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 牙狼の迷宮、地下二十階にモーターハウスのコンチネンタルを召喚し、三日ぶりの本格的な休息をとっていた。

 車内のリビングスペースのソファーに座り、この空間だけ前の世界の一室にいるような感覚になりながら、マリーダ商会で購入した迷宮弁当を広げる。


 ござ目に織り込まれたランチボックスの蓋を開ければ、綺麗に間仕切られた料理が詰まっていた。これ、完全に前の世界の弁当だ。俺がパン食よりも米食を好んでいるのを聞いていたのだろう。マリーダ商会の城塞都市バルガ支店、支店長のビルさんが用意してくれた弁当の中身はオニギリや唐揚げ、腸詰肉、温野菜などで構成されていた。

 

 キッチンスペースで湯を沸かし、お茶を用意して一時の休息を過ごす。



 ここからは未知の階層になる。たった五階層だけだが、地下二十一階から地下二十五階までは、土砂降りで降り続ける魔水の雨を越えなくてはならない。そう言えば、仮に地下二十五階の門番を斃し、その先にいる迷宮の主ダンジョンマスターの討伐に成功したとすると、この魔水の雨はどの時点まで降っているのだろうか?


 もしも、迷宮の最深部にある大魔力石ダンジョンコアを取り外した時点で止んでしまうのならば、オシュコシュ M978 タンクトレイラーをもう一台購入して、もう9500リットル分の魔水を確保してしまおうか。



 そう思いながらTSSタクティカルサポートシステムを弄り、SHOPから乗り物の購入画面に進み、移動車両のM978の購入額を確認した。CPクリスタルポイントには余裕がある、どうせ貯水する魔水を完売させれば収支は黒なのだ。と思い、軽い気持ちで二台目のM978を購入した……までは良かった。



「あっ……」



 購入が成立し、ガレージに表示された新しいM978のパラメーターを見て、思わず声がこぼれてしまった。M978タンクトレーラーは、戦車やヘリコプターの燃料を輸送し、給油作業まで行なう重機動車だ。その為、新規に購入するとM978のタンクには燃料が満載されている……これじゃ魔水入れられないじゃん……完全に忘れてた。


 満載されている燃料を無駄に捨てるのも勿体無い、何かに使えることもあるだろうと、このM978はガレージに封印する事にした。

 お弁当を摘みながらTSSのウィンドウモニターをタブレット端末のように扱い、食事をしながら操作をしていく。前の世界にいたときも、こうやって食事をしながらタブレット端末を弄っていたなと、なんとなく思い出した。


 懐かしく思うわけでも、その頃に戻りたいと思うわけでもない。只々、昔も今も変らないな、そう思うだけであった。




 食事を終え、ウインドウモニターを見ながらベッドルームへ移動する。シングルベッドが二つ並ぶツインルームのようなスペースだ。幅はベッドの丈程しかないのだが、壁についているスイッチを押せば、内壁が外へとスライドするようにゆっくりと拡張して行き、快適な室内空間を作り出す事ができる。


 さすがは最高級モーターハウス……迷宮内で最高級ホテル並みのベッドルームで寝れるというのは、病み付きになってしまうかもしれない。防御力の欠片もないただの超大型バスなので、敵が湧く可能性があるところでは召喚したくないが、この門番部屋のように敵が一切出ない空間ならば、今後も使ってもいいかもしれないな……。


 ベッドへ入り、もぞもぞと体勢を決めながらタイマーを掛け、仮眠をとる。起きたら地下二十一階だ。






 約5時間の睡眠をとり、コンチネンタルをガレージに収納し、地下二十一階へと降りていく。大岩をくり貫いたような空洞が目の前に広がり、大口を開ける外に見えるのは、明かりの一切ない闇の中に降る、止む事のない大雨。


 ここからどう進むか? 歩いて進む――わけがない。TSSのガレージからこの大雨を突破する車両を召喚する。



 俺がガレージから召喚したのはLVTP-5(Landing Vehicle Tracked, Personnel-model5)だ。全長9m、全幅4m、全高3mほどの長方形で、足回りは車輪ではなくキャタピラになっている。こいつはアメリカで開発された水陸両用の走行兵員輸送車で、30人以上の兵員を輸送する事ができ、ブローニング機関銃M1919A4という重機関銃を一基だけ装備している。


 正面ハッチを開き、内部へ入っていく。基本的に内部には何もない、兵員と言うか、VMBの時はプレイヤーだが、人員が立って歩けるほどの空間が確保されているだけで、あとは人員が座る小さな長椅子があるだけだ。

 運転席は左前方部分に専用スペースがあり、逆側の右前方部分でブローニング機関銃を操作する。つまり、一人では両方を同時には動かす事はできないのだが、TSSを運転席とリンクさせ、コントロールモードをVMBモードに切り替えれば、TSSのウィンドウモニターが外部を映してくれるようになり、直接外を見る必要がなく、LVTP-5の運転とブローニング機関銃の操作が可能になる。


 エンジンスタートキーを押し、ウィンドウモニターをタブレット型コントローラーのように持ちながらLVTP-5を前進させていく。低く唸るように回転していくエンジン音にのって、土砂降りの地下二十一階を進んでいく。




 地下二十一階に現出する魔獣や亜人種の情報は残っていない。過去一度だけ通過したと言うパーティーがいたのは、たしか25年ほど前だっただろうか。ヘッドゴーグルに映るマップは特に変化なくマッピングを続けている。

 大雨によりぐずぐずになった林道は、人の足で歩くにはとてもきつい環境だろう。LVTP-5でも水上航行時並の速度しか出ていない、約12~13km/hと言ったところだろうか。それでも足で移動するよりは遥かに速く、快適な探索だ。


 ヘッドゴーグルに映るマップで周囲を警戒してはいるが、LVTP-5のエンジン音と土砂降りの雨が打ち鳴らす雨音でそれ以外の音が殆ど聞き分けられなかった。

 気になる地形、不審な音を感じた気がしたときは、操作をブローニング機関銃に切り替え、そちらの画面で360度を警戒していった。




 何かいる。マップに映る林道の脇を、幾つかの光点が追随してくる。ブローニング機関銃の操作に切り替え、ウィンドウモニターで光点の方向に砲塔を回転させると、体長1mあるかどうか程の茶色い毛むくじゃらな魔獣が追随してきているのが見えた。


 あれは何だ? 目が赤く光っているところを見ると、やはり魔獣で間違いないのだろうが、まるでカワウソかビーバーのように見える。


 そのカワウソの魔獣がどんどん集まってくる。ブローニング機関銃の操作モードに切り替えている為、LVTP-5は前進を止めていたのだが、ほんの僅かな時間で周囲を囲まれてしまった。 


 このLVTP-5は装甲歩兵輸送車だ。厚い装甲板に覆われているので簡単には潰れないと思うが……。



 周囲を囲んでいるカワウソに動きが見えた。その毛むくじゃらな毛が逆立ち、体の表面が青白く光を放ちだした。


 魔法か!


 ウィンドウモニターに表示されている、ブローニング機関銃の照準であるクロスヘアを目の前のカワウソに合わせる。トリガー代わりのタッチボタンを押すのと、周囲を取り囲むカワウソが、甲高い鳴き声とも咆哮とも言える叫び声を上げるのが重なる。


 ブローニング機関銃が連打音と共に砲火を挙げながら7.62×63mm弾を撃ち放っていく。同時にカワウソたちの周りに小さな水球が多数浮かび上がり、まるで針のような長針へと変化すると、魔獣たちもまた、俺の乗るLVTP-5に対して水針を全方位から放ってきた。


 ブローニング機関銃を360度回転させながら、LVTP-5を囲むカワウソとクロスヘアが重なった瞬間にタッチボタンを押していく。ブローニング機関銃の装弾数は250発、これを撃ち終わると10秒間のクールタイムが発生し、10秒後に燃料の減少と共に自動装填される。


 俺が周囲に血の輪を作り出すのと同時に、カワウソが放った水針がLVTP-5の装甲を連打する音が車内に響く。

 ウィンドウモニターの装甲ゲージが少しずつだが減っていく。確実にダメージを通されている――LVTP-5の周囲を二周し、周囲に血のリングを作り上げる頃には、装甲ゲージが三割ほど減少していた。


 周囲に光点が消えた事を確認し、すぐに運転に操作を切り替え、LVTP-5を前進させる。止まるのは不味い、何度も囲まれればLVTP-5を破壊されかねない、もしも人の身で包囲魔法攻撃を受ければ非常に危険だ。

 マップを凝視しつつ、林道にそって前進を再開した。




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― 新着の感想 ―
[一言] あれ? 魔物って人を認識しないと攻撃しないんじゃなかった? 緑鬼の迷宮では乗り物に乗っていたら反応しなかったよね
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