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3/15 誤字・空白・描写等修正
冒険者登録にきたはずなのに、今話している内容はこれまでの納税について……
異世界に落ちてきた俺が、納税しているわけもなく、これをどう誤魔化すか、いや誤魔化せるのか?
これはかなり不味いかもしれない、脱税で逮捕されてしまう流れだろうか? と言うか、冒険者になるために納税記録が必要って、冒険者って一体なんなんだ?
自由を求め、国から国へ世界をまたに駆ける魔物ハンター……ではないようだ、なんというか、地方公務員? もしくは、冒険者登録って言うのは国家資格のような物なのだろうか? そういえばしきりにクルトメルガ王国と言う名がギルドの前についている、この異世界の冒険者ギルドというのは、国から独立したよくある設定の機関ではなく、完全に国に管理された、国営の職業安定所か何かか? いや、そう考えればこの展開は納得できるな……。
「じ、じつは、俺の、両親は、不慮の、事故で、他界、したため、その辺りの、話を、聞いていない」
「あら、そうでしたか、それは大変失礼いたしました。そうなりますと、冒険者として活動し、今後納税していくと言うことでよろしいでしょうか?」
「はい、そのつもり、です」
「では、冒険者としての報酬から1割が納税へと回されます、昨年の納税分100,000オルと、今年の納税分100,000の合計200,000オルが完済されるまで、この1割徴収は続きます。ただし、今年の納税期限は三ヵ月後の12/30までとなっておりますので御注意ください。期限までに納められなかった場合、移動制限や受注制限、悪質ならば強制執行もありますので御注意ください」
おお、すんなり誤魔化せた。いやしかし普通信じるか? 明らかに成人しているであろう年齢で、納税関係を親任せにしていることもそうだが、親が不慮の事故で他界して云々なんて、都合の良い言い訳を信じるとは。いや……逆に考えればそれを安易に信じられるほど、この異世界の死は身近にあるのかもしれない。
それが迷宮からもたらされるのか、自然界に生きる魔獣がそれほどに危険なのか、それとも人同士の争い、根本的な治安が悪いのか、それは判らないが……そして今の話だと、この異世界も1年が12ヶ月で一月が30日だと言うことが予想できる、細かい真偽はアシュリーさんに聞くか、今後自分で確認していこう。
「はい、わかりました」
俺はミリマリアさんに問題無しと、澄ました顔で答えた。チラッと横に目を向けると、アシュリーさんは俺の登録用紙をじっと見つめていた。未記入が多すぎたのは、これはこれで不味かっただろうか……
「アシュリー、用紙をこちらへ。シュバルツさんは、こちらの水晶に生体情報の登録をお願いします。水晶の上に、血を一滴たらして頂ければ結構です。こちらの針をお使いください」
そう言ってミリマリアさんが出してきたのは、木の台座にのった直径20cmほどの水晶だ。こちらからはよく見えないが、ミリマリアさん側には何か操作盤のようなものがあるようだ。殆ど未記入な用紙を見ながら、操作盤を叩いている。俺は一緒に出された、一本の針を手に取り、グローブから唯一出ている指先の素肌に刺そうとしたが……。
俺のこの体って、ちゃんと人の体だよな……? 刺したら青い血が出てきた、とかは嫌だぞ?
指に針を刺す。ただそれだけに少し戸惑いながらも、恐る恐る針を指に刺す。 どうやら俺の血は赤いようだ、ほんの少しだけ血が出てきて、それを水晶に垂らした、俺の血を受けると水晶は白く瞬き、そしてすぐにそれはおさまった。針で刺した指の血も、すぐに止まっていた。
「「え?」」
「え?」
これに何故か、ミリマリアさんとアシュリーさんの両名が声を上げた、何かおかしかったのだろうか。一瞬空気が固まったが、水晶ののる台座から、一枚のパスケースほどのカードが出てきた。
「シュバルツさん、それが冒険者登録証です。手に取り記載内容に間違いがないか、また記入されなかった項目が、正常に記入されているか確認してください、隣にアシュリーがおりますが、登録証の内容の未記入部分は、本人しか見えませんのでおきになさらずに」
俺はそれを聞き、カードを引き抜くと、そこに浮かび上がる情報を確認した。
~~冒険者登録証~~
ネーム シュバルツ・パウダー
年齢 24
出身地 VMB
主な使用武器 なし
主な使用魔法属性 なし
スキル なし
技能 なし
納税方法 冒険者報酬
ランク G(0/20)
~~~~~~~~~~~
これはどういうことだ、ネームがシュバルツ・パウダーになってる。これはまさか、P0wDerという俺の元の世界での所属チーム名から来てるのか? それに出身地がVMBって、どこだよ! この異世界がVMBを認知してると言うのか? そして武器や魔法属性はまだわかるが、スキルや技能も”なし”のまま、やはりこれがどういった物なのかは判らないままか。
「問題ございませんか? なければこれで登録完了となります。続いて、冒険者に関しての説明を致しますがよろしいですか?」
「は、はい、問題、ない、です、よろしく、お願いします」
「では、冒険者制度について簡単に御説明いたします。冒険者の方は総合ギルド本館において、依頼を受注することができますが、各依頼には受注可能ランクが設定されております。これは冒険者が無謀な依頼を受け、怪我や死亡などと言った不幸を防ぐためです、ランクは10段階で下からG,F,E,D,C,B,A,S,SS,SSSとなっております。
ランクアップするためには、各依頼に設定されておりますギルドポイントを依頼完了時に受け取るか、魔獣や亜人種の討伐証の提示により追加されます。その際、必ず総合ギルドにおいて売却していただきますので御注意ください。また、ランクDよりランクアップ試験がございます。ランクDにまで到達されると探索者申請も行なえるようになります。ここまではよろしいですか?」
この辺のランク制度はテンプレだなぁ。しかし、討伐証の提示と売却は複数人数での提示の繰り返しを防ぐためかな? まぁ、俺には関係ないだろう。そして探索者になるのはランクDからか、何故に制限があるのだろうか?
「なぜ、探索者は、ランク、D、なのですか?」
「探索先となる地下迷宮で、もしも死亡となった場合、その魂や魔力は迷宮の大きな糧となります。迷宮は私達に様々な恩恵をもたらしますが、基本的には討伐すべき邪悪なるものなのです。力不足や一攫千金狙いの無謀な挑戦を防ぎ、迷宮が力を付け過ぎて、魔獣や亜人種が溢れるのを防ぐために、総合ギルドにおいて、一定以上の実力が認められなければ、基本的に探索を許可していません」
「なるほど、理解、しました」
「では続きですが、依頼の受注は当館で出来ますが、完了報告、報酬の受け取り、討伐証や素材の売却は、隣の別館にて行なっていますのでお間違いなきよう、お願いします、説明は以上です。お疲れ様でした、シュバルツさんのご活躍を期待しております」
「終ったぁー! シュバルツさん、すぐに隣にいって帯を処分して食事にしましょう!」
説明が終るのを待ちくたびれていたようで、アシュリーさんに急かされて俺は席を立ち、別館へと連れられていくのであった。その後姿を見ていたミリマリアさんの呟きを、俺のイヤーパッドが捉えていたが、その意味はわからなかった。
「まさかマヌケだなんて……」