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 宿の個室で数ヶ月ぶりにだらだらと過ごし、リフレッシュになったのか、なっていないのか判らない一時を過ごした。

 翌日、昨日と同じくらいの時間にマリーダ商会を訪れ、約四週間分の食料を受け取った。ほんの一月ほどの間に、迷宮弁当の外箱は隙間の目立つ竹細工風から、ござ目のランチボックのように、綺麗に織り込まれた箱型へと変っていた。

 とりあえず、応接室へ運び込んでもらい、人目が減ったところでギフトBOXへと収納していった。


 牙狼の迷宮討伐に四週間も掛けるつもりはないが、南部へ向かう道中の食事も考えて、まずはこの量で注文を出した。ギフトBOXに収納する段階で、すでにいい匂いが漂ってきている。どうやら作り立てを持って来てくれたようだ、これは食事の時間が楽しみだ。


 他にも何種類かの茶葉なども揃えたが……迷宮内で火を起こせないんだよなぁ……。


 蝋燭やランタンは簡単に手に入るのだが、この世界の人々は簡単な火種を魔法で生み出せるので、火打石のような物が流通していなかった。魔道具としても、魔石消費型で炊事用の火を出す魔道具などは作られもしていなかった。


 まさか火炎放射器で水を沸かすわけにはいかないだろ……となると、モーターハウスであるコンチネンタルのキッチンスペースを利用するか……。


 コンチネンタルといえば、車内にあったベッドを外に持ち出すとどうなるかを確かめるつもりでいる。迷宮内での野営では、ドーチェスターを使うつもりでいるが、これには寝るスペースがないので、布団か何かを持ち込む必要があった。

 どうせ用意するなら良い物がいい、ベッド本体は無理でも敷き布団や掛け布団だけでも持ち出して……そのあとコンチネンタルの内装が復元させられるならば……布団販売業の道が開けるな!




 食料品の受け渡しを終え、いよいよ牙狼の迷宮へと向かう事にする。牙狼の迷宮のマッピングは、地下二十階までは完璧に終わらせている。後は土砂降りの魔水の雨を突破し、まずは地下二十五階の門番越えを目指す。






◆◆◇◆◆◇◆◆






 牙狼の迷宮管理棟では、傭兵ギルドのギルドカードに付与されている迷宮探索者資格に不思議そうな顔をされたが、ギルドカードの複製や偽装はかなり難しいらしく、バルガ公爵に特別に許可して頂いたと軽く説明すると、すぐに理解を得られた。


 迷宮内に他の探索者がいるか確認を取ると、今回も誰もいないそうだ。この迷宮は本当に人気がない。魔水汲みのお小遣い稼ぎがいるかとも思ったが、最近はそれもいないらしい。大口の売り手が現れて、小口でちまちま売りに来る探索者は相手にされていないらしい。



 完全に俺とマリーダ商会じゃねーか! でも、探索者が売りにくる魔水も重要な資源だとは思うのだが、大口の売り手が何時までもいるとは限らないからな。


 そんな雑談をしつつ、探索計画書を記入し事務棟の管理員へと手渡したところで、彼のにこやかな顔が凍りついた。



「あの……シャフト……さん? 今回の探索予定階層が地下一階~地下二十六階とあるのですが」


「何か問題か?」


「いえ、パーティーは組まずに単独ですよね? 降りれるんですか?」


「何も、問題はない。無理なら戻るさ、迷宮内で死ぬのだけは必ず避けよう」


「そこはお願いしますよ、公爵経由の許可ですから実力は申し分ないのでしょうけど、迷宮を侮ると一瞬で死にますからね」


「肝に銘じておこう」




 地下一階に降り、念のため周囲を警戒し、マップに映る光点もFLIR(赤外線サーモグラフィー)モードで見渡す周囲にも何もいないことを確認し、シャフトからシュバルツへとアバター衣装を変更する。


 TSSタクティカルサポートシステムを起動し、マガジンベルトやメイン兵装、予備弾薬、特殊手榴弾の数々、久しぶりの構成に少し頬が緩む。手に持つFN P90を確かめるように撫でる、そこにある凶器の塊、命を預ける相棒の一つ。


 シャフトでのトマホーク主体の戦闘は嫌いではない。まだゲームだった頃、投擲武器を連続で当てていくと物凄い高揚感が得られた。

 しかし、この世界に落ちてからは、それは=(イコール)命を奪う行為になった。前ほどの高揚感は感じない。逆に、ひとつ投げるごとに、ひとつ当たるごとに、心が冷えていく感覚がある。


 シュバルツでも感じるものは同じだ、トリガーを引いて、弾が飛んで、的に当たる、その喜びは既になく。狙い外さず、意思を持った銃弾が、命を刈取る、そして心は冷えていく。



 さぁ、行こう。誰のためでもない、俺のためだけの迷宮討伐を。






◆◆◇◆◆◇◆◆






 地下一階から地下五階までを連続ストレイフジャンプで突き進む。地下道を走り、壁を走り、迷宮を走る。


 地下六階から地下十階はアンデッドゾーンだ。メイン兵装を携帯放射器1-1型に変更し、出会うゾンビを、スケルトンを燃やしていく。

 相変わらずここからの階層は温い、いや、この1-1型の火炎放射器が強すぎる。他の階層やシチュエーションでも使ってみたい、さすがに大雨の地下二十一階層以降では使えないが、どこか別の場所だな。


 地下十一階からはフィールドダンジョンが出てくる。牙狼の迷宮がある東の森を模した擬似自然界のフィールドダンジョン、周囲は暗く、妖しい霧に包まれ、魔の森が広がる。

 この階層からは1-1型から兵装を再び変え、より大型の魔獣に対応できるようにMPS AA-12に変更する。さらに使用弾薬を特殊弾薬のFRAG-12にし、大型魔獣と相対しても、その暴力的な小爆発の連弾で吹き飛ばす。


 さらにTSSを操作し、ガレージからカワサキ KLR 250-D8を召喚し、このフィールドダンジョンをバイクに跨り一気に走破する。霧に視界を阻まれようとも、ヘッドゴーグルに映るマップには、しっかりと林道と光点が見えている。


 片手でKLR250を運転し、もう一方でAA-12を撃ち鳴らす。KLR250の甲高くも押さえ込まれたエンジン音と、太い重低音が、着弾と同時に起きる小爆発による連続する爆音が、魔の森となったフィールドダンジョンに響き渡った。




 そうして、牙狼の迷宮に進攻して三日目の朝になるであろう時間、地下二十階の門番の部屋に到達した。


 ここまで殆ど休憩を取らずに突き進んできた為、まずはこの広間で休息をとり、十分な休養をとった上で、二十一階からの魔水の大雨を突破するつもりでいる。

 とは言っても、馬鹿正直に進むつもりはないが……。


 ガレージからコンチネンタルを召喚し、門番部屋に12mを越える超大型バスタイプのモーターハウスを召喚する。側面のタッチパネルに暗証番号を打ち込めば、側面の下部が動き出し、階段が現れる。

 ラピティリカ様とアシュリーをベッドルーム寝かせて、休憩所から城塞都市バルガへと急行した時には、リビングスペースやキッチン周りを堪能する事はなかったが、やっとこのキッチンを使えるな。


 まぁ、基本的にはオール電化のキッチンシステムなのだが、火種を用意できない俺には非常に助かる。心配なのはこれをガレージに戻したときに、燃料ゲージがどこまで減っているかだが……ケチくさい事は考えないでおくか……。





 

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― 新着の感想 ―
[一言] ついでに水を汲んどけば良いのに。
[気になる点] 誤字報告 ✕ランチボック ○ランチボックス
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