第三話
私は戸棚から、屑鉱石を取り出します。これはその辺の鉱山に入れば山ほど手に入るので、練習に使って浪費するにはもってこいです。
杖を構えます。そして、ゆっくりと、丁寧に錬成していくのです。
今は、魔力を多めに使って錬成をしています。なるべく素材が少なくても、よいものを錬成できるようになるための練習です。何事も、反復練習が大事だと先生は言っていました。
本来、錬金魔術は素早く行われるものです。絶対数が少ないのであまり聞いたことがありませんが、錬金魔術は戦闘にも向いているらしいのです。その点で言えば、錬金魔術は錬金術よりも魔術に近いと言えるでしょう。
魔術を使うにはいくつかの条件があります。
まず、魔力があることです。魔力は自然界にも多くありますが、体内に魔力がない人はどうしたって魔法は使えないそうです。でも、少しでも魔力があれば、魔法石などの魔力を持つものを使って魔術を発動させられるとかなんとか。個人の魔力保有量は、生まれつきだいたいは決まっているそうなのです。それでも、何度も使えば増えていきます。筋力や体力がつくのと同じようなものだと先生に教えられました。
そして二つ目は、属性に会った魔力を使うこと。魔力は何もしない状況では何の属性でもありません。体内で魔力を練ることによって属性を変質させるのです。どの属性の魔力を使えるかには得意不得意にも影響されます。
基本の属性の種類は四つ。火、水、土、風です。大抵の魔術は無属性の魔力をこれら四つの属性に変質させて使います。
でも、それは絶対に必要というわけではありません。原理的には。
たとえば、火の魔術を使うのに水の魔力を使うと、火花が散るくらいの威力になります。どんなに魔力を注いでも、低級の魔術しか使えないのです。例外ですが、無属性の魔力だったらどんな魔術もそれなりに使えます。効率はちょっと落ちますけどね。
基本の四属性を組み合わせたものや、限定的に個人や血筋に発現する魔力もあるので、まあ基本は基本でしかありません。私も雷属性の魔力を使えますしね。
魔力を『たいけーてき』に保つことによって、『ばんにんへのきょうつうか』をはかる……。と、習いました。わかりやすくまとめてあった方が理解しやすいだろ、とかなんとか……。
まあ、私が知っている魔術についての基本知識はこのくらいです。
あとは詠唱の有無についてですが、今はこの辺は割愛しておきましょうか。
さて、とにかく今私は魔力の制御の練習中です。いつもは一瞬で錬成が終わるのですが、今日は少し時間をかけて錬成されていきます。
私の目の前にある屑鉱石の山は、私の魔力を纏って、ゆっくりと光の粒になるように、吸収され、分解されるように、ゆっくりと姿を変えていきます。
そして、纏わりつくように光が強くなり、そして光がぎゅっと凝縮されると、光の玉が割れるようにして魔力が吸収されきると、そこにはシンプルなペンダントが現れました。淡い紫色をした小さく丸い宝石が三つ、三角形を形作るように並べられています。
淡い紫はよく見ると、中心が色濃くなっており、周りは乳白色に近くなっています。濃い紫は、私の瞳と同じく葡萄を思わせる色です。
三つの宝石の中心には、細かな文字が浮かんでいます。この文字は、魔術の意味と効果が込められた特別な文字です。一般には魔法文字と呼ばれています。
この宝石の中に刻まれているのは、防御を意味する魔法文字。これを身に着けていると、低級ではありますが防御の魔術をかけたときと同じような効果を得られます。
魔法文字をいくつも組み合わせたらかなり強い効果を付け足すこともできますし、条件を細かく設定しておくこともできます。まあ私はまだ専門的にそういったことを学んでいないのでできないのですが。まだ十歳なので、大抵の学院に入学する最低年齢にはまだ二年先のことなのです。
錬成し終わったペンダントを、完成品専用の戸棚に入れます。
だんだんと私の作品も増えてきたので、保管に関しても考えなくてはなりませんね。今度お父様に相談してみましょう。