第四十八話 ダンジョンアタック!(二)
区切る場所が悪くて申し訳御座いません。前回の戦闘後、レベルアップする所からになります。
リュージが骨蝙蝠の群れを殲滅した直後、リュージの脳内で祝福の鐘が鳴り響く。
『カラ~ン……カラ~ン』×3
(何か、久しぶりに聴いたな……この音)
『かなりの数が居たので、上がるとは思いましたが大して上がりませんでしたニャ』
弱いとはいえ、数百匹の魔物を始末して三つしかレベルが上がらないとは! 何れだけの敵を倒せば良いのやら。しかし、スキルは着実に上昇しているので、強さという意味では問題が無い。
(あ~、まぁな……この際、それは良いんだが失敗したかもしれん)
『何が失敗なんですかニャ?』
(いや、音波感知ってスキルなんだけど……付けて無かったっていうか、完全に忘れてたんだが、蝙蝠って超音波とか出すんじゃなかったか?)
『成る程、戦闘自体がそれほど変わるとは思いませんが、レベルアップは逃したかもしれないですニャン』
統合により新しいスキルを得られる事を考えるなら、使っていないからといって無駄とは言い切れないだろう。魔物が敵として多く現れるダンジョンだからこそ、積極的に経験を積まなければと気を引き締めるリュージであった。
『ところで御主人、魔物ごと魔石も燃えてしまったんですかニャ?』
(おっとそうだな、探してみるか! そういえば見た事無かったな。検索するにも一つは自力で探す必要が有るか……これかな?)
リュージの足元で燃え尽きた灰を掻き分けると、親指の第一関節くらいまでの大きさをした物が出て来た。このどす黒く濁った血液を固めた様な赤い石が魔石なのだとしたら、大きさや色合いからして下級品になるのだろう。
魔石と思われる赤い石をよく見て、検索を掛けてみると電脳・心眼・鷹の目のスキルによりマーカーが無数に現れる。
それを集めたいのだが――。
「これだけあると、面倒臭いな! (…何か纏めて集める方法は無いかな)」
『そう言うと思って考えましたのニャ【集風索莫】ですニャン! 元の意味は欠片も残ってませんが、風で探して削り集めるのですニャ』
(元の意味って?)
『簡単に言えば、秋風が吹いてうら寂しくなって行く様って感じですニャン』
「(ふ~ん、本当に原型無いな)集風索莫!」
リュージの周りから発生したと思われる強風が、辺り一面を覆う灰を吹き飛ばして巻き上げる。比重の差か魔法の効果か、魔石だけが降って来る。
イメージ不足か制御が甘くなった様だが、そのままという訳にはいかないので、カンフー映画張りのアクションで魔石を回収する。掴む必要は無い、手でも足でも触れた先からアイテムBOXに送り込めば良いのだから。
「ふっ……ほっ……はっ……よっと、ふぅ~。あ~、しんど……」
『お疲れ様ですニャン御主人、四百十七個の魔石を回収しましたニャ』
(そうか、意外に少なかった様なそうでもない様な。こいつらって外に出ないのかな?)
『出る必要が無いのか……時期じゃないのか? 外と比べて、魔素が濃いのは気付いてますかニャ?』
頭上から雹の様に降り注ぐ魔石を、一つも落とす事無く回収しようと派手に動いた代償か、地味に疲労した事を訴える。そんなリュージに、回収した魔石の数をカウントしていたクゥーが、労いながら報告するのだが、気になる事は別に有るのだ。
魔物の生態の謎と、先に入って行った探検者の行方である。
(あぁ、入った瞬間に空気が変わったからな……流石に、あれだけ違えば分かるだろ~)
『ですニャ。元々、そういう場所だからダンジョンになったのか、魔物やダンジョンが集めるから濃いのかは不明ですが、無関係では無さそうですニャン』
(何か証拠が見付かれば、売り付けられそうなんだがな。それはそうと、他の探検者は見当たらないな)
『御主人、ここはまだ入口ですニャ。慣れた探検者なら、面倒な敵をスルーして先に進んでもおかしく無いのですニャン。あんな群れを見たら普通なら逃げるのが正解ですニャン! 御主人は、特別なんですニャ』
結局、確たる証拠が無いので情報としての価値は無く、探検者の姿も見当たらないなので自分の足で情報を集めるしかない。マッピングに関しては、歩いた場所が自動で記録されるのでひたすら突き進めば良いだけである。
(有りがちだけど罠とか、どうするか)
『発見スキルが役立つんじゃないですかニャ』
(おぉ、そんなのも有ったな。スキル構成を見直すか! ところで、レベルがMAXになったスキルって外しても効果が続くとか、無いよな?)
『残念ながら、無いですニャン』
(だよねぇ~)
そんな効果ならば、初めてレベルMAXになった時点で報告が有って然るべきである。
スキルを見直したリュージは、本来ならサクサク進みたいところだが、スキルも含めてレベルアップを図る為に、積極的に殲滅して進む事にする様だ。
現在位置は地下一階、オートマッピングが有ると全て埋めたくなるのは仕方が無い。方針は見敵必殺なので、ある意味で丁度良いのだった。
まだ序盤だからか、先行組が解除したのか……それらしい罠も無く、順調に進む。
途中で幾つかの大部屋を通ったが、出て来るのは骨蝙蝠の群ればかり。どうやら、一般の探検者にとって群れを成して襲い来る骨蝙蝠は厄介者らしく、そればかりが残されているという印象が拭えない。
(蝙蝠は飽きたな~。せめて吸血鬼とか出ないかな)
『御主人、この国だと吸血鬼と言うらしいですニャン。って言うか、わざわざフラグを立てようとしなくても、下りて行けば強敵は居ますニャ』
効率的な倒し方が分かって来ると単純な作業となり、戦闘が単調になるので同じ魔物ばかりだと飽きるのは分かるのだが、唐突にフラグを立て始めるリュージには困ったものである。そんな物は要らないのだが……。
(出来れば強敵と読む様なのが良いんだけど!)
『あぁ、友達が居ませんからニャ……でも、人外に友情を求めるとか、普通に引きますニャン』
話の流れからすると、吸血鬼と対決後に友情を育むパターンを想定しているらしいが、ダンジョンに居る時点で生死を分けた闘いになるので、友情云々は……あぁ、不死者である吸血鬼ならば、殺しても死なないとか考えているのだろうか。しかし、そんな考えの奴と友達になる者は居ないと思うのだが。
(この世界にはなっ! この世界にはまだ、居ないだけさ……まだ(・・)なっ! ここがポイントだから! ってか、引くとか言うなよ……巫山戯んなよ。泣くぞ)
『ごっ、御主人、そんなに気にしてたんですかニャ! 大丈夫ですニャン。ちょっと、冗談を言ってみただけですニャン』
通路に敵が出ないからか、そんな緊張感の無いやり取りを脳内で行いながら、先へ先へと進んで行く。
何度か行き止まりを戻ったりもしながら、漸く下へ続く通路……というか、縦穴を見付けた。
探検者ギルド或いは、他の探検者が張ったであろう鎖の束が下へと続き、所々で壁に固定されている。リュージは昔、友人と行った旅行先で修験者が修行していたという山奥の岩肌に同じ様な物を見た事が有った。そこでは、岩山の上に在る社に向かう為だったのだが……。
(階段も無いとか……いっそ造っちまうか?)
『帰り際でも良いんじゃないですかニャ? 後から追い付かれても損ですニャン』
(昔、時代劇でそんな歌が有ったな……あれはオープニングだったかな?)
しみじみとしたまま鎖を伝って下りると、湿度が上がり気温も低下しているのが分かった。
リュージ自身は、アイテムBOXの中に在るエアコンを起動すれば体温調節が可能な事が分かっていた。ラストックを目指す旅の途中、夏も近付いた暑い日中に走っていたのだから、それなりの対策を講じ様としたのは言うまでも無い。
その一環として気付いていたのだが、日本と比べて湿度が低かったので、走らなければ夏物の服装だけで事足りたのだ。
今はまだ良いが、それでも出番が廻って来るのは、それほど先の話では無さそうである。
地下二階と言えば良いのだろうか。若干、肌寒くなった地下空間を取り敢えず無作為に歩く。マッピングしなければ、何処であるかも分からない上に、じっとしていても始まらないのだから当たり前なのだが――。
そこに、遠くから魔物の足音が鳴り響く。
丁度、リュージの進行方向から迫る尋常じゃ無い数の足音は、規則正しく一定のリズムを刻み近付いて来る。
(敵発見! きもっ、虫……百足なのか? あれはちょっとでか過ぎじゃね~の?)
『あれは、巨大千足ですニャ』
ギルドの資料に存在は記載されていたが、詳細の分からない魔物の一体である。
(えっ、足って百本じゃないの? 千本も有るってか!)
『名前くらいは資料にも有りましたニャン。その時には気付きませんでしたのニャ? この場合は本数というより、沢山って意味で百だったり千だったり……国によるのではないですかニャ?』
(え~と、ほらっ、魔道具で翻訳されるから)
やがて、暗闇の奥から姿を見せたのは触角を振り回し、見えている頭だけでも大人の胴廻りを超えるだろう巨大な百足。いや、巨大千足の名を冠する多足類の節足動物である。
夜目や鷹の目といった視覚系スキルを持つリュージだからこそ見えていた魔物だが、ここに来て獲物の存在を感知したのか速度が上がる。
軍隊の行進を思わせる程に響き渡っていた足音は、たった一体の魔物が奏でる行進曲であったのだ。
さして広い訳でも無い通路からでは、奥に隠れた全長は計り知れない。頭の大きさから想定するならば、五メートル……いや、十メートルを超えるかもしれない。
(百足ってさ、毒を持ってるよな?)
『そうですニャ……』
(広い場所まで、一旦引くか)
『賛成ですニャン』
そこからが、追い掛けっこの始まりだった。餌を見付けた巨大千足はリュージに狙いを定めると、その強靭な顎で噛み砕こうと緊迫する。それを余裕を残して躱しながら、一目散に駆け出したのだ。
獲物を捕まえ、毒を流し込み、噛み砕く為の顎が、ガチャガチャと音を鳴らしてリュージに迫る。
リュージを咀嚼したくて仕方が無いとばかりのその音が、嫌になる程に聞こえて来るのは、不快感ゆえだろうか。
万が一にも捕まれば、リュージの胴体など簡単に切断出来るだろう顎は、決して綺麗な切り口など作らない。押し潰しグチャグチャにされるのは目に見えているのだ。
毒にしても然り、神経毒か何か知らないがその顎から出すであろう魔物の毒が、リュージの常識で推し量れる物の訳が無い。
流石に走りながら毒を吐き出す様な器用さは無い様で、噛み付く必要が有るのだろう。執拗に顎を鳴らして飛び掛かって来るのも、その為だと思われる。
『御主人、強敵が出て来て嬉しいですかニャ? 友情を築けそうですかニャン?』
(意思の疎通が図れない相手に何言ってんの!)
リュージは、脳内で皮肉るクゥーに文句を言いながらも全力疾走していた。
罠を見付けては壁を走り、天井を蹴る、前に進まなければ殺られると本能が訴える。その危機感は脳内麻薬を分泌しリュージのポテンシャルを引き出してゆく。練習すら無いぶっつけ本番であるが、漫画やアニメで見る様な立体的な高速移動を実現する。
そうでなければ、疾うの昔に捉えられていただろう。罠などお構い無しに突き進んで来る巨大千足は驚異以外の何者でも無かった。
倒せないとは思わない。だが、この通路で闘うには狭過ぎるのだ。
魔法を使っても良いだろう。しかし、一撃で仕留める保証が無い。何せ初見の魔物なのだから……。
頭を斬り落とした所で、暫くの間のたうち回る姿が目に見える。巻き込まれればひとたまりも無いだろう。
リュージの背中に冷や汗が滲み、嫌な未来を想像して戦慄の表情を浮かべる。
――だが、絶望はしない。
事実、何とか追い付かれずに逃げているし、自信も有るのだから。
問題は場所だけ……、広い場所、闘いに相応しい場を探して走り回る。
そして――。
漸くにして待望の部屋を発見したリュージは、意を決して飛び込んだ。やけに長く感じた逃避行。実際にはそれほどの距離では無いのだが、緊急事態に脳が処理した情報が多過ぎた為の錯覚である。
だが、飛び込んだ部屋で見たのは探検者のパーティーの姿。休憩中だったのか、慌てて戦闘準備を整えている最中であった。
ステータスはこんな感じです。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 11 (3upニャン↑)
生命力 1303/1507
魔力 ∞
力 1129 (114upニャン↑)
体力 1046 (114upニャン↑)
知力 4353 (3upニャン↑)
素早さ 2013 (3upニャン↑)
器用さ 742 (114upニャン↑)
運 465 (23upニャン↑)
魔素ポイント 99968458
所持金 62521マアク25ピニ
《スキル》
[電脳Lv4] [電化Lv4] 1↑
[心眼LvMAX] [鷹の目LvMAX]
[魔術の心得Lv4] [剣Lv4]
[蹴撃Lv4] [槍術Lv1]
[夜目LvMAX] [音波感知Lv3] 2↑
[忍歩Lv4] [発見Lv3] 2↑
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1
錬金Lv4 石工Lv1 隠形Lv3 海中遊泳Lv3 交渉術Lv3
調理Lv1
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し 海洋生物 盗賊殺し トレジャーハンター
子供の味方 賞金稼ぎ




