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第七話

 お父様が、とりあえず屋敷の中で話を続けようと言ったので、今私たちは応接室にいます。私はお父様と2人掛けのソファに腰かけ、先生とミラ様はテーブルを挟んで向かい合う形でそれぞれ1人掛けのソファに座っています。


「えっ!? 先生、そんなに長い間王城から離れて大丈夫なんですか!?」

「有給休暇も溜まってるからな。最近働きづめだから休めと同僚にも言われてたし、文句は言われないさ」

「そうなのですか? それならよかったです。先生がゆっくりと泊まってくれることなんて珍しいのです、楽しみです!」


 先生はしばらくここに滞在するようです。嬉しくて顔が自然と緩んでしまうのです。そんなゆるゆるの私の顔を見たミラ様は、また先ほどの様に生暖かい目をしています。なぜでしょうか?

 どうやら先生は、私の今後のことについてお父様と相談なさるようです。学院に行ったとしても、錬金魔術を専門で学ぶことはできません。それでも王都の学院に通えば、今よりも先生の授業を受けることはできます。魔術もちゃんと学ぶことができますしね。

 お父様はまだ先のことだと考えていますが、こういったことは早めに考えておくべきだそうです。学院の入学試験には魔術や錬金術の知識も必要になる場合があるそうなので、教えるべき内容を考えなければならないと先生は言いました。

 たしかに私の知識は錬金魔術に必要なものに偏っているのです。ちゃんとした試験を受けて受かるかと言われると……自信がありません。筆記試験はもちろん、魔術の実技試験があったらもうだめです。私は錬金魔術を使えるので魔力量はかなり多いはずです。それが膨大過ぎて制御するのが苦手なのです。細かい制御のいらない簡単な魔法を大威力で使うことはできるのですが……加減ができないのです。

 私が得意なのは水魔法と雷魔法なので、手加減をしたい時には水魔法を使うことにしています。雷は特殊な属性です。この属性を得意とする人はあまり多くありません。ちょっと珍しいです。威力がかなり高いので、制御の苦手な私が使うと確実にまずいことになってしまうのです。


 お父様と先生はその話を続けています。先生が言っていることの方が多分正しいです。お父様は、私が王都に馴染めるかが心配なようですが。


「ティファは魔力保有量が異様に高いからな。もっと基礎からちゃんと学べば魔術も上達するはずだ。王都の学院に行くべきだと思うぞ?」

「しかしだね、アルノ君。やはりこの子を王都に行かせるのは不安なのだが……」

「侯爵、可愛い子には旅をさせろというだろう? それに少しは世間に出た方がいい」


 話が噛みあわないのです。お兄様だって王都に行っているのだから、そんなに心配することはないと思うのですが……。


「俺の後継者として研究所に入れるっていう手もあるが、それだと魔術はそんなに学べないし同年代の者が居ないしな。将来のためを思うならお勧めできないぞ」

「………」

「あの、お父様。私、学院には通いたいのですが……」

「ほら、本人がこういっているんだ。本人の意思を尊重したらどうだ」


 無言で悩み始めたお父様。そんなに私は頼りないのでしょうか? まあ確かに人見知りもしますし、あまりたくさん人がいる場所に行ったこともなかったので心配にはなるのでしょうけど。お父様は少し過保護なのでは?

 先生は頭を抱えると、ぼそっと何か呟いて困ったように視線をミラ様に向けます。ミラ様は相変わらずぬるま湯のような眼差しです。その眼差しを向ける相手はお父様に変わっていましたが。というか先生、今親馬鹿とか言いませんでしたか? 


「まったく、少しは譲歩しろよ侯爵。とりあえずまだ時間はあるし、こいつの事も相談しないといけないからこの話は保留だ」

「ああ、わかった。……ティファ、お前は戻っていなさい。話は長くなるからね」

「はい、お父様」

「夕飯までには話は付くと思うから、使用人にこの2人の分も夕食を準備するように言っておくように」

「わかりました。それでは先生、ミラ様、また後程」


 きっちりとお辞儀をして部屋を後にします。とりあえずこの後は楽しみにしていた小説の新刊を読もうと、自室に向かいます。その途中で見つけたメイドに、お父様からの伝言を告げておきました。

 部屋に入って小説を手に取ると、伸びをしてからベッドに倒れこみました。天井の木目を眺めてぼんやりとしてから、頬を軽くたたいて起き上がります。ああ、なぜだかわかりませんが疲れました。いつも通りの日が、ちょっと変わった日になったのです。

 部屋の隅にあるロッキングチェアに腰掛け、ゆっくりと椅子を揺らしながら小説を読み始めます。平凡な少女と、小さな子猫の物語。優しい友達に、一緒にいてドキドキする少年。大事な人に囲まれた少女。物語の世界は、私に安らぎと安寧を与えてくれるのです。


 私は話に引き込まれ、疲れを忘れて夕食の時間ぎりぎりまで小説を読みふけりました。そのせいで夕食に遅れそうになり、ちょっと慌てたのは秘密なのです。

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