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冒険者登録を済ませ、俺とアシュリーは隣の総合ギルド別館へやってきた。
ちなみに、先ほど登録を行なったのが本館らしい、他にも各種職人ギルドが入っている職人工房、商業ギルドの商業会館、魔術ギルドの魔術会館、資料館、訓練所、管理棟と、幾つもの建物が敷地内に建ち並んでいるらしい。なんか総合庁舎みたいな感じだな。
別館へ入っていくと、中は本館と似たような受付カウンターに合わせ、各地で採集してきた、素材や討伐証を広げるスペースや、報酬の分配や待機所を兼ねたテーブルスペースに分かれていた。
「討伐証の提示はあそこです」
アシュリーさんに連れられ窓口にいくと、モノクルを掛けたオールバックのちょびヒゲ老紳士みたいな人が座っていた。
「ようこそおいで下さいました。鑑定係の『レズモンド』です。 ギルドカードと討伐証を御提示下さいませ」
「はい、よろしくお願いします」
俺はレズモンドさんに、ギルドカードとゴブリンメイジの帯を渡した。レズモンドさんは、ギルドカードをカウンター内に置いてある水晶の台座にセットし、ゴブリンメイジの帯を広げ、軽く手に触れている。あれだけで何かわかるのだろうか?
「レズモンドさんは技能の《鑑定》をお持ちなんですよ。しかも技能レベルが3で、もう少しで《解析》が発現するのではと、期待されている方なのです」
アシュリーさんがレズモンドさんの行為を説明してくれているが、やはり《鑑定》とかが技能ってやつなのか……そして、それにはレベルの設定があり、それが上がれば上位技能(?)が得られると、ここはそういう世界なのか、ひょっとして俺にも何か発現したりするんだろうか。
「見事なゴブリンメイジのスカラでございますね。買取金額は55銀貨、55,000オルでどうでしょうか。それと、ゴブリンメイジの討伐ポイントは300ポイントですので、シュバルツ様はこれでランクがGよりEランクへと昇格となります。おめでとうございます。」
「E? Fでは、なくて、ですか?」
「はい、GからFまでに必要なポイントが25、FからEまでは250となっております」
なるほど、計275ポイントで獲得したのが300だから、Eランクと25ポイントってことか、そうなるとDランクは目の前だな。
「ありがとうございます」
「シュバルツさんならEランクもすぐに越えられると思います! でも無理はしないでくださいね」
「ええ、ありがとう、アシュリーさん」
俺はレズモンドさんから売却金とギルドカードを受け取り、カードを確認してみた。
~~冒険者登録証~~
ネーム シュバルツ・パウダー
年齢 24
出身地 VMB
主な使用武器 なし
主な使用魔法属性 なし
スキル なし
技能 なし
納税方法 冒険者報酬
ランク E(25/500)
~~~~~~~~~~~
なるほど、Eランクは合計500か、一回の依頼でどの程度貰えるかは明日以降の確認事項だな。
「ではシュバルツさん、宿へまいりましょう。もう外も日が落ちてしまっています、レミ先輩も待ちくたびれてるでしょう」
「シュバルツ様、またのお越しをお待ちしております」
そうして別館を出て、レミさんがオススメだと言う宿へ案内してもらった。
◆◆◇◆◆◇◆◆
トントン
「入れぇ 鍵は掛かってないぞー」
「失礼します、総合ギルド調査員、レミです。マイラル村近隣での、はぐれゴブリン討伐後の調査でご報告があります」
私は、アシュリーとシュバルツと別れた後、すぐに総合ギルドの事務棟へ行き、総合ギルド、バルガ支部、総合長の執務室へ来ていた。
入室した執務室内は、相変わらずの質素さで執務机と書棚しかない。壁には唯一の調度品として、総合長が冒険者時代に使用していたという、大槍だけが掛けられていた。
「なるほどな、わかった。マイラル村には調査団を派遣しよう、場合によっては騎士団の出兵もありえる。生まれたばかりの低階層のうちに、一気に制覇してしまえば美味しい獲物だ」
そう嗤うのは、総合長の『ガルバス・ビューリッツ』伯爵だ。獣人族である彼は、茶髪で淡い黄色の目をしており、齢50を過ぎても、その大きな体躯は衰えることなく力強さを見せている。そしてレミに続きを促す。
「で、そのシュバルツという男が何か気になるのか?」
「はい、見たことない防具、見たことのない魔法、それにクルトメルガ王国のみならず、一般常識に対して知らないことも多く、他国からの没落貴族ではないかと」
「まわりくどい、他国とはどこだ」
「失礼いたしました。彼の持つ短杖系の魔法武器のような道具の性能から察するに、バイシュバーン帝国かと」
「冷血の氷狼帝か、奴が帝位についてから、すでに半数以上の貴族が潰されたと聞くな、まさかクルトメルガ王国にまで流れてくる奴がおるとはな、まぁ、捨て置け」
「よろしいのですか?」
「氷狼帝も、こんな所まで逃げてきた元貴族の小僧一人の為に、こちらに干渉はせんだろう。それよりもマイラル村だ、すぐにでも調査団を編成し、迷宮を探し出せ!」
◆◆◇◆◆◇◆◆
「ここが、オススメの、宿屋、ですか?」
「はい、『迷宮の白い花亭』です。さぁ入りましょう。」
アシュリーさんに連れられてやってきた宿屋は、石造3階建ての白い壁が特徴的な宿屋だった。中に入ると、すぐ正面がフロントになっているようだ、フロントというか、これただの木の受付台だな。そこにはニコニコと座る可愛らしくも恰幅のある、おばちゃんが座っていた……。
「いらっしゃいませ、お食事ですか? それとも御宿泊ですか?」
「こんばんは、『ミラーナ』おばさん」
「あら、アシュリーお嬢様じゃないですか、いらっしゃいませ、お食事ですか?」
「もう、お嬢様はやめてくださいといつも言ってるじゃないですか、食事も頂きますが、彼には部屋をお願いします」
「はいはい、宿泊は、朝夕食事付きで1泊1,500オルからです。1週間だと10,000オル、1ヵ月なら40,000オルと割り引きになります」
一ヶ月だと結構な割引だが、持ち金は55,000オルだからな。
「では、1週間、おねがいします」
「はい、部屋は203号室です。朝食は朝の鐘がなる6~9時、夕食は夕刻の鐘が鳴る18~21時の間になりますから御注意下さい。それと、朝7時にはお部屋に洗顔の湯、お出掛けからお帰りの際か、夜の19時頃には清拭の湯をお持ちします」
「わかりました、よろしく、おねがい、します」
「さっ、食事を頂きましょう。ここのおじさんの料理はとても美味しいんですよ」
女将(?)のミラーナにお金を払い、鍵を受け取るとアシュリーさんに背を押されるように一階の食堂へと入っていった。
食堂で出された食事はたしかに美味しかった。この異世界では、中世ヨーロッパを髣髴とさせる、建物や文化を数多く見せられてきたが、当時は貴重だった香辛料が、この異世界ではそこまで貴重と言うわけではなさそうだ。
胡椒や砂糖を始め、多くの香辛料が使われているのがよくわかる。この宿の料理のレベルが高いのかもしれないが、今後この宿での食事が楽しみになりそうだ。
早朝にマイラル村を出発してから、まともな食事をしていないせいでもあったが、アシュリーさんと二人で黙々と食事を進め、早々に食べきってしまった。と言うより、アシュリーは食事中にあまり話をしないようだな、もぐもぐニコニコと無言ながらもコロコロ変わる表情を見ながら食べるだけで、何かこちらまで楽しくなってくる、そんな食事の時間だった。
「あ~! 完全に遅れてしまったようだな……」
「レミ先輩! お疲れ様でした。すいません、私もシュバルツさんも食べ終えてしまいました」
「お疲れ、様、です」
「はぁ~、しょうがない、一人で食べよう。アシュリー、お前は宿舎に先に戻っていてくれ、明日にはマイラル村周辺の再調査へ向かうぞ」
「明日ですか?! 総合長の即断即決はいつものことですが、やはり迷宮ですか」
「そういうことで、シュバルツ君、食事に誘っておいて申し訳ない。マイラル村からここまでと、面倒な冒険者登録で思ったより疲れただろう、今夜はゆっくり休んで明日以降励むといい」
「ありがとうございます、調査、お気をつけて」
レミさんとアシュリーさんは、明日にはまたマイラル村か、俺はどうしようかな、依頼を受けてギルドランクを上げてもいいし、お金も稼がなくてはならないが、まずはゆっくりと装備やVMBのシステム点検だな、この異世界に来てからゆっくりする時間なんて、全然なかったからな。