第五十四話 ダンジョンアタック!(八)
長らくお待たせ致しました。
お待たせした分、増量しております。
深く被ったフードの奥から、赤い眼光が覗く。充血した眼球も相まって、魔力を宿した瞳が紅く発光する。狂気を孕んだ視線に射抜かれ、空気が重く纏わり付く様な感覚に肌が粟立つ。
「クァカカカ……魔素ダ! 膨大ナル魔素ノ気配……コレデ役目ガ終ワル!」
どうやら、リュージが内包する魔素を感じて出て来ただけで、気付いてはいないらしい。
(見えてねぇーのかよ! 全く……紛らわしい目付きしやがって……)
『御主人、びびってるのかニャン?』
(どうかな? 警戒はしてるけどな)
『大丈夫そうですニャ。身体の方は敏感に反応している様ですが、縮こまってはいませんニャ~』
見られていると思って警戒していたが、とんだ肩透かしを喰らって恥ずかしくなり、クゥーとの掛け合いの際も苦笑いを浮かべるに留めた。この機にとばかりに鑑定を行ったのは、照れ隠しかもしれない。
《十三番目の死人ニコラ・ヴーエ》
曾てベルゼビュート王国の高位宮廷魔術師の一人だった者。王命により、死者蘇生を執り行うも失敗――その際に、国中から集めた多くの魔法使い達と同様に生命力ごと魔力を喰われて死亡した。後に魔王と呼ばれる災厄とでもいうべき存在により、死ぬまでの記憶を有したままダンジョンの魔核としての力を授けられる。復活では無く、誕生が相応しいだろうが死人という呪われた存在を祝福する者は皆無である。自らを喰らった者を主と仰ぎ仕える事に嫌悪感は有るが、強制力が働き逆らう事は不可能。
(魔核としての力って事は、本体はあっちなんだろうな……やっぱり壊さないと駄目なのかね?)
『魔素を集める機能が厄介ですニャ。内側から、魔素ポイントを奪われる恐れが有るので、今のままではアイテムBOXには入れられませんのニャン』
(そうか……駄目元で調べてみてくれないか? 何か解れば儲け物だしな)
『了解ですニャン! 御主人は、あいつの注意を引いて貰えますかニャ?』
(それは勿論だが――)
脳内でそう言うや否や、目の前の魔法使いに音も無く近付きアイテムBOXから取り出した二振りの剣により、二閃――右手のツヴァイヘンダーによる唐竹割りと左手のバスタードソードによる左薙ぎで、襤褸布を纏った魔法使いは四つに斬り分けられて、無残な姿をその場に晒していた。
(……先手必勝ってなもんだ!)
『ダンジョンのラスボスを瞬殺ですかニャ? 何とも哀れな結果ですニャン。それじゃあ、調べて来ますニャ~』
リュージから飛び出したクゥーは、魔核に向かって走ってゆく……。かなりの熱を蓄えた地面を難なく駆けるが、プニプニと柔らかい肉球は焼けてしまわないのだろうか。
(おぉ~! この上を走るか……意外にタフだなぁ)
それは、慢心だったのかもしれない。
――クゥーを見送りながら、リュージも歩を進める。万が一にも、魔核から敵が湧いて出ても対処出来る様に、注意深く観察しながら……。
油断しているつもりは無かった。だが――
クゥーが、目の前から消えた。いや、魔核に吸収されたのだ! 粘度が高くあまり動かないとはいえ、マグマの上に鎮座している魔核を手っ取り早く調べるには、魔核を足場にするのがベストだと踏んだのだろう。助走を付けて華麗に跳躍した時も、これといった異常は見られなかった。――それが起きたのは、天辺に飛び乗ったのと同時だった。
まるで、ゲームで転移トラップに掛かったのを端から見ていた様な一瞬の出来事……。考えてみれば、クゥーの身体は魔素ポイントで作られたのだ。遥かに吸収は容易だった事だろう。無事に着地を決めて、振り向く姿を想像していた。燥ぎながら手を振るクゥーが、目に浮かぶ様だった……なのに……。
慌てて近付こうとした時、背後から強烈な殺気が降り注いだ。未だに光学迷彩を解いていないにも関わらず、寸分の狂いも無くリュージを狙った灼熱の焔が飛来する。
リュージの身体の半分以上を優に呑み込むだろう焔の玉は、直径にして一メートルは超えるだろうか。重力下ではお目に掛かれない球状の焔は、渦を巻く様に流動しながら青く輝き完全燃焼している事を誇示している。
躱す事も考えた―――しかし、選択したのは斬り散らす事。咄嗟に繰り出したのは真下からの斬り上げ……柳生新陰流であれば逆風の太刀に近い一撃。本来は正眼から誘う様に刀を振り、斬り掛かって来た相手の手首などを返す刀で斬り上げる技だが、リュージは知る由も無い。ただ、消し飛べとばかりに焔の中心を真下から斬り上げたのだ。魔力を伴った剣閃は、呆気ない程簡単に両断する。
分かたれた焔が、リュージの髪や肌を炙りながら両脇を抜けて霧散すると、眼前には先程斬った筈の魔法使いが、激情を抑える様に佇む姿があった。
「貴様カ! 私ヲ斬ッタノハ」
「そうだけど、それが何か?」
「クァカカカ……強気ダナ、コソコソト隠レナケレバ攻撃出来ナイ矮小ナル者ヨ……先程、カナリノ魔素ヲ吸収スル事ガ出来タガ、貴様ノ血縁者デモ犠牲ニナッタカ? 波長ガ近イノダロウナ。今ノ貴様ハ丸見エダ!」
「魔物の癖に挑発か? ご苦労なこって……安全第一をスローガンに掲げる団体でも働いていたからな。勝てば官軍って言葉知ってるか? 悪いが、ゆっくりとお前の相手をしている暇は無い!」
再び剣閃を放つリュージ――理屈は分からないが、今度は復活出来ない様に細切れにするつもりで剣を振るう。怒濤の連撃の後には、バラバラの魔法使いの残骸……だが、黒い霧状になったかと思えば僅かな時間で元に戻るではないか。アンデッドとはいえ、骸骨闘士もバラバラにすれば存在を維持する事が出来なかったのに……やはり、格が違うのだろう。
「無駄ダ! 私ノ存在ハ、ダンジョンノ魔核トイウ形デ固定サレテイル……魔核ノ破壊以外デ私ヲ倒ス方法ハ無イダロウ。ダガ、私ガソレヲ許サナイ!」
「分かってたけど、自分からバラすとか……随分と余裕だな? いや、自殺志願者か?」
「ククク、クァカカカカ……ドチラデモ良イノダ……解放サレルノナラバ! シカシ……貴様一人デハ無理ダロウ? 貴様ガ如何ニ強クテモ、貴様ガ何レ程ノ人外デ在ロウトモ……決シテ魔核ニハ近付ケヌシ、手出シハサセン!」
会話をしながら、ニコラ・ヴーエは先程の焔の玉を作り出す。無詠唱により、リュージの周りに二つ、四つ、八つ……僅かに小さくなったとはいえ、逃げ道を塞ぐ様に取り囲む焔の玉は、二百五十六にまで数を増やした。四面楚歌という言葉が脳裏を過るが、空中にすら逃げ場が無いのだから尚以て悪い状況だろう。
――だが、リュージは焦らない。焦る時間も惜しいと思考を巡らせ、魔力を解放する。
解き放たれる魔力の奔流。無限の魔力が質量を伴った波となり、周囲の全てを押し流す。
リュージは、静かに激怒していた――自分自身の浅慮に……いざという時に何も出来なかった己の不甲斐なさに……。今は悔いる時では無いのだと、沸々と沸き上がる憤怒を抑えるのでは無く、方向を変えて爆発させる。
「素晴ラシイ! ダガ魔力ダケデハ足リヌ……マダ足リヌノダ! モットダ! 貴様ノ魔素ゴト……全テヲ寄越セェェェェ!」
「暇が無いって、言ってるだろうが!」
魔核はまだ壊せない。可能性がゼロでは無いから……取り込まれたクゥーを助け出せると信じて! その為には、目の前の敵を圧倒しなければならない。不死だろうが不滅だろうが、退けなければ魔核を調べる事も儘ならないのだから。
怒りの矛先をニコラ・ヴーエに向けて、頭を冷やす……冷静に解決策を検討する。バラバラにしても駄目、燃え散らしても駄目だろう。消滅させたと思っても、霧状になって復活するのだから……ならば――。
(固定してみるか……凍結させれば霧にもなれまい! 無限の魔力をこれでもかってくらい注ぎ込んで、この空間ごと封印してやろう)
リュージの身体は、言うなれば魔力の源泉。滾滾と湧き出る魔力が波紋の様に拡がり、具現化したイメージが周囲の気温を急激に低下させる。
「(一文字すら合ってないけど、イメージだけはバッチリなんだよな……)瞬封逮凍!」
――リュージが魔法名を唱えると、突如として強烈な冷気が迸る。
魔核に管理された上でサウナ以上の熱が籠った空間が、イメージを固める準備段階だけで冬の寒空を偲ばせる気温に変化していた。――だがしかし、名を唱えてからはどうだ……桁違いではないか! 溢れる魔力が触れた物ごと凍結させてゆく。地面を伝いマグマが凍る。ダイヤモンドダストが舞い踊り、空気すらも凍ったかの様だ。
世界が静寂に包まれ――音どころか時すらも停止したかと錯覚させる。
【春風駘蕩】本来の意味は、春風がそよそよと快く吹く様とか、人柄の温和な様の事を言うのだが、リュージはいつもの如く漢字を変更して都合の良い意味を持たせる。漢字にはそれぞれ異なる意味が在るので、それだけでもイメージが掴み易い。今回、全取っ替えした漢字を見れば解るが……瞬く間にとじて、つかまえる様に凍らせる。イメージ的には、永久凍土であろうか。全てが氷で閉ざされた世界を思い描き、寸分違わず作り出すのは至難の業だ超電脳補正だろう。
「恨めしそうだな。魔法も使えないだろ? 俺の魔力は無限らしいからな!」
「……」
踏ん張って飛ばされない様に抵抗したらしいが、その姿勢のまま凍結しているニコラ・ヴーエに話し掛けるリュージ。勿論、凍結状態で発声出来る訳も無く、返答は無い。恐らくは魔法を使って脱出を図っているだろうが、無駄な努力である。魔法は、込めた魔力量で強さが決まると教わっており、今現在も無限に送り続けているのだから……。
今の内に魔核の調査をしようと、オブジェと化した敵に背を向け一目散に駆け出すリュージ――その表情には、内心を表す様に複雑な色が浮かんでいた。
「クゥー、戻っておいで……」
『クァカカカ……如何ニ私ノ肉体ヲ封ジヨウトモ、吸収サレテシマッタ者ハ戻ラナイ。貴様モコノママ取リ込ンデクレル!』
魔核を前にして、祈る思いでクゥーを探す。心眼スキルにより、僅かでも痕跡は無いかと……リュージが、意を決して魔核に触れた瞬間――望まぬ声……というか、思念が水を差す。
反射的に手を離そうとしたのだが、既に貼り付いた様に離れない。で、あれば魔力を通してみようと試みる。餌を与えるだけかもしれないが、只でくれてやるつもりは無いらしく、コンピューターウイルスをイメージした魔力を送り込む。命令は勿論、ニコラ・ヴーエの消滅とクゥーの捜索及び帰還の手助けである。
『……何ダ? 貴様! 何ヲシタ?』
「なに、望み通り解放してやろうかと思ってな? お前が消滅するイメージで、魔力を流してるだけさ」
『巫山戯ルナ! コレハ解放デハ無イ! 私ノ望ミハ、コレデハ無イ……虚無ハ嫌ダ! 輪廻ニ戻ル権利スラ消シ去ルトイウノカ! ヤァアァァーメェエーロォオォォ……』
「五月蝿いな……恨むなら魔王とやらにするんだな! もしくは、死者蘇生を命じた国王か?」
この時、リュージがイメージしたのは“無”である。壮大なストーリーのRPGゲーム等の影響か……ニコラ・ヴーエにとって、かなりエグい事になっているらしいが関係無かった。クゥーの安否は心配だが、超電脳補正が掛かった自分の想像力を信じて疑わない――吹っ切れたとも言う――事にした様だ。
淡々と流れ作業をするかの様に、延々と魔力を流し込み続けるリュージを、邪魔するのはニコラ・ヴーエの思念のみ。脳に直接叩き込まれる余裕の無い絶叫は、この上無く不快だが……貼り付いた手は魔核から離れず、耳を塞ぐ事も儘ならない。勿論、意味の無い行為なのは理解しているが、気休めだったとしてもそうしたくなる様な怨嗟の思念が、脳細胞を破壊せんと実体の無い圧力を伴って轟く。
それは、思念波とでも言うべき攻撃。ニコラ・ヴーエに残された唯一無二の抵抗は、思わぬ効果を齎した。何が功を奏するのか分からない事は多いが、ここ一番でこの力は奴にとっては価千金。
どちらが、先に力尽きるか……リュージにとって予想外のデッドヒート。互いに負けられない根競べ……極端に特殊なルールを採用されたチキンゲームから、退っ引きならない事態へと突入してゆく。
そんな状況の最中――
『消エルノハ貴様ダ! 私ハ残リ、解放ノ時ヲ待ツノダァァ! 死ネェェェェ! 死ンデ消エテシマエー! 私ノ邪魔ヲス――』
『お前が邪魔だニャー! フッー! フシャァァァァ!』
クゥーの登場によって勝利の天秤が傾く。二対一となった戦力……内と外からの挟撃。思念波が途切れ、ニコラ・ヴーエの消滅が加速してゆく――。
『嫌ダ! 嫌ダ! 嫌ダァァ! 消エタク無イィィィ……助ケテ……助ケテェェ! 慈悲ヲ……神ヨォォォォォォ…………』
『やれやれ……やっと静かになりましたのニャン』
魔核内部で何が起こっているのかは、リュージからは見る事が出来ない。だが、鬩ぎ合う両者の均衡を一気に傾けたのがクゥーであり、嵐を吹いて登場したからには攻撃もしていたのだろう。やがて命乞いとも取れる断末魔が響く――それは、神へ救いを求める祈りだったかもしれない。でもリュージには、応える事の無い神への糾弾に聞こえたのだった。
「……無事、か? 大丈夫なのか?」
『全然大丈夫ですニャ! 最初は吃驚しましたが、内部から侵食して乗っ取るつもりでしたのニャー。予想以上に手強くて一寸だけ押され気味でしたが、馴染むまでの時間は仕方が無いのですニャン。御主人の魔力が届かなければ、一年くらい掛かったかもしれないので、結果オーライですニャ。お陰様で助かりましたのニャン!』
心配しながら、魔核に声を掛けるリュージにあっけらかんと応えるクゥー。内部でしか分からない苦労は有ったのだろうが、それを感じさせない雰囲気に脱力すると、漸く訪れた安堵に胸を撫で下ろしながら溜め息を一つ。万感の思いが込められた、本当に重い一息であった。
「……無事で何より。こっちこそ助かったよ……ありがとう」
『ニャー、照れますのニャ。御主人からの感謝は格別ですが、御主人の為のクゥーですから気にしないで下さいニャン』
クゥーのマイペースさはいつも通りとも言えるが、心なしか燥いでいる印象も受ける。だが、一向に出て来る気配が無いのはおかしかった。
「そうか……ところで、何で出て来ないんだ?」
『ニコラ・ヴーエの消滅は確認しましたが、魔核の掌握にはもう少し掛かりそうですニャ。意思が浸透して変質した魔素を無害化しますのニャン!』
「爆弾処理みたいな事か?」
『スター○ォーズに例えるなら、フォースのバランスをダークサイドからライトサイドに傾ける作業ですかニャ? まぁ、薬品の中和でも良いですニャン』
……まぁ、そういう事らしい。その喩えが的確かどうかは置いておくが、魔核の暴走を防ぐ為にもコントロールする者は必要だろう。制御を失った大きな力ほど厄介な物は無いのだから。
「ここまで来て、ダンジョンごと吹っ飛ぶとかは願い下げだしな……」
『可能性は有りましたが、御主人の魔力で支配されて沈静化してますニャ。マグマも冷えて固まってますから噴火の心配は要らないですニャン。ただ、蓄えられた魔素を糧にして、魔物の無限増殖が発生する危険が有りますニャー』
「そうなったら、ラストックは滅びるな」
『国が滅ぶ事態だと思いますニャン』
「そこまでか……そうだよな……」
『――ですが、制御はバッチリなので安心ですニャン! それよりも、宝石を探してみませんかニャ?』
万が一の危機が回避されていた事に、再びの安堵を覚えていると、クゥーから脈絡も無しに提案が為され、リュージは足下の岩盤に目を落とす。
今は、固まって分厚い岩盤になっているが、冷える際にペグマタイトが形成されていれば、トパーズ、アクアマリン、トルマリン、モルガナイト、タンザナイト辺りだろうか。結晶化していればサファイア、ルビー、ガーネット、ジルコン、ムーンストーン辺りの宝石が取れる可能性は有る。ただ、この世界には月が無いのでムーンストーンという名前は使われて無いのだろう。
リュージは、如意宝授の魔法を掛けた鮑玉を取り出してダウジングをしてみる。……確かに反応は有るのだが、分からない事が多過ぎる。深さも分からず、価値も不明では労力に見合わないかもしれない。錬金術を駆使すれば、苦も無く採取可能だが……それこそ錬金術で作った方が高純度の物が出来る。有名な物であれば大まかにでも、組成のデータが在るはずだからだ。
「宝石は有りそうだが、いきなり言い出した理由が分からないな……何かあるのか?」
『ギルドに報告するには、ダミーでも魔核が必要ですニャン!』
「……ダミー?」
『そうですニャ。魔石を錬金術で合成して圧縮した御主人の魔力を付与すれば、それっぽくなると思いますニャン。それに、本物の魔核が在るので体裁を取り繕うくらいの小細工は可能ですニャ! ですが、魔石を消費するので報酬額も減るかもしれないのですニャ!』
「成る程……まぁ、予定より早いから急ぐ理由も無いしな……もう一泊してゆっくり帰るか」
それからリュージは、品質はFランクと最低だが無駄に数だけは有る骨蝙蝠と大食い鼠の魔石を取り出して、恐る恐る合成してみた。初めに、二つだけで試してみたのは言うまでも無いが、魔石には不思議な実態が有る事が判明する。
錬金術で合成すると、品質も質量もそのままで二つ分の大きさになるのに対して、魔石同士を普通に近付けると一方に吸収される形で一つになってしまうのだ。その際の大きさは元々の一つ分であるが、品質と質量が僅かに上がっている。――勿論、最下級の魔石を吸収したところで誤差の範囲程度にしか上がらないのだが。少なくとも、リュージは一つに纏められるとは知らなかった。
一般的な探険者なら、袋に仕舞うなどして早い段階で自然に気付くのだが、リュージはアイテムBOXを持っているが故に気付かなかったのである。
――尤も、今は品質よりも大きさが必要なので、錬金術で合成するのだがダンジョンの魔核と同サイズにするには少し足りない。他の魔石を合成しようかとも考えたが、ダミーだから別に構わないのだという結論に至り、このまま魔力を込める事にした。
リュージの魔力を吸収してゆく魔石は、限界だと言わんばかりに赤い光を放つが、これでは巨大千足の魔石にも品質で劣ってしまう。クゥーは、何と言っていたか……圧縮した魔力だと言わなかったか? リュージは、更なる魔力を込め始めるが、圧縮するイメージも忘れずに付け加える事にした。魔石の放つ光が赤から緋、そして朱へと明るさを増してゆく中で、魔石自体の色も濁りの無い鮮やかな物へと変化する。
やがて、――ピシッという不吉な音と共に、真っ二つに魔石が割れた。
「あっ!」
何とも、気まずい空気を漂わせるリュージ。元々が最下級の寄せ集めであり、許容量が一杯の所に無理矢理に圧縮された魔力を注ぎ込まれた結果だろうか。どうやら、手順をミスったせいで許容力すら超えたので割れた……という事の様だ。しかし、救いの手は差しのべられる物らしい、魔核に手を置き反省のポーズをしていると、クゥーの思念が問題無い事を教えてくれる。元々がダミーを作っている訳なので、何れにしても割るのだと……。
クゥーの指示で、割れた魔石の欠片を合わせて一つに組み立てた物を、魔核に添わせる様に置くと小細工が始まったのだろう。魔核から割れた魔石へと、魔素が流れ込むのがリュージにも感じられた。全体量からすれば些細な量だが、ダミーには十分であるらしい。
鑑定結果についても――
《破壊されたダンジョンの魔核“ダミー”》
品質:― 価値:―
地脈から魔素を吸収して成長するダンジョンの中枢が破壊された物。蓄えた魔素により魔物を生み出し、ダンジョンを拡げ、階層を増やしていたが、その機能は僅かな魔素を残して失われた。“魔素による偽装処理済み”
――となっているが、見えてはいけない肝心な情報には隠蔽が施されており、許可された者にしか見えないらしいのでダミーだとはバレないと、クゥーは絶対の自信を持って太鼓判を押していた。
魔法を解いて、氷に閉ざされた空間を通常に戻すと、ニコラ・ヴーエの肉体だった物はバラバラに崩れ去り、霧の様にして魔素へと還元されていった……元々の身体は疾うに滅びており、死人になった時には魔素で構成された肉体を与えられたのだろう。決して同じでは無いが、クゥーに近い存在だったのかもしれない。
それからは、宝石の採掘作業なので詳細は省くが、リュージの魔力を岩盤に浸透させた上で、錬金術を駆使した高効率な回収を強引に行った。しかし、魔力を浸透させたせいなのか……やたらと純度の高い原石ばかりで、おいそれとは売れないというのは誤算である。笑えない落ちではあるが、結果的には笑い話になるだろう。
もう一泊したリュージは、帰宅の準備をして忘れ物が無いかをチェックすると、錬金術の大盤振る舞いを始めた。寝る前に考えたが、脱出するにも階段が無い……リュージの素早さを以てすれば、忍歩スキルで壁を走る事も可能なのだが、ダンジョンの攻略を達成したとなれば、ギルドでも確認くらいはするだろう。報酬は、恐らく確認後になるだろう事は容易に想像が付くが、いつまでも待たされるのは面白く無いのだ。
壁になっている岩盤を変型させて、階段を作り上げる。足場となる出っ張りを突き出させただけの簡易的な物ではあるが、すぐに壊れるほど柔でも無い。劣化により壊れるとしても、数年から数十年という単位での話になるくらいの代物である。
壁際を螺旋状に続く階段が、ドームになっている天井の高さに到達すると、天井に新たな穴を空けて入口となる縦穴までの通路を作った。後は、同じ様に壁に螺旋階段を作って各階層を脱出してゆく。
魔物も行きと比べれば大した数では無かったが、リュージは見付けた端から駆除していた。新に生み出す魔核が無い以上は、生き残りが居たとしても駆逐されるのは時間の問題だろう。
余談ではあるが、道中にレベルがMAXになったスキルが有る。錬金、発見、鑑定、斧の四つであり、無事に進化も果した。錬金は錬金術になり、斧は斧術となったが、注目するべきは統合により進化したスキルだろう。発見と鑑定がMAXになった事で条件を満たしたらしい、鷹の目、夜目、発見、鑑定の四つが統合されて浄天眼になったのだが、心眼は含まれなかったので他にも何かが有るのだろう。
階段を作りながらの移動に、思いの外時間を費やしたリュージは、目の前に見える日の光に目を細め、やっと出口かと大きく伸びをする。
「やれやれ、漸く着いたか。確か、オークションは明後日だったよな……明日は一日中のんびりするかなぁ~」
リュージは、新鮮な空気の匂いを感じながら、出口に向かって歩き出す。春の八十九日目。第十三週の土の日の午後にして、潜ってから僅か三日目での事であった。
最後の方が駆け足気味でしたかね?
現在のステータスです。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 23
生命力 3100/3100
魔力 ∞
力 2457 570↑
体力 2279 555↑
知力 6694 595↑
素早さ 3548 565↑
器用さ 2056 615↑
運 1982 720↑
魔素ポイント 99968448
所持金 62521マアク25ピニ
《スキル》
[超電脳Lv2] 1↑ [魔導の心得Lv4]1↑
[心眼LvMAX] [浄天眼Lv1] 進
[剣術LvMAX] [斧術Lv1] 1↑進
[投擲Lv3] [光学迷彩Lv4]
[錬金術Lv1] 1↑進[槍術Lv1]
[忍歩LvMAX] [遊芸Lv1]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 伐採Lv4 音波感知Lv3
石工Lv1 海中遊泳Lv3 交渉術Lv3 調理Lv1 蹴撃LvMAX
《称号》
スキルマニア 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し 海洋生物 盗賊殺し トレジャーハンター
子供の味方 賞金稼ぎ 巨蟲殺し 開発者
ダンジョン攻略者 new




