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第十一話

 突然、何かが起こったのです。


 体から魔力が溢れ出し、私の中から何かが抜けていくような感覚。意識ははっきりとしているような、ふわふわしているような。考えることはままならず、ただ激流のような魔力の暴走に流されて。流れた魔力は渦を巻き、私を中心に荒れ狂っています。無属性の魔力は、ただただ重く、押しつぶされそうで。

 目の前に見えるミラさんの表情は、わかりません。驚愕、悲しみ、怒り、恐怖、心配、絶望。いろんなものをごちゃまぜにしたような、そんな顔。綺麗な顔を歪め、何か言っているようですが、今の私にはそれを聞き取ることができないのです。

 体から力が抜け、暴走する魔力が弱まって、私の意識は沈んでいきます。

 深い深い、泥沼のような、心の奥の奥まで。


 最後に見えたのは、色とりどりの小さな光でした。



◆◇◆


 心の奥底、意識の中心。そういう感じのところに、今の私に意識はあります。どうしてわかるのかは、自分でもわからないのです。でも、そういうものだということがわかってしまう。ここはそういう場所でした。

 景色はなく、何もなく、しかしそれを自然と受け止めてしまいます。そして、目の前に居る一人の少女のことも、すんなりと受け入れています。


「初めまして、というべきかな」

「そうですね。でも、初めましてとは、少し違うような気もしますよ」

「そうだよね。だって君と僕は、今までずっと一緒だったんだから」


 目の前の少女は、私よりも3、4歳年上に見えます。背丈も私よりは高いですが、多分年齢的には低い方でしょう。私もあまり背は高くありませんし。彼女は白い髪を2つに分け、耳の下あたりで結んでいます。雪の様に真っ白で、銀髪とはまた違った美しさです。顔立ちはアスタリカ風。ミラさんに多少似ているような気もしますが、彼女はどちらかというと柔らかく温かい、近くにいて落ち着くような魅力があります。紺色の瞳には、少し困ったようにしている私の姿がありました。

 彼女は私とは違い、楽しそうに笑っています。まるで、久しぶりに誰かと話すかのように。いえ、実際に彼女が人と話すのはかなり久しぶりでしょうけど。


「さて、ティファリーゼ。僕の名前はシシュラ。今まで君の中で、ずっとずっと眠っていた。小さな魂の欠片の一つだったけれど」

「どういうことでしょうか?」

「今まで君の中にいた僕は、ほんの一部。でも今、僕は復活したわけだよ」


 シシュラと名乗った彼女は、まるで噂話をするような気軽さで私に事情を説明しようとしています。ですが、過程も理屈もすっとばした彼女の説明は、あまりわかりやすいとは言えません。とりあえず事態を把握するため、自分の知りたいことだけは質問しておかなくては。


「貴方は、何者なのですか? どうして私の中にいたのですか?」

「僕は僕でしかないけど……あえていうなら、大昔に封印されちゃったんだよ。そして、魂はいくつもの欠片になり、世界中に散らばった。人の心の奥の方に居候させてもらって、なんとか存在を保っていたんだ」

「その欠片が今集まったのは、何故ですか?」

「お姉ちゃんが僕の封印を解こうと頑張ってくれてたみたいでね。まあ本人か子孫とかなのか、今の僕ではわからないんだけど、魂の欠片を集めてくれていたんだ。本当なら、君の中で復活する予定じゃなかったんだけど。君の中にいた僕の欠片は、君の心のかなり奥、魂に近い場所に……つまりここに居たんだ。だから抜き出そうとして、失敗して、集めた欠片が逆流しちゃった……みたいな?」

「……よく、わかりません」


 じっと彼女の目を見つめます。彼女は私の中にずっと居た。それは本能に近い確信です。

 それよりも、復活したという彼女は、これからどうするのでしょうか。私に影響はあるのか、それともないのか。


「貴方はこの後、どうするつもりです?」

「うーん、君の中から出るのは今は大変そうだな。もう少し君の心が安定してからじゃないと、また失敗しちゃうし」

「また失敗するって……今度失敗したらどうなるんですか? 嫌な予感しかしないのですが……」

「僕の魂がまたどっかに飛んでいっちゃう……とかで済むといいなぁ。下手すると、君の魂とか魔力とかも巻き込んで暴走してひどいことになって、厄災を巻き起こすかもしれない」

「ちょっ!? 何さらっと言っているんですか、私まで巻き込まれるんですか!? というか厄災ってなんですか厄災って!!」

「おちついてよティファリーゼ、さすがに次は絶対に成功するって時に僕は取り出されるからさ。たぶん君が成人したら……そのくらいの時期だと思っておいてよ」

「そ、そうですか。ならいいのですが……。厄災ってなんですか、厄災って」

「そりゃ君の魔力全開放したら嵐くらいは巻き起こしちゃうでしょ。高魔力保持者だからありえなくはないでしょ」


 思わず取り乱してしまいました。厄災って……。私はたしかに魔力保有量は多いですが、そんな規格外だとは思いません。過大評価しても、国中探せば10数人くらいは居るレベルだと思います。

 そうシシュラさんに言ってみますが


「いやいや、今まで僕がもらってた魔力の分もあるし、まだ成長途中だからもっと伸びるでしょ。目指せ世界一!」


 とのこと。目指しませんよ世界一なんて。そんなに魔力があっても使いこなせません。あ、でも錬金魔術の幅は広がるかも……。というか僕がもらってたぶんの魔力ってなんですか。シシュラさん、勝手に人の魔力を横取りしていたのですか。

 等々私にはいろいろと葛藤がありましたが、多分大したことではないでしょう。大事なのはこれからの事。今まで私の心の奥の奥で、私と混ざっていたような状態だったシシュラさん。そんな彼女が目覚めたのです。今までと同じというわけにはいかないでしょう。


「ま、僕はもうしばらく君の中で居候させてもらうよ。今後は魔力も勝手に盗らないようにするしさ」

「それはいいのですが、もう貴方は私とは以前よりも切り離された状態なわけですよね?」

「そうだねぇ。今までは寄生って感じだったけど、これからは共生ってことでよろしく」

「拒否権、ないんですよねぇ……」

「もちろん」


 長い付き合いになるからよろしくー、とニコニコと笑うシシュラさん。

 もうどうすることもできませんが、これも運命と思って割り切るしかありませんね……。


 諦めてため息をつくと、私の意識は徐々に浮上していきます。手を振りながら見送るシシュラさんの顔を見ながら、私は目を覚ますため、ゆっくりと目を閉じていきました。

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