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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第三章 旅立ち篇 ~ラストック~
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第四十五話 闇夜の潜入!

 異世界での軍の組織や部隊編成に呼び名が有るかは知らないが、現在屋敷を固めている衛兵は小隊規模で警備を行っており、街中を巡回している者を含めれば、中隊規模も有り得る陣容であった。一個分隊九名の編成で四個の分隊が屋敷の周りを哨戒任務に当たっており、それとは別に出入口となる場所には門番が立っていた。率いる者は何処かにいるのだろうが、見える範囲では判断出来ない。


 石か何かで注意を引いている内に潜り込むのが伝統的な手法というか、お約束なのだろう。だが、そんな有りがちな手が果たして上手く行くだろうか。単体或いは烏合の衆ならいざ知らず一定の訓練を受けた部隊の連係を甘く見るべきでは無い。


(さて、何処までならバレないかな?)


『御主人なら何処まででも行けるのニャ!』


(煽てても何も出ないぞ? それより、窓の中を確認してくれ)


 壁の向こうに何かが居ても気配で分かるリュージだが、視線の向きまでは流石に難しい。そこで、少し高い位置に在る窓へとクゥーを投げ飛ばす。勿論、合意の上であり虐待では無いので危なげ無く着地したし、音すら立てない。


「衛兵が来るな。少し待て!」


 壁際の影の中に隠れていたリュージは息を殺して微動だにしない。気配を極力消す様に意識しながら佇むと、ランプを持って巡回中の衛兵が目の前を通り過ぎるが、気付かれた様子は無い。外側には注意を払っていても壁に不審者が張り付いているとは考えてもいないだろう。闇の中といえど一メートル近くまで接近されて大丈夫なら今後も安心だ。


「(御主人、今ならこっちも大丈夫そうですニャ!)」


 衛兵が過ぎ去り暫くした頃に、合図が出されたので垂直にジャンプすると、楽々と窓に取り付くリュージ。城という程には大きく無いが砦としての機能を備えた屋敷の窓には、ガラスは嵌まっていない。縦長の窓はひどく狭かったが、リュージが横になってギリギリ通れる幅で助かった。


 窓から侵入してみると内側に行く程広くなり、人が作業出来る様な空間が造られていた。ここから弓兵が攻め寄せる敵に矢を射掛けるのかもしれない。だいたい三メートルくらいで廊下に出れたのだが、つまり壁の厚さもそれだけあるという事になる。中々に堅牢な造りではなかろうか。


「隠形スキルといえど、流石に普通に歩いて居たら見付かるよなぁ」


「御主人、風になるのですニャ! 疾風の如き速度で暗闇の中を駆け抜ければ、目の錯覚くらいにしか思われませんニャ」


 確かに忍歩スキルの特訓をした甲斐も有り、足音すら立てずに走れる様になってはいるのだが疾風は盛り過ぎである。精々が強風――いや、それでも十分かもしれない。


「うん、何か格好良い事を言ってる様な気はするけど、風圧で気付かれるかもしれないし、変な称号付きそうだから止めてくれるかな! それから、はぐれそうだから中に戻っておいで」


「戻っておいで……そそるフレーズですニャン。御主人、直ぐに戻りますニャ! フェード・インだニャ!」


 称号を気にするリュージは兎も角、何かが琴線に触れたらしいクゥーは、懐かしいロボットアニメのフレーズと共にアイテムBOXに入って行く。まるでリュージが操縦される立場の様で釈然とはしないが、懐かしいネタにほっこりしてしまうのだった。


(それじゃあ、さっさとこいつを置いて来ようかね!)


『合成写真ですニャ? 御主人も、中々に陰険な手段を躊躇い無く実行するもんですニャ! こんな物が男爵の目に触れたとしたら、離婚じゃ済まされないかもしれないですニャン』


 合成写真を取り出して見せるリュージに、台詞ではディスっている様なのだが、この悪戯を心から楽しんでいるという雰囲気が、声の調子から滲み出てしまうクゥーであった。


(いや、貴族の面子が離婚を許さないんじゃないかな? この国の貴族の価値観なんか知らんけどな! これで夫人の立場が弱くなれば今まで通りの我儘は難しくなるかもしれないし、外出自体を禁止されてしまえば安心出来るからな)


『オイゲンと言いましたかニャ? もしかしたら殺されるんじゃないですかニャン』


 男爵夫人の相手として合成されているのは、護衛として付き従っていたオイゲンである。中々の傑作で、身体は隠しているが何が有ったのか想像を掻き立てる構図になっている。


 夫婦間で揉めてくれれば、夫人の自由は無くなる目算が高いので少しは安心出来る筈だし、例えバレても室内にまで入り込んだ事実が有れば、更に警備を増やしてリュージ達どころでは無くなるだろう。


(無実だったら、無抵抗で殺される事なんか無いと思うが……少しくらい抵抗して、あわよくば男爵殺してくれると手間が省けるんだけどな)


『今更、手を汚すのを恐れてる訳では無いんですニャ? このまま暗殺の方が手っ取り早いですニャン』


 確かに、ここまで来れば赤子の手を捻る様な物かもしれないが、厳重な警備の隙を潜り抜けた上でいつでも殺れると知らしめる方が、より面白いだろう。単なる悪戯が目的なので、リュージからすれば手間とかはどうでも良い事であった。自分の手を汚さずに終わるなら、その方が楽だなと思ったのも事実であるが、そこまで期待している訳では無いのだ。


(殺人事件で少しは話題になるだろうが、犯人が捕まらなければ民衆までもが恐れおののくかもしれないだろ? だが、仲違いでもしてくれれば逆に笑い話を提供する事くらいは出来るかもな)


『成る程、人の不幸は蜜の味ですニャン! 不満が溜まった民衆のガス抜きが、少しは出来たら良いですニャ』


 分厚い壁に遮られ、星明かりすら届かない廊下は、節約の為かランプの火も落とされ闇に閉ざされている。夜目スキルを持つリュージには好都合な状況の中、あちこちを探索すると衛兵が扉の前に立って警備している部屋が二ヵ所見付かった。


 一つは男爵だろうが、重厚そうな両開きの扉は執務室か何かだろうか。リュージは片開きの扉の方が寝室であり、夫人が居るに違い無いと当たりを付けるのだが、念の為に両方に合成写真を入れる事にした。

 

 問題は扉の前に立つ衛兵の存在である。意識を刈り取ってしまえば安心なのだが、音も無く気絶させる様な技術は無い。知識としてなら顎先を打って脳を揺らせば良いらしいのだが、加減が分からない。衛兵は扉の両脇に一人ずついるので、打撃により一瞬でとなれば確実性が重視されるのだ。


(狙って気絶なんてやった事無いからなぁ。取り敢えず、達磨さん転んだで行くかな。気付かれたらその時に考えよう)


『お気楽ですニャ……本気で遊ぶつもりなんですニャ~』


(ん? まあな。実験も兼ねてるし!)


 リュージは、衛兵が立っている側の壁際をスルスルと移動するが、やがてランプの明かりが届く範囲に近付くと、ここからが本番とばかりに細心の注意を払う。


 退屈なのか、衛兵が欠伸をしている隙に一気に距離を縮めたリュージは、衛兵の隣にしゃがんでいる。途中から忍者の歩法の一つである深草兎歩という、手の上に足を乗せて歩く歩法で進んでいたからである。隠形と言っても透明になる訳では無いだろうと、出来るだけ視界に入らない様に姿勢を低くした結果なのだが、匍匐前進ほふくぜんしんでも良いだろうという突っ込みには、それほど綺麗な廊下では無さそうだからと答えるのではないだろうか。


『御主人、ここからどうするんですかニャ? 目の前を移動するのは流石に難しくないですかニャン』


(よし、あいつの後ろの隙間を通って扉の下から写真を差し入れて来てくれるか?)


『了解ですニャ!』


 直立不動で立ち続ける衛兵の後ろは、寄り掛からない様にだろうか? 三十センチメートル程の間隔を空けているので、写真を差し込んで来る様に頼む。写真がプリントされた紙の裏には、この程度の警備ならいつでも侵入出来るという内容の文面が書かれており、有る意味では脅迫状である。


 仔猫サイズのクゥーであれば、壁と足の間といえど三十センチメートルも有れば余裕の通路である。八つ折りにしたA4サイズの紙を口に咥えて歩いて行く足取りは軽快である。衛兵も足元とはいえ背後を歩くクゥーに気付く気配は無い。


 無事に任務を終えて戻って来たクゥーを褒めつつ、もう一ヶ所も同じ様に写真を入れて帰宅するのだが、「帰宅するまでが遠足である」と教育を受けている日本人として油断するべきでは無いと気を引き締める事にした。だが、暗闇の中を走り去るリュージの存在に気付く者など、ラストックの街には皆無なのが事実であった。

 





 翌日、盗賊の褒賞金を確認に探検者ギルドを訪れたリュージは、受付にギルドカードを渡して結果を問うと再び奥の部屋に通される。そこは、二日前と同じ部屋であり主任であるパメラの居る部屋であった。


「よく来たわね! ラストックは楽しめてるかしら?」


「いや、連れが買い物中に男爵夫人と揉めたらしくてね。出掛けるのも控えてる始末ですよ」


 受付の人に案内されて部屋に入ると、挨拶もそこそこに世間話を始めるパメラに内情を打ち明けるリュージ。調べれば分かる事を変に隠す気は無いのだった。


「それは災難ね。男爵夫人といえば昨日、恐ろしく精巧な手配書が偽造されて、あちこちに貼られたらしいのよ。見付かったのは二十枚って事だけど、うちにも中と外に一枚ずつ貼られたわ」


「男爵夫人が狙われているって事ですか?」


「どうかしら……悪戯にしては絵が精巧過ぎるし、使われている紙も見た事が無い程の品質だから庶民に手が出る様な物では無いわね。でも、貴族でもあれを作れる者となると……そんな人物なら偽造する意味も無いでしょうしお手上げ状態なのよ」


 世間話の延長なのか疑われているのか知らないが、偽造された手配書の真相を語り出すパメラの反応を見ながら、合いの手代わりの返事をしながら素っ惚けて見せる。ただ単に世間話っぽいと判断するが、違っても証拠は無さそうなので問題は無いだろう。


「そんな事を言っちゃっても、ギルドは大丈夫なんですか?」


「直接聞かれなければ大丈夫よ。夫人自身が好かれる様な人じゃ無いから、告げ口の心配も要らないし? 警備もご自身の兵で間に合うそうだからね」


 どうやら、民衆に嫌われている事は確定で探検者ギルドも深入りするつもりは無いらしい。自業自得とはいえ、孤立化していて構わないのだろうか。いざという時は強権を発動すれば良いとでも考えているのかもしれない。


「そうですか……それより、盗賊の懸賞金なり褒賞金はどうなりました?」


「あぁ、ごめんなさい。話が逸れたわね……調べた結果、懸賞金が掛けられていた賞金首は四人居たわ。これが内訳になるんだけど」


 見せられた羊皮紙には、盗賊団の名称と思われる物の横に賞金首の名前と掛けられた懸賞金額が記載されており、賞金首以外に関しては一律一マアクで計算されていた。


 一番多いのが『浮浪者の影』という盗賊団で、懸賞金が掛けられているのが二人……待ち伏せのスタンツと呼ばれる頭目と、その女でありナンバー2の騙し討ちのアビーとなっている。懸賞金額は、スタンツが二百マアクでアビーが百マアクとなっており、実力的にはそんな物かと思う反面、隠して有った財宝の額からだと少なく感じた。


 その次が『新しい風』で頭目が強襲のリルケという名の賞金首として、百マアクの懸賞金になっていた。最後の賞金首が『野獣の牙』を率いる黒斧のザッカリーで八十マアクと書かれているのだが、正直この辺は記憶が薄いので最初に出会った盗賊がどちらだったかも覚えていない。矢を射掛けて来た時点で殲滅したので、会話もしなかったのが原因の一端だろう。


 それよりも、懸賞金の合計が四百八十マアクで褒賞金の合計が五十一マアクなので、五百三十一マアクが五十五人分の命の値段となるのだが、それ以外にも見過ごせない項目が存在していた。手数料五十三マアク十ピニ。そして、特別収入税二百六十五マアク五十ピニとなっていた。


「この国では、これが普通に罷り通るんですか? この際ですから、手数料は置いておきましょう。高い気はしますが、1割と決まっているのなら調べる為に人件費等も掛かっているでしょうし、納得出来なくも無いですから。ですが、この特別収入税って何ですか? こっちは命懸けで撃退したんですけどね」


「それが、賞金首を調べていたら徴税官が現れて、代官命令だからと言って半額を税として納める様にと……」


 また、徴税官……スラムの貧しい人間を、子供もろとも奴隷として売り払った者と、同じ人物だろうか。


「今迄は、無かった税なんでしょう? 誰の懐に入るんです? 代官ですか、それとも徴税官自身ですか?」


「ごめんなさい」


 厳しい口調で追及するリュージに、申し訳無さそうに謝罪するパメラだが、結局どちらとは言わなかった。恐らくは、知らないなんて事は無いだろう。知ってはいても、証拠が無いから言えないとか守秘義務が有るとかだと思うのだが、苦虫を噛み潰した様な表情を見る限り、好き好んで庇っている訳では無い事くらいは分かる。


「別に、パメラさんが謝る必要は有りませんが……この懸賞金も、もっと高かったんじゃないですか? 他の街に持ち込むので首を返して欲しいと言ったらどうします?」


「それは……、徴税官が持って行ったから無理じゃないかしら。悪い事は言わないから、今回は諦めた方が良いわ」


 羊皮紙とはいえ、紙切れ一枚しか無い時点で無理だろうと、半ば予想していながら返却を求めるリュージに、既に回収されている事を伝えるパメラ。諦めろと言うが奴隷の件を含めて二回目である。仏の顔も三度までと言うが、死んだ訳でも悟りを開いた訳でも無く、況してや生き仏なんて崇高な者でも無いので、三回も我慢したく無いと言うのが本心である。


「良いでしょう。ですが、俺はこの国の生まれでは有りませんし、納得出来ない制度が多過ぎますからね。もし、降り掛かる火の粉が有ればそれが役人だろうと振り払うし、身分なんて糞喰らえって考えだからよぉ……貴族上等!」


「どういう意味? 貴族は上等だと思うけど」


『御主人、その言い回しは独特過ぎて上手く変換されていませんニャン。若返って昔の癖が出ましたかニャ?』


「(うわ~、マジか! わざわざ説明し直すとか、恥ずかし過ぎるだろっ!)え~と、上等だからいつでも歓んで喧嘩でも何でも買うし、売っても良いですよって意味の言葉なんですが、故郷の独特な言い回しなんで忘れて下さい」


 衝動を押さえて敢えて我慢するのだから、一言くらい言ってやろうと口を開いたリュージは、段々と興奮して来たからだろうか……若かりし頃の言葉が口を突いて出てしまった。


 ところが通じなかったらしく、自分で意味を説明する羽目になり、何とも締まらないリュージであった。

 ステータスはこんな感じです。


 《ステータス》

 名前   鈴木立志すずきりゅうじ

 性別   男

 年齢   42

 職業   放浪者

 所属   隠れ里

 種族   異世界人


 レベル      8

 生命力   1303/1303

 魔力       ∞

 力       915

 体力      932

 知力      4305  

 素早さ     1995  (10upニャン↑)

 器用さ     628  (10upニャン↑)

 運       412  (20upニャン↑)

 魔素ポイント 99968458

 所持金    62546マアク25ピニ


 《スキル》

[電脳Lv4]      [電化Lv3]

[心眼Lv4]      [鷹の目LvMAX]

[魔術の心得Lv3]   [剣Lv4]

[錬金Lv4]      [槍術Lv1]

[夜目LvMAX]     [隠形Lv3]   2↑

[忍歩Lv3]   1↑  [交渉術Lv2]  

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1

蹴撃Lv3 石工Lv1 音波感知Lv1 海中遊泳Lv3

発見Lv1 調理Lv1


 《称号》

スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン

イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師

大蛇殺し 海洋生物 盗賊殺し トレジャーハンター

子供の味方 賞金稼ぎ

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