第一話
トカゲのしっぽに蛇の鱗、魚の皮に兎の胃袋。これらを鍋に放り投げて、適切な順序と適切な処置を施す。それは三日三晩に続けるということかもしれないし、魔力を流し込んで適度に爆発させるとかかもしれません。
何がって?今読んでいる書物に載っている、古代錬金術の話です。
古代の錬金術は、今よりもずっとずっと面倒な手順を踏まなければならなかったのです。まあ今の錬金術も大抵は面倒な手順を踏む必要がありますが。
そんな錬金術を行使する人のことを錬金術師と言います。常識ですね。私は常識に疎いですけど常識です。
そして私、ティファリーゼ・アルン・ベルチェも錬金術師の端くれです。厳密には錬金術師と言うよりは魔術師かもしれません。その両方かもしれません。どっちでもないかもしれません。正確には私は錬金魔術師なのです。
錬金術ついでに、魔術の話もしておきましょう。
魔術とは、自らの身体に宿る魔力によって、さまざまな現象を引き起こすものです。原理には諸説ありますが、現在は魔力と引き換えに高位の存在(たとえば神霊とか、精霊とかです)の力の一端を借りているという説が最有力です。他には魔力が自然の力に何らかの影響を与えるという説も有力だそうです。私にはよくわかりませんけど。
私が使うのは、その二つを融合させた錬金魔術です。これを使える人はめったにいないんですよ!
錬金魔術は、魔力を糧にした錬金術です。言葉だけ聞いてもよくわからないですよね。でもこれはとってもすごい事なんですよ、本当に。
たとえば、錬金術で紙を錬成には、木やのりなど、とにかく普通に紙を作るのに必要な材料が必要になります。(まあ例外も結構ありますが。)
でも、錬金魔術なら必要なのは己の魔力のみ!!どうです、凄いでしょう?
まあ魔力だけで錬成すると効率も悪いので、大抵は材料の質以上のものを作ることができると考えてもらえればいいです。安い材料で効果の高い傷薬を作ったり、石を金にすることもできますよ。
錬金魔術を使うには、適性がよっぽど高くないといけません。魔力保有量が多くて、錬金術の基礎知識があること。他にも色々条件があるそうですけど、まだ詳しくはわかってないらしいです。
そしてこうみえて、私も適正は高いんです。そのかわり、ほかの魔術はてんで駄目ですけどね……。なんでしょう?
そんな私ですが、毎日錬金魔術の鍛錬を頑張っています。錬金魔術師は絶対数が少ないのでなかなか教わることができません。大抵は書物を読んで勉強しているのですが、それでもやはり経験者にしかわからないことというのもあるでしょう。なので、たまに屋敷に来てくださる王都の錬金魔術師さんが私の先生です。わざわざ辺境の地まで来てもらっているので、本当に頭が上がらないです。感謝してもしたりないです。
そしてそれを抜いても、先生は凄いので尊敬してます。先生は凄いのです。
そして明日は久しぶりに先生が来てくれる日、張り切って今までの成果をお見せするのです!
書物を机に置き、ふかふかのベッドに潜り込みます。このベッドは私が二年前に錬成したもので、先生も褒めてくれたものです。絶妙な反発力で、とても寝心地がいいのです。
明日を楽しみにしながら目を閉じると、眼下に広がる淡い闇。その中で、私はすぐに眠りにつきました。