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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
ダンジョン攻略篇 ~ラストック~
60/72

第五十八話 奴隷オークション!

 お久し振りです。スマホが壊れた……いや、ご臨終では無いのですが、ご高齢なので調子が悪く文字の変換だけでも、かなりの時間が掛かったりとストレスを溜めております。更新も遅れがちですが、頑張ります。つ~か、買い替えろっ! って話ですね。

 今日は、春の最終日となる九十一日目。第十三週の闇の日である。待ちに待った奴隷オークションの開催日でもあるこの日は、朝から生憎の雨模様であった。


 昨日は昨日で、色々と有ったのだがつまらない事なので多くを語る必要は無いだろう。強いて上げるなら、イヴァンジェリンが失神したの話になるが、変に気を利かせて彼女に下着を履かせようとした事が引き金となった悲劇――意識を取り戻していたイヴァンジェリンの羞恥心が暴走して魔力で強化された神速の蹴りがリュージの顔面を襲った――だとか、それに動揺――鼻血まみれで撃沈した主を見れば無理も無い――したAI同士の喧嘩がメインだろうか。昼食の後に、奴隷商会にオークションの下見に行ったり、テンの飛行訓練等も有ったのだが……まぁ、のんびりと過ごした事だけは間違い無い。






 閑話休題。


 外出の準備をしながら、どんよりとした分厚い雲を眺めていたリュージが呟く。


「今日は、一日中雨かもなぁ……」


 それに応える者がここに居ないのは分かっているが、声に出したのは少しでも憂鬱な気分を払拭する為だろうか? あまり効果的であったとは思えないが、黙っているよりは増しという心境なのだろう。


 他のメンバーというか……女性陣は、雨の中を外出という事でレインコート的な物を買いに行っている。護衛は必要無さそうだが、クゥーとテンに付いて行かせた。勿論、ヴァルターもリアの保護者として同伴しているが、主な役目は道案内だろう。


 リュージは、人を奴隷としてオークションに掛ける行為は不愉快であったが、合法なのでそれをとやかく言うつもりは無い。ただ、それに自分が関わる事や無事に目的を果たせるかを考えて沈痛な面持ちであった。少しナーバスになっている彼からしたら、どこか遠足気分でいる女性陣の行動は気に入らないのだが、それを他人に強制するのも本意では無い。結果として、無用な揉め事を回避する為に留守番する事にしたのだ。


 ウルバインは、雨に濡れてテカる筋肉にご満悦で、筋肉で雨粒を弾く事に夢中である。有る意味これも憂鬱になる原因ではあるのだが、トレーニングの邪魔をするつもりはないので、風邪さえ引かなければ良いかと放置している。工業分野も未発達なので、酸性雨の心配も無いだろうし楽しそうではあるのだが……。


 事前に調べた結果、奴隷オークションは午後一での開催だと分かっているので、昼食は早目に摂って出掛ける予定になっている。それまでには、帰って来る手筈になっているので自由にして貰って結構だが、雨の中を態々濡れてまで雨具を買いに行く感覚が理解不能である。尤も、イヴァンジェリンは魔法で周囲の雨を弾く事が出来るので、雨に濡れる心配は無用であるが……それを言ったら、そもそも雨具が必要無い。この辺りが、リュージに遠足気分だと思わせる所以である。


 そこに、舞い降りる影――


「お館様、只今戻りました。直に皆様も到着されるでしょう」


「そうか、ご苦労さん。やっぱり、雨に濡れないんだなぁ……」


「風の衣を纏えばこそですが、練習した甲斐が有りました! 空中でも気流を読む必要が無いので、実に楽ですな」


 言わずと知れたテンであるが、空から警戒に当たっていたので、皆に先駆けて帰宅したらしい。しかし、雨には微塵も濡れていない――昨日の練習では、普通に飛ぶだけでは無く魔力操作と風を操る術まで修得していたからである。


 鳥は、羽ばたきは勿論だが滑空や上昇気流に乗る事で大空を自由に飛ぶ。小型であれば羽ばたきが多く、大型だと滑空が多いなど若干の違いは見られるが、根本的なメカニズムは多分同じだろう。これに魔法の要素を取り入れる練習をしたのだが、自在に風を操る術を覚えたテンは、空を飛ぶのが楽しくて仕方が無い様である。


 その後、到着した女性陣のプチファッションショーが開催されるも適当に流したリュージは、皆で昼食を摂ってから出掛けるのだった。

 

 オークション会場は、奴隷商会の裏手に在る別の建物になるのだが、入口では屈強な男たちが入場料の徴収や武器の持ち込みを規制している。武器を含めて危険物だと判断された物は、事前に預ける事になるらしい。入場料は一般席なら一人当たり十ピニだが、特別席だと一人当たり一マアクになるそうだ。――ただし、団体用の個室も用意されており、一室当たり五マアクと少しだけお得感を演出しているが、「未成年のリアは無料でも良いのでは?」と、考えるとお得でも何でも無い。


 入場料に関して言えば、営業妨害を目的とした冷やかしを防ぐ為の措置でもある為、オークションに参加すれば半額が返金される事になるが、残りは大部分が税金になるらしい。


 安い分それなりの一般席では周囲の目も気になるので、個室の団体特別席を購入するリュージ。個人用の特別席だと、オークションを見学に来ただけのメンバーは返金されないし、子供のリアを目の届く範囲に置くという意味でも丁度良かった。個室であれば、万が一にも対処し易いだろう。


「じゃあ、これで……五マアクだよね!」


「はい、確かに! それでは、係の者がお席までご案内致しますので、あちらでお待ち下さいませ」


「うん、ありがとう」


 入場料の支払いを済ませたリュージたちは待合室に通されるが、大して待たされる事も無く案内係が現れる。思いの外早い到着に暇なのかと疑いたくなる程で、接客に関してのスピード感は現代日本を生きてきたリュージも感心するレベルである。


「お待たせ致しました。お部屋までご案内致します」


「随分と早いね? ちっとも待ってないよ」


「ありがとうございます。会場は地下になりますので、お足元にお気を付け下さいませ。少々、薄暗い場所も有りますから!」


「了解、宜しく頼むよ」


 奴隷商会などというと、粗野で暗いアンダーグラウンドなイメージが有るが、少なくともこの店に関して言えば従業員の教育も行き届いており、不安感は抱かない。会場が地下なのは、奴隷が飛び降りたり出来ない様にする為らしい。逃げた奴隷は、高い場所に出ると無謀な飛び降りや自棄を起こしての自殺を図る事があるそうだ。この辺りの事は、オークションという形態を取る以上は様々な出品者が居る為、店側では予防措置を徹底する以外はどうにもならない様である。


「こちらがお客様方のお部屋になります。あちらで壇上の奴隷を見て入札するのですが、入札方法はご存知ですか?」


「いや、初めてだから教えて欲しい」


 部屋に案内されたリュージは、説明が必要かを確認する案内係に、チップとして一マアク銀貨を握らせると説明の続きを促した。現代日本であれば、サービスは料金に含まれると考えるのだろうが、日本にだって昔から心付けという風習が在った事を考えると、何も奇怪おかしい事は無い。ただ、海外では普通だという知識があったので、丁寧な接客を心掛ける者にはお礼として渡す事にしているのだろう。尤も、相場を知らない為に多くても十ピニ銀貨で十分な所を十倍の額を渡しているのだが、初めて海外旅行をする日本人観光客に有りがちな事なので、これもお約束といえるかもしれない。


「畏まりました。こちらのお部屋は九番になるのですが、入札の際にはこちらの札を挙げながら金額を言って頂ければ結構です。個室のお客様が落札した場合は、担当者がこちらまで商品を連れて参りますので、そのままお待ち頂くか引き続き入札を続行して頂いて構いません」


「入札金額に下限は在るのかな?」


「はい、特に商会で定めた訳では無いのですが、最低でも一マアク刻みというのが暗黙の了解となっています」


「あぁ、言い辛いからかな?」


「……そうですね。それも有るとは思いますが、ここだけの話……徴税官様が裏で手を回しているとの噂です」


「……成る程、気を付けるよ。ありがとう」


 チップを渡した甲斐も有ってか、丁寧に説明してくれただけでは無く、噂話まで教えてくれる案内係……実に良い情報である。商会では決めていないのに、いつの間にかそういう流れになっていて、裏には徴税官が居る。つまりは、そういう事であろう。リュージは、何が行われているのかを察して、笑顔と共に感謝の言葉を述べるのだった。


 その後、お茶を用意してから案内係が出て行くと、開催の挨拶だろうか? 会場が些か騒がしくなった。


「皆様、大変長らくお待たせ致しました。これより、闇の日恒例! 奴隷オークションを開催致します!」


「待ってましたぁぁぁー!!」


「良い娘は居るかーー!?」


「安くしろぉぉーーー!」


「お静かに! この度もご満足頂ける商品が集まって居ります。安くなるかは、お客様方次第ですが……」


 挨拶と共に一般席から掛け声が飛び交い、司会が答えると笑いが起こるのだが、何が面白いのかは理解不能である。娯楽の少ない環境なので、この程度の遣り取りでも満足出来るのかもしれないが、リュージには意味不明としか言い様の無い光景が繰り広げられていた。


「……何が面白いんですかね?」


「安くしろー! のくだりじゃない?」


「……雰囲気に流されてるだけ」


 念の為確認してみるが、イヴァンジェリンも自信無さそうにするのみで確証は得られず、コリーンはバッサリと斬って捨てる。少なくとも、自分だけが付いて行けない訳では無いと分かり安心するリュージであった。


「先ず以てこちらから……先日、脱税により身柄を拘束されました浮浪者たちになりますが、犯罪奴隷としての出品です。出品者は言わずと知れた徴税官様! それでは一人ずつ参りましょう――」


「いよいよだな……ヴァルター、知り合いは居るか? 後は、幼い子供の親族が居るなら教えろ!」


「はっ! それでは……」


 一人目が連れられて来るのを見ながら、ヴァルターに声を掛けるリュージ。どうやら、高く売れそうな者ほど後に回されるらしく、序盤は高齢者が多い様である。


 奴隷としては、若い者と比べて働けないからこその安値だが、知識としてはどうだろうか? 高齢で引退していても、何らかの職に就いていた者たちである。腕は鈍っているかもしれないが、上手く使えば大きな財産になり得る可能性を秘めているだろう。


 年齢ばかりを気にして、誰も興味を示さない高齢者を最安値で次々と落札してゆくリュージ。勿論、何でもかんでも入札している訳では無い。司会の男やヴァルターの話に耳を傾けて有用そうな者に限っている。売れ残りは鉱山送りになるそうだが、幼い子供の親族が居るのであれば、後からでも何とかなるだろう。


「それでは、次へと参りましょう。名前はロージー、五歳の女の子で御座います! 滞っていた税の不足分として徴収された、可哀想な子なんです……」


 これまでは前座として、扱いの低い犯罪奴隷なので、順調に落札する事が出来ていた。しかし、これからがメインであるとばかりに会場が盛り上がりを見せる。登場したのは、幼い女の子……リアとは違い一般奴隷扱いなのは、親が承諾したという事だろうか? 何れにしても、頻繁に落札――それも、高齢者ばかり――して変に目立ち始めているので、これまで通りとはいかなくなりそうである。


 その時――


「あっ、ローちゃんがいるのー!? ローちゃーーん!」


「……リアちゃん? ぐすっ……リア、ちゃんどこー? リアちゃ、ん……」


「おやおや、お友だちが来ている様ですね。泣いてはいけませんよ? それでは、開始価格は五マアクからになります!」


 友人の一人を見付けたリアが、大きな声で呼び掛ける。不安で押し潰されそうなところに、知り合いの声を聞いて緊張のたがが緩んだのだろう……ロージーは、声の主を探しながら涙声を漏らす。リアと同年代だと考えれば、それも無理は無いだろう。寧ろ、大泣きしてもおかしくは無いのだ、司会の男は本格的に泣き始める前に済ませてしまおうと、開始価格を告げてスタートする。


「……」


「リュージ……入札しないの?」


「ぐんしょーどん……ローちゃん助けてくれる?」


「大丈夫、心配するな! ギリギリで入札しようと思う……」


 リュージは、暫く静観するつもりでいた。焦って入札しても価格が吊り上がるだけだからなのだが、イヴァンジェリンに質問され……リアには心配されてしまう。


「宜しいですか? 八マアク……八マアクです。それでは――」


「九マアク!」


「おっと! ギリギリですが宜しいで――」


「十マアクだ!!」


 いよいよ落札というところで動いた。それで終わる筈であった。――だが、そうはさせじと更に入札する者が現れる。落札寸前だった男であれば納得出来るのだが、今まで入札の素振りすらしなかった奴だから質が悪い。こちらをチラチラと確認しながらなのを見れば、奴が所謂“さくら”という奴であり……リュージたちをターゲット或いはかもとして、ロックオンしている事は明らかであった。


 案内係の漏らした噂で予想済みではあったが、流石にここまであからさまだとは考えていなかった。そこでリュージは、何処まで吊り上がるのか試すと共に賭けに出る。


「二十マアク!」


「……二十一マアク?」


「五十!」


「……」


 会場は、騒然となった。五十マアクといえば、例えば戦闘技能を持った奴隷であったり……それこそ、容姿の優れた女性の相場に近い。本来の相場を大幅に超えたのだから、こうなる事は当然である。――だが、ここまで一気に上げるとそうそう手が出ないらしい。相手の資金力が分からないからか……そこまでの権限が無いのか……。


「こほん、え~、五十マアクで落札しますが宜しいですか? 宜しいですね? もう、駄目ですよ? ……それでは、またまた九番のお客様が落札されました!」


 無事……と言えるのかは不明だが、ロージーを落札する事は出来た。しかし、相手はこちらの資金力が潤沢だと判断しただろう。恐らくは、更なる吊り上げ工作を仕掛けて来るので、欲張ると録な目に合わないんだという事を実地で教えてやる必要があると、リュージは考えていた。


 ――そこに、扉をノックする音が聞こえて来る。


「失礼致します。落札された奴隷の手続きですが、如何致しますか? 人数が多い様ですが、こちらにお連れしても?」


「いや、最後まで見て行くから後にしてくれ。予定では、まだ落札するつもりだが……手付けでも渡して置いた方が安心かな?」


「いいえ、結構で御座います。それでは、終了間際に纏めてお連れ致します」


 一同揃って何事かと考えたが、商会の従業員が手続きのタイミングを確認に来たらしい。本来なら、そのまま手続きだったのだろうが、人数が多いので事前確認に来たのだろう。説明は受けていたが、揃いも揃って忘れていたのだから、どれだけ夢中になっているのかという話である。リュージは、人数が多いからこそ手付け金を渡した方が良いのではと考えたが、無くても大丈夫らしい。信用があるとは思えないが……領収証の用意が無かっただけではと勘繰るのは、リュージの悪い癖かもしれない。


「チーちゃーーん! ここだよーー!」


 そうこうしている間に、チェルシーというリアの友だちのオークションが始まっている様だ。壇上を見つめて、いつ知り合いが出て来ても良い様に、頑張っていたリアが叫ぶ。


 故意に価格を吊り上げる者が居る会場で、弱みを晒すのは褒められた事では無いが、リュージは何も言わないばかりか、止めようとしたヴァルターにも好きにさせる様に促した。四歳の子でも説明すれば分かる子もいるだろうし、リアも聞き分けるだろう。しかし、感情が付いて来るとは限らない。


 もしかしたら、過保護かもしれない。それでも、子供にはのびのびと育って欲しいという考えはリュージの我儘だろうか? 理不尽な事や些末な事でしょっちゅう叱って、引っ込み思案な子にはしたく無かった。幼い子供であるリアが友だちに声を掛けるのは、決して悪い事では無いのだから。結婚すらせず、子供を育てた経験も無いリュージだが……子供好きゆえに、他人の子相手でもいやに熱心に考えるのだった。――本人曰く、ロリコンでは無いらしい。


「ごっ、五十マアクで買うぞ!」


 いきなり、何が起こったのか? ……話は簡単である。先程のロージーと同様、高額でもこちらが入札して来ると踏んだ“さくら”が開始早々にっ込んで来たのである。最初から、ロージーの落札価格と同額にしてきたのは、リアの存在が相手に安心感を与えたのかもしれない。早々に決着を付けようと高額にしたので、こちらの懐具合を多目に見積もっているだろう事も原因の一端を担っているのは間違い無い。


「来たか! それにしても、思い切ったな」


「すみません、完全に狙って来てますね……」


「ん? んー、まぁな……派手に落札したから目立ったってのも有るしな。恐らく、毎回あんな事をやって小金を稼いでるんだろうが、面白くはないなぁ。……さぁて、どうするかな~」

 

「え~と、どういう事?」


「要するに、あいつらは欲しい訳でも無いのに入札して、価格を吊り上げてるんですよ。何がなんでも買いたいって入れ込んでる奴を見付けて、懐具合なんかも予想さえ出来れば、見ての通り実行自体は簡単な事ですからね! 勿論、落札してしまうリスクも生じますが、その時は……そうか! 負債は奴隷に押し付ける可能性も有るのか……」

 

 先程までは、逆に嵌めてやろうと考えていたリュージだったが、よくよく考えてみればその負債は、商品となる奴隷が背負う事になる。雇い主は、恐らく徴税官なので損害を与える事に躊躇いは無いが、その資金が税金なのも問題である。落札してしまった奴隷を、どう処分するのかは知らないが、奴隷にとって高くなる事にメリットは無い。自分を買い戻す期間が長くなり、難しくなるのだから……。


「それって、どうにもならないの?」


「……イヴが出動、氷付け?」


「私? 良いけど、死んじゃうわよ?」


「いえ、師匠……それは流石に……。でも、目立たなければ……」


 イヴァンジェリンとコリーンの遣り取りを聞いて、止めはしたものの思考を巡らせ始めるリュージ。折角のボケも、ツッコミが居ないので漫才としては成立せず、非常に勿体無い。尤も、異世界の人間に大阪人的なノリを要求しても、気質の問題もあるだろうし、そもそもの素養が無いので無理だろう。思索にふけるリュージもお笑いは好きだが、生憎と咄嗟に反応出来るほど達者では無かった。


「……取り敢えず、あの娘は落札しないとな……五十一マアク!」


「……五十、二!」


 入札までに時間が掛かった事と、一マアクで刻んだ事で不安を煽ったらしく、入札に迷いを見せる“さくら”の男。今まで観察して、三人が持ち回りで邪魔をしている事が分かっていた。


「よし、確信が持てなくなったかな? ヴァルター、少しの間だけ代わってくれ。時間を掛けて、一マアクで刻んでやれば良いからな!」


「あの……どちらに?」


「ん? 邪魔なさくらを消して来る!」


「桜……ですか?」


 困惑顔のヴァルターが疑問を呈すると、簡単そうに目的を告げるリュージ。だが、“さくら”という概念が無いのか上手く伝わっていない様だ。――いや、詐欺師の類いは存在するが言葉通りに直訳されてしまったのだろう。彼が樹木の桜を思い浮かべていた頃には、既にリュージの姿は目の前から消えており、景色に溶け込む様に消えてゆくのを、じっと見ていたイヴァンジェリンやコリーンも、不思議そうな顔をする事しか出来ないのだった。

 変化も無いので、ステータスは無しです。

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