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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第一章 異世界でぼっち篇
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第七話 アップグレードそして脱獄!

 生まれてこの方、四十二年……初めて入った牢屋は寒く冷たかった。物理的な温度では無く、心理的に冷え込んで来る。


(何故、こうなった? ちゃんと考えて置けば他にも何か出来たのだろうか?)


 平和な日本の常識で、話せば分かって貰えるだろうと考えていた。安易に考え過ぎていたのだろうか?


(あぁ~! うつになりそうだ。反省点はてんこ盛りだけど、今更過去は変えられないからな……それよりも、これからの事を考えよう!)


 選択肢は幾つか有るのだが、オリアスって言ったか……あの金髪髭面野郎には、一泡吹かせないと気が済まなかった。


(何が有ったかは知らないが、始めっから決め付けやがって! しかし、他に本物のスパイがいるなら、逃げるべきじゃないかもしれないな)


 誤認逮捕とはいえ、スパイの容疑者が捕まったとなれば、本物は動き易くなるだろう。例えどれだけ機密が盗まれようと、知った事ではなかった。


(だけど、不測の事態に対応する準備だけは、して置かないとなぁ)


 牢屋の中では出来る事が限られる為、自己診断に時間を費やす。メニューやステータスを意識的に呼び出すと、頭の中で作られたイメージが目の前に浮かぶが、実在する訳では無いのと……意識する事が重要なので、ステータスやスキルを直接意識する事で、表示もショートカット出来る事は分かっていた。頭の中が、ゴチャゴチャとしたイメージで埋め尽くされると、視界がさえぎられる様な錯覚を起こすので、これは非常に便利だと言える。恐らく処理能力の問題で、ただ馴れて無いだけなのか、レベルの問題か……その両方かもしれない。


 ――しかし、いつもショートカットしてしまうメニューに、見慣れない表示があるとなれば話しは別だ。メニューには、アップグレードの文字が点滅していたのだから。


 《メニュー》

[ステータス] [スキル]

[アイテム]  [称号]

[装備]    [コンフィグ]

→アップグレードが可能になりました!


 即座に意識を集中して、ポップアップされた説明を確認する。


『この度、スキルの熟練度が向上し、電脳Lv2を獲得したのでアップグレードが可能になりました』


 つまり、電脳のレベルが上がる度にステータスばかりか、性能も向上する事実が確認されたのだ。


(何、このチート……いや、俺みたいなおじさんには其れくらい必要かもな、現にこうして捕まってるし……よし、実行だ!)


 アップグレードを意識すると、インストールしますか? という表示の下に、[はい]と[いいえ]の二つが表示される。リュージは、一切迷わずに[はい]を選択すると――急に意識を失い、ばたりとその場に倒れ込んだのだった。


「ん~? …………」


 目が覚めると知らない天井だったが、凄く悩んだ末に敢えてスルーしたらしい。沈黙が葛藤の表れではないだろうか。


(有名なお約束だが、お約束なんだが……ふぅぃ~、危ない危ない)


「目覚めたか?」


「……?」


 そこには団長が居た。向かい側の壁にもたれ掛かって、こちらに声を掛けて来たのだ。


「お前は、何か持病でも有るのか?」


「いえ、特には有りませんが?」


 何が聞きたいのか分からないが、特に問題の有る内容には思えず、正直に話す。


「そうか、見張りから突然倒れたと聞いたが。治療師も心労だろうと言っていた」


「そうですか、わざわざ有難う御座います」


 どうやら、心配して治療師? ――医者みたいな者だろう――まで呼んでくれた様だ。スパイの容疑者なのに……。


捕虜ほりょなのに、良かったのですか?」


「何、折角捕らえた捕虜に死なれたら、情報が引き出せないからな。情報を吐いたら死んでも良いぞ」


 ニヤッと意味深に笑ってみせる団長。わざと捕虜という言葉を選んでみたが何の反応も無い。実は己の首を絞めただけではないだろうか。


(先程の俺の感謝を返せ!)


「食事は其処に置いてある。近くに見張りが居る筈だ……何か有ったら呼べ」


 そう言って、団長は去って行った。だが、おっさんのツンデレとか興味無い事はスルーだ。


(突然倒れたって言ってたな……俺は、確かアップグレードを実行して……?)


 その後の記憶が全く無い! つまり、アップグレードをすると、ぶっ倒れて意識を失うって事だ。安全面を確保しないと、不用意には行う事が出来ない。頭を強打してご臨終も有り得るのだから。


 (それは置いといて、アップグレードで何が変わったのかを確認しなきゃ!)


 《メニュー》

[ステータス]  [装備]

[アイテム]   [マップ]  new

[スキル]    [図鑑]   new

[称号]     [コンフィグ]new


(おっ! マップと図鑑が増えたな。コンフィグは……何か変わったのか?)


 マップはそのまんま地図だった。だが、無人島からこの村までしか表示されない。どうやら、オートマッピングらしいが、移動しないと駄目なのだろうか? 図鑑には、異世界に来てから見て来た物が表示される様だが、詳細は不明になっていた。鑑定スキルとかが必要なのか? 足りない物が有りそうだ。


(う~ん、分からない事が多いなぁ)


 最後にコンフィグを確認する。


 《コンフィグ》

[表示言語]     [日付と時刻設定]

[単語の登録/編集] [辞書の登録/編集]

[機器の接続設定]  [AI設定]new

[情報共有化設定]new[初期化設定]


(情報共有化ってなんだろう?)


 説明を読む限りでは、これを設定する事で以前アイテムBOXに入れて接続した機器同士と、リュージとの間での情報が相互に共有可能になったって事らしい。つまり? パソコンに保存してあるデータに頭の中でアクセス出来るのだろうか?


 機器同士とは何を指すのだろう。そのまま判断するとパソコンとエアコンとか、掃除機と冷蔵庫でも情報の共有化が出来る事になる様だ。何の意味が? 分からない事は保留する。


(次だ、次に行こう! え~と、AIって人工知能だよな? それの設定?)


 《AI設定》

[キャラクターメイキング]

[状態設定] 

[初期化設定]


(キタ~! 面白そうだ)


 早速、キャラメイクをしようと思ったが、選択肢が少な過ぎて、色々と台無しだったが続きを実行する。


 《キャラクターメイキング》

[イヌ] [ネコ] [トリ]

[♂]  [♀]  [?]

[声1] [声2] [声3]


 選択肢が少ないので、サクサクと決める。選んだのは、[ネコ][♀][声3]である。


 一つだけ疑問が有ったが、[?]は何だったのかという事だろう。それは、ある二丁目に居そうな人種の特殊な声色だった。あまりにもそのまんまだったのでスルーしたのだ。こんな所で、ネタなんかは要らない。[声3]については、好みの声質だったとだけの理由である。


 AI自体は、まだ学習が少ないのか、あまり活躍しそうに無い。いや、情報共有化設定が活きて来れば変わって来るかも? 何にせよ、アップグレードしてみて有効だったのは、情報共有化設定だろう。


 今の所は特に変化は見られないが、あのパソコンの中にはアニメや映画等の映像作品はもとより、趣味に関するデータが増設しまくったハードディスクに、腐るほど記録されているのだ。もしかしたら、情報共有化により各種スキルに良い影響があるのではないかと思っている。具体的には、アニメやアクション映画の様に動いて、必殺技が繰り出せるのが望ましい。


(齢四十二にして、中ニ病の再発……。まぁ、良いか!)


 団長が用意した? 冷めた食事を腹に入れ、一息ついた所で、辺りを見回す。見張りは常に動いて警戒している。真面目な事だな、団長の教育の賜物か? 士気が高いのが素人の目で見ても良く分かる。


 鉄格子は、鋼鉄製だろうか。かなり固い金属製なのは間違いない。


(鉄格子なんだから、鉄で当たり前なのか? こっちの言葉はわからんしな)


「おい、無闇矢鱈むやみやたらと格子に触れるな!」


 そんな事を考えながら、格子に触れていたら怒られてしまったのは仕方が無い。やる事が無くて退屈になってしまった。アイテムBOXから水を出そうとしたが、やはり魔法を妨害されていると駄目だった。


「(たぶん、駄目元だろうな)すみませ~ん、お水をくださ~い!」


「うるさい! そこに在るだろっ!」


(また、怒られてしまった。まぁ、分かってたけどね。しかし、そこって何だ? ……っ! まさか?)


「あの~、そこってまさか、これですか? トイレの手洗い用の水じゃあ無いですよね~?」


「ははっ、何を馬鹿な事を言ってる、他に何があるって言うんだ?」


 こいつ今、笑いながら言いやがった。


 小さな音だったが、確かに聞こえた気がする。それは、幻聴かもしれないが堪忍袋のキレる音だったのだろうか。普段ならキレる様な大した事では無かったかもしれない。だが、ストレスを感じていたのも事実である。


(人が大人しくしてれば、付け上がりやがって……此方にも我慢の限界があるんだぞ)


 良く考えれば、大人しくこんな所に居る必要も無ければ意味も無いのだ。揉め事を避けたかっただけで逃げれない訳じゃないのだから。


 今、頭には名前も知らない翻訳装置が装備されている。これがあれば、何処に行ってもコミュニケーションは取れるはずだ。後は脱出するだけ、そう思いステータスにポイントを割り振る。


 取り敢えず、力、体力、素早さの三つを五百ずつ上げてみた。手錠と足枷が簡単に千切れた。感覚的には束にした段ボールを破く位だろうか。鉄を千切ると思えば、遥かに簡単だろう。


 次に鉄格子だが、全力で蹴り飛ばしてみる。すると、丸ごと外れて格子がぶっ飛び埃が舞う。


「バッ……バケモノ……!」


 目の前にさっきの見張りがいるが、逃走中だ。腰が抜けたのかいずっている。情けない姿だが、怒りは収まらなかったのでつかまえる。


「まあまあ、待ちなよ。逃げる事無いだろう? さっきのお礼に水をい~っぱいご馳走してあげるよ! ほらっ、誰が使ったか知らないが人に薦めるくらい美味しいんだろう?」


「ひっぃぃ………ゅるして……許してぐださぃ」


 そうして、掴んだ見張りの頭を水を貯めたおけに突っ込む。


「聞こえな~い……」


 抵抗を試みるがリュージの力に逆らえず、バチャバチャとリュージの腕の動きに合わせて水の音だけが響く、やがてガボガボと息が漏れる音がすると引き上げ、また突っ込む……これを何回繰り返しただろうか……。


「おっと!……死んじゃう死んじゃう!」


 全く失礼な話である。水洗でも無ければ紙も無いのであれば使用方法なんて他に無い。つまり、この水は交換してあったとしても、そういった手を洗う為にあるのだ。そんな水を飲めと、……お巫山戯ふざけが過ぎる!


 そうこうしている内に、他の警備兵がやって来るが、気絶した牢番を盾にして前に出る。建物の外に出るとそこには、完全装備の金髪髭面野郎が槍を構えて待っていた。


「随分と派手な脱走じゃね~か」


「こいつがトイレの水を飲めとか、いじめるんで出てく事にしたんだよ! もしかして、あんたの差し金かな?」


 チッ! っと忌々(いまいま)しそうな顔をする金髪髭面野郎。考えている事が分かり易過ぎるのも困り者である。不愉快過ぎて抑えが効かなくなりそうだった。


「あんたが、どうして俺をスパイに仕立て上げたいのか知らないけど。虐められてまで大人しくするつもりなんか無いからな!」


「仕立て上げるも何も、自分からスパイですなんて言う奴居ね~だろが!」


 恫喝どうかつしながら槍を突き出して来るが、盾にしている仲間は良いのだろうか? 折角なので、こいつの剣を鞘ごと拝借し、邪魔者はポイッと捨てる。


 突き出して来た槍を避けて剣を振るうと、バックステップでかわす。だが、それは誘いでありステータスを一気に上げたリュージの敵では無かった。金髪髭面野郎は、攻撃を躱して仕切り直せるとでも思ったのだろう。一瞬笑みを浮かべるが、次の瞬間にはその表情が凍り付く!


 先を読んだ上で剣を躱す様に誘導し、金髪髭面野郎の動きに合わせて、さらに飛び込んだ! 素早さに割り振ったポイント任せ、ステータス差によるゴリ押しではあるが、勝てば良いとばかりに攻撃する。


 一撃目は、牽制の意味で剣を振ったが、殺すつもりまでは無かった。そのまま、剣の柄の部分で鎧の上からぶん殴る。


(あっ! 手加減忘れた)


 鎧の上からだったのが良かったのか、何とか生きてる様だ。空高くカチ上げられるのでは無く、地面を派手に転げながらぶっ飛んだから、衝撃を吸収したのかもしれない。何にしても頑丈なおっさんである。

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