第六話 里の自警団そして投獄!
第一発見者に逃走されてから暫く、知らないおっさん達に包囲されていた。武器を持ったおっさんが三人だ。島での野犬に続いて二度目の事件であるが、意志疎通が可能なだけ増しである。――例え言葉が通じなくとも……である。
右に居る厳つい金髪髭面のおっさんは、武骨な槍を持っている。柄の悪さが、顔から滲み出ているとしか思えない。渾名を付けるなら、金髪髭面野郎だろうか。
左のおっさんはスキンヘッドで何故か上半身裸だ。斧を担いで大胸筋をピクピクさせているが、筋肉自慢か? ハゲマッチョで良いだろう。
そして、正面に立つのがボスだろうか? 銀髪で隻眼のナイスミドル、左目に付いた縦一文字が歴戦の戦士の風貌を引き立てている。剣か、ロングソードって奴だろうか? まぁ、ボスが無難か?
(うおぉぉ……マジ怖え~。成る程、さっきの人は逃げたんじゃなくて、この人達を呼びに行ったのか)
こちらが丸腰だからか、武器を持っているのだが、危害を加える気は無い様だ。揉め事を起こす気は無い為、武器は取り出さない事にする。内心では、ボスの迫力に若干ビビりながらも、再び挨拶を試みる事にした。
「ハロー」
「「「……?」」」
おっさん達は、お互いに顔を見合わせ困った様な顔をする。全く通じて無い様だ。
「ヴァス マインテン ズィー エーベン? (何て言ったんだ?)」
「イッヒ フェアシュテーエ ニヒト(わからん)」
金髪髭面のおっさんは、ハゲマッチョと何かを話している。何語だろうか? 何処かで聞いた事が有る様な発音だが、語学に暗い立志ではヒアリングで聞き取る事が出来ない。
「ヴォーヘア コメン ズィー?(お前は、何処から来たんだ?)」
(……?)
ボスが何かを言ってるが、意味がさっぱり通じない。立志が首を傾げていると、ボスが懐から何かを取り出して、渡して来る。
(何だろ……これ?)
戸惑っていると、頭に着けろというジェスチャーをしてるみたいなので、従ってみるのだが特に何も変わらない。
(はっ! しまった、緊箍児みたいな動きを封じる道具か? それとも、ばっ、爆弾か?)
「おい小僧、俺の言葉が解るか?」
「えっ! あっ、はい、解ります(翻訳装置なのか?)」
「そうか……それじゃあ、付いて来い。聞きたい事がある。一応、言って置くが拒否権は無い!」
「(うへ~マジか~。)何でしょう?」
「まぁまぁ、付いて来いって」
翻訳装置だった事に安心した束の間、ボスの厳しい発言に警戒感をあらわにすると、右側の金髪髭面が会話に入って来る。ハゲマッチョの方にその気は無い様だ。筋肉にしか興味が無いのか?
仕方無く促されるままに進むと、何やら兵士が立つ小屋が見えて来る。所謂、見張り小屋だろうか? 何故、こんな所に連行されねばならんのか。事と次第によっては、戦わねばならない。勝てるのだろうか?
「おう……まぁ、座れや」
「はい、……失礼します」
通された部屋には、ボスと金髪髭面だけが入って来る。ハゲマッチョは部屋が狭いから外なのだろうか。思ったよりも遥かに狭い部屋だった。
(取調室って奴か? カツ丼は出ないよなぁ、腹減ったな)
「俺は、この里の自警団で団長をしているバルザックだ。こいつはオリアス」
「副団長のオリアスだ。そして、今は席を外しているが、さっきまで一緒だったのがウルバインだな、見て分かると思うがこの部屋は狭いんでな、裏口の警備に回ってもらった!」
二人は、最低限の礼儀は弁えているのか、先に名乗り始める。
(これは、暗に逃げようとしても無駄だぞって言ってるんだろうな)
こちらの様子を注意深く観察しながら、ボスこと団長が質問を始めた。
「先ず、名を聞いて置こうか」
「(先ず……ね)鈴木立志……あっ! いや、りゅうじ すずきだよ……です。(おっと、目付きが鋭くなりやがんの! え~え~そうですか、タメ口は駄目っすか!)」
「リュージ ・スズキ? スズキが家名か? 聞いた事が無いんだが、何処の貴族様だ?」
「えっ? いえ、貴族とかじゃ無いです。うちの国は、全員が苗字を持ってまして……え~と、日本って国なんですけど、知りません?」
貴族とか、予想外の言葉に慌てて説明をするが、苗字で通じるのだろうか? 家名って言い直すのが正解か? 何か知らんが、厳しい目付きが益々鋭くなって行く。
(ここは異世界だったんだよなぁ! 貴族とか、家名とか、質疑応答の設定を考えて置くんだった。あ~迂闊だったなぁ。どうしよう! ヤバい、マジ怖い!)
内心でひとりテンパっていると、団長は疑問や不明点を挙げてくる。取り調べって言うか、これって尋問だよね? 黙秘権とかは無さそうである。
「全員に家名だと? ニホン? 聞いた事が無いが、どうやって来た?」
「おい、リュージとか言ったか? お前、本当は帝国のスパイなんじゃないのか? 正直に言った方が身の為だぞ!」
(うわ~スパイとか、無いわ~。こんな善良な小市民を掴まえてスパイとか!団長は兎も角、この金髪髭面め! どうしてくれようか!)
これは、もしかしなくてもヤバい状況なのだろう。スパイ容疑で尋問って事は五体満足で帰れない可能性が高い。間違って死んでも、スパイだから別に良いのだろう。闇から闇へ葬られるのがお決まりの展開だ。
「そうです! 場合によってはニッポンとも呼ぶし他の国からは、ジャパンとかでも呼ばれる国です。ここが何処だか分かりませんが、東の方に在る島国です。スパイじゃありませんよ!」
「ここが何処だか分からないのに、どうして東に在ると言える? スパイじゃ無いと言うが、それを証明する証拠は? それから、俺はどうやって来たのかを質問したんだが?」
(えっ? あれっ? 何かヤバい? どうする? どうしよう、嘘は言ってないのに! ヤバい、ヤバい、ヤバい、団長も駄目だ! 誰か、た~すけて~!)
団長の突っ込みは的確だが“愛”が無い。淡々と事実の確認だけをしつつ、おかしなところは、容赦無く突いて来る。間違いなくお笑いには向いて無い。コントでは無く現実なので当たり前なのだが……。
「え~と、信じて貰えるか分かりませんが、気が付いたら無人島に居まして、山に登って見渡したら、此方の村が見えたので、筏を作って海を渡りました。どうして東かって話しは、え~と、そう! 東の果てに在ると言われていたからです。スパイじゃ無いのは、信じて貰うしか」
「お前の話は何処までが本当で、何処からが嘘なんだ? 先ず、気が付いたら島に居たというが、どうやって島に入った? 山に登って村が見えたって言うが、お前の言った島から村までが、何れだけ離れているか知っているのか? その上、東の果てだと? お前は東の果てを見たのか! 信じろと言うが初めて会って、妙な事しか言わん怪し気な小僧の何を信じろと?」
「バルザックさん! やっぱり、こいつがスパイなんですよ! さっきから、のらりくらりと可笑しな事ばっか言いやがって! ガキだと思って黙って聞いてたが、我慢にも限界がありますよ!」
若干、現実逃避している間に金髪髭面の中で、スパイ容疑は固まってしまった様だが、仕方無いだろう。世の中に尋問に馴れている一般人など、存在しないだろうから。
(一つも嘘なんて言ってないっつ~の! ボス、いや、団長もネチネチと挙げ足ばっかり取りやがってからに!)
「しかし、見た所丸腰だしな? スパイなら言葉が話せ無いのも、変に目立って不自然だろう」
「そんなの、演技だって何だってどうにでもなりますよ! 武器だって見付かる前に棄てたのかもしれない」
リュージを無視して二人の会話が続く。命が掛かってるし、割り込むべきではないだろうか。しかし、オリアスはどうしてもスパイにしたい様だ。容疑者では満足せず犯人確定に持っていこうとする。
(覚えてろよ? この金髪髭面野郎っ!)
「お前の言い分も分かるが、暫く様子を見る」
「バルザックさん!」
尚も食い下がろうとする金髪髭面野郎を片手で制し、団長は手錠と足枷を取り出して、向き合う様に立つと、拘束してゆく。
「こいつは少々特殊な錠でな? 万が一にも魔法使いだった場合に備えて、魔力の発動を阻害する効果がある」
(えっ?)
団長はそう言った後、ニヤリと笑う! それはまるで、してやったりとでも言うかの様に。驚いた理由は、魔法使いだと見破られた事だと思っているのだろうか? でも、そうじゃない。魔法など使え無いにも拘わらず魔法使いだと思われた事に驚いていたのだ。
「おいっ! 誰か、こいつを牢に放り込んどけ!」
(くっそ~! 偉そうにしやがって! あの金髪髭面野郎! 絶対に許さないんだからな!)
そうして、あれよあれよと捕まり、無実の罪で牢屋に繋がれる事になってしまった立志改めリュージは、内心で盛大に愚痴るのであった。
緊箍児ってのは、西遊記のあれですね♪