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 現在地は牙狼の迷宮、地下二十五階、門番部屋。この部屋はこれまでの門番部屋よりも広く作られた一種のボスフィールドのようになっていた。部屋全体が水に浸かり、ヘッドゴーグルに映るマップから読み取れば、3/4は池のような湖のような、地下迷宮湖とでも言うのだろうか? そんな水没したエリアと僅かな足場のエリアとで分かれていた。


 その水没している部分から、光点が一つ浮かび上がってくるのが見える。水深はそれほど深いわけではないだろう、黒い影がすぐに見えてきた――大きい。



 黒い大きな影が水面に上がってくる。俺はMPS AA-12を構え、水面に上がる瞬間を狙う。


 水面からまず出てきたのは目と鼻だ。しかし、その距離が不自然に離れている、1m近くないか? 水面に浮かぶ目、その縦型の瞳孔と視線が合う。これは……ワニか?



 体の殆どがまだ池の中だが、そこにいるのは判っているのだ。こちらとの距離も10m程しか離れていない、先手必勝!


 目と鼻の間付近にクロスヘアを合わせ、トリガーを引いていく。AA-12はショットガンでありながら、トリガーを引き続けるだけで連続で発砲できる、フルオートショットガンだ。


 ドラムマガジンを使用し、装弾数が32発まで増えてはいるが、それを数秒で撃ち尽くす程の射撃速度で放たれた特殊弾薬のFRAG-12が、ワニ型の門番の顔へと次々に着弾していく。

 着弾と同時にFRAG-12が小爆発を起こす。しかし、一発目の着弾と同時に門番の眼球に、瞬膜だと思われる白い膜が張られるのが見えた。次々に着弾し、爆煙を上げていくせいでその顔部分はすぐに見えなくなってしまった。


 マガジン一つ撃ち切ってしまったので、すぐに腰のマガジンポーチから新しいマガジンを取り出し換装する。門番は唸るような低い声を上げながら水中に沈んでいく。

 まさかこれで終わりではないだろう、マップの光点も消えていない。


 水中に逃げて安全だと思うなよ? フィールドジャケットからM67破砕手榴弾を二つ取り出し、ピンを抜いてマップに映る光点へ向け投擲する。

 水中とは言え、パワードスーツによってアシストされた力によって投擲されたM67破砕手榴弾が、水中を逃げる門番の近くで炸裂する。


 水中より響き渡る爆発音と、噴き上がる二つの水柱。そして、立ち上がる水柱に少し遅れて、門番もまた水中より噴き上がるように飛び出してきた。



 クロコダイルジャンプ



 オーストラリアの観光ツアーなどで行く、湿地帯のプログラムでこんな感じのを見た。竿に肉を吊るして湿地帯の川を下るのだ、肉におびき寄せられたワニが水中より垂直にジャンプし、肉を捕る。そのジャンプさながらに門番の上半身が水中より飛び出て、こちらへと降って来る。


 すぐさま後方へとスライドジャンプし、その巨体を躱す。やはり大きい、体長は6mくらいあるだろうか、最初に攻撃した頭部は表面の皮膚が捲れ上がっているが、そこまで大きなダメージには繋がっていないように見える。

 黒く角質化した鱗は、相当な防御力を持っているようだ。M67破砕手榴弾によるダメージは殆どなさそうだが、脇の辺りに少し血が垂れているのが見える。腹部の鱗に覆われていない部分は逆に柔らかいのか……?


 門番と視線が重なる。エメラルドのような翠の美しい眼球に走る金色の縦型瞳孔が、怒気を放って俺を睨みつけている。口を開け、その巨大な牙を見せつけてくる。



「GuRuuuuuuu!」



 低く吐き出すように唸る門番の声が門番部屋に響く、同時にその巨体からは想像できないほどの鋭い伸びのある前進で、一気に俺の下まで接近した。



「はやっ!」



 掬い上げるように噛み付いてくるそのフンを躱し、腰撃ちの体勢からクロスヘアを、顔から体へと滑らせながらトリガーを引いていく。

 再び連続して鳴り響く、発砲音と小爆発の爆音。しかし、俺の射撃がヒットしたのは最初だけ、発砲音に続いて鳴る筈の爆発音は、水中で爆発したかのような鈍い音へと変っていた。


 アクアウォール……。


 門番の腹の前には、地面を覆う水が盛り上がり、水壁を形成してFRAG-12を受け止めていた。魔獣は魔言を唱えない、殆どノーモーションでアクアウォールは形成されていた。

 やはり簡単にはいかないか――射撃を止めた俺に向け、門番の口が大きく開かれる。対魔獣戦で何度も見たモーション、魔砲がくる。左手に持つバリスティックシールドを、水に浸かる地に突き立てその影へと体を隠す。



「GuuuRAAAAAA!」



 体を隠すと同時に、バリスティックシールドに魔砲が直撃する。門番が放ったのは水球どころではない、水上竜巻を口付近から吐き出すように噴射している。

 その威力に、突き立てたシールドごと後ろに押される――ヘッドゴーグルに表示されているシールドの耐久値も、物凄い勢いで減っていく。門番の魔砲を耐え切った頃には、その耐久値は残り2割を切っていた。


 これはもうだめだ。バリスティックシールドを破棄し、両手でAA-12をホールドする。魔砲を放ち、動きが止まった門番の隙を狙い、AA-12をダウンサイトしクロスヘアをその眼球へと合わせる。


 俺の狙いに気付いたのだろう、瞬時に眼球に瞬膜を張り、眼球が白く濁った膜によって保護される。しかし、構わず俺はトリガーを引いた、


 発砲音は三つ、眼球付近に着弾し門番が堪らず顔を背けながら、顔付近にアクアウォールを形成する。

 俺は3連射と共に前へと走り出していた。門番が目を保護するのも、アクアウォールで防御するのも予測できている、狙いはその直後。


 前方ダッシュからの右前方へスライドジャンプ、そこから更にストレイフジャンプに繋いでアクアウォールを躱し、背けた顔の正面へ回り込む。狙いはその鼻の穴だ!


 アクアウォールの影からの高機動ムーブに、反応仕切れなかったのだろう。門番は瞬膜の向こうで縦型瞳孔を更に細くし、驚愕した様子を見せていた。左右の鼻の穴に向け、3連射ー3連射。


 小爆発の音共に、門番の悲鳴のごとき叫び声が響く。門番は爆発の衝撃で反った体勢でそのまま方向転換し、角質化した棘が生えている尻尾を振り回しながら、水中へと再び退避していった。


 しかし、それを許すわけにはいかない、TSSタクティカルサポートシステムを起動し、インベントリから特殊装備を取り出した。



 目の前に光の粒子が現れ、それが箱型に収束していく。出現した黒い補給BOXの中に入っているのは緑色の円盤。それを五つ取り出し、水深が深くなる手前付近に置いては上部のツマミを捻っていく。

 五つの円盤を等間隔にばら撒き、さらにTSSを操作し、インベントリからTH3焼夷手榴弾を1ダース12本取り出す。


 マップに映る光点は、水深の深い位置を移動しながら時間を稼いでいるようだ、水中で淡く光っているように見える。もしかしたら傷を癒しているのか? そこが安全地帯だと思ったら、大間違いだぞ?


 最後に、円盤を撒いた位置から距離を取り、インベントリからギフトBOXを出現させ、その上に乗った。



 後は仕上げである。TH3焼夷手榴弾を光点が動く先へ放り投げていく。この焼夷手榴弾は、サーメートグレネードとも呼ばれ、酸素を必要とせず燃焼するため、水中でも使用することが出来る。そして狭い範囲ながらも周囲に摂氏2000℃にも達する高温を生み出す。

 これを水中へ向けて投げているのである。水中に紅く燃えるTH3焼夷手榴弾が沈んでいく、投げ込んだ周囲は瞬く間に湯気を出し、沸騰をしていく。

 

 門番を包囲するように、逃げ場を作り、そこへ誘導するようにTH3焼夷手榴弾を放り投げる。俺の足元の水も湯気を出してきている。このパワードスーツ、耐熱性能がどれほどあるかわからないが、念のためにギフトBOXを置いて、直接水に触れないようにしている。


 まだ来ないか、更にTH3焼夷手榴弾をインベントリから取り出し、包囲を狭めるように投げ込んでいく。


 来るか? マップに映る光点が俺のほうに向かって浮かび上がってくる。沸騰した水の中から、再びクロコダイルジャンプのように飛び出てきた門番の体表は赤く、火傷をしたかのように所々が膨れ上がっていた。



「Guryaaaaaaa!」



 その叫びは怒りだったのだろうか、それとも悲鳴だったのだろうか。クロコダイルジャンプから浅いところ、俺が円盤を撒いた辺りに逃げるように前進し、そして起こる轟音。



 俺が撒いた緑色の円盤、M15対戦車地雷をその腹で圧し、圧力のかかったM15対戦車地雷が起爆し、連鎖爆発を起こして門番の体を下から押し上げた。


 M15対戦車地雷、それはアメリカ軍で使用された圧力感知式の地雷で、直径は約30cmの円盤型で、VMBのゲーム内では中央のツマミが安全装置になっており、そこを捻って設置すれば準備完了と言うお手軽な設置型地雷だった。

 人の足で踏んでも起爆する事はないが、150kg前後の重量を持つ何かが乗れば起爆する。ゲームの仕様として、爆発の威力は半径3mに抑えられているが、感知範囲が僅かに設定されており、必ずしも地雷の上を通過しなくても起爆する。


 地雷の爆圧により打ち上げられた門番が、再び熱湯の水中へと沈んでいく。ギフトBOXの上でAA-12を構え、いつでも止めを刺すつもりで待ち構えたが、マップに映る光点は動くことなく、やがて力なく消えていった。



 殺った――か? 門番の死体が水の中に落ちた為、最終的な判断が下せなかったが、門番部屋の反対側にある、地下二十六階へと続く迷宮の門から、何か鍵が外れるような大きな音が響いた。




 どうやら、門番越えに成功したようだ。



 

 

使用兵装

MPS AA-12

 アメリカのミリタリーポリスシステム社が開発している、フルオート射撃が可能なSGショットガンで、低反動で片手でも制御できるのが特徴。ドラムマガジンを採用し、装弾数32発。作中での弾丸は特殊弾薬のFRAG-12という小型グレネード弾を使用している。


バリスティックシールド

CBSの実体版である防弾盾。幅58cm、高さ92cmの黒一色の無骨なデザインで、盾の上部には防弾ガラスの嵌った覗き窓がついている。耐久値が残る限りは使用できる使い捨ての盾。基本的な銃弾と特殊手榴弾による攻撃くらいまでは防ぐ防御性能を持つ。


M67破砕手榴弾

緑色の梨のような形状の手榴弾で、投擲後3秒で炸裂し、半径5mに致命傷を、半径15m以内に内部の破片を飛ばし、殺傷することができる。VMBの仕様上、15mを越えると飛散した破片は光の粒子となり消滅する。


TH3焼夷手榴弾

短時間で狭い範囲だが、摂氏2000℃を越える高温を範囲内に生み出す手榴弾。その威力は鉄骨をも溶かす。



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