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以前の様に生徒会室で業務を行う事にした初日。

鬼畜会計様には軽く睨まれたけれど、丸っと無視でひたすら仕事に向かった。

どうやら本日はヒロインが来ない日らしい。

だからって当り散らさないでもらいたいが、今の所は害がないので放置する。

会長が遅れて登場し、こちらを確認して少し驚いた気配がした。

まあ、興味が無いのでこれも無視。

更に遅れて副会長。

真っ先にこっちに向かって来て、会計の嫌味は全く聞いてない。

「佐藤さん、マジここだった」

テンション高めで嬉しそうだ。

「竜崎、センセに聞いてビックリした」

恩人を呼び捨てにされるのは気に食わない為、不愉快だと眉を寄せると「先生」を付けるようになった鳳巳副会長。

彼は、その反応が気に入らないらしいが。

「どんな心境の変化?」

「鳳巳先輩が言う通り、効率が悪いので」

「うっそ!マジ!!佐藤さん、初めて名前呼んでくれたじゃん!!」

「ああ、すみません。馴れ馴れしかったですね」

「いやいや!それがいい!!副会長様ってのはバカにされてるみたいだったし」

「しませんよ」

モブが主要キャラを馬鹿にするって、どんなだ。

有り得なさすぎて呆れる。

「先輩はどうなさるんですか」

「え?何が?」

「・・・・・もう付き合って頂かなくても大丈夫ですが」

効率が悪いからと理由で共にいたのだ。

自分が此処に戻るなら、これまでみたいな気遣いをしてもらわなくても支障は無い。

少しペンを止め、目の前の鳳巳をジッと見上げる。

これまでのようにフラフラするのか、自分と過ごしていた様に仕事をするのか、彼の選択に興味があったからだ。

何故か惚けているが、そのまま見合った状態で返答を待つ。

「俺・・・用済み?」

「は?そんな訳ないでしょう。貴方、副会長様ですよ」

「キミの役に立ってる?」

「それ、可笑しいですから」

何言ってるんだ、望んだ答えも無い。

仕事に戻るべきかと視線を落とすと、強い力で顎を掴まれ上向かされた。

「俺はキミの役に立ってたでしょ?」

痛みに文句が湧いたけれど、鳳巳の眼があまりに真剣で怖かった。

ヤンデレ予備軍、竜崎に通ずる鈍い暗い光が見て取れたから。

「は、はい、勿論です」

顔を固定されていて頷けないから、震える声で必死に感謝を込めた。

実際気持ちは有ったので嘘はない。

「んじゃ、佐藤さんがいる限り、俺もいるー」

いつもの軽口で緩い笑顔までついてるのに、目と行動が伴ってなくて青ざめた。

解放された顎は痛みを訴えている。

しかし、それより何より、此処にもいたかヤンデレ予備軍が。

精神的ダメージが強くて落ち込んでいる間に、鳳巳は椅子を引いて同じ机に陣取ってきた。

これまでのように、処理していった書類を確認して判を押していく。

いつまでも放心状態ではいられない。

無理矢理心を持ち直して仕事に集中するしかなくなった。




ヤンデレと奇異の視線。

どちらを取るかと聞かれればヤンデレを選ぶのは完全に保身故だ。

実際問題、周りから浮こうがヒロインや鬼畜会計様の視線を気にするより、鳳巳と付きっ切りで業務をこなした方が効率も良い。

「あの、鳳巳センパイ」

椅子を漕ぎつつ書類を読んでいた鳳巳にヒロインが遠慮がちに声を掛けてきた。

「良かったら一緒に休憩しませんか?」

スポットライトが当たってキラキラしてるように見えるのは自分だけじゃないはずだ。

綺麗だから邪魔しちゃ駄目だと思う。

キツい視線が会計様から向けられてるからではなく、本心で2人のやりとりに割り込む気は無い。

「何で俺だけ?皆も働いてるじゃん?」

「えっ?」

「え?って」

さも可笑しいと笑う鳳巳に性格の悪さが覗えた。

それ以上掘り下げて聞く気はないらしいが。

「お誘いは嬉しいけど、俺は遠慮しとくわ」

「で、でも、会長達も一緒ですよ」

おっと、珍しく食い下がってる。

無理もない。

本日は珍しく役員全員が勢揃いしてるから。

桐山俺様会長様、鳳巳チャラ男副会長様、飯沼鬼畜会計様、真渕ショタっ子会計様、續木寡黙書記様、ヒロイン姫条さん。

やはり迫力が違う。

自分的にも是非、お願いして遠くから拝みたい。

「行って下さい。その間に書類作成してますから」

「えー、んじゃ、佐藤さんも一緒がイー」

一瞬、ヒロインの顔が歪んだ気がした。

見間違いにしよう、うん、それが良い。

ガタっと音がして鳳巳が椅子漕ぎを止めたと判る。

真横に顔があって思わず身を引いた。

態とか全く意識してないのか、近距離には触れない鳳巳。

「眼福で活力を下さい」

「ん?」

「滅多に揃わない面子なので、偶にはイイ思いをさせて下さい」

「何それ、佐藤さんでもそーゆー事思うんだ?」

皮肉に聞こえたけれど、どうでもいいから流す。

「私は不純の塊なので」

「アハハハハ!よく言うよ!!」

読んでいた書類を机に放り鳳巳は立ち上がった。

グシャグシャ人の頭を撫でて、気が済んだのかヒロインの誘いに乗りに行った。

その際、またもやヒロインの厳しい目が向けられた気がして溜息が漏れた。





実は王子達の1人とは面識があったりする。

高校に入学する前、いや、もっとずっと以前からだから3年位だろうか。

行きつけの弁当屋で働いている彼を最初に見た時は、無愛想な兄ちゃんだなぁと思った。

やたら綺麗な顔立ちをしてる美丈夫だったし、ずっと年上だと勝手に推測してた。

そしたら何と、店主に息子さんだと紹介され同級生だと知らされた時の衝撃といったら計り知れない。

彼の趣味がきっかけで少しずつ話す様になり、お互いの家庭事情に詳しい程度には親しいと言える。

だから、彼が書記として生徒会にいたのは意外だったし非常に驚いた。



「いらっしゃい」

低重音の声が迎えてくれる。

メニューから顔を上げれば、書記の續木聖生だった。

出会った頃と比べると背も更に高くなったし、体格もかなりガッシリしてる。

運動部に所属してるのも一因だろうけど、大分成長して逞しくなったと感慨深い。

「・・・どうした?」

「うん、男前だと思っただけ」

「・・・・・」

無言で見下ろされると少し恐い。

表情もあまり変わらないから、知らない人が見れば不機嫌なんじゃないかと思う。

まあ、全然優しい子なんだけど。

「おまかせ1つ」

注文を取って奥へオーダーすると直ぐに戻って来た。

「親父さんは留守か?」

「んー、残業で遅いって。だからお弁当置いとくの」

「・・・お前は・・・」

「自炊。あぁ、なんなら一緒に食べる?」

冗談のつもりだった。

店番してるし、いつもの軽口の延長だったはずが、迷わず頷かれてしまった。

「いやいや、お店はどうすんのさ」

「弟が帰って来る」

誘っておいて断る事など出来ようか。

「支度して待ってます」

またもコクリと頷かれた。

代金を払い弁当を受け取って店を後にする。

背中に視線を感じて振り向けば、ジッと見つめている續木と目が合う。

眼力も凄いから若干怯んだが、別れに手を振って家路についた。

何故、彼を招く事になったのか。

軽率な発言を後悔しつつ溜息をついた。






お粗末な手料理を披露した後は、彼お手製のデザートをご馳走になった。

相変わらず美味いね、なんて言うと頬が赤らんで目を伏せる。

実に愛らしい。

「ミィナ、久し振りに生徒会に来たね。忙しかった?」

小さく頷き目を合わせようとしない。

まだ照れてるらしい。

「変な感じだけど、ミィナはやっぱり綺麗なんだとしみじみ感じた」

これには反応に困って微妙に眉を寄せた。

何て解り易いのか。

「褒め言葉です」

だから念押しで告げた。

それはそれで微妙だと顔をしたから、つい笑ってしまう。

「可愛いなぁ」

気に入らなかったらしく、少し機嫌を損ねた。

デザートを没収されそうになったので、慌てて謝ったけど。

「副会長」

「うん?」

「・・・いつから・・・」

「何が?」

「・・・恋人・・・」

暫し考えて噴き出した。

咀嚼中じゃなくて良かったよ。

「ミィナは何でそんな馬鹿げた発想するの」

「・・・・・」

「私は補佐で雑用なので、役員様とは親しくなりようもありません」

「・・・俺は?」

「あー、本当はミィナとも駄目なんだよね」

續木がハーレム要員と知ってからは距離を置いていたのに、ついついやってしまうのは好意があるからだ。

親近感もあるし付き合いの長さは大きい。

反省しつつ、まあ、今更だと思い溜息をつく。

「駄目?」

視線を上げると、怖い顔した續木に射竦められた。

「俺の事が嫌いなのか」

これには全力で頭を振った。

疑いが消えていないので恐怖も相俟って「好きです」と叫んでいた。

決して愛の告白ではない!

ではないが・・・續木の反応が・・・

「お、お願いだから、真っ赤にならないで・・・」

撃沈である。

色白な分、余計に目立つ。

居た堪れない。

「・・・すまん・・・」

「うわぁ、振られたみたい」

シチュエーション的に。

續木は反応に謝ったんだろうけど、こちらの一言に慌てて弁解してくれた。

「そうではなくっ・・・好きと言って貰えた事は凄く嬉しい・・・」

「あー、いやぁ、うん、そうですか」

「恋愛の意味では無いと理解はしている」

まあ、そうだろう。

お互いの事は理解し合えてる仲だ。

「ただ、俺は、それに近い感情で佐藤を好きらしい」

「は?」

「だから過剰に反応してしまった」

またもや「すまない」と謝罪されたが、その前の発言で思考が停止気味だ。

「副会長と親しく見えたのがずっと気になっていた」

だから今日の誘いに乗ったのだと。

最初は隠し事をされてるのが気になってモヤモヤしていると思ってた。

恋人じゃないと聞いて安堵した。

嫌われていると思った時は許せなくて苛立った。

好きと言われた瞬間、制御できないほど気持ちが昂ぶった。

と言うのが、彼の説明だった。

実際は聞かされてるこっちが赤面しそうなくらい、心情を赤裸々に語ってくれたが、思い出すと死にそうになるので封印する。

「学校で声を掛けてもいいか?」

極めつけがコレ。

精神攻撃でダメージを負っていたし、モブを理由に卑屈になるのは止めたのもあって。

「・・・ハイ・・・結構です」

と返答した。

そこではたと気付く。

「もしかして、遠慮してくれてた?」

「・・・・・」

沈黙は肯定だ。

「ごめん!」

そりゃそうだ。

續木が何も言わないから全く気にしてなかったけれど、学校では接触しないのにプライベートでは今まで通りしてたら嫌でも気付くに決まってる。

人には友人だと知られたくないって事に。

それを知った續木がどんなに不快だったか、想像出来る範囲でも随分失礼だったし裏切りとも言える。

何て自分勝手な。

「本当ごめんなさい!!」

「・・・嫌われてないならいい」

いいわけ無いだろ、最低な事したんだから。

どんだけ優しいのか。

「佐藤は・・・派手な人間が苦手なの知ってる」

含みが有ったのは、言葉を濁してくれたからだろう。

彼には幼少期の散々だった日々も打ち明けていたし、父に対する感情もそれとなく解っているから。

後は、王子達への態度からも察してるんだろう。

「ミィナがどんなに優しいか、私は知ってる。だから甘えて傷付けた自分が許せない」

「・・・・・」

「取り返し付かないけど、少しは埋め合わせさせて欲しい」

「・・・・・名前・・・」

困惑し迷って、ゆっくり口を開いた續木。

「楓と呼んでも・・・」

徐々に照れて赤くなっていく様につられそうになる。

が、気合で踏ん張って大きく頷いた。

「良いよ!当たり前!!私なんてとっくに呼び捨てだし」

そんな事でいいのかと聞くと小さく頷いて目を伏せた。

何て愛らしい乙女か。

「二度と同じ過ちは犯しません」

大切な友人に誓って。






部活が一段落した為か、以前より生徒会に来る回数が増えた續木。

真面目な子でもあるから参加出来ない事を申し訳なく感じていたに違いない。

対して鳳巳副会長は足が遠のきつつある。

まあ、割と暇だからという理由もあるけれど、今までが異常だったのだ。

「楓」

「はいはい」

何やら会長から渡された書類を手にやって来た。

「教えてくれ」

「はいさー。どうぞ」

一通り内容を見て、續木に隣りへ座るよう促した。

書類作成ならほぼ全般網羅しているから余裕で説明出来る。

だから續木もこちらに来たんだろうし。

自作の記入例をファイルから取り出して、書類と並べて見せる。

「これで大体解ると思うけど」

「・・・・・」

「解らなかったら聞いてね」

「・・・・・」

ジッと記入例を読みながら頷く。

既に意識はそちらへ向いてるようだ。

續木は頭も良いので直ぐに理解して要領を得るだろう。

嫌味ではなく、顔も頭も良いなんて羨ましい。


何度も確認をして会長の元へ・・・正しくは会長の机の裁決ボックスへ書類を運ぶ。

その際、おざなりな「お願いします」を付けるのだが、会長が変な顔をしていたからつい足を止めてしまった。

変な顔でも綺麗な人は綺麗なままだが。

「續木とも親しいのか」

「はあ?」

これがナチュラルだ。

説明する気は全く無いけれど、詮索されるのは不愉快。

「お綺麗なお顔が崩れてますよ、会長様」

「お前、結構な性格してやがるな」

「どうも」

絡まれるのは御免だ。

早々に会話を切って踵を返す。

今日は仕事も終わったし、續木に付き合ったら帰ろう。

鬼畜会計が来ない内に姿を消すのが得策だ。





軽率な発言は身を滅ぼす。

数秒前の己に言い聞かせたい。

そして、素晴らしいタイミングで入室してくれた会長様に土下座で感謝だ。

「お、お願いします!た、助けて下さいっ!!」

ソファーに押し倒され、竜崎に馬乗りになられている現在。

事の発端は竜崎の呼び出しに応じた10分程前に遡る。



化学準備室でコーヒーを入れて迎えてくれた竜崎だったが、思えば最初から予兆はあった。

2人きりなのに紳士的でちゃんと“竜崎先生”だった。

それが異常事態だと早く気付くべきだったのだ。

「楓は次から次に男を篭絡するなー」

「・・・るぅちゃん、唐突に何」

「どうして俺で我慢しない」

駄目だ、話にならないとコーヒーを啜って溜息。

「續木とは接点ないだろ。どうやって知り合った?」

「あー、元々知ってた」

「そうなのか?そんな素振りなかったろう」

「私が避けてた。ミィナは合わせてくれてただけ」

「ミィナ?お前、そんなに續木と親しかったのか」

貼り付けたみたいな余裕な表情と発言が一致して無いと初めて気が付いた。

コレは外面の良い竜崎で、自分といる時の素顔の彼ではない。

違和感ではなく危機感を持つべきだったのに。

「うん。3年位の付き合いになる」

「へぇ・・・俺には一切教えてくれなかったよな」

「るぅちゃんに関係ないじゃん」

瞬間、担ぎ上げられた。

抵抗する間もない早業でソファーに叩き落とされる。

痛みに悶える前に両手首を一纏めで押さえ付けられ、怒りに染まった眼が見下ろしていた。

「関係ないか。聞き捨てならないな、ははっ」

ここで失敗に気付いた。

完全にキレてる。

續木の事を自ら説明していたら竜崎の怒りは爆発しなかっただろう。

機嫌を損ねる程度で終わってたはずだ。

それを、竜崎が与えてくれた猶予を台無しにしたのは己だ。

「楓は最近横柄だぞ」

ん?と微笑されても恐ろしさで硬直してしまう。

「もっとちゃんと俺を大事にしないと駄目だろ」

ビクともしない体。

制服のボタンを外されていくのに何1つ出来ない。

「犯すぞ、楓」

耳元で囁いて鎖骨に強く吸い付く。

全身から血の気が引いた時だった、扉が開いたのは。

必死で顔を捩り確認した先には茫然と立ち尽くした会長の姿だった。

「お、お願いします!た、助けて下さいっ!!」

形振り構わず叫んだ。

恐怖で掠れて思った以上に声は出ていなかったけれど、会長はハッとしてドアを閉めると早足でこちらに来てくれた。

「何をやってる!竜崎!!」

「見たまんまだ」

身を起こした竜崎の舌が唇を這っていき、ゆっくり離れていく。

そうしてやっと解放された。

「お前は呼んでないぞ」

「説明が先だ!教師の分際で何やってやがるっ」

「ははっ」

「笑い事か!!」

のらりくらりの竜崎は怒りも収まったらしい。

が、こちらは微塵の余裕もない。

本気だったのだ。

いつものように過剰なスキンシップで終わらせる気は無く。

証拠に唇に触れていった。

一度も唇には触れた事が無かったのに。

混乱と恐怖で涙が溢れてくる。

外されたボタンを止める気力はなくて衣服を強く握り締めるしか出来ない。

「おい、大丈夫か?」

会長の親切心に頷いて答えるのが精一杯だった。

お礼を言いたいけれど、声が全く出てくれない。

恐怖の所為だ。

「泣くな」

ボロボロ溢れる涙も止められるわけない。

拭うために伸ばされた手が恐ろしくて身を引くと、竜崎の笑い声が頭上で聞こえた。

手には淹れたてのコーヒーカップ。

雰囲気が普段の彼でホッとしてしまう。

元凶は彼なのに。

「ほら」

「お前は、コーヒーなんて淹れてる場合かっ」

「お客様へのご奉仕だろ」

笑いながら会長へカップを押し付けている。

話が通じないと判断してか、会長はチッと舌打ちして受け取っていたが。

そんなやり取りをボーッと眺めていたら竜崎と目が合う。

一瞬怯んで、頭を撫でられた事で安堵した。

「楓は本当可愛いなぁ」

少しだけ涙が収まった。

見計らったみたいに竜崎は回り込んで来て傍で身を屈める。

ガチガチだった手を放させて、代わりにシャツのボタンを止めてくれる。

制服が元通りになると、次は涙でぐしゃぐしゃの顔を指で拭い綺麗にしていった。

昔もこんなふうにしてもらったなぁ。

生きてても良いよと言ってくれるみたいで、初めて自分は他人にも認識してもらえる人間だと思ったのを覚えてる。

「・・・おい、それ以上はよせ。離れろ」

されるがままで意識が無かったが、どうやら竜崎に目尻や頬を舐められていたらしい。

会長の声で正気に戻り、無精髭のチクチクを不快に思う。

「るぅちゃん、髭、痛い」

「ははっ、すまん」

力の入らない腕で押しやると大人しく離れてくれた。

「会長様、ありがとうございます。物凄く助かりました」

「いや・・・平気か?」

「全然平気じゃないです」

「そうか、そうだな」

「はい」

いつかのように珍しく狼狽して目を泳がせている。

それも短い時間で、何故か隣りに腰掛けてきた。

「今後竜崎と会う時は俺を同席させろ」

「・・・それは・・・」

身を案じてくれてるのは伝わる。

だが提案を受け入れるには色々飲み込めない事が多い。

「無関係者だろ、桐山」

竜崎が言うと刺を感じないから不思議だけれど、切って捨てる位に威力がある。

本当その通りだからだ。

会長様の責任感と言うか、お人好しと言うか、まあ、有難い申し出ではあるけれど結局はそういう事で。

そうしてもらう理由も付き合いも無い。

「もう違うがな」

「ははっ、楓、またか」

「ま、またって?」

「次から次に役員誑し込みやがって」

「してないっ!」

恐怖に戦く。

対して竜崎は愉快げで上機嫌に頭を撫でてきた。

もうキャパオーバーで対応しきれない。

隣の会長は会長で、そんな竜崎の手を叩き落としている。

無だ。無になろう。

それが今一番の最善策だ。








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