第三十九話 探検者ギルドにて!
リュージ達は待たされていた……。
後から手続きをした男性は、既に登録が完了した様なのだが……。何故こんなに待たされるのだろうか? 駄目なら駄目で早くして欲しいと思うのは、リュージがせっかちな訳では無いだろう。
暇なので、あちこちを見て廻る――掲示板に貼られていたのは羊皮紙という奴だろうか。依頼票なのかと思えばそうでは無く、素材の現在価額らしい。稀少な物や大きい物は高く、余っている物は安くなるそうだ…なんだか株価を見ている様な気分になるのだが、あながち間違いでは無いだろう。
探検者ギルドはダンジョンの討伐を目的に組織されているので、兎に角ダンジョンに潜らせて攻略、あるいは素材の回収を促すらしい。ゲームや小説で見かける依頼というシステムは、個人依頼のみなので掲示板には貼られないそうだ。
ダンジョンは死んで戻らない者も多く、戻って来るかも分からない者をいつまでも待つよりも、実績のある探検者と個人的に契約をして素材を集めさせた方が良いという商人が多く、いつの間にかそれが普通に行われる様になったらしい。
一階は掲示板と受付の他には訓練場も有ったりするが、バックヤードは立ち入れないので分からない。二階には図書室や食堂もあるらしいが、呼ばれるのを待っているので不味いだろう。
結局、掲示板しか見れなかったが漸く審査が終わったらしい――。
「……リュージさ~ん、リュージさんはいらっしゃいませんか~?」
「はい! ここに居ます。審査はどうなりましたか?」
先程の受付の女性に呼ばれて返事を返すリュージは、受付に向かうと待ち切れ無かったとばかりに早速、審査の結果を問い掛ける。
「あぁ、イヴァンジェリンさんにコリーンさんもいらっしゃいますね…大変お待たせしてしまって申し訳ございません。まず、審査結果は合格ですので登録は出来ます。ですが、リュージさんだけ魔力量の再計測をさせて頂きたいと主任が申しておりまして」
「主任? 再計測? え~と、そもそも計測した記憶が無いのですが……間違いでは?」
「いえ、採取させて頂いた血液から魔力量を割り出して審査をするのですが――リュージさんの分に間違いが有るのでは無いかと……」
「えっ? では、自分だけ駄目なんですか?」
審査とは聞いたが、魔力量をそんな方法で計られるとは思わず、それ以上に予想外の回答に面喰らってしまう、無限の魔力は何処に行ったのか?
「あぁ、いいえ! 他のお二方の魔力量がかなりのレベルなので……、パーティーとして行動するのなら問題無いかと」
「はぁ……。魔力量は負けてない筈なんですけどね? 再計測って何をするんです? また、採血ですか?」
どうやら、パーティーのお荷物的な立場に見られている様なので、チラッと事実を伝えてみつつ再計測について確認する。
「いえ、あちらの部屋で主任が計測するそうなので、付いて来て貰えますか?」
「はい。行くのは自分だけですか?」
「他のお二方は優秀な魔法使いである事が分かっておりますので……再計測をするリュージさんのみで結構です。お二方はお待ち下さい」
「そうですか」
事実なのに言い訳をしていると思われたのか、華麗にスルーされたばかりか哀れむ様な目で見られてしまうリュージ――中々に心が冷える展開である。
カウンターの横にある扉から中に通され、奥の部屋に案内されるリュージ。部屋が幾つか在るが全ての役職者に与えられるのだろうか。
「主任、リュージさんをお連れ致しました」
「どうぞ」
中から聞こえて来た声は女性の物だった。厳ついおっさんだとばかり思っていたが、先入観だったらしい。
「貴方がリュージね? どうぞ、こちらに掛けて頂戴! あぁ、貴女はもう良いわ」
「はい、失礼します」
部屋の主に言われて、案内してくれた受付の女性は退室して行く。席に座る様に促されるが、やけに豪華な革張りのソファーだが、ただの主任に必要だろうか。
「再計測って聞きましたが?」
「あぁ、それは方便よ……気にしなくて良いわよ? それよりも、まずは挨拶かしらね! 私の名前はパメラよ……探検者ギルド本部での肩書きは主任になるわね、ラストック支部では審査部門を統括しているわ」
目の前で自己紹介する女性を見てリュージが思ったのは保健室の先生だろうか。羽織っている服が白衣の様に見えるのだ。その雰囲気は秘書。出来る女とかキャリアウーマンといえば良いのだろうか?
リュージと同じ黒髪は、この辺りでは珍しいのではないだろうか? 異世界に来て初めて見る髪色に目が行きがちだが、その容姿も目を引くに十分な魅力を持っている。
年の頃は二十代前半――如何にも才色兼備という印象を受ける女性だが、そのけしからん胸が白衣の様な服を内側から押し上げて自己主張している。ゆったりした服のせいで腰回りのラインが分かり難いが、それが逆に創造力を掻き立てるのだった。
「本部…? ラストック支部ってここですよね?」
「そうよね……分かり難いわよね? つまり、本部から出向しているのよ! これでも、ここではギルドマスターに次ぐ地位なのよ?」
本部でどの程度の発言力があるのか分からない……係長や課長に部長もいるのだとしたら、それほどの権力は無さそうだ。少なくともラストック支部ではギルドマスターの次らしいが出向組って煙たがられないのだろうか。
「要はナンバー2だと?」
「そういう事! それでは理解を得られた所で本題に入るわね? 貴方の魔力なんだけど測定不能なのよね……。こんな事は今までに一度も無かった事なんだけど、何か理由に心当たりは有るかしら?」
「(成る程、測定不能ね……)さぁ、全く分かりませんね……どうやって調べてるんですか? 道具が壊れているだけとかでは?」
「方法は簡単よ? 採取した血液を特殊な魔道具で検査する事で魔力量を推測出来るのよ! 自分でも確かめたから故障は無いわね」
その魔道具かどの様にして計測しているのか詳細は分からないが、無限の魔力は測定不能になるらしい。設定された数値を超えてしまったからか? それとも、読み取る事すら出来無いのか。魔力が無限に有るから等と言って、追いかけ回されたり人体実験に協力する気など全く無いリュージは、すっとぼけてみせるのだった。
(この人に追いかけ回されるなら――いや、無いな……ひたすら献血とか面倒過ぎる)
『御主人、久々に見た黒髪だからって鼻の下を伸ばし過ぎですニャン。クゥーだって黒毛ですニャ?』
(ん? そうだな……クゥーも黒いな……でも、猫だし! 可愛いとは思うけど……小動物だからな)
『ニャ~ン! ショックですニャ。猫を選んだのは御主人なのですニャ……しかも、微妙に上げてから叩き落とされた気分ですニャン!』
何やらショックを受けて引き籠るかにみえたが、リュージに呼ばれるとすぐに出て来るあたりがAIの性なのか……何にしても可愛い物である。
「……ょっと……ねぇ、話聞いてる?」
「えっ? ……あぁ、考え事をしてました……やっぱり心当たりは有りませんね」
「考え事は兎も角、話の途中でボーッとするのは感心しないわよ? あと、嘘を付くのもね……私が魔力を感知出来ないとでも思った? その膨大な魔力…人のそれを超えているわ! 必ず理由が有る筈よ」
魔道具なんて物を使用しているので、うっかりして考えが及ばなかったが魔力感知……確かに審査を統括しているのなら、魔道具に頼らない判断も下せるのだろう。
「え~と? 嘘と仰られましても……気が付いた時からこうですし」
「そう、生まれつきなのね。ご両親はご健在? ご挨拶に伺いたいのだけど」
何やら都合良く勘違いしてくれたのは良いのだが、これまた聞く人が聞けば勘違いしそうな事を言い出すパメラ。ご両親にご挨拶とか……独身生活の長いリュージにとって憧れのフレーズの上位にランクインする言葉ではないだろうか。しかし、父は亡くなり母は異世界――会える訳が無いのだった。
「いえ、会えない場所にいるので」
「私とした事が、悪い事を聞いてしまったわね……ごめんなさい」
どうやら、勝手に勘違いをしてくれた様だ……確かに父は亡くなっているが、かなり昔の話であるし母は元気一杯で病気知らずである。妹も結婚して、自分よりもしっかりしているくらいなので心配は無い。何かが有っても妹が居れば母は大丈夫な筈だとリュージは信じているのだから、暗くなる事は何も無い。
「いいえ、お気に為さらず……それで、登録は出来るんでしょうか?」
「それは問題無いけど……いえ、良いわ! これが貴方のギルドカード。そして、こちらが残り二人の分になるわ。貴方から渡して置いて頂戴! ランクの説明はまだなのよね?」
「ランク? まだですね」
「難しい事は何も無いわ? ダンジョンで魔物を倒して得た素材を売る! これだけよ。ギルドが買い取った累計金額に応じてランクアップするのだけど、商人と直接取引したりお抱えになる探検者も居るから実力よりも下のランクの人も多いわね……それでも、ランクを上げた方が信用を得られるのも確かだから無駄では無いのよ?」
何とも雑である。だが、分かり易い。ランクは目安でしかなく重要性は低い様だ……実力は装備や魔力とか立ち居振る舞い等で判断するしか無いのだろうか。実力者は嫌でも目立つ! 噂でも立てば二つ名も勝手に付くのだろう。
しかし――
「はぁ、そんなんで良いんですか?実力に見合わない魔物と戦って死んだり……」
「探検者ギルドはあくまでもサポートよ? 命の責任までは取れないわ……。ダンジョンに挑むのは全て自己責任になるけど、集めた情報を公開したり素材の売買を仲介をしたりと役には立っている筈よ! 後はパーティーを組んだりと出会いの場でもあるわね! ギルドが審査をしているのは、一攫千金を狙う者は後を絶たないけれど、やたらと死なれるとダンジョンの難易度が上がるからかしらね」
危険だと分かっていても金の為に集まる有象無象……同じく命を掛けるのでも安定を求めるなら、騎士団を目指すなり兵士になるなりすれば良いのだろう。そうでは無く一攫千金を狙う者の中には明らかに実力が無い者も居る為、審査をするのだが勝手に入る者は何処にでも居るそうだ。そもそも金に困っている者には、登録料が払えないのだから……。
「もっとしっかりした組織かと思ってました。杜撰な管理しかしてないんですね~」
「そうかしら? 何でもかんでも頼られても、全てに対応出来る程の人材も資金も無いわ! そんなに力の有る組織なら探検者に頼らずに攻略するんじゃないかしら? 現実は甘くないのよ……騎士団ですら多大な犠牲をだして手に負えず、懸賞金を出して民間に丸投げしたのだから! でも、情報を買ってでも公開したりと頑張っているわ」
「……成る程、慣れる迄は無理をしない様にしますよ。あっ! 話が変わるんですけど良いですか? 懸賞金で思い出したんですけど、旅の途中で襲って来た盗賊を返り討ちにしたんですよ」
「証明出来る物……身元が分かる様な物は有るかしら? 名の売れた盗賊なら懸賞金も出てるかもしれないけれど、証明出来なければくたびれ儲けね。まぁ、命が助かっただけ増しだと割り切る事ね」
「有ります……これで良いですか?」
その場に五十個以上に及ぶ首を纏めて放り出す――ゴロゴロと転がる首が散らばり、いきなり凄惨な光景が作り出される。
「キャァァァァー、いやー見てる! こっち見てるー!」
「……あれっ?」
耐性が全く無いのか吃驚しただけなのか……無数の首を見て悲鳴を上げるパメラ。突然、生首を見せられて平然とされるのもどうかと思うが、探検者ギルドの職員――それも本部の役職者が悲鳴を上げるとは思わなかったリュージは困惑の表情をするのみで固まってしまう。
だが、それで終わる訳が無かった! ここはギルドの内部なのだから。手の空いた職員やら警備担当やらが詰め掛けるのに、然程の時間は掛からなかった。「今の悲鳴は一体、何事ですか?」とか「ご無事ですか!」などと言って入って来た職員達も、部屋の惨状を見て絶句していたが、事情を説明して理解して貰った。もの凄く怒られたがそれは仕方が無いだろう。
「ごめんなさいね……驚いてしまって、取り乱した事は忘れて頂戴! 盗賊の首は鑑定が終わるのに時間が掛かるわね。明日には調べ終わる筈だから結果は明後日にして欲しいのだけど」
「はい、それは構いません。急いでいる訳では有りませんし。それより、こちらこそ考えが足らずに申し訳ありません」
「もう良いのよ……本当に忘れて頂戴! 主任としての沽券に関わるのよ」
お互いに謝罪をするのだが、パメラは忘れて欲しい様だ……職員達はどうするのだろうか。人の口に戸は立てられないと言うし無駄だと思うが、スルーしておくのも優しさだろうか? 盗賊の首は職員達が運び出してくれた、手配書を調べて鑑定が終わるのに時間が掛かるそうだが、数が多いので仕方が無いだろう。
リュージは明後日に顔を出すと約束して退室すると、待ちくたびれた様子のイヴァンジェリンとコリーンを連れてギルドを後にするのだった。
宿に戻るとフロントに居た宿の主人に食事の時間を聞かれたが、食堂で皆で食べる事にする。各部屋に運んで貰う事も可能だが、今の所そうする理由は無いだろう。それよりも時間である……庶民にまで時計が普及している訳では無いが、存在はするらしい。また、それを基準にして日に六回――六時、九時、十二時、十五時、十八時、二十一時に鐘が鳴るらしい。
(クゥー、コンフィグの時刻設定だが……二十七時間で設定出来るのか?)
『三時間延ばすだけなら可能ですニャ。日付も加工して、この世界に合わせられますニャン』
(そうか! 計算も面倒だろうけど頼むよ)
『お任せ下さいですニャ! 次の十八時の鐘が鳴ったら動かしますニャン』
これで日付と時間が分かる様になるだろう。例えスローライフを目指すのだとしても、最低限の時間は分かった方が便利だろう。リュージも異世界に来てまで、時間に追われる様な生活はしたく無いだろうが、身体に染み付いた生活習慣のせいか全く分からないのもストレスになる。
夕食の時間は十八時の鐘が目安になるらしい……じきに夕食なのでヴァルターとリアを呼びに行く事にするリュージ。
「ヴァルター、もうじき夕食になるそうだ。……娘は起きたのか?」
「お帰りなさい軍曹殿」
「何だ、泣いてたのか?そんな顔を娘が見たら心配するし……怒れないだろう? 笑ってろ! そして怒られるんだな」
「そうですね。怒られるだけで済むのなら」
「おいっ! 贅沢言ってんじゃねーよ。偶々(たまたま)助かっただけなんだぞ? それだけの事をしたんだからな……挽回する為には並大抵の努力じゃ足りないかもしれないが、お前次第でどうにでもなるさ! 親子なんだから」
それほど大きな声を出したつもりは無いのだが、リュージの声で起きてしまったのだろうか――。片目を擦りながらパチクリとした目でキョロキョロしているのは、知らない場所だから混乱しているのか、それとも警戒感の現れだろうか。
「リア……」
「……とーたん? ……ふ……ぇ、ふぇ~ん、とーたん……とーたん」
ヴァルターがおそるおそる声を掛けると、声に反応して振り返ったリアは焦点が合ったのか父親を見付けた。やがて状況が理解出来たのか……それとも父親の姿を見付けて安心しただけなのか、泣き出してしまうリア。
「ごめん、ごめんなリア……父さんが居なくて怖かったな……リア、本当にごめんな」
「とーたん、こわかったの……しらない……おじちゃ……がいっぱいな……の、チーちゃ……んもローちゃん……もなの」
嗚咽を漏らしながら一生懸命に説明するリアの口から出た名前は友達だろうか……。他にも子供は居るだろうとは思っていたが、まだまだ居るのかもしれない。
「ごめんな? もう何処にも行かないからな」
「ひっく……ひっ……ふぅ~、とーたん、っく、どこにもいかない? ……ひっく……ずっといっしょなの?」
「あぁ、何処にも行かないよ……ずっと一緒だよ!」
「……落ち着いて来たかな? 下に降りて飯にしよう……人間なんて腹が減ってると録な事を考えないからな……腹が膨れたら少しは気分も浮上するさ」
親子の様子を静かに見ていたリュージは、二人が落ち着いて来たのを感じ取り、重い雰囲気を払拭する様に美味い物を食べようと提案する。
「お待たせしてしまって、すみません軍曹殿」
「いや、良いさ」
ヴァルターは申し訳無さそうに謝罪するのだが、リアは父親がリュージに頭を下げるのを不思議そうな目で見ていた。だが、意識の半分は食事の事で占められていたのは間違い無いだろう。




