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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第三章 旅立ち篇 ~ラストック~
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第四十六話 はぐれの魔物と情報収集!

 要らぬ恥を掻いたと思っているリュージは、代金を受け取ると露骨に話題を逸らす。


「話は変わるけど……ダンジョンが増えるのは、はぐれた魔物が造るからだと小耳に挟んだんですが、何れくらいの頻度で増えるんです?」


「どうしたの、突然? まぁ、良いけれど。その辺りの事は正直な話、殆んど解明されて無いわ。確認された事象としてダンジョンが成長するって事と、成長したダンジョンが魔物を解き放つ事が有る事。それから外に出た魔物は、例外無く強力で大きな被害をもたらす存在である事かしらね。頻度は十年に一度くらいって話だけど、ダンジョンの成長具合にもよるのかしらね。それから、ダンジョンがどうして生まれるかも真実は分からないけれど、逃がした魔物を追った先で新たなダンジョンが見付かるから、魔物が造るって言われてるのよ」


 話を逸らす事には成功したが、この辺はイヴァンジェリン達から聞いた話と大差は無い。


「その解き放たれた強力な魔物を、逃がしてしまう事は多いのですか?」


「残念だけど、そうね。大都市なら騎士団を含めて戦力も充実しているから、そうそう討ち漏らす事も少ないでしょうけどね。見付ける事自体が難しい個体も居て、そういった魔物が遠く離れた辺境に出現すると対応が間に合わないのよ。他国から進入して来る場合は、どうしようも無いのだし……この近くにダンジョンが在るのもそういった理由からなの」


 こうして話を聞く分には、隠れ里で心配していた様な事態にはならなそうである。神経質な程に警戒しているかと思いきや、そうでも無さそうな事もそうだが……あの大蛇は、隣国から来た可能性が大きくなった。


「それでは、知らない間に魔物が解き放たれていたりもするって事ですか? 騎士団で倒せるならダンジョンの攻略も進めれば良いのに」


「過去にも、隠密行動に特化した魔物を取り逃がした記録が残されているから、可能性が無いとは言えないわね。とは言え、騎士団は帝国の様な侵略に意欲的な国の動向も警戒しなければならないしね。討伐に成功した騎士団も他国には有るのだけど、殆んどのダンジョンでは騎乗出来ない事から、実力を出し切れないまま犠牲が増えるので、探検者任せにしたいって風潮が有るのだけど、討伐を果たした探検者もいないから」


 この国の騎士は、馬に乗らなければ歩兵と変わらないのだろうか。重い甲冑を着込んでいるから馬に乗らないと機動力ががた落ちなのは分かるが、貴族の坊っちゃん嬢ちゃんだからって事だろうか。探検者ギルドにしても、討伐に成功した探検者がいないので、組織として強く出れないのだろう。結果の伴わない組織にどれだけの発言力が期待出来るというのか、今のままでは駄目だろう。


「解き放たれた魔物……通称はぐれ? の価値は、何れくらいなんですか?」


「それは興味本意? 魔石の大きさや純度も大事だし、素材の有用性にもよるけれど……騎士団が数の暴力でやっと倒す様な存在だから、探検者ギルドでも取り扱った事は未だ嘗て無いのよ。個人もしくはパーティーで討伐に成功したら、それこそダンジョン討伐に匹敵する偉業になるかもしれないわね」


 セーフ! 先に話を聞いておいて良かったのだろう。危うく大騒ぎになる所だったとリュージは安堵していたが、価値を知りたかったのはこれ以上税金でぼったくられるのが馬鹿らしいと感じていたのと、代官や徴税官にくれてやる金は無いと思っているからである。所謂、結果オーライって奴なので安心も一入ひとしおであった。


「ふ~ん。じゃあ、討伐に成功したダンジョンって何れくらいのになるんですか?」


「あぁ、ダンジョンの無い国から来た人は知らないのね。今の所、ダンジョンの存在が確認されているのは、滅亡したベルゼビュート王国の周りに在った五ヶ国だけになるのだけど、討伐に成功した例が有るのは2ヶ国、オーランド共和国とフランカリア王国ね。公式に発表されている討伐数は3つで、最近と言っても二十年以上前の話だけどフランカリア王国のルーク辺境伯が、自領に生まれたダンジョンを討伐して独立を認めて貰った事で有名になったわね」


 パメラの話を少し整理すると、ベルゼビュート王国の北東に位置するのがオーランド共和国で、ダンジョン討伐数は一つだけ……ダンジョン討伐者が国家元首に選ばれて以降は、強い者が選ばれ易いという風潮が生まれたらしく、脳筋が多い国との事。


 東一帯に広がるのがここ神聖ローマン王国だが、ベルゼビュート王国を結界で封印するに当たって中心的な役割を担った国であり、最初のダンジョンが確認された国でもあるらしい。それが理由なのかは分からないのだが、強力なダンジョンが多く討伐は遅々として進んでいない。だが、単に弱いだけだろうとリュージは思っている。


 西から南一帯に広がるのは、フランカリア王国という二つのダンジョン討伐に成功している国である。歩兵による人海戦術で多大な犠牲を払いつつも、最初にダンジョンの討伐を成し遂げた国でもあり、探検者ギルド設立の切っ掛けを作った本場とも言える。


 多くの人材を失ったので、騎士団によるダンジョンの討伐を継続する事は困難となったが、王の肝煎りで莫大な褒賞金を最初に打ち出した事で、周辺各国から挑戦者が続々と集まり、急速に経済が潤ったらしい。他の四ヶ国がこぞってこれを真似たのは言うまでも無いだろう。


 経済は潤ったかもしれないが、要は無法者が多く集まっただけなのだから、当初は相当な混乱が巻き起こったのだろう。探検者ギルドは出来るべくして出来た組織だと言える。組織としての枠組みが同じでも、地域や人によって雰囲気が違う事はよく有る事だろう、況してや国が違うのだから……本場はもっとしっかりしていて欲しい物である。


 独立したルーク公国はベルゼビュート王国の東南に位置する。ダンジョンを有する国は当初四ヶ国だったが、五ヶ国目として新たに生まれた国という事になるだろうか。自治は認められているが、周辺各国からはフランカリア王国の属国として見られており、国土の狭さから立場も弱い。


 北西に位置するアイリス連合王国は、2つの大きな島と幾つかの小さな島からなる海洋国家である。間には海が在り、国土は接していなくてもダンジョンには関係無いらしい。だが、海に沈む洞窟など特殊なダンジョンが多く、非常に厄介な事から未だに討伐には成功していない。


「図書室で調べたけど、ラストックに近いダンジョンは歩いて三時間くらいの場所に在る地下墓所カタコンベでしたよね?」


「そうそう、ずっと昔から使われていた大事な場所なんだけどね。今のラストックの街は、あのダンジョンを討伐して地下墓所を解放する為に造られたのよ」


 ラストックから十五キロメートル程行った場所には、嘗て死者を埋葬する為の地下墓所として利用されて来た洞窟が在ったのだが、今では挑んだ者の命を刈り取る呪われたダンジョンになってしまっていた。


 ラストックの建設計画が始まったのが約六十四年前、二十年という長い時間を掛けて完成させたこの街は、北東方面の辺境に現れたダンジョンの前線基地としての使命を持っている。今でこそ新しい墓所が造られてはいるが、嘗てこの地域で唯一の墓所だった事から多くの者が埋葬されており、それだけに解放を望む声は非常に多いらしい。埋葬された親族の遺体がアンデッドとして徘徊するとなれば尚更だろう。


 今までに得た情報を総合的に判断すれば、ラストックの代官であるゲルト・フォン・クルーン男爵が、フランカリア王国に於ける第二のルーク辺境伯を目指している事は明白である。国も違えば立場も違うので何処を着地点として見定めているのかにもよるのだが、五爵位の最下位から最上位は無謀ではないだろうか。


 何にせよ、男爵は目障りなので更なる権力を掌握する可能性が有るのなら、事前に叩き潰すに越した事は無いと思っている。だが、それ以上に好奇心を刺激され、すぐにでもダンジョンに挑みたいという子供染みた衝動に駆られているのが本心だろう。情報を仕入れ戦闘力にも不安が無いのだ、今のリュージは目をキラキラと輝かせて楽しみを待つ子供と同じであった。


「聞きたい事も聞けたし、そろそろ帰りますよ! 早速ですが、ダンジョンに挑みたくなりました」


「そう、調べたって言ってたから分かっているとは思うけれど、無理は禁物よ? 気を付けなさいね」


 心配そうに注意を喚起するのは新人だからという理由だと思われるが、それ以上に子供っぽく見えたからかもしれない。


 探検者ギルドからの帰り道、屋台が立ち並ぶ広場を訪れていた。ダンジョンに潜る間の食料を買い込む為なのは言う迄も無い。


「あぁ、居た居た。エイダさん、おはようございます。昨日ぶりですね」


「何だい、今日も来たのかい?」


「えぇ、ダンジョンに潜るつもりなので、食料の調達に」


「今日は、ゴツい方が居ないんだね。二人でダンジョンなんて大丈夫かい?」


 エイダを見付けて挨拶すると、皮肉っぽい返答にも拘わらず笑顔を見せてくれた。昔から知っている近所の八百屋のおばちゃんって感じで癒される。実際に野菜を売っているんだから八百屋みたいな物だが……。


『御主人、お知り合いですかニャ? あの方が売っている野菜は、可能なら買い占めてみては如何ですかニャン』


(はっ? そんなに重要な物なのか?)


『あの野菜ですが、砂糖大根って言ったら分かりますかニャ? 甜菜てんさいとかビートとも言われてますニャ。お砂糖作ってボロ儲け大作戦ですニャン』


「(成る程、実験も必要だしな)エイダさん、今日も全部下さいな」


 確かに昨日、何か聞いた時にビートとビーツと言っていた。で、あれば試行錯誤は必要かもしれないが、クゥーの言う通りに砂糖が取れる可能性が高い。


 ここに在るビートで、どの程度の砂糖が取れるかは分からないのだが実験する分には十分だろう。リュージは、昨日に続いて買い占めの提案をする。


「そんなに買ってどうするんだい? 買ってくれるのは嬉しいけどね、丹精込めて育てた野菜をただ腐らせるのは忍びないんだよ……理由を教えな」


「うちの馬が大好物らしいんですよ! アイテムBOXに入るんで腐りませんし、八頭も居るんで沢山欲しいんですよ。こうなったら、煮込み料理のレパートリーも増やしたいですね」


 リュージは、即座に適当な理由をでっち上げる。営業をしていた頃に鍛えたお陰で、雰囲気に合わせてスラスラと口から出任せが飛び出す。ポイントは分かりきった嘘は言わない事だろうか、大好物らしいと逃げ道を作りつつ実話の中に本当か嘘か分からないキーワードを混ぜて話す。


 今回に限れば九割りが本当で、残りの一割りは適当に思い付いた本当かどうかも分からない事なので、嘘だという意識は無かった。


「あんた、料理もするのかい? 馬も八頭も居ればかなり食べるだろうね……よし、良いよ! 昨日と同じ十マアクで売ってあげるよ」


「よっしゃ、買った!」


 無事に交渉が済んで、買い取る事に成功する。そう言えば交渉スキルなんて物も在ったのだ、自然に言葉が出るのはスキルの影響も有るのだろうか。


 その後は、腸詰めやら串焼きやらを調理している屋台を片っ端から廻り、買えるだけ買い込んだのだが言うほど大した量では無い。そもそも売れないので仕入れも少ないからだろう、広場に出ていた屋台は全て店仕舞いとなって寂しい感じになってしまった。


 何とか調理済みの食品を、5日分くらい手に入れたリュージは、宿に向かって歩きながら考え事をしていた。野菜や肉はかなり在るので、料理さえすれば何十日も潜って居られるのだが、ダンジョンで料理をする暇なんか無いだろうと屋台を廻ったのだ。


 それよりも、リュージが考えていたのは屋台に寄る度に聞かされた話題についてである。その話題こそが男爵夫人のその後であり、決行した作戦というか……悪戯の結果である。


 時間的にまだ半日も経ってないのに、娯楽に飢えた民衆の情報網に驚愕するべきなのだろうか。それともすぐに情報を漏らしたであろう、使用人だか衛兵のモラルに呆れるべきなのか?


 昨夜、仕事に区切りを付けて寝室に向かおうとした男爵が、リュージの狙い通りに紙に気付き確認したのだろう。夜中に大喧嘩が発生して、オイゲンまで呼び出されたりと派手に騒いだせいで、屋敷に居た者で知らない人間は居ないのだとか。


 リュージとしては、男爵は秘密裏に事を運ぶかと思っていたのだが、聞いた話だと非常にプライドの高い人物らしく我慢出来なかったんだろうとの事だ。しかし、これだと恥の上塗りというのか……逆効果でしか無いので、思慮が足りないと言わざるを得ない。尤も噂でしかなく真実は不明なので、これだけでは判断は出来ないだろう。


 今、重要なのは男爵夫人が今朝も早々に、オイゲンを含む数名の供を引き連れて街を出たという事だ。喧嘩の勢いのままに王都に在る屋敷に身を寄せる事にしたらしい。所謂、別居生活という奴をするのだろう。実家も貴族なのか知らないが、立場が男爵よりも上でもない限り、一度家を出た女は帰ったところで鼻摘み者扱いしかされない可能性がある。


 リュージが生きていた現代の日本ではあまり考えられないが、食い扶持が増えるだけで困窮する庶民のみならず、見栄を重んじる貴族にも世間体などでそれなりの苦労は有るのだろう。離婚や出戻りが認めては貰えず、血を分けた家族にすら冷たく扱われるのはどれほど心が冷えるだろうか。


 何と無く理解は出来ても、貴族として育っていないリュージには共感出来ない話であるし、一方的に見ただけで会った事も無い男爵夫人の今後など既にどうでも良かった。軽く首を振り、気分を一新すると思考を切り替える。


(一先ずは、安心って事かな?)


『ですニャ!』


 リュージの足取りは軽い、心配事が減ったという直接的な理由と、これで心置き無くダンジョンに挑めるという間接的な理由も相まって、時折スキップまでしてしまう程に……。


 リュージの逸る気持ちは宿への道を急がせる為に、無意識の内に脚を動かし飛ばすのだった。

 ステータスはこんな感じです。


 《ステータス》

 名前   鈴木立志すずきりゅうじ

 性別   男

 年齢   42

 職業   放浪者

 所属   隠れ里

 種族   異世界人


 レベル      8

 生命力   1303/1303

 魔力       ∞

 力       915

 体力      932

 知力      4310  (5upニャン↑)

 素早さ     1995

 器用さ     628

 運       417  (5upニャン↑)

 魔素ポイント 99968458

 所持金    62521マアク25ピニ


 《スキル》

[電脳Lv4]      [電化Lv3]

[心眼Lv4]      [鷹の目LvMAX]

[魔術の心得Lv3]   [剣Lv4]

[錬金Lv4]      [槍術Lv1]

[夜目LvMAX]     [隠形Lv3]

[忍歩Lv3]      [交渉術Lv3]  1↑

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1

蹴撃Lv3 石工Lv1 音波感知Lv1 海中遊泳Lv3

発見Lv1 調理Lv1


 《称号》

スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン

イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師

大蛇殺し 海洋生物 盗賊殺し トレジャーハンター

子供の味方 賞金稼ぎ

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