太陽のスポットライト
夢の番人…チーフは、僕の名前を言わなくても、答えてくれた。
「あ…、福影くん。今日は大掛かりなセットだから、宜しく頼むよ!」そう口にしながら肩をぽんぽんと叩かれて、名簿の中にひとつチェックが付いた。
さすが会場がデカい分、人の使いというものも莫大にある。控え室となっている部屋が男達で埋め尽くされた。凸凹な身長は良いとして、若い人や大人な人、気弱な性格に張り切りな性格、身近な話に世間話…思わず人酔いして吐き出せるような人の数。よく見れば所要範囲人数の注意書きを遥かに越している。
1人ぐらい帰ってしまっても収拾つかないぐらいだろう…、しかし僕の名前を夢の番人…いや、チーフに名前を覚えられたという事は、何だかこれから先の作業の雲行きが悪くなる気がする。
「…おい、……造っ。そこにいる、若造!」
おじさんの声が、耳に響いて来た。きょろきょろしていると「若造…、お前の後ろだっ。」そう言われると、ドテーンとしたジャンパーで余計に膨れたおじさんの姿があった。
「若造、今日も来ていたんだな。もう金持ちの一員だな。」
「おはようございます。いえ、そんな事はないです。」
何だか他愛のない話が、おじさんと始まった。
「それより若造、今回のシフト全部入れたのか?」
「はい……、一応予定は空いてるので…」
「お前はな…偉すぎるんだよ。オレはな、ちゃんと自分の事を考えて勤務する。今回の一緒に仕事する会社はあれだ、あれはな…バイトをとにかく駒として使う。人手が足りなくて、担当から呼び出しが来たから来ただけだ。本来なら身体を休めてるところだ。まぁ…若造、オレとパートナーになろうな。」
「はい…、そうですね。」
内心嬉しそうな感情で返事をした。仲間は他にもいる、会話して僕を知っている人もいる。だけどおじさんの存在は、仲間とのパートナー、また彼とパートナーとは違う何かが心にゆとりを持たせた。
だが、予想以上に早く展開がやってきた。
チーフの顔がギラリと光った瞬間、怒鳴り声が僕の胸を突き刺した。「福影、ぼーっとしてないでさっさとヘルメットを早く貰ってかぶれよっ。」早速の第一声でおじさんとのパートナーが崩れた。
響き渡る指令、轟渡る騒音、ごちゃ雑ぜになるスタッフとアルバイト。鉄骨やパイプ、木の板に照明機具と電気コード。上に物を吊って動かしている時は近付いてはならない。コードは踏まないようにアーチにするか、踏まないよう持ち上げたり踏み台を通ること。返事や搬入、運びに手伝い。
気がつけば、気疲れして意識もあやふやになる。それに増して、僕に追い討ちをかけようとトゲが飛んでくる。
「福影っ!!」
「そこのバイト!!」
「茶色いパーカー着た、小さいヤツ…来い!」
寿命を縮ませる思いになる。
そして…気付けば、設営最終日。
「おい、お前ら…次はショートをやる。アーティストの他にダンサーも照明合わせしたいから、バイト君よ、手伝ってくれ。」
少しイカつい顔した、背高なスタッフさんが、ステージ上から僕らを見下ろしながら話しかけた。
「ハイ!」て、仲間とともに返事をすると、客席のフェンスの間をくぐり抜けてパイプ椅子に並んで座った。
今まで設営というものは何度かしてきて、出来上がった舞台を見ては興奮し、作り上げた達成感に胸が湧き上がった。
会場内は、まるで本番間近の暗闇ステージ。幾つものの照明がステージに光りを添えて、彩り栄える。所々にまだ放出したばかりのスモッグが幻想の世界へと誘おうとしている。その時、パッとLEDパネルにライトが点り会場内の様子が映し出された…まるでライブを独り占めさているような気分だ。
「そこのキミ、来てくれるか?」
スタッフにそう呼ばれたのは、僕だった。「あっ、はい。」と返事をして立ち上がると、仲間たちに恨めしそうな顔をされながらもステージ上に足を踏み入れた。
まるで別世界、花道といわれるステージを渡りながら会場内中心のステージへと進んだ。見渡すほどに、整列された客席の椅子に2階や3階の座席。アリーナの置くに眼を凝らせば、パソコンや機材を手に支持をするPAの人。
僕は今、3D化した人生のステージに立っている。
僕は今、こうして誰かにもまれながら生きている。
「キミ、ちょっと動かないでいれるかな。眩しいと思うけど、そこはお仕事だから…我慢してくれよ。」
先ほどの人が、僕の耳元で囁いた。
そして、何本もの白い光のスポットが僕を照しはじめていった…




