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純 i‐じゅんあい‐  作者: 奥野鷹弘
恋と喪失
13/30

間接な関係

「あの…学生なんですか?」

ふと声をした方へ向くと元気そうな男子学生が中腰になって、こちらを観ていた。


「いいえ、学生ではないです。」僕が返事を返したことによって学生はニヤリと笑い、ドンと座り込み話が続いた。


「じゃあ、いくつなんですか?」

「いや…、21ですけど…」

「21なんですか!若いですね~、俺なんてまだ18ですよ!そうそう、担当なんだったんですか?」「若いかどうかは…判んないけどね。担当は『電子モギリ』だったよ…」「電子モギリ……?それより、俺の弁当食ってくれませんか?」

「……………え?」

「俺…、野菜苦手なんですよ。特に煮物とか最悪で……」


僕は思ってしまった。この元気の良い気兼ねない学生に魅かれたわけじゃない。確かに、今回の弁当は野菜が多く肉類は少ない…惣菜ばかりで彼はどうなんだろうと密かに感じてた程だ。しかし…和物が好きな僕には棄てるのは勿体ない精神が働いて、何より久々のまともな和食弁当…そこに引かれてしまった。


「いえ……、構いませんけど?」そう口にするかいなか「あっ、箸ふたつあったんで使ってください!」

元気の良い学生は、完璧な確信犯だった。箸をニヤリと口先をあげると、弁当を差し出して来た。ここまでくると断る事もできず1度弁当を置いてもらい横から頂く事にした。

ふと後ろを振り返ると、彼が控え室扉の前で佇んでいたのが見えた。彼が僕に気がつくと、座り込んでいる仲間たちの合間を縫って戻ってきた。

学生は嫌いな食べ物が無くなって、さらに元気そうな声で彼に声をかけた。


「学生なんですか?」

「まぁ…、学生っすね。」彼の本性が隙間見えた気がした。


「いくつなんですか?」「今年で、22になります。」

「え?じゃあ、カレの方が一つ年下じゃないですか!」と学生は僕を指を指して驚いた。彼も思わず「そうだったんですか…、じゃあ自分が年上って事ですね。」と首を縦に振りながら納得した。学生は学生で「やっぱりオレが年下なんですねっ。」と笑いながら僕らを見渡した。



彼が座ったあと、何だかぎこちないのか狭いのか何度も彼の脚に僕の足がぶつかった。その度に「すみません…」「いいえ。」とのやり取りを繰り返した。

学生と喋る彼は、僕との会話よりほころんで喋っているように見えた。ただ将来の夢の話が出てきた時に「似合わないんですけど…、北海道のローカルタレントになりたいんですよね。地元のご飯食べたりロケしたり、楽しいじゃないですか。」という自分の答えに、「あっ…それって、深夜番組の旅番組とか、北海道番組といえばの『北海道でしょう?!』ですよね!!!あれ、良いですよね~」と彼は肩を揺さぶりながら乗ってきた。『気が合うの……かも』と油断をしていたら学生が割り込んできて「オレ、知らないっす。それより好きなコミックとか無いんですか?」で流れが変わってしまった。


すっかり彼と学生は意気投合していた。僕は話で止めていた箸を動かして弁当の食べ進めた…彼はそれをちらちら観ながら眉間を動かしていたけど、何を想っているかも判らずに食べ切った弁当空の上に箸を置いた。



トイレから戻ると彼らは控え室奥にいる女子にナンパしようと話し合ってた。学生は「大丈夫ですよ!」と自信持っているに対して、彼は「したことはないから…判らないですけど、上手くいきますかね?」と弱気だった。横にやっと座ったところで学生は中腰になって僕に「どう思います?オレ、自信あるんですけど!あのすぐそこで携帯をいじっている子なんてカワイイじゃないですか!!」に対して「自信があるみたいだから、成功するんじゃないかな?」と心なく言い放った。彼らの声は大きく女子まで届いていたのに気が付いていた。そして何よりその話を聴いて落ち着かないように振り向く女子たちがいて、それを好意を持っていると学生は勘違いしているのだ。


「オレ達観られてますね!もしかして待っているのかな…オレと遊びたいのかな?」

「自分も何だか…気になり始めました。」

と彼らは口にし始めアプローチの言葉を考え始めた。嫌気や嫉妬した訳じゃないのに、胸騒ぎがした…そして他愛の無いことを呟いた。


「もしかしたらさ、服とか髪の毛にゴミでも付いてるんじゃない?きっと女の子たちは『可哀相だよね…、でも何て言えばいいの?』とか話してるんだよ」

真顔で言ったから嘘だと気付いて、責められると思い拳を強く握り締めた。すると彼らは真に受けたように「えっ…ゴミどこに付いてる??臭くない、大丈夫?」と自分の身だしなみが気になって、あちこち確認し始めた。あまりにも馬鹿で申し訳なく思い「もう…大丈夫だと思うよ。」と囁いてあげると、逆効果に鞄から香水を取り出して2人はふりかけた。



 彼が学生の話に参加することに対して哀しみはなかった。ただそのままの彼がスキでいたかったから。

 撤去作業の時にはパートナーにはなれず、学生とともに作業をしていたのを遠くでみている自分がいた。何度も目の前を通り過ぎたりもしたけれど、僕は遠くから彼を想うだけで…何も特別な存在だと新たに彼から感じさせて貰うことは無かった。



 撤去作業の終了間近になった時、チリトリを持って歩いていた僕に肩をトントンと合図されて振り向いた。そこには彼と学生の姿が並んでいた。首をかしげると、いかにも友達顔させなから学生は言ってきた。

「そう言えばさ、キミ…名前をなんて言うの?」

「福影…です。福影タカヒロ…です。」

 名前だけを確認すると、今にも捜していたかのような素振りで「あのさ、向こう側にゴミ溜っているらしいんだよね。それで、そのチリトリで集めてきて欲しいんだよ…いいかな?」

「あぁ、わかりました。行ってきます…」僕は嫌な顔ひとつ見せなかった、彼を諦めるためには仕事で忘れるのが一番では無いかと思い背を向け小走りした。

 彼が小声で「福……何、さん?」と学生に尋ね返し「福影さん…だよ。」と受け答えをしているのが聴こえた。「福影さんかぁ…」と呟いて去っていった。間接なやり取りが、心を麻痺にさせた。


 ゴミが待つ場所に行くと、限りないホコリとチリの山だった。「ありがとう。」と、そこにゴミを集めていた仲間たちに言われたが…嬉しいはずもない。この人たちに頼まれたわけじゃないから。ゴミを集めきれば、周りをみて貰いに行きを繰り返した。思えばロボットのように、ゴミを察知すると拾いに行った。「丁度良かったよ」とほほ笑み返す人もいた。「いいえ、それは良かった。」と笑うけど、作り笑顔なのがバレバレだった。



 撤去作業に、ようやくチーフが終了宣言してくれた。アリーナから廊下に出ると、遠く微かに見える外ガラスの向こうにタクシーが並んで星クズのように見えた。タクシーに乗る同じ方向のメンバーに波に乗せられながら、彼に挨拶も出来ず助手席に連れ込まれた。車が動き出すと、近くで彼がタクシーに乗り込む姿が映りこんできた。「お疲れ様です…」


 流れる人と光の粒。青い看板には幾つもの行先が記されている…たとえたどり着く場所が解っていたとしても、今はまだ他のところで立ち尽くしたい。木々から自律していく落葉はまるで、自分みたいだ…そこにフワッと風の意志に負けることで雪のように舞い散って、反対車線の車に轢かれてヒビが入った。



 タクシーメンバーが次から次へと車から降りて、僕が最後になったとき悲しみが込み上げた。

 たとえ異性が好きな彼であったとしても、ありのままの彼である事で…好きを合理化しようと思ったのに…タクシーから降りた瞬間、会いたくてたまらなくなった。その日の朝焼けから夜まで、布団の中で塞ぎ込み起き上がることは無かった。


「スキ……、好きなんだ。」



 僕は…確信をした。こんな感情は、切なすぎる。誰にも経験させられたこともない、この窮屈な苦しみ。そう『思い』じゃない、これは…、これはきっと『想い』なんだ。僕は戸惑い始めている。

埋め尽くすようにシフトを入れてきた自分。

それはもしかしたら、彼のせいだったのかもしれない。


わかっている、彼は彼。僕は僕なんだと。

だから、ただ傍にいられるだけでいい。

もう少し彼のこと、想わせて…

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