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今日は短いです。
総合ギルドの傭兵団支部所からの帰り道、クラン”槐”の残党に襲撃されたが、城塞都市バルガの大通りを横に逸れ、袋小路に逆に誘い込み排除した。
排除したまではいい、確実にこちらを殺りに来ていたのだ。それを返り討ちにした事に後悔は一切ないのだが……この死体の山どうすんだ……。
「ふぅ~」
一つ息を吐き、しょうがないので城塞都市バルガの警備隊詰め所へと行くことにした。
詰め所で事情を話し、もう一度現場に戻って暗殺者どもの死体を回収したりと色々やっている内に、すっかり時間が過ぎてしまった。宿を探す時間もなくなってしまったので、今夜は詰め所の休憩室で休ませてもらった。
翌朝には検証も終わり、俺の言い分が全面的に認められて、特にお咎めもなく詰め所を出た。無駄な時間を過ごしたような気もするが、俺は暗殺者じゃないからな、被害者だし、加害者違うし、そこはしっかりと主張しておかないとな。
詰め所を出てからまず向かったのは、城塞都市バルガでも高級宿の部類に入る、「西の都亭」だ。シュバルツの常宿としている、「迷宮の白い花亭」とは別にしたのはシュバルツとシャフトで共通の顔見知りを極力作らないようにするためだ。すでに何人か出来てしまっているが、かといって何も配慮しないのは違うだろう。
それに昨夜の襲撃を受け、出来れば防犯にも金を掛けているところを選択したかった。宿へ入っていき、玄関ロビーの受付カウンターに立つ従業員へと声を掛けた。
「いらっしゃいませ」
「部屋は空いているか?」
「シングルルームでしたら空きがございます」
「では一月ほど借りよう」
「ありがとうございます」
料金を支払い、鍵を受け取り、まずは部屋へと向かった。
借りた部屋はベッドに机と椅子、それにクローゼットタイプの収納スペースがあるようだ。部屋自体の広さは「迷宮の白い花亭」とあまり変らないが、全体的に内装がいい。
しかし、この宿へは休息をとりに来たわけではない。昨晩使用した武器・弾薬の補充を行い、すぐに部屋を出る。まずはマリーダ商会へ行き、ラピティリカ様の護衛依頼で消費したCPを回復すべく、無属性魔石を購入する。それと、牙狼の迷宮討伐へ向けて動き出す事を伝え、食料品などを準備する予定だ。
マリーダ商会が見えてくると、今日も商館の前には荷馬車が止まり、多くの荷を降ろし中へ運んでいくところだった。
荷馬車の周囲には、護衛らしき屈強そうな男達の姿も見える。以前、王都で助けた狐系獣人族の双子の娘、アルムとシルヴァラもいるだろうか? と思ったが、どうやらこの荷馬車の護衛には参加していないようだ。
周囲を警戒する護衛の一人が俺に気付き、ずっと視線を向けている。まぁ警戒はして当たり前だろう、まだ朝早い時間だ。都市が本格的に動き出すまでには、もう少し時間がある。そんな中、黒面を被った男が近づいてくれば警戒もしよう。
「待て貴様、マリーダ商会に何か用か?」
俺に視線を向けていた護衛が、堪えきれずに声を掛けてきた。
「そう警戒するな、商会長のマルタか、支店長のビルはいるか? シャフトが来たと伝えろ、それで判るはずだ」
「そこで待っていろ」
俺の言葉を訝しげながら、護衛の男は商館の中へと入って行った。初めて見る顔だったから、俺の事は知らないのだろう。他の男たちは見覚えがある。軽く頭を下げ、お互いに軽い挨拶を交わした。
商館の中から走ってくる音が聞こえる。マルタさんの重量じゃないな、ビルさんだろう。
「シャフトさん! お待たせ致しました、奥へどうぞ。生憎と商会長は王都におりますので、私が対応させていただきます」
「よろしく頼む」
ビルさんに連れられ、いつもの応接室へと向かう。最初に声を掛けてきた護衛がビルさんの応対を見て不思議がっているようだが、周囲にいる別の護衛が耳打ちして俺のことを説明している声が聞こえた。
「――あれが黒面?」
「――そうだ、そして家の上客だ」
確かに、俺はマリーダ商会にとってかなりの上客になるだろうな、安価で取引されているとは言え、無属性魔石を大量に買い。大量の魔水の販売委託、迷宮弁当のアイデア出しなど、マリーダ商会は多大な利益を上げていることだろう。
「いつバルガに戻られたのですか?」
「昨日だ」
「それはお疲れ様でした。本日は魔石ですか?」
「あぁ、無属性魔石を頼む。それと食料だ、多く見積もって3,4週間分はまず欲しい」
「畏まりました。魔石はすぐにご用意いたします。お陰様で迷宮弁当の販売は好調です。最近では冒険者の方々も購入するようになってきまして、近々バルガにも生産所を作る予定でおります。3,4週間分ですと、一日お時間をください」
「判った、朝でも大丈夫か?」
「はい、朝の配送までには間に合わせます。内訳はこちらに任せていただいてもよろしいですか?」
「あぁ、頼む。種類増えているのか?」
「勿論でございます、中身は……食事の際のお楽しみという事に致しましょうか、何か苦手な物はございますか?」
「いや、大丈夫だ。それと、食料を受け取り次第、牙狼の迷宮討伐へ出発する」
「戻られてすぐに向かわれるのですか! では、すぐに王都へ使いを出し、私共もその後に控えさせて頂きます」
そうして細かい購入金額を計算したり、美味しいお茶をご馳走になったりとしながら、無属性魔石を買い占める勢いで購入した。これで護衛依頼の報酬が半分ほど吹き飛んだが、最近はトマホークを回収しないで使い捨ててることもあり、CPの消費が思った以上に大きかった。本来ならば、銃弾の消費を抑えているのだからそんなに消費しないはずなんだがな……。
マリーダ商会を出て、とりあえずは「西の都亭」へと戻る事にした。
今日の予定はこれで終了。たまには宿の一室でだらだら過ごすか……。
明日は所用で出かけるので更新できない”かも”、もしくは夜中に手動で投稿します。




