第五十一話 ダンジョンアタック!(五)
暑い日が続いてますが、体調は如何ですか?
仕事の忙しさと暑さで執筆が捗らない様な状況ですが、もう八月なんですね……。
ゆっくり出来る夏休みが欲しい今日この頃です。
例によって灰に埋もれている魔石を魔法【集風索莫】で回収したリュージは、マッピングを再開して歩き出す。大食い鼠の魔石は骨蝙蝠の魔石と大差無いサイズだが、純度の低い濁っている物が大半であった。時折、少しだけ純度の高そうな物も混ざっているが歴然とした差が有る訳でも無く、誤差の範囲だろう。
こうなって来ると、わざわざ地下三階に下りるよりも、地下一階で骨蝙蝠を相手にしていた方が効率的とさえ思える。
ダンジョンが探検者の都合で存在する物では無いとはいえ、命懸けで稼ぐ決意をした探検者が、苦労して下りた先でやっと手に入れた魔石がこれでは、遣り甲斐も何も有った物じゃない。
ダンジョンという不条理な現実が、まるで探検者を嘲笑うかの様に立ちはだかる。
リュージは、他の探検者パーティーの邪魔をしない様に気配を消し、上手く遣り過ごす事七回……マッピングをしながら、ひたすら最下層を目指して先を急ぐ。
その間、財宝の類いを発見する事も無く進む。やはり、探検者が到達している階層では期待出来ない様だ。仮に発見したとしても、ここが地下墓地である事を考えると【盗掘者】とか【墓荒らし】なんて称号が付きそうでもある。
閑話休題。
現在、リュージの位置は地下八階の中央付近である。一対一であれば、特に脅威となる魔物も居らず、順調と言っても良いのではないだろうか。
地下四階からは、漸くアンデッドらしい魔物が出現し始め、特に苦戦もしないが対応に追われた。
幽霊による精神汚染は、【殺戮者】と【無慈悲なる者】の称号による精神安定作用で無効化したらしく、最初は何が起きているのか分からなかった。実際に同士討ちを始めた探検者パーティーを目撃するまでは、目に見えない故に精神に干渉する攻撃の存在に気付かなかったのだ。魔力を乗せた攻撃なら簡単に散らす事が出来るのだが、魔石すら残らず消滅するので出来れば無視したい魔物である。ある程度の精神耐性は必須らしい。
骸骨闘士は、ギルドの資料によると探検者の朽ちた遺体に幽霊が憑依した物と考えられているが、その強さが肉体と霊体のどちらに依存するかは不明である。存在が保てなくなるまでバラバラにしたり、魔法により灰塵に帰したりもしたが、頭蓋骨の中に在る魔石を取り出すのも有効だった。魔石を失った骸骨闘士は、存在を維持する事が出来ないらしい。
魔力の流れを見極めた結果ではあるが、これにより看破というスキルを獲得したのは、今後に大きな影響を齎すだろう。
意識するだけで発動する看破スキルは、隠された事柄を見破る効果を持つ。つまり、敵の弱点を把握する事が出来るのだが、その精度はレベルに依存する様だ。魔石の位置が光って見えるだけだったが、急所となる心臓の位置などもレベルアップで見える様になった。
地下六階では、毒蜥蜴なる魔物の襲撃を受けたが、隠形が見破られたのかは定かでは無い。ただ単に走っていただけの可能性も有るのだが、リュージの行動方針が見敵必殺なので、向かって来た端から抹殺する。
見た目は巨大な襟巻き蜥蜴であろうか、二本足で通路を疾走する姿は中々に威圧感を有する。資料によれば爪や牙のみならず、全身を守る鋭利な棘に強力な神経毒を持つので油断大敵である。
他の魔物すらも巻き込んで走る姿は暴走トラックさながら、絶対数は少ないが非常に迷惑で危険な魔物として要注意指定も仕方が無いという物だろう。
先程まで探索していた地下七階からは、魔法陣蜘蛛という脚の長いタイプの蜘蛛型の魔物が登場し始めた。
魔法という形で魔力を運用する、リュージにとって初めてとなる敵である。ダンジョンの至るところに仕掛けた巣に、獲物が掛かるのを今か今かと待ち構えるタイプで、積極性が無いのが救いだろうか。
巣の模様が特殊な魔法陣を象っており、その効果は麻痺・睡眠・虚脱・生命力吸収・魔力吸収など個体により様々である。
問題は、その効果範囲だろう。直接、巣に掛かる必要が無い――寧ろ巣を壊せば効果が消えるのだが、何せ範囲が広いのだ。
保有魔力量に依存するのか効果範囲に個体差が有る様だが、バスケットコート一面分をやや上回る。学校の体育館くらいの室内なら、一つの巣でカバー出来るらしい。
状態異常を起こすだけでも厄介なのだが、複数匹が待ち構える部屋に侵入した際は、リュージでも危なかった。五種類を同時に食らった時など、クゥーの存在が無ければ詰んでいたと言っても過言では無いのだ。
その恐ろしい効果を身を持って体験したリュージは、抵抗する間も無く沈んだ。麻痺で身体の自由を奪われ、睡眠で夢の世界に旅立ち、虚脱により生命維持活動すら弱体化され、残る二つの効果で生命力と魔力が吸収される。
麻痺はどうにかなる、目の前に死が迫る状況であれば脅威だが魔力の操作は可能だろう。詠唱は呂律が回らないので無理だが、しっかりとイメージを固めれば魔法は使える筈である。
睡眠は不味い! 有無を言わせず深い眠りに引き摺り込まれ、掛かってしまえば一切の抵抗手段を奪われる。
虚脱は心臓の鼓動すら弱まり、思い通りに身体が動かない。自由を奪うという意味では麻痺にも近いが、死へのカウントダウンをされる様な不快感は焦りを助長し、冷静な判断力すら奪うだろう。
生命力吸収と魔力吸収は、言わずと知れたドレインである。刻一刻と奪われる生命力と魔力は大した量では無い物の、時間が経つ程に着実に増えてゆくのだ。詰め将棋の様に眈々(たんたん)と進むこの攻撃は他の状態異常と併用された場合、脅威度が数倍に跳ね上がる。
現在地となる地下八階で、これ等のコンボに撃沈しそうになったリュージは、敵の居なくなった室内を閉鎖して休憩の準備である。
結果としては、クゥーが寝ていたリュージの代わりに【桜火爛漫】を発動して事なきを得たのだが――。
睡眠中に吸収された魔力で魔法陣が強化され、虚脱と生命力吸収の嵐が押し寄せる。この組合せは一直線に死へと誘う無限コンボさながらである。
生命力が減る度に、加速度的に鼓動が弱ってゆく。多少の猶予は残されている筈なのに、いつ心臓が止まり命の火が掻き消されてもおかしく無い緊張感の中、睡眠から覚醒させる事よりも魔法の発動を優先したクゥーの状況判断力の勝利だろう。
恐らく、覚醒を優先していたらリュージの心臓は止まっていただろう。それほどに事態は逼迫していたのだから。
勿論、日本で生まれ育ったリュージにとっては心停止=死では無いのだが、生命力などという物が数値化されており、どの時点でゼロになるのかも分かっていない。
他人のステータスが見えない現状では、自身で確かめる以外の方法は無いのだが、死から復活する魔法が無いとされている以上、試す気は無いらしい。
現在の時刻は二十二時を過ぎたばかりだが、いつもよりかなり遅い食事になっている。
緊張からかなのか、ただ夢中だっただけなのかは分からないが、此処までろくな休憩も取らずに十時間近く。地下何階まで在るのか不明だが、タイムリミットはあと二日という所だろうか。戻る時間も考慮しなければならない。
ペースは早いのだろうが、目標が少し遠い気もする。
「ペースを上げるなら、全階層のマッピングを諦めるか? コンプリートしたいけど」
「御主人、独り言が出てますのニャ。急いては事を仕損じるとも言いますし、今のペースで良いのではないですかニャン」
つい、口に出した独白にクゥーが突っ込みを入れに出て来る。わざわざ出て来なくても、脳内で突っ込めるだろうに……。
「初回で攻略を狙ってるのは知っているだろ?」
「地下八階まで約十時間。一日に二十時間も移動に費やせば、単純計算で地下四十階までは到達出来る事になりますニャ。それ以上深いダンジョンなら撤退でも良いのではないですかニャ~」
巨大千足の剥ぎ取りの際に行われた、礼と称した解体講習が地味に足を引っ張っている気もするが、いつか必要な事だったのは間違い無いので感謝もしている。タイミングが問題になるだけで、これも巡り合わせという奴なのだろうと内心で独りごちる。
ダンジョン内で、洒落た食事などを時間を掛けて準備する訳も無く、屋台で買って来た串焼きやスープで簡単に済ませる。
買った端からアイテムBOXに放り込んで来たので、熱々のままの串焼きは塩が効いていてそれなりに美味い。何の肉か聞くのすら忘れたのも、急いでいたからに他ならないが、そこそこ大きな肉の塊が脂を滴らせる様は、リュージの食欲を刺激するのに十分な破壊力を有していた。
湯気が立ち上るスープは、色々な野菜を煮込んだだけのごった煮と評する様な粗末な物だが、食べられない様な代物では無い。少し塩味を足して胡椒でアクセントを付けてやれば、野菜の甘味を引き立たせるだろう。
本来は、他人が一生懸命に作った物に手を加える様な失礼な事はしないのだが、スープ関係は特に味が薄い。十中八九、調味料をけちっているのだが味よりも価格を重視する街なのだから仕方が無いのだ。
その後、新しく獲得したばかりの看破スキルの実験を試みる。ステータスも開いて確認する必要も有るだろう。
此処に来るまでに使い捲った看破スキルは、既に三つもレベルが上がり大まかな強さを数値化して見る事が出来るまでになっていた。
「なぁ、看破ってステータスっぽいのも見れる様になったけど、鑑定は無いのかな?」
「同系統のスキルですが、情報の種類や見え方に違いがある物だと思いますニャ。看破は主観的で、鑑定は客観的な見え方って感じですニャン」
「ふ~ん、客観的な見え方ってのも興味は有るけど、取り敢えずは看破で十分って事かな」
説明を補足するならば、看破で見た情報は自分を基準とするので数値がアバウトだったりするのだが、リュージの場合は電脳や心眼といった優れたスキルの影響で通常よりも高い精度を誇る。鑑定は上位スキルで、様々な情報を精査する等の科学的な見地から数値化される為、非常に精度が高く知識に比例して情報量も多くなる。
興味本意で魔石を看破した結果――。
《骨蝙蝠の魔石》
品質:F
《巨大千足の魔石》
品質:B
《大食い鼠》
品質:F
《骸骨闘士》
品質:E
《毒蜥蜴》
品質:E
《魔方陣蜘蛛》
品質:E
となったのだが、種類毎の数量が多かったので見比べた数は六千個弱といった所である。これによって看破スキルがレベルアップし、鑑定スキルへの進化条件をクリアしていた。
クゥーが出て来ていたのが理由だろうが、アナウンスは兎も角として勝手に進化されなかったのは初めてのケースだったりする。
「あらっ? 初めて見たけど、進化条件が調うと点滅するのな」
「早押しみたいな物ですニャ! 条件取得と同時の進化……瞬間の美学ですニャン」
「何が美学か! 我慢出来ないだけって言ってたろ。それより、何が変わったのか調べるべきかな?」
「御主人の自由ですニャ。まぁ、時間が掛かるという問題は有りますが、レベル上げだと思えば損は無いですニャ」
早速、手動による進化を実行してみるが、特に何が有る訳でも無い。選択肢が無いなら自動でも全く問題が無い事を、改めて確認しただけの結果に気力を削がれたリュージは、取り敢えず一番大きな魔石だけを手に取る――。
《巨大千足の魔石》
品質:B 価値:C
巨蟲の魔石。拳大サイズで鮮やかな赤色が純度の高さを証明している。昆虫の魔石としては高品質、多くの魔素を吸収している。
「おぉっ? 価値とか説明文が追加されとる」
「他は調べないんですかニャ?」
頭の上に乗ったクゥーは、一緒になって表示された内容を見ている様だが、リュージとリンクしているからだろうか。
「品質が低い事が分かってるからなぁ。それよりも、こっちの方が興味有るっていうか――」
そう言うや否や、リュージが取り出したのは二本の剣である。何が起こったのかが、分かるかもしれないという期待があったのだろう。
《無銘の両手剣(仮)》
品質:C 価値:B
製作者:クロード 加工者:リュージ
分類:両手剣 種別:ツヴァイヘンダー
材質:人工魔力鋼(仮)
量産品として、何処にでも在る一般的な物であったが、超高密度の魔力に曝された事で、鋼鉄から魔力鋼へと材質が変化した物。鋳造品であった事から不純物も多く、結果的に星空の様な模様を宿す。斬り付けた際に梃子の原理を働き易くする為の工夫として、柄が長く作られている。
《無銘の片手半剣(仮)》
品質:C 価値:B
製作者:クロード 加工者:リュージ
分類:片手半剣 種別:バスタードソード
材質:人工魔力鋼(仮)
量産品として、何処にでも在る一般的な物であったが、超高密度の魔力に曝された事で、鋼鉄から魔力鋼へと材質が変化した物。鋳造品であった事から不純物も多く、結果的に星空の様な模様を宿す。片手と両手どちらにも使える他、斬る事や突く事も可能とした汎用性の高さが人気となり、多くの探検者が用いる。
「幾つか分からない事が有るよね?」
「銘が無い事ですかニャ? それとも、(仮)になっている事とか材質の事だったりしますかニャン」
「……正解! パフパフゥ~って、そうなんだけどそうじゃないだろ!」
「量産品にまで銘を付ける物かは分かりませんが、加工者が御主人になっているので新しく付けられるのではないですかニャ? 材質は不明ですニャ。何か補足とかも無いのですかニャ?」
「補足? ……有るかな?」
《人工魔力鋼(仮)》
開発者:リュージ ※命名権あり
超高密度の魔力に鋼鉄を曝した事で、世界で初めて人工的に作り出された魔鋼の一種。本来、魔鋼とは長い時を掛けて魔素を吸収した鉱石から僅かに精製される物であり、その鉱石は魔鉱石と呼ばれる。人工とはいえ、組成や構造的には魔鋼と大差無いのだが、魔力に由来する為に魔法との親和性は魔鋼を僅かに上回る。
「……」
「御主人、お気持ちは分かりますが現実逃避をしても無駄ですニャ。戻って来て下さいニャン」
フリーズしている頭を、テシテシと叩くクゥー。柔らかくて小さな肉球の感触がリュージを現実へと引き戻す。
「世界初……?」
「流石は御主人、歴史に名前を刻みましたのニャ!」
何処かの番長が言っていそうな言葉を持って来る辺り、リュージのAIに相応しいとも取れるが、完全に毒されているだろう。恐らく脳内では、振り返り様に人差し指を突き出す番長が居る筈だ。
「いやいやいや、まだ刻んで無いから! こう言うのは発表して認められたらの話だろ?」
「発表してボロ儲けじゃ無いんですかニャ?」
「いや、無いな」
大量生産出来る訳でも無いのに、下手に発表して追い掛け廻されるのは面倒である。そればかりに時間を取られるのもまっぴらなので、即座に否定するリュージ。名前を伏せてオークションに出品するくらいなら兎も角、それほど儲かるとは思っていないのだろう。そんな事の前に、砂糖の大量生産を成功させた方が確実に儲かる筈である。消耗品だし、市場規模も大きいのだから。
「いい加減、寝ないと明日が辛いかな」
「ステータスを確認し終えたら寝ますのニャン。見張りはクゥーにお任せですニャ!」
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 18 (4upニャン↑)
生命力 528/1724
魔力 ∞
力 1181 (34upニャン↑)
体力 1053 (4upニャン↑)
知力 4470 (64upニャン↑)
素早さ 2080 (44upニャン↑)
器用さ 754 (9upニャン↑)
運 577 (99upニャン↑)
魔素ポイント 99968458
所持金 62521マアク25ピニ
《スキル》
[電脳Lv4] [電化Lv4]
[心眼LvMAX] [鷹の目LvMAX]
[魔導の心得Lv3] 2↑[剣術Lv4] 3↑
[蹴撃LvMAX] [隠形Lv4] 1↑
[夜目LvMAX] [鑑定Lv1] 5↑進
[忍歩LvMAX] 1↑[発見Lv4] 1↑
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1
錬金Lv4 石工Lv1 槍術Lv1 海中遊泳Lv3 交渉術Lv3
調理Lv1 音波感知Lv3
《称号》
スキルマニア(進) 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し 海洋生物 盗賊殺し トレジャーハンター
子供の味方 賞金稼ぎ 巨蟲殺し 開発者 new
ダンジョンに入る前はレベル8だったから、僅か一日で十も上がったのだ。実際には十時間くらいだから、平均すれば一時間に一回レベルアップしている事になる。
魔石の数は六千個弱だが、幽霊は魔石も出さずに消えたので、全体の討伐数はもう少し多いだろう。
一時間で約千体の魔物を殲滅している事になるのだが、このダンジョンの魔物ではそれだけ倒さないとレベルアップしないという事になるのかもしれない。下の階層に多くの経験値を得られる魔物が居れば良いのだが……。
「身体が重いのは生命力を吸収されたからだとして、何と無く関節が痛いのはレベルアップの影響かな?」
「念の為、風邪薬を飲んで寝た方が良いのではないですかニャ?」
「う~ん、湿気も多いし風邪では無いと思うけど、こんな場所だしな」
「御主人、おやすみなさいですニャン」
スキルによってレベルアップの仕方にばらつきが有るのも気にはなるが、攻撃方法自体が剣や蹴りに魔法も使用したりとチャンポンなので、今となっては判別不能である。
それよりも、レベルの高いスキルが増えて来た事で、外せないスキルが増えてしまった事が地味に痛手だったりする。
生産系は兎も角として、いつまでも育たない斧スキルや投擲スキルをどうにかしたいと、考え事をしながら毛布で身体を包み、夢の中へと旅立つリュージであった。




