくていい、代わりに……」
◆◆◇◆◆◇◆◆
俺は「迷宮の白い花亭」での夕食の後、部屋に戻りTSSを起動していた。明日以降、冒険者として活動していく為には、このVMBのシステムが、異世界へ落ちた事でどう変わったのか、何が出来て、何が出来ないのか、それを少しでも早く見極める必要がある。
「相変わらず運営ニュースやメールは無理、ログアウトも無理、アバターカスタマイズは可能、これはマイラル村で確認できたままだな」
異世界へ落ちて、初めて訪れた村での宿泊時に、俺は強烈な尿意を催し、狂乱した。パワードスーツの脱ぎ方が判らなかったからだ!
上下一体型のパワードスーツには、ジッパーも着脱ボタンのようなものも見当たらなかった。ゲーム内では尿意なんてないし、脱ぐ必要がないものを脱げるようには出来ていない、もう我慢できないとTSSを弄繰り回し解決したのが、アバターカスタマイズだった。
アバターカスタマイズは、パワードスーツのデザインを変更したり、アバターの髪型とかを変更する機能だが、アバターに着せるものはパワードスーツに限らず、イベントで配布された衣装や、有料アイテムとして販売された衣服に着替えることも出来た。
そして、何も着ない下着姿と言うのも選択が可能だった。この機能で俺はパワードスーツを脱ぐことに成功し、24歳にしてお漏らしすると言う、不名誉を避けることが出来た……。
「装備品の変更、弾薬の補充も可能、支援兵器召喚は……ここではやめておくか」
装備品変更と弾薬の補充を確認するためと、明日の予定に合わせてサブ兵装を変更する予定でいる。選択したのは『FN Five-seveN』だ、このハンドガンはベルギーのFN社が開発したサブ兵装で、M1911A1と比べてマガジンの装弾数が7発→20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガンだ。 Five-seveNとそのマガジンを3本選択し決定すると、目の前に光の粒子が集まり、それは黒い補給BOXとなって現れた。
「補給BOXの出現プロセスは、ゲーム内の時と変わらないな」
箱を開けると、中にはFive-seveNとマガジンがしっかりと入っている。それを取り出し、代わりにMP5A4とM1911A1を収める。箱を閉めると、再び補給BOXは光の粒子となって消えていった。
TSSを確認すると、インベントリというゲーム内で俺が手に入れてきた、装備品や備品などのアイテム全てを閲覧操作できる機能、いわゆるアイテムBOX的なところに、MP5A4が追加されている。
「良かった、ちゃんとインベントリに戻ってる。これでいつでも装備の変更、弾薬の補給が出来ることは確認できたな、今日のところはこれで寝るかー」
装備品を全て外し、アバターカスタマイズで下着姿になると、ベッドへ飛び込んで異世界二日目の夜を終えた。
◆◆◇◆◆◇◆◆
トントン
「お客さーん、起きてらっしゃいますかー?」
朝の何時だろうか、この声は女将のミラーナさんだったか。
「はい、起きてますよ」
「おはようございます、シュバルツ様。 朝の洗面湯と手ぬぐいです、使い終りましたらフロントへ桶をお返し下さい、もう7時ですので朝食も食べられますよ」
「ありがとうございます、顔を洗って食べに降ります」
そういえば洗面湯なんてサービスがあったか、この宿は料理も美味いし、サービスも申し分ない、レミさんに薦められるままに決めたが当りだったな。今日はここを拠点にするにあたって、色々と日用品や依頼をこなして行く上での備品を買いに行くつもりだが、所持金が心許ないからな、あとでミラーナさんにいい店を紹介してもらおう。
朝食は軽いモーニング的なメニューかと思ったが、朝夕の一日二食が基本なこの異世界では、朝食から結構ガッツリな量だった。この食生活にも慣れていかないとなぁと、食後のまったりな雰囲気を楽しんでると、フロントの方からアシュリーさんがやってきた。
「おはようございます、アシュリーさん。 今日はマイラル村へ出発するのではないのですか?」
「おはようございます、シュバルツさん、もうだいぶ自然とオルランド共用語が話せるようになったのですね、本当にすごい習得スピードです」
そりゃぁ、常にオルランド共用語と訳文が耳に入り続けてるからな、なんたらラーニングも真っ青だわ。
「ありがとうございます、まだ少しぎこちないかも知れませんが、これなら買い物にも不便しない程度には、しゃべれるようになったと思います」
「そうですね。私のマイラル村への調査団への帯同ですが、まだ見習いということもあって、二日間の休息となりました。それで、シュバルツさんの今日の御予定は?」
「俺ですか? 今日は日用品と、冒険者としての備品を買いに行こうと思っていました」
「それは丁度良かったです、ご一緒してもいいですか? ここ城塞都市バルガは広いですから、どこにほしいものが売っているお店があるかを調べていたら、日が暮れてしまいます。御希望のお店に御案内しますよ」
「それはありがたい。では、一度部屋に戻って準備してきます」
俺はすぐに部屋へ戻ると、アバターカスタマイズから、海兵隊系のミリタリージャケットとパンツに着替える。そして、ショルダーホルスターにFive-seveNを収め、マガジンベルトにマガジンを入れ、アシュリーさんと共に買い物へと繰り出した。
「まずは、何から買いに行きますか?」
今日のアシュリーさんは、よくよく見れば最初に会った時に着ていたレザーアーマーではなく、タートルネックなワンピースに革ベルト、それにズボンなファッションだった。あれ、これデートかな? いやいや違うだろ、たぶん。
「そうですね、まずは日用品を購入して、それから冒険者用のと回りましょうか」
「はい、ではこの先にある日用雑貨の店へ行きましょう。ドワーフのおばさまが経営されてるのですよ」
そういって日用雑貨屋に案内され、そこのおばちゃんに同居の準備かい? なんて言われて顔真っ赤にしたり、露店で売ってる冒険者向けの串肉屋で、謎の肉の串焼きを買い食いしたりと、これ完全にデートや……。
そして今いるお店は、冒険者御用達の道具類を販売するお店だ。結構大きなお店だが、そこかしこに冒険者の一団がおり、商品の品定めや店員に何かを聞いていたりしている。
「あとは何を買われるんでしょう?」
「あと欲しいのは、道具や討伐証などを入れる袋ですね。マイラル村からバルガへ向かう時に、アシュリーさんの武具が入っていたような、大きさを無視する奴が欲しいですね」
「え? 道具袋ですか? シュバルツさん使えるんですか?」
「え?」
「え?」
思わず、え?とか言っちゃったけど、アシュリーさんもこちらを見て固まってる、道具袋?って何か使うのに必要なのか?
「すいませんアシュリーさん、今まで道具袋と言うのを使った事がなかったのですが、なにか必要な技能とかがあるのですか?」
そうアシュリーさんに聞くと、彼女は何かとても言い難そうに目をそらし、どう切り出そうか、何かを迷ってるように、あっちを見たりこっちを見たり……。
「おいおい、にーちゃん、冒険者の店に来ておいて、道具袋の使い方もしらねーのかよ!」
アシュリーさんの返事を待っていると、後ろから濁声が聞こえてきた。振り返ると、声の主は身長2mはあろうかという大男で、頭には、頭には、猫耳? が付いていた。そしてその後ろには、ネズミみたいな顔の奴と狸みたいな顔の奴が控えていた。冒険者パーティーだろうか?
FN Five-seveN
ベルギーのFN社が開発したハンドガンで、マガジンの装弾数が20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガン