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第二話

 清々しい朝です。締め切られたカーテンの隙間から、わずかな光が漏れています。ベッドから出てカーテンを思い切り開けると、外に見えるのは、いつも通りののどかな畑と豊かな森。そして、白い雲の浮かぶまぶしい空。春に相応しい、陽気な天気。久しぶりに先生にお会いするのにちょうどいい日です。

 さあ、張り切って先生に今までの練習の成果を見せるとしましょう! まあそう言っても、先生が来るのは午後からです。万全の状態で先生に私の錬金魔術の上達具合を確かめてもらうためにも、まずは頭をシャキッとさせましょうか。

 我が家は貴族ではありますが、何分辺境の地に住んでいるので使用人は少ない方です。ベルチェ家は貧乏貴族ではありませんが、さほど裕福でもないのです。そのため、自分のことは自分でやるというのが暗黙の掟です。私は身支度のため、自室を後にしました。


「おはようございます、お父様」

「ああ、おはようティファ」

 食卓で、お父様に挨拶をします。

 お父様の名前は、クルセイド・ヴィート・ベルチェ侯爵。私と同じ、金茶色の髪をきっちりと整えているお父様は、このベルチェ領の領主です。フレームの細い目金からのぞく深い藍の瞳は、いつも鋭い光を放っています。厳格で厳しく、不正を見逃さない、ちょっと怖いけど、優しい所もある私の自慢のお父様です。でも少し親馬鹿な気もします。

「さあ、早く席に着きなさい。料理が冷めてしまうからね」

「はい、お父様」

 今日の朝食は丸いパンとトマトとチーズのサラダに、コーンスープです。我が家は朝はあっさりなのです。

 この辺は酪農と小麦畑が主な収入源です。葡萄も栽培されているので、ワイン作りもそこそこ盛んです。食卓にもそれがよく表れます。

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

 食べ終えると、お父様は私の頭を一撫でしてから書斎に向かいました。お父様はお忙しいのです。王都の学院で学んでいるお兄様が帰ってきて家督を継ぐまでは、ゆっくりと休むこともできないくらいに忙しいのです。

 ここは人手が少ないので、領主であるお父様は細かいところまで自分で確認する必要があります。真面目なお父様は、根を詰めて働きすぎてしまうこともあるのです。私はそれが少し心配です。それと、寂しくもあります。

 ぽつんと一人取り残された私。私は研究のための小屋へと向かいました。



 お母様は、私を生んですぐに亡くなりました。お母様は、たしかその時まだ25才ほどだったと聞いています。

 珍しい事ではありません。でも、やはりそれはそう簡単に割り切れるものではないのです。少なくとも、お兄様とお父様にとっては。

 私はお母様の記憶がないので、なんだか他人事のように感じてしまうのです。そして、それもまた珍しい事ではないはずなのです。私は、今の私の周りのことにしか興味が沸かないようなのです。


 ちょっとだけ物思いに耽りながら、私は研究小屋という名の修行場へと進みます。今日は何をしましょうか。ちょっと頑張って、石から小さなペンダントでも作りましょうか?

 細かい細工をするには、魔力が適切な量でなくてはなりません。なので、こういった精密作業も修行にはもってこいなのです。それに、庭に転がっている石をもっと質の良い鉱物にすることも同時に練習できるので一石二鳥です。

 することが決まると、暗い気分はどこかに飛んでいきました。私はお父様やお兄様に言わせると、ちょっと単純すぎるそうです。周りの言うことを鵜呑みにせずに、自分の考えというのを持った方がいいとのことでした。でも、嫌な気分でいるよりはいいと思うので、私は気にしていません。

 小屋の前まで到着しました。ドアノブに手をかけて、少し立てつけの悪くなってきたドアを開けます。

 ぎぃぃ、と、鈍い音がしました。



 さあ、先生が来るまで頑張るのです!

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