第四話 無人島からの脱出計画!
結局、この島が無人島だと判断した立志は、上がったテンションのままに、海を渡る為の計画を立てる事にする。まず、西側の海岸で筏を組んで海を航る準備をする。スキルが有れば、どうにでもなるだろう。
(魔法が使えれば、無限の魔力に物を言わせて、空でも翔ぶんだけど、一朝一夕では身に付かないとよなぁ)
修行は良いが、食料にも限りがある以上、無理は出来ない。島内を探せば何かしら有るだろうが、食べられる物かどうかの判断は難しいだろう。茸等は、知識が無ければ命取りだ。少なくとも、野犬を食う気は更々無い。
(何処かの国の人民じゃあるまいし、野犬を食うなら魚を食う! そうだよ、魚が有るじゃないか! 魚の調理なら出来るしな)
四本足の物は、机と椅子以外は何でも食うと揶揄される国民だ。本当に食うかは知らないが、調理の技術は一流だろう。だが、そんな技術も無ければ、犬を食べる文化も現代日本には無かった。……たぶん、無いだろう。
(そうしよう! 釣竿は無いけど、上手くすればスキルが手に入るし、何とかなるなるさ! ――っと水を持って行かないとな。海水は飲めないしなぁ、駄目元で練習だけはしてみようかな? 魔法で水を出せたら便利だし)
正直な話、テントを畳むのは面倒臭かった。どうせまた設置するのだからと、このままアイテムBOXに収納する。後は水を目一杯まで汲んだ薬鑵と水筒と炊飯器も問題無く入った事を確認した。
(全部、アイテムBOXにポイッと!)
海岸線には筏になりそうな木は余り無かった。ここで、切って行かないとならない。アイテムBOXから、マチェットを取り出す。力は百三十二まで上がっていたので大丈夫だと思いつつ、駄目ならポイントを割り振れば良いやと、適当な大きさの木を選ぶ。
「すぅぅぅ……っやあぁぁぁっ!」
マチェットを振りかぶり、気合いと共に全力で降り下ろす。斧ほどの重量が有れば良いが、軽いマチェットを水平に木に当てても、弾かれるのが落ちである。全力で振りはしたものの、相手は直径二十センチメートルは有る木の幹だ、簡単に斬れる物ではない。斜めに切れ込みを入れるだけのつもりいたので、刃が途中で止まったのは良いのだが、半分以上も食い込み抜けなくなってしまった。
(無理矢理に抜いて、折れ曲がっても困るよな? 木の重さで抜けないんだから)
梃子の原理を利用して、マチェット自体を動かす事は可能だが、どうにも抜けないので仕方無くアプローチを変える。マチェットが食い込んでいる部分よりも上に、切れ込みを拡げる為に、助走を付けて跳び蹴りをする。思惑通りに事が運び、木を折る事に成功したが、マチェットの刃を見ると少し潰れてしまっていた。
(こりゃあ、全力で振るのは駄目だな)
マチェットの性能以前の問題だった。技量の無い自分が力任せに振った結果に、内心で半ば呆れた感想を漏らしてしまう。
(少しずつ削って行く方が良いか?)
ただ闇雲に振るのは無駄だろう。技量が無いのであれば練習するべきだと、マチェットを振る軌道や刃の当たる角度をイメージしながら、実際の手応えと比較し修正してゆく。それは、電脳による思考の高速化と最適化の効果だろうか?
繰返して練習をする度に、鋭さを増す斬撃に満足していた。気付くと斬り倒した数が二十本になっていた。気を良くした立志は、直径五十センチメートル近い木に狙いを定め斬り倒す。ただの自然破壊では無い。筏の材料として、ある程度の太さが欲しかったのだ。
(やっぱり二十センチメートル厚の筏だと浸水するよな? やってみないと分からないけど)
切り倒した木材を、アイテムBOXに収納してから西へと向かって歩き出す。途中からスキルを確認しながら歩くのだが、練習したにも拘わらず剣スキルなど欠片も上がっていなかった。上がったのは伐採スキルであった。自分自身ではキレが増して斬撃になったと思っていたが、そんな事は無いとスキルが雄弁に物語っていた。
(確かに二つも上がったのは嬉しいのだが。嬉しいのに恥ずか死~!)
相変わらずのお手軽なスキル取得だが、他にも蹴撃Lv1を獲得していた。スキルにも装備数の上限があるらしく、十三個目の蹴撃スキルには装備されている様子が無かったが、装備されてないから、剣スキルが上がらなかったという訳でも無い事実に、二重のショックを受けたのは言うまでも無い。
それは兎も角、今後の行動としては野営の準備をしてから、筏を組む。銛らしき物を造って魚を獲る。明日の朝に海を渡る。こんな感じで予定を組んで、自己満足する。
(よしっ! 我ながら完璧な行動予定だな)
そう言っている間にも、予定は順調に推移している。野営の準備は、アイテムBOXからテントを出して固定するだけなので直ぐに終わり、筏を組む準備をしていた。まず、材木の枝を払い長さを揃える事から始め、立派な木材に加工する。
一人乗りなので、それ程の大きさは要らないと考えて、長さ四メートル直径五十センチメートルの丸太が三本と直径二十センチメートルの丸太が一本、長さ二メートル直径二十センチの丸太が三十八本分になった。直径五十センチメートルある三本の丸太は土台として、右、真ん中、左と等間隔に配置する。土台の上に長さ二メートル直径二十センチメートルの丸太を並べるつもりだが、長いネジや釘の数にも限りが有る。
新聞紙や雑誌を括る為にコンビニで買ったビニール紐を使い、十本ずつ簾の様に縛った。これを真ん中に二十センチメートルの隙間を空けて並べて、ビニール紐で括って土台に固定する。隙間を空けたのは帆柱を立てたかったから、隙間は真ん中に二十センチメートル角の穴が出来れば良いので、左右から丸太を入れて埋める。
(はみ出た丸太は切っても良かったんだけど、面倒だし残すか~)
土台の真ん中に立てる帆柱の加工は、四メートルの丸太を使いヨットみたいな縦帆仕様にする。帆柱には、残しておいた長さ四メートル、直径二十センチメートルの丸太に、長さ二メートルの丸太を固定して使う。イメージとしては、数字の4が分かり易いだろうか? 帆にはテントを拡げて縛る事で代用するつもりの為、飛ばない様にしっかり固定しなければならない。後は、要所にネジや釘を使って補強したり、隙間に小枝や葉っぱを詰めて、出来るだけ浸水しないように工夫して一応の完成となった。尤も、こんな筏ではどうあっても浸水は防げないだろう。帆柱も今日はテントを使うので、取り付けは明日の予定だった。
(うっし! 一先ずは完成だ。次は……銛かな)
荷物を漁ったが録な糸が無かった。男の一人暮らしで、糸が出て来ただけ立派だが、木綿糸ではザリガニが精々だ。代わりと言っては何だが、荷物を固定するゴムバンドが見付かったので、上手く加工すれば期待通りの銛が出来るだろう。筏を造る際に余った二メートルの木材を加工する。木材は芯の方が良いだろうと、削ぎ落とす様に削ってゆく。コツコツと時間が経つのも忘れて、出来るだけ真っ直ぐに削り、鋭い穂先には返しを付ける拘り様だ。ゴムバンドは槍で言う石突き部分に切り込みを入れて、挟んだ後にビニール紐でぐるぐる巻きにしたのは、外れない様にする為だ。
(これも完成っと! あぁ、夕日が綺麗だなぁ~。いや、暗くなるまでに性能を確かめないと、既に今日の夕飯は魚の塩焼きと決まっている。気分は塩焼き一色になっているのだ、それ以外は認めない! 断じて認めない! 獲物は魚だ! ひゃっは~!)
ヌーディストビーチ宜しく真っ裸になり、自作の銛を片手に海に潜った。端から見ていたら何処かの蛮族の様な姿だったが、誰も見てないので気にしない。海の中は楽園だった、お伽噺に出てくる竜宮城は、こんな場所に在るのではないだろうか。
(凄いな! スキューバダイビングにハマっていた、ダチの気持ちが分かる気がする)
いつまでも観ていたかったが、息が続かず一旦浮上を開始するのだが、ここでアイツに出会ってしまった。
「ッガボッ!(〆¥な#&ん%£だ§$♂)」
それは、世にも恐ろしい形をしていた。危うく溺れかけてしまう程に驚いた。ブヨブヨと形容し難い姿で、触手の様な物で襲って来る。真っ裸の立志だけを狙って!
(そんなに俺は、美味しそうなのかい? そんなに俺のお尻は魅力的なのかい? 止めてくれ! 鳥肌が立ってしまうじゃないか! 俺にそんな性癖は無い! 真っ裸で触手に襲われるとか、別の所でヤっててくれよ。トラウマが増えるじゃないか!)
全力で泳いで逃げていた。体感ではオリンピックで金メダルも夢じゃ無かったと思う程に。幸いにして、奴はそんなに速い訳では無く、逃げ切る事が出来た。
(やっぱり真っ裸は駄目だ! 真っ裸は開放的だけど、危険過ぎる)
と、言うことで少し離れた岩場から、服を着て、服を着ての再挑戦に向かった。大事なので二回言ったのはお約束だからだ。岩場から海に入ると、慎重に潜って行った。こちらに奴は居ない様だが、安心は出来ない。音も無く近寄って来る海の暗殺者なのだから! たぶん。慎重に進むと、青魚の群れが泳いでいる。鯵っぽいが違うかもしれない。
(知ってる鯵よりデカいんだよなぁ! 良く肥えてるのか、そういう種類なのかよく分からんが、折角の獲物を逃がす訳には行かないぜ~!)
鈴木立志は、ゴムバンドを腕に通し、銛の先端近くを持つ。たったこれだけで腕に通したゴムバンドが伸びて、発射準備が整うのだ。後は、近くに来た鯵に狙いを定めて、手を離す! ゴムバンドの反発力を利用して放たれた銛は、獲物に向かって矢の様に飛んでゆく。
(獲ったぞぉぉぉー、ひゃっほ~い!)
この後は結局、六匹の鯵を獲ったが日が落ちた事で、奴が見えない為に断念した。奴の正体は想像にお任せする。「いや~、種類とか詳しく無いけど、ヤバかったなぁ、兎に角でっかいし! あんなの初めて見たね! 思わずパニクって息吐いたら、溺れそうになったし」とは、立志の談である。
話は変わるが、やっぱりアイテムBOXには生き物は入らない様だ。銛で突いた獲物をダイレクトに入れようと試したところ、息がある内は駄目だったのだ。
濡れた服を着替えてから、食事の準備をする。枝を削って加工した串に鯵を刺して、焚き火で焼いている間にステータスを確認する。レベルは上がらないが、スキルを覚えるお陰でステータスが伸びが早い。実のところ魔素ポイントを使う必要は有るのだろうか。
(鯵が六匹じゃレベル上がらなかったなぁ……そりゃそうか、それなら漁師の平均レベルって何れくらいだよって話になるもんな、しかも鵜の目って……魚の目とかもあるのか?)
ステータスを確認しながら、そんな事を考えていたのだが……そういえば、称号を獲得していた。
《称号》
スキルコレクター
スキルコレクターは、十五個目のスキルを覚えた記念らしい。誰でも持ってそうな称号だ。
(この島とも、明日でお去らばすると思うと、感慨深いのかな……いや、それより人に会いたい)
目覚めてからたったの二日しか経って無いのだが、えらく長い間人と接して無かった気がして人恋しくなり、この無人島からの脱出が待ち遠しいのだった。
ステータスはこんな感じです。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属
種族 異世界人
レベル 2
生命力 330/456
魔力 ∞
力 137
体力 144
知力 1027
素早さ 360
器用さ 160
運 36
魔素ポイント 99999998
《スキル》
[潜水Lv3] [料理Lv1] [方向感覚Lv1]
[伐採Lv3] [登山Lv1] [気配察知Lv1]
[剣Lv1] [盾Lv1] [鷹の目Lv1]
[投擲Lv1] [電脳Lv1] [電化Lv1]
蹴撃Lv1 泳法Lv1 鵜の目Lv1
槍Lv1