人生の勇者
揺れるバスの中、雨に濡れた傘が錆びた鉄の匂いで気分を悪くさせる。押し込まれた通勤ラッシュのバスに、女性の肩がぶつかり香水の何とも言えぬ甘いアダルトな匂いが漂ってくる。久々の朝早い出勤と、大雨の影響で荷物がかさばり心を欠き乱される。
ようやくたどり着いた駅のホーム、水が流れ込むように人は動き、改札という機械にもまれ飲み込んでいく。
そして僕は、地下鉄に乗った。
これからも生きていくとしたら、何百、何千万という人たちと顔を合わし、すれ違っていく。僕は何人のヒトに笑顔を見せただろう。『死にたい』と叫びながらも、何人のヒトに本当の涙を見せてきたのだろう…。
僕は君より、幸せ者だ。
この前の学生と彼の話で、さらに知ったことがある。彼は前回ので五回目の勤務で、ふたまわりも後輩。それに学生であるということ、休日にしか会えないということ。したら、勤務採用次第では、もう会えないという可能性が高い。
恋愛はゲームじゃない。愛に、HP=体力を削り、自分の大切なもの=MPを消費しなければならない…恋愛なんて、人生まともに生きてないんだろう。それに振られたからといい、コンテニューしようする人たちもいる。
経験を積んで進めば良いじゃないか、凡てを無かったことなんて哀しすぎる。
サブキャラクターじゃなくていい、ヒロインで生きて行こう。人生の勇者で、揺るぎない剣をもって切り開いていこう。
眠たかったのか、地下鉄を乗り継いだ後の記憶がない。どうやら寝てたらしい。辺りを見渡すと最終駅のせいか、一車両につき3人ぐらいな感じだった。
顔を正面に向けると、おどけた自分がうっすらとガラス越しにほほ笑んでいた。
「まもなく…福住。福住降りる方は……」
静まりかえっている車両の中でアナウンスが響いた。
ゆっくり光を求めて走ってた車両、目的地に着くと迷いなく車両の扉を開いた。
さぁ、これからまた新しい世界の設営が始まる。今回はドームという大規模な夢のステージ。アーティストのため、ファンのため、そして何より…この世界に生きている人のため、僕らは切り開いて人生を生きていく。
車両から一歩外へ、踏み出した。




