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「おい、今日は大丈夫だったのか?」

お昼休み。

早々に昼食を済まし生徒会室に訪れて、せっせと雑務に追われていたら突如声が降ってきた。

「会長様、こんにちは」

まさかこの時間にまで来ているとは想定外。

ちょっと鬱陶しいくらい顔を見る度、ああやって声を掛けられるから避けていたのに。

「竜崎に妙な真似はされなかったのか?」

「・・・されてないです」

だからもう、いい加減にしてくれ。

風化させたいのに一々蒸し返されては適わない。

「もう平気ですから放っておいてくれませんか」

「無理だ。気になる」

いやいや、有難迷惑だ。

しかし相手は俺様会長様だ。

言うだけ無駄と分かるから溜息で諦める。

「会長様はお仕事ですか」

「何となくだが、お前がいる気がしてな」

「左様で・・・」

言葉も無い。

一体、竜崎に襲われる以外の何をしたというのか。

オネェだけでなく妙な趣向を持ってるのだろうか?

「最近顔を出さないだろ。また何かあったのかと思ってな」

「ご心配頂いて恐悦至極です」

「おい、棒読みもいいとこだぞ」

「それはすみません」

「お前は全く」

何故か呆れられているけれど、こっちのセリフと態度だ。

傍観者近かった会長様が急に自ら話しかけに来てたら誰だって何事?!となる。

しかも毎日毎日。

鬼畜会計様の殺気とヒロインからの突き刺さる視線。

血反吐ものです。

こんな仕打ちを受ける何をしたと言うのか。

「あんなにボロボロ泣いてた癖に容易く立ち直れる物じゃないだろ」

「あんなの、過去の仕打ちに比べたら何ともないんで」

苛立っていて余計な事も漏らしてしまった。

会長様は聞き逃さず綺麗な顔を歪め、さらに掘り下げようと問い質してくる。

しつこく何度もだ。

殴りらなかった自分を褒めてやりたい。


「だからっ、そーゆーんじゃないです!」

誰に何をされた?

まさか暴行でも受けたのかと。

確かに流れ的には誤解されても仕方ない言い方だったけど。

それでも一方的に追い詰めて詰問するのが紳士のすることか。

いや、違う。

「謂われない誹謗中傷に晒されて育ったってだけです」

何だってこんな事を言わねばならんのか。

楽しい過去じゃないし、人に知られたい事でもないのに。

伝わったのか、独り熱くなっていた会長様は罰の悪そうに視線を泳がせた。

まあ、それも数秒。

俺様は健在だった。

「紛らわしい言い方をするな」

首を突っ込んで来るなと言いたい。

「すみませんね。会長様、仕事に戻っても宜しいですか」

「急ぎか?だったら俺がいれば都合がいい」

「急ぎではないので。単に要領が悪いだけです」

だから去れと含めたのだが伝わらなかったらしい。

どう要領が悪いのか見ていてやると。

改善点を指摘してやるとまでの申し出を受けた。

つまりは居座る宣言をされてしまったので諦める。

そうして有難い会長様からのお言葉を頂こう。

何たって会長様だ。

出来る人からのアドバイスだ。

将来の糧にしかなりようがないんだから。






おおー、久し振りの主要キャラの絡み。

保健室に行く途中、見てしまった。

竜崎がヒロインを抱き締めているのを!

絵になるなぁ。綺麗だなぁ。

裏庭だからバック描写もさぞかし美しいんだろう。

あ、ヒロインが真っ赤になって離れた。

初々しい。

「佐藤さん、覗きが趣味なんだぁ」

「そうです。ご存じありませんでした?」

気配も気付かなかったし耳元で声がしたから内心は大いに驚いた。

けれど表面に出すのは癪に障るので冷たくあしらう。

なんたって相手は鳳巳副会長様だ。

「うん、ご存じなかった」

チャラ男め。

近いし笑顔が胡散臭いので押して距離を取らせた。

「竜崎センセが好きなの?」

「副会長様は頭が湧いてらっしゃいますね」

「副会長様に戻ってる」

暴言にご機嫌を損ねたかと思いきや、どうでもいい所で引っ掛かったらしい。

「邪魔しないで頂けますかね、今イイ所なんで」

接近イベントなのだ。

見逃してなるものか。

あ、ちょっと、終わった!

いない!

いつの間にか2人の姿がない。

思わず舌打ちしてしまった。

「女の子が舌打ち・・・佐藤さん、凄いねぇ」

「お褒めに与り光栄です」

勿論、褒められたんじゃないと気付いてます。

絡まれた所為で見逃した事への八つ当たりです。

「先輩、無駄に接触してくるの止めて下さい」

「えー。俺の自由じゃん」

「そうですね」

「うわぁ・・・どうでもよさげ」

どうでも良いからね。

最初から聞いてもらえるなんて思ってない。

「で?」

この人、脈絡ないな。

「さっきの答えは?」

「何か聞かれましたっけ」

「うん、聞いた。竜崎センセが好きなのかって」

「ああ、ハイハイ。好きです好きです」

「適当だねー」

何故か肩に凭れ掛かられた。

笑っているのか振動が伝わるけれど、鳳巳が発している空気が不穏なように感じる。

「やっぱり好きなのかー、気に入らないわー」

「あの、重いです」

実はそんなにだが怖い。

いつかのヤンデレ降臨しそうで退避したい。

「ねえ、俺は?」

「は?」

「俺はスキ?キライ?」

顔が見えない分、どう応じるべきか悩む。

まあ、でも、とりあえず真面目に考えるべきだろう。

どっちでもないですと答えたら酷い目に合う。

それだけは判る。

「・・・えー・・・鳳巳先輩の外見はチャラいので好きじゃないです」

ピクッと反応した。

なので直ぐに先を続ける。

「でもっ、仕事は早いし人望厚いし女性の扱いがスマートなのは流石!て思います。尊敬してる部分は多いのでスキって事になりました」

冷や汗ダラダラで相手の反応を待つ。

所詮モブなのだ。

主要キャラでかつ権力者に逆らって無事に済むとは思ってません。

ゆっくり、ゆらりと体を起こした鳳巳に覗き込まれて恐怖で竦む。

「俺って仕事早いんだ」

「と、とってもデキると思います」

「人望厚いの?」

これには何度も頷いた。

「女の扱いがスマートで流石ってのは、」

「純粋に褒めてます!嫌味じゃなく!モテるのも納得な感じで」

「ふーん・・・尊敬止まりってアレだよね」

「いやいや、仕方ないですから。鳳巳先輩の事はこれ以上知りません」

「うーん、そうだよなぁ。チャラいの嫌いだもんね、佐藤さん」

うわ、根に持ってるのか、これは。

「か、勘弁して下さい」

「怒ってないじゃん。でもさー、俺と竜崎センセって系統近くない?」

いや、竜崎はただのヲタクだ。

そっちの姿を昔から見ているから、鳳巳には賛同できない。

だから沈黙で誤魔化す。

きっと追及はされないだろう。

「ま、気長にいくわ」

離れる前の言葉は聞かなかった事にする。

不毛だし面倒。

「そーいや、何処行くとこ?」

「保健室ですけど、もう良いです。時間がないので」

「俺の所為だよねー、ごめんな。久し振りに逢えたから嬉しくてさ」

さらっと言うから鳥肌が立つ。

もう駄目だ。耐えられない。

「教室戻ります。失礼します」

返事は待たずに駆け出した。

主要キャラと絡むと根こそぎ体力を持ってかれる。

あと、精神的ダメージも大きい。

できるなら関わりたくないものだ。






早急な癒やしが必要なので弓道部の道場に忍んだ。

鍵は掛かってなかったから誰かはいる。

決して不法侵入ではない。

目的は我が友、續木聖生だ。

たまにこっそり覗いていたけれど、綺麗な立ち居振る舞いに見惚れ心休まるのだ。

本日もいた。

綺麗だなぁ、いいなぁ。

あ、気付かれた。

「楓」

笑顔が眩しくて直視出来ない。

つい視線を外すと續木が不安そうに眉を寄せた。

「ご、ごめん。嫌だったんじゃなく、ちょっと、今・・・照れた」

「?」

「うん、えっとね、その、ミィナに見惚れてたから微笑まれてヤバかったのです」

すみませんと告げると暫くして、長身色白和風美形男子が真っ赤に染まった。

だーかーらー、勘弁して下さい。

「お願い、そこで赤面しないで・・・」

精神的ダメージがっ、破壊力半端ない。

「っ」

「あー、うん。ごめん、私が悪いです」

だから早く熱を冷ましてくれたまえ。

「ミィナに逢いたくて来たけど、邪魔になってるね」

「・・・邪魔でない」

肌はピンクのまま。

でも、真剣な目ではっきり言われれば方便でないのは判る。

「練習見てていい?」

頷く續木に誘導され、安全かつ特等席で見学を許された。

もう少ししたら動画を撮ろう。

うん、それがいい。

保存しても良いかは後で聞こう。


「楓」

集中していて呼ばれた事に暫く気付けなかった。

續木の意識が的からずれて、ようやく名前を呼ばれたと振り向いた。

「るぅちゃん」

気が緩んでいた為、うっかり普通に愛称を口にしてた。

何事かあったのかと不安もあって立ち上がり、戸口に居る竜崎に歩み寄って首を傾げる。

「どうかした?」

「ん?」

「捜してたんじゃないの」

「いいや」

ならば何故ここに居るのか。

竜崎は弓道部に縁はなかったはずだ。

ああ、でも、生徒会顧問だから續木に用があったのかもしれない。

ようやく思い至って續木を振り向くが、真後ろにいたから驚いた。

自分と竜崎を見比べて、主にこちらをジッと見つめているから流石に怯む。

綺麗な顔で、無表情だと迫力が有る。

彼の意図を掴もうとしてたら、竜崎に頭を撫でられて。

唐突で戸惑って見上げるけれど、こちらも何を考えてるかよく分からない。

「えーっと・・・竜崎先生、續木君に用事ですか?」

「違いますねぇ」

「私に御用ですか」

「ははっ。見掛けたから呼んだだけだ」

ああ、そうだった。

最初に名前を呼ばれてた。

「楓は此処で何してるんだ」

未だ撫で撫で継続中。

少し不穏を感じるからそのままにしておく。

「鳳巳先輩に絡まれてダメージを負ったので續木君に癒されてます」

「はははっ!簡潔で宜しい」

機嫌を損ねる事はなかったらしい。

ただ、頭にあった手は頬に移動して来た。

暫くは触れていただけだったが、指先が耳朶や頬を撫で辿り始める。

性的な意図を持っていると気付いて一瞬、抵抗で身体が強張った。

が、それ以上は拒絶しない。

今それをすると、もっと酷い目に遭う。

確信があるから甘受する。

甘ったるい視線が舐めるように絡み付いてる。

そんな竜崎から眼を逸らす事すら許されず、赤面ものなのに恐怖もあって精神的にも身動きが取れなかった。

だから、竜崎の視線が續木へ動いた時は助かった。

「本当に仲良しなんだな」

どちらに向けた言葉なのか、余裕がなくて判断できない。

もう、限界だ。

「る、るぅちゃん、お願い、手を、」

半泣きだったに違いない。

竜崎が至極嬉しそうな眼をして輝いていたから。

「ははっ。イイな、クるよなー」

怖い!

身を屈めた竜崎に目尻を嘗められて、涙が出てたと知った。

もうガチガチに硬直してたのが面白いのか、それで解放してもらえた。

ああ、回復したはずの体力が根こそぎ持ってかれた。

立ってられずにへたり込むと竜崎の笑い声が降ってくる。

「大丈夫か、楓」

「大丈夫じゃない!!ヤンデレ予備軍!!」

「ははっ、はははっ!そうか、俺はヤンデレなのか」

そこで上機嫌になるなっ。

「用無しは帰れ帰れ!」

「まあ、そうだなー、気は済んだか」

そこで竜崎と續木が視線を交わしてたのは気付かなかった。

「フラフラするんじゃないぞ」

「してない!!」

理不尽すぎて怒っていれば、竜崎がまた笑う。

それから續木に「邪魔してすまん」と声を掛け道場を後にした。

あの人、本当に何しに来たんだろう。


流れでそのまま續木と帰宅する事になった。

竜崎との関係を聞きたいと露骨なくらいオーラを背負ってる續木に敗北したとも言う。

あとは、彼といて少しでも精神的ダメージを回復したかった。

注目されようがどうでも良くて、校門まで来た所でお呼びがかかる。

隣の美人にね。

「續木君!良かったら一緒に帰ろ!」

満面の天使な笑顔で駆け寄って来たヒロイン。

同性から見ても滅茶苦茶可愛いと思う。

そしてモブなので全く存在に気付かれていません。

「すまん」

「えっ、どうして?何か用事があるの?」

うん、そりゃ、断られると思わないだろう。

居心地が悪い。

このままこっそり帰ったら駄目だろうか。

なんて考えて実行しようとしたら、續木の視線がこちらに動く。

つられてヒロインも。

そこで初めて気付いたようで、驚愕に目を見開いていた。

「ど、どうも」

「佐藤さんと一緒だったんだ・・・」

怖い怖い。

不穏な空気が漂ってる気がして怖い。

「あ、だったら、私も一緒にいい?」

次の瞬間には明るい人懐っこい笑顔。

うん、きっと気のせいに違いない。

ヒロインはモブを気にするような心の狭い人間ではない、きっと!

今も、あの續木が頬を緩ませている。

流石ヒロインだ。

滅多に表情を変えない彼を容易く御するとは。

やはりモブはモブらしく消えるべきだ。

遠くからこの絵を見たらきっと美しいんだろうなぁ。

「忘れ物したから戻るね。用もあるし、先帰って下さいな」

ちょいと續木の袖を引いて早口で告げると返事を待たずに校舎へ引き返した。

これでいい。

確かに續木とは友人だけど、主要キャラの恋路を邪魔する気は毛頭ない。

その辺はきっちり弁えてますから。





ヒロインが帰宅したなら鬼畜会計様はいないだろうと踏んで生徒会室に訪れた。

時間潰しもしたかったし、仕事が溜まってないか気になったから。

しかし当てが外れた。

「・・・・・」

来たからには仕事をするけれど、不愉快にも睨まれる睨まれる。

しかもだ、今日に限って他の雑用係がいない。

会長様と会計様だけ。

気配を消しても意味がない。

「飯沼、いい加減にしろ」

「何がです?」

「ったく。大人げない」

「煩いですよ。貴女まで何です?アレのどこがいいんです」

話題にするのも止めてほしい。

まあ、言い方に問題有でも鬼畜会計様には賛同する。

顔を見るなり過保護を発揮されたらうんざりする。

しかも、鬼畜会計様の前でだ。

会長の変貌ぶりに戸惑い、すぐさまこちらへの敵意に切り替えた会計様の憎悪と言ったら・・・

「お前には関係ない」

バッサリ言った会長様の所為でまた敵意が増えた。

「顧問に鳳巳、最近では續木にも言い寄ってる女ですよ。目を覚まして下さい」

「續木?」

「ええ、そうです。貴方まで誑かされるなんて」

「おい!楓!」

「なっ、名前で呼んでるんですか?!変な薬でも飲まされたんですか!」

変な薬ってなんだ。

大体、名前呼びって、いつだ。

いつの間にそんな勝手な事になってた。

そもそも固有名詞で呼ばれたのは過去にたった1度だ。

いや、それより、煩い。

無理矢理音を遮断して集中するのに必死になる。

聞こえない、何も聞こえなーい。

暗示をかけつつ書類を向き合っていたら、それを握り潰すように綺麗な手が机を叩いた。

「無視とはいい度胸だな」

手を辿っていけば、これまた美しい会長様と目が合った。

凄い迫力だ。

「續木と親しいのか」

この質問、前にもされた気がする。

「友達ですが」

それが何か?と含ませると鬼畜会計様が眉を寄せた。

「だから言ったんです。とっとと追い出せばよかったものを」

カチンと来た。

それは、續木を馬鹿にしてる。

下心塗れで王子達とお近付きになろうって女子が多いのも知ってるし、異性嫌いの会計様が懸念して追い出したかったのも分かる。

だから極力王子達に近付かないようにして来たし、出来る限り意に沿っていた。

それでも目障りで信用に足らないのも自覚してる。

でも、だ。

「失礼な事言わないで下さい」

「何です。本当の事でしょう。貴女は僕達が目的で生徒会にしがみ付いていたんでしょう」

勝ち誇ったような会計様の表情。

「良かったですね、お望み通り彼等の気を惹けて」

「だから、失礼だって言ってんですよ」

舌打ちしてしまった。

語尾も乱暴になったけれど、遠慮する気は更々ない。

「私なんかに續木君が靡くわけないでしょ。鳳巳先輩にしても会長様にしてもですよ。色ボケするのは結構ですけど、一緒に働いてる役員様を馬鹿にするのは止めて下さい」

苛々する。

正直續木以外はどうでも良いけど、この際だから言っておく。

「程度が知れます」

「・・・何をっ」

「ヒロイン大事は結構ですけど、事情も知ろうとしない人にとやかく言われたくない。ほんっとう、腹立つんで友人を貶めるの止めてもらえませんかね」

「僕がいつ、」

「はあ?今もこれまでも、私に惑わされてるみたいな発言してましたよね。それって、私じゃなくて相手に失礼だって分かってないですか」

モブなんかに誰が靡くか。

お前が目を覚ませ。

「言い掛かりで絡むのも、理由は女ってだけでしょ。鬼畜会計様は私情を挟まず評価できないんですかね、女ってだけで。女だから王子達に夢中で女だから下心で仕事もしなくて女だから害悪だと判断して下さったんですよねー、ハイハイ、そうかもしれませんねー」

乾いた笑いを浮かべてやった。

怯んだ会計様に更に続けてやる。

「そんな私は王子達に次々言い寄ってるんですよね、ハイ、そうですねー。鬼畜会計様が言うならその通りなんですねー。でも!だとしても、續木君を馬鹿にするのは金輪際止めて頂きますっ!」

睨み付けて反論を待つ。

今回はどんな事を言われても引き下がる気はないからだ。

気圧され目を泳がせる会計様から反論する気配がない。

ならばこれ以上、相手をしても無駄なので仕事を再開することにした。


「すまんな、主にあいつが」

「いえ。物凄く挙動不審ですけど、大丈夫ですか」

会計様は定位置の席で動揺丸出しで机に向かっている。

ぺん立てを倒したり、書き損じを消す際に力余って書類を破ったり、こっちを見たかと思えば慌てて目を逸らし、また机の物を引っ掛けてばら撒いていた。

「・・・・・」

「放っておけ。いい薬だ」

会長が言うなら放っておくけれど、あれは本当に良いのか、王子として。

「自分の事は訂正しないんだな」

「はい?」

「いいのか?」

「あぁ、それはどうでもいいです」

鬼畜会計様にどう思われようが構わない。

「どうでもって、お前・・・」

「下らない事で王子達が仲違いする方が困ります」

「下らない事か?」

そうだろう。

たかがモブキャラだ。

「まあいい。楓」

うわっ、また名前呼びだ。

「携帯を出せ」

「嫌ですよ」

「早くしろ。連絡先を交換する」

「いや、だから、嫌ですって」

「何?」

凄んでも無駄だ。

確かに非常に威圧的で恐ろしいけれど屈する気はない。

「公衆の面前で声を掛けてもいいんだな」

な、なんて卑怯な!

言葉を詰まらせると勝ち誇った笑みを向けられた。

「俺が珍しく譲歩してやってるんだぞ。袖にしていいのか?」

有言実行、俺様会長様め。

所詮モブは逆らえません。

渋々携帯を出す羽目になった。

「・・・・・」

満足そうな会長様を尻目に憂鬱だ。


せめて、名前を俺様会長様に登録し直そう。







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