閑話 若き王の苦悩!
明けまして、おめでとうございます。
今更感が半端無いですが、ご挨拶は大事かなと思いまして! じゃあ、活動報告に書けって? 至極ご尤もです。申し訳御座いません。
尚、この話は前話を王様視点で書いてみた物で、一人称のつもりです。たぶん、そんなに変じゃないと思います。
閑話ですし、王様の心情に興味が無ければ、読まなくても大丈夫っちゃあ大丈夫です。
採光の為に鎧戸は開け放たれ、窓から吹き込む風には雨の匂いが混ざる。そんな、少し曇った初夏の一日。
給仕が用意した昼食を取り終え、英気を養った私が仕事の続きに励んでいた午後。
それは、ある書類――昨年の取れ高と、そこから導き出した今年の予定収量を対比させた物――に目を通している時だった。
「陛下、シュッツ地方の街ラストックのダンジョンが攻略された由に御座います」
「――っ!? それは誠か!」
執務室に入るなり家令が報告した内容に、私は頭痛を覚えていたのも忘れ、驚きの声を上げていた。
「探検者ギルドのグランドマスター直々の報告ですので、情報の精度は高いかと……」
ジーンの婆さんが重い腰を上げた? どうにも臭いな。最近は、「若い連中に任せた」とか巫山戯た事を吐かして、楽隠居を決め込んでいた筈だが……。
「シュッツ……北部辺境領か。あそこは確か――」
「はい、クラウス・フォン・ウント・ツー・シュッツ辺境伯の領地で御座います。あの御仁は、自己鍛練にお忙しいらしく、領地経営は経験豊富な代官に任せきりの様ですな」
私の思考を先読みした家令が、言葉を引き継ぐ形で情報を補完する。
正直、頭の痛い事案であった。午前中から細かい数字を見比べ、疲れた脳が頭痛を引き起こすよりも、よほど頭を抱えたくなる事だった。
だが、今はそれよりも――。
「そうか、それも有るが攻略した者たちへの褒美が先だな」
余裕が有ると言えるほど潤っている訳ではないが、財政に困るほど国庫が苦しい訳でもない。何を与えるかにもよるが……。
「その件ですが、王都へと上がる様に指示して御座いますれば、到着次第連絡が来るかと。褒美については、本人に問うてやった方が安く上がるでしょう」
必要な手筈を整えているのはいつもの事だが、我が家の優秀な家令は出費を抑えたいらしい。ダンジョンの核が手に入れば、幾らでも回収の目処は立つのだが、合理的な考えの持ち主である彼には無駄に見えるのだろうな。
そもそも、家令なる者の全般に言える気性だし、そうでなければ務まらない職業なのだが……。
フランカリア王国から独立を果たしたルーク公国という例もある。その辺りは、どう考える?
「どこぞの国の様な例もあるが?」
「あれは、元々が貴族。それも、辺境伯であったればこそで御座いましょう。今回の攻略者は、聞けば平民の子供だとか……謁見の間で陛下に問われて、まともな受け答えが出来るとは思えません」
概ね私の考えとも一致す……ん? 聞き間違いか? 今、聞き捨てならない単語を聞いた気がするのだが……。
「平民の……子供、だと? そんな事が有り得るのか?」
「さぁ、どうでしょうか。我が国の者では無いそうなので、そういった人種なのやも知れませんが定かでは御座いません」
それが事実であれば、会うのが楽しみだな。人となりを見る為に揺さぶりを掛けるのも一興か。少々、からかってやるのも面白い。まさか、本当に子供などという事はあるまい。
∽∽∽∽∽
遅めの朝食の後、お茶を飲む私に家令が報告を上げる。例の攻略者がギルドマスターを伴って、王都の門を潜ったと連絡が入ったらしい。
「随分と早いな。軍馬でも、十日以上は掛かるのではなかったか?」
「替え馬を用意しての強行軍だったのではないかと」
ご苦労な事だ。益々、何かあるな……。嫌な予感しかしないが、そういう時は早めに済ませるに限る。
「今日の予定を調整してくれ。早めに謁見を済ませてしまおう。何だったら、ダンジョンの話も聞きたいので、一日空けてくれても構わない」
「ご安心下さい。既に、午前中にて謁見の予定を組んでおります。攻略者の他、探検者ギルドの関係者が二名となっております。その後の予定も午後にずらす事が可能な物ばかりですので……」
相変わらず優秀だが、休ませてはくれないか……。もう少しくらい大らかでも良いんだがな。
はてさて、それはそうと話を聞く限りジーンの婆さんも付き添うらしい。一体、何が飛び出して来るのやら――。
婆さんの後に聞き覚えのない名前が続き、扉が閉まる音が聞こえる。もうそろそろ出番だな。
「国王陛下、御出座ぁーっ!」
お決まりの流れを消化しつつ、いよいよ話を聞くのだが――。
むっ、こやつが攻略者か。確かに子供には見えるが、内包するこの魔力は何だ! 人にこれ程の魔力が練れるのか?
――いや、それよりも先程からこやつは何を言っている? これでは、まるで直訴ではないか!
しかも、こやつ自分に酔っているな。我を前にして萎縮するどころか、民の窮状を訴える自分の演技に自信が有ると見える。
そんなに愉しいか? どうせ陰に隠れて含み笑いでもしているのだろう? この際、そんな事はどうでも良い。
それより、二年……二年だと? それは、私が立太子の儀を執り行ったのと、時を同じくしてという事か? 時期的に考えて偶然だとは思えない。まさか、父の病もか? だとしたら……。
少しばかり、乱暴に腕を振っていた。俄に騒がしい貴族たちを鎮めようとしただけであったが、予想以上に効果があった。何となく、何かをしなければ爆発しそうな気持ちを抑えたかった。誤魔化そうとする意図が無意識に働いたのかも知れない。
「面白くないな……」
それでも、苛立ちのあまり声が漏れた。沸き立つ血を鎮めねば、沈着冷静でなければ王とは言えん。
気付かなかった非は認めよう。私が無能かどうかはさておき、相手方が持つ情報封鎖の手腕が優れていたのもあるだろう。だが、周到に準備された物でなければ、こうも計画が漏れなかった理由に説明が付かない。そう思うのは、先入観に捕らわれての事なのだろうか。
情報を集めなければならない。奴が……シュッツ辺境伯が関わっているのだとしたら、ただの横領事件では終わらない。予感というより、確信がある。なればこそ、時間を稼ぐ為の一手が欲しい。
ラストックの代官など、都合の良い駒の一つに過ぎないだろう。証拠隠滅に走るのは目に見えているが……そんな小者の命よりも、黒幕を仕留めねば意味が無い。機会を与えるかに見せて裏を取るのが良策か……。
この三人には悪いが、怪しまれぬ程度に難癖を付ける必要があるな。このままの流れでは、シュッツ辺境伯を叱責せねばならん。だが、それだけだ……たかだか代官の横領では、奴の元までは届かない。この件で下手に辺境伯を処罰すれば、要らぬ反乱を招く恐れがある。
「それが事実であるならば、苦境に立たされた民を救わねばなるまい。……然れど、それを我に言うのはお門違いだな」
――絶句というのは、こういう顔を言うのだな。悔しいか? そうだろうな。気持ちは察するが、中途半端は性に合わん。この期に及んで許せとは言わん。今の私に出来るのは対話だけ、せめて邪魔をさせずに、言いたい事を吐き出させてやるだけだ。
とはいえ、流石にダンジョンを攻略するだけある。小さくとも剛の者という事か……。中々に噛み付いて来よるわ。
「承服しかねるとな? ではどうする、偽善なる者よ」
我ながらよくも言う、どの口がそれを言うのか。……あぁ、私はいつしか自分に向けて言葉を選んでいたのやも知れんな。では、これは言い訳か? 直ぐに対処する事が出来ない苛立ちを平民にぶつけているだけか?
何とも情けない――。
――本当に、弱い王だな。
そう、私は弱いのだ。魔力に優れ、武力でなら誰にも負けない自信はある。だが、それも私個人での話に過ぎない。百人……千人単位までなら、何とかなりそうな感覚はある。しかし、在位期間が短く実践経験も無い私には、自国の領主を御する力もない。
戦乱の時代であれば、悩まずに済んだのであろうか。理由も無く力任せに、敵対勢力を一掃していただろうか。仮初めだったとしても、今が平和だからこそ自ら戦端を開く気にはなれない。
だが、シュッツ辺境伯は開戦派の筆頭だ。戦がしたくて仕方が無いという戦闘狂だ。謹慎? 財産の没収? それでは手緩い! やるからには一気に息の根を止めておかねば、王家は……いや、王国が手痛いしっぺ返しを受けるだろう。
戦闘狂なのが悪い訳ではない。野心を持つのも良いだろう。それらを許容出来ない程、狭量ではないつもりだ。ただ、闘いたければ強い魔物は幾らでもいるではないか。だからこそ、奴はダンジョンの在る北部辺境領を与えられたのだ。
――であるにも拘わらず、奴がしているのは何だ! ダンジョンに興味を示さず、王都に……城に詰めている。そんなに、開戦派を増やす為のロビー活動は楽しいか! 文字通り狂っているのだろう。相手が人でなければ満足出来ないのだから、だからこそ戦争を起こしたいのだから……。
尤も、ただの狂人なら話は簡単で、こうも悩む事もなかったのだ。罪の証拠を残さず、尻尾すら掴ませない狡猾さを併せ持っているから問題なのだ。数多の噂話がある中で、実際の目撃者も物証も挙がらない。
ぬるぬると捕らえ所が無く、鰻の様に逃げて行く癖に、掴もうとした手には証拠能力の無い滑りだけが残る。
――父よ、彼に辺境伯の地位を与えたのは何故ですか? 彼が貴方の友であり、隣国との国境争いに功が有ったのは知っています。ですが、彼の思想は貴方も知っていた筈だ。私以上に知っていて然るべきだ。それとも、知らなかったとでも言うのか。だから、亡くなったのだと……?
おっと、選手交替か? ラストックのギルドマスターだったな。二年もの間、手を拱ねいていた男か……相手が悪かったのだとしても、優秀だとは言えんな。ジーンの婆さんが嫌に大人しくて気味が悪いが、じっとしているのなら好きにやらせて貰おう。
「それはさておき、ラストックについては早急に調査した上で対処させる。シュッツ辺境伯、前に出よ」
この件に、貴様が何処まで関わっているのかはまだ分からない。全く関係ない可能性も零ではないが、私の勘がそれは無いと訴えている。何れにしても責任は免れないのだ、見逃す訳ではない。泳がせてやるだけだ、今に見ていろ! 反乱など起こす前に、お前の一族ごと根絶やしにしてくれる。
「クラウス・フォン・ウント・ツー・シュッツ辺境伯、汚名を濯ぐ機会を与える。領主としての責任を果たして参れ」
「有り難き幸せ、必ずやご期待に応えてみせましょう」
白々しいのはお互い様か、したり顔でほざきよる。精々、励むが良いわ!
さて、この後は昼餐で饗か。ダンジョンの話も聞かねばならん。嫌われてしまったであろうが、貴族たちを排した会場でなら本音も出せる。言い訳をするつもりはないが、多少は打ち解けるやも知れん。
――会場は、自慢の庭園にするか。多少の無茶振りなら、優秀な家令が巧く手配するだろう。
不定期更新で申し訳御座いません。
遅いんだから本編書けって話ですが、王様の「面白くないな……」発言が分からないって方が多そうな気がしたので……。
完全に事故満足ですが、良かったらこれからも読んでやって下さい。m(__)m




