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初心

 交通費は自己負担。昼食や夕食などの腹ごしらえは、ドームやアリーナの場合のみ弁当支給してくれる。あとは会場というのは『持参するなり、買ってくるなり好きにしてください』というスタンス。それに、シフト時間が交通機関が利用できない場合を除いて現場出勤になる。24時を超えれば大抵タクシー送迎をしてくれるが、それは一握り…ほとんどは早め切り上がるか間に合ってしまうのが事実。

 会社に申し訳ないが…腹ごしらえのお金より、交通費の一定料のほうが助かるし、よりシフトを入れやすい。何も考えないで求人応募してしまったが、移動時間が約40分かかり、往復600円越すなら…考え直したほうがいいと自分でも思ってるのだが、まだバイト始めて初心。ことわざの【石の上にも、3年】を胸に辞めないことを誓いたい。


 それにしても眠む気が襲ってくる、周りもあくびをしたのに攣られたわけじゃない。朝早くから起き、最寄り駅まで30分かけて自転車で来て地下鉄乗ってきた疲れが出てきた。本番の開演前運営も何とかやり抜けたが、後は撤去まで控え室待機を2時間半を時の過ぎ行くままに身を任せて、作業に移ればいい。

 これがもし本番中でフェンス押さの担当だったりしたら…どんなにうるくても、暗ければ何処ででも寝てしまいそうな勢いだ。

 

 

 「ふあぁ~~あ~あぁ…。」僕が涙浮かべながらあくびをしたら、突然後ろから男の声が聴こえた。一瞬、現場のチーフに怒られると思い、慌てて右手に口の添えた。

 「おい、そこの若造…大きな口だな。お客さんの見られたら、どうするんだ!」小太りといった感じなのだろうか。加齢臭なのか、おじさん臭がほのかに漂ってくる。よくみると、目の前に2リットルのペットボトルが3本並んでいて片方の手が上に乗っかっている。怖そうに思えたが、どうやらチーフではなさそうだ。恐るおそる、その男の人に謝った。

 「す…、す、すみませんでした。仕事中なのに、忘れてました!」

 「当たり前だ。だから、いい加減に辞めてくれ。」

 「はい…、すみませんでした。」

 「あくびするのは構わない。」

 「は、はい?」

 「あくびするのは構わないから、俺の前ではしないでくれ。お前のあくび見ていたら、余計に眠たくなってきやがる。俺はこの後、ステハンといって大事な仕事がある…」

 「はい…。」

 「だから、少しの間寝るから。もし起きれなかったら起こしてくれ。寝るつもりは無いが、寝かしてくれ。じゃ、頼むな。若造。」

 「………はい。」

 そう返事した後、そのおじさんは寝てしまった。もちろん起こす前に、しっかり時間通りにおきて大事な役割を果たしに行った訳だが。



 僕は周りからどんな風に思われているんだろうか。よく考えれば、あのおじさんは前回の現場であって色々訊かれて答えたのを覚えている。からかいやすい性格だというコトか。おじさんが寝ている間に『学生なんですか?』『長いんですか?何回目なんですか?』『いくつなんですか?』と訊かれて答えてたちはしてたけど…話しやすいタイプでもあるのか。

 それよりも、ひとつ判ったことがある。このバイトは大学生が多いこと、だから説明会には若い人がたくさんいたのに、平日勤務になると何度も顔を合わせるおじさん達ばかりなんだと判明した。

 

 あぁ…それなら同年代の人としゃっべってみたい。まぁ、話が吊り合わなくて終わってしまうのがオチだと知っているが。



 身体が細く華奢な男の人が、入ってきた。よくみるとチーフパスを付けて、その場に立ち止まり、両手で三角形を作り口元につけて叫んだ。

 「ハイ、では撤去作業に移りたいと思いますっ!整列っ!!!」逞しい声が控え室に響き渡り、待機してる仲間たちの身が引き締まったようにみえた。

 眠気から一変、ここからが体力勝負。僕も遅れないよう痺れた足をかばいながら、顔を上げてチーフの作る列に整列した。白いヘルメットに担当が書かれたガムテープ、まるで軍隊のように威圧感があった。


 その中に、普通なら興味示さないクビのコリや肩のコリをほぐす、一人の青年が目に映った。今まで男の人を観てきた心情と違って、何ともいえぬ感情が僕の一目惚れへと変化させた。

 こんな気持ちより『仕事!』と胸を押し殺し、顔を三回ほど叩いたあと軍手を身につけ前を向いた。


 合図と共に走りだした僕の心には、『なんで、気になったんだろう…』という言葉が渦巻いて、呟いている自分がいた。

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