経験
幾度のリハーサルをこなして来たのだろう…
幾度のトレーニングと経験を積んで、僕らの前に立ってくれているんだろう…
ステージ下から観るアーティストと言うのは、やはり別格で何故か説得させられてしまう。どんだけ地味な衣装やステージでも、どんなに華やかで豪華なライブでも…どれも均等に僕らの胸に届いてくる。
撤去時間の考慮もあって、アンコールは花道の下で片づけを一斉にしていると真上から足音がドンッドンッと鳴り響く。低音も、音響間近で鼓動をグッグッと締め付けるように呼吸をリズムに乗せる。ベースやメロディーが例え悲しくなくても、楽しくなくても、下で働いていると『夢が終わる、夢が終わる』と気持ちが湧き上がり、僕たちの手で作り上げたステージが成功したと思うと、人生を何度やり直しても誇らしいという気持ちは、この気持ちに勝らないと思った。
聴こえてきたフレーズを口ずさんだり、知らない曲なのに頭から離れなくなる不思議な力を持った曲も聴いた。
例えば、
『幸せが物足りないって それって
本気かい?嘘かい?マジかい?
生きてるだけで良いじゃないか
Baby,Crazy、Story…
オレは行く お前は知らん 勝手にな
Baby,Crazy、Story…
Baby,Crazy、Story LIFE』
この曲に、歌い出しというのは無かった。このフレーズオンリーのサビだけだった…だから、尚更心に響いて考えさせられた。
『生きているだけで、幸せなんだと。』
それと同時に思い出された。昨日駅まで送ってくれた、おじさんの言葉。ふたりだけになり、運転席の後ろでミラー越しに優しく言われた。節電出来てない繁華街を切り開きながら、伝えてきた。
「福影よ、お前は…まだ若いんだ。こんな処で立ち止まって満足するな。まだまだ可能性はある、失敗したってやり直せる時間がある。こんなオレが云うのが、おかしいかも知れんがな。一月は…何も仕事ないらしい。それからでいい、自分の身になる道を探したらどうだ。」
「……………ですね。ありがとうございます……っ」
他の人よりも、僕が知っている人よりも…話を聞き流ししやすくて、聞き流せない大切なものとなって苦しくなった。
何度も聴かせられてきて、自問自答を繰り返してもどかしさを感じるよりも…正直、どうでもいい人に言い当てられる方が鵜呑み出来るって解った気がした。
仕事に仕事を重ねれば、ようやく自分が集中出来る癖は、皆から毛嫌いは毛嫌いされるだろう。
あっという間に終わったライブに感動出来ずに、唖然とする自分がそこにはいたんだ。




