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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第三章 旅立ち篇 ~ラストック~
36/72

第三十五話 街道沿いを行こう!(後編)

予定より少しだけ長くなってしまった…。


 今の今まで余裕の表情を浮かべ、イヴァンジェリンやコリーンを品定めするかの様に眺める者や、分け前の使い道でも想像したのか下卑げひた笑み絶やさなかった盗賊達に、混乱が生じる。突然の出来事に事態の深刻さを理解する者など僅かにも居らず、ただただ驚愕する者ばかりであり、ボスからして喚き散らすだけであった。


「こりゃあ、一体何だってんだ?」


「お頭~! ありゃあ何だ? どうしたら良い?」


「知るかけー! ちったぁ~自分で考えやがれ!」


「考えるのは、あのガキをぶっ殺してからにしな! 行くよテメェ等!」


 場の混乱を僅かばかりとはいえ治めてみせたのはアビーだった。力が強いだけが取り柄の脳筋男が、三十人近い盗賊達を纏められているのは頭脳労働をアビーに任せたからだろうか? 的確とは言えないまでも、行動の指針は示された。


「イヴ先生と師匠はエアステとドリッテを守って、必要ならウルバインのフォローでもしてて下さい」


「……大丈夫?」


「それを俺に言いますか? 前も見てたじゃないですか……大丈夫ですよ」


「……殲滅……」


 武装したウルバインは兎も角、大事な馬を傷付けられる訳にはいかない。この旅を通して愛着を感じているリュージは、二人に馬の方を任せるのだった。


 盗賊からすれば戦利品として売る事も出来るし、食料にする事も出来る馬を殺すのは損であるが、状況が不利になった時には何をするか分からない……逃がさない為に旅の脚を狙う奴も居るだろう。魔法使いが三人居るだけで過剰戦力なのだから、二人を防御に回せば心配するのが馬鹿らしくなるだろう。


 何処と無く不安そうにするイヴァンジェリンに笑みを返しつつ取り出した剣を構えるリュージ。唐突に出現した剣に動揺するのは仕方が無い事かもしれない。だが――


「クククッ……ついてるねぇ~、今日はついてるよ! こんなガキがアイテムBOXを持ってるとはねぇ……テメェ等、あのガキが持ってるアイテムBOXを奪えば大金持ちだ! こんな盗賊稼業からもお去らば出来る!」


 アビーの声と共に斬り掛かって来る者が二人……左右からの挟撃を一歩踏み出すだけで難無く躱し、振り返り様に剣を一閃する。斬られる寸前での一歩は、躍り掛かる剣を紙一重で擦り抜け、振り切られた剣閃は隙を晒した敵の背中を一纏めにして斬り裂いていた。


 圧倒的な速度で振られた剣は、大して切れ味の良く無い量産品であるにも拘わらず、革鎧など無いとばかりに抵抗も許さない。量産品とはいえ頑丈さだけを求めて鍛えられた剣は、僅かに曲がっていたが折れる事無く二人をほふってみせた。


「……残り七人だな」


「かっ、囲め! 数で押し切るんだよ! あの二人は、ガキ一人に油断してたんだ! 油断さえしなけりゃあんなガキ、どうって事無いさ!」


「さて、どうするか……よいしょ……っと、それっ!」


 剣を地に突き刺したリュージは、考えが有って足元に転がっていた石ころを適当に拾い上げたのだが、敵からすればチャンス以外の何物でも無かっただろう。隙を見付けたとばかりに飛び掛かって来る敵の剣を掻い潜り、その背後に回ったリュージは敵の体と鎧の隙間に指を差し込み、無造作にぶん投げる。不意に行われたそれは、近付いていた二人を巻き込み押し倒すだけでは無く、他の者の注意を引くのに十分なインパクトがあった。


「――ふんっ!」


 つい、倒れる仲間を目で追ってしまった者は頭に石ころを受けて昏倒して行く。十分な殺傷力を持ったそれは全力であれば頭を吹き飛ばし、脳漿のうしょうを飛び散らせる威力を発揮するのだが、コントロールを優先した軽い一撃でも意識を刈り取るくらい造作も無い事だった。


 二人を昏倒させた所で、一人が背を見せ逃げ出しのだがそれは悪手である。【嶂壁】が行く手を遮り逃げ場など無いのは勿論だが、リュージが逃がす訳が無いのだから。


「こうなる前に逃げれば見逃してやったのに、仲間を置いて逃げる奴は嫌いだな……っと!」


 狙いをあやまたず逃げる男の背中に命中した石ころは粉々になって消し飛ぶが、その衝撃は男の身体を撃ち抜き見事に背骨を粉砕する。幸か不幸か着ていた鎧が緩衝材となり、即死は免れた様だが時間の問題だろう――痛みで呼吸すらままならず意識を失う事も出来ないのか、呻きと叫びを繰り返す。


「何だい、一体何だってんだよ!? ただのガキ一人じゃあないか! ただのガキじゃ無いってのかい? ちくしょう、ちくしょうっ!」


「五月蝿いな……もう少し待ってろよ……氷潔晶!」


「っ!……うぐっ……くそっ、こんな氷くらいで……冷たいだけじゃないか!」


 自棄糞やけくそになって突っ込んで来るアビーの脚を包む様に、氷の魔法で拘束すると勢い余って転倒するが、脚の感覚も有り……ただの氷だと理解したのか文句を言いながら剣で砕き始める。


 漸く起き上がって来た三人は、何が起きたかも分からない内に自分達以外が無力化された状況に戸惑っていたが、目の前に迫った驚異に緊張の度合いを増して対峙する。


「こっ、降伏する! 殺さないでくれ……家族が待ってるんだよ!」


「おっ、おぉ、俺も子供が居るんだ……女房が死んじまって、俺が稼いで帰らなきゃ!」


「お、おいっ? お前ら……」


 絶対に勝てないと理解したのか、降伏すると言い出す二人……もう一人は戸惑うだけで、判断力が無い様だ。


「……そう言って、命乞いした者を殺した事は? 自分は無くても仲間が殺せば同じだぞ!」


「なっ、無い! 無いと思う……」


「俺も知らない……そこまでは、してないと思う」


「……なぁ、ボスに逆らって平気なのか?」


「お前ら! そいつをさっさと殺せ! 降伏なんて認める訳がねぇーだろがっ!」


 見た限りでは嘘は無い……少なくとも、この二人は本当に知らないのかもしれない。だが、女子供を奴隷として売っている筈だ、仮に見逃したとすれば家族を奪われた者の気持ちはどうなるのか。敵対する前ならいざ知らず、事ここに至って見逃す意味が在るのか。


(クゥー、そっと出た後にあいつ等を隠れて見ててくれるか?)


『了解ですニャン! 顔を見てれば良いですニャ?』


 足元からクゥーを出した後、注意を逸らす為に近付きながら会話を続ける。


「よしっ! だったら、あっちに行ってボスを止めて来いよ! そしたら見逃してやっても良いぞ」


「っ! そっ、それは……」


「そんな事したら、どっちにしろ殺される!」


「ほっ、ほらっ、無理だって……」


「何だ、ボスが怖くて意見も出来ないのか? なら、一緒に行ってやるよ。ついて来い!」


 リュージは、わざと背を向け歩き出す。それを見たアビーが「殺せっ! 今なら殺れるだろっ!」などと叫んでいるが無視を決め込む。今、大事なのはアビーでは無く三人の動向なのだから……。


 剣も持たずに歩いて行く背中を見て、隙でも見出だしたのか追いかけた一人の男の手には剣が握られていた。それでもリュージは焦らない、まるで背中に目でも付いているかの様に、後ろだけでは無く周囲の様子すら手に取る様に分かるのだ。


 気配察知は心眼に統合されたが、無くなった訳ではなく今も効果を発揮している。気配という何となく分かる様子は精度を増して広範囲を把握するのだ、生き物が発する熱や音……殺気や怒気などの強い感情を伴う雰囲気、凡そ気と呼ばれる物を全て察知するスキルはレベルMAXになっているのだから。


「悪いが、ボスにバレたらお終いなんだよっ!」


「「えっ……」」


 背後から斬りかかったのは、真っ先に降伏した男――他の二人は、少し離れた位置で呆気に取られている。この男にも、嘘は無かったのかもしれないが、ボスに逆らう事は出来なかったらしい。それほどボスが怖いのか、家族が人質にでもされているのか……考え出したら切りがない。


 リュージは、バックステップで瞬時に間合いを殺し、振り向き様に半回転して男の左側へと回り込むと、無防備に晒された脇腹へと前蹴りを繰り出す。押し出される形で飛ばされた先には、どっち付かずで態度を決めかねていた男が、チャンスとばかりに逃げ出していた。ボスを支持していた印象が強かったので、別に構わないのだが――運悪く抜き身の剣が頸を掠めた。


 気配で察知して、逃がすつもりの無かったリュージが、「足止めに巻き込めれば良いな」くらいの軽い気持ちで行った攻撃だったが、相手からすれば被害は甚大であった。


「うわぁぁぁぁー、血が! 血が止まらない! 死にたくない……死にたくないよ……助けて……」


「……おっ、おい……何で……」


 手放さない様にしっかり握った剣が動脈を傷付けたらしい、大して深い傷には見えなかったが血圧により拡がったのか、僅かに遅れて噴き出す血流は手で押さえても止まらない。的確な処置をすれば助かるかもしれないが、噴き出す血に動揺して錯乱状態の男に、しっかり傷口を押さえる事など出来る訳が無い。傷付けた男にしても、この期に及んでは隙を晒す訳にもいかず、見殺しを覚悟したらしい。もう一人は、急展開について来れず――疑問の声を出すのがやっと、という有り様である。


「お前はどうするんだ? やっぱり、敵対するのか?」


「おっ、俺は……」


「やっ、殺るぞ! こうなっては手遅れだ、殺るしか無い……二人で殺ろう!」


 その時である……急激に高まる魔力を感じて、視線を向けた先にはイヴァンジェリンの姿があり、その魔法が発動する様をリュージははっきりと見たのだった。


「幾千万の氷柱よ、天をする墓標となりて、彼の者共を安らかなる死へと誘え……アイスベルク!」

 

 うたう様に響くのはイヴァンジェリンの詠唱だろうか……リュージには考え付かない詠唱と共に、現れるのは氷の柱。盗賊共を取り囲む様に出現した氷柱が枝分かれするかの様に増殖し、大きく成長を続けたそれは天高くそびえる氷山を作り出した。


 それは奇襲作戦の夜に見た赤い山と同じ物、今は日の光に照らされて七色の輝きを放っていた。


「どうやら、向こうは終わったみたいだな……で、どうするつもりだ?」


「降伏する!」


「お前には聞いてない…」


「そんな、頼むよ。死にたくないんだ!」


 真っ先に降伏したのに背後から斬りかかるという行為を働いた不埒者ふらちもののくせに、この期に及んでも命乞いすればまだ助かると思える、ある意味で幸せな頭をした男は、リュージの足にすがり付き懇願こんがんする。


「誰だってそうだろう? 分かってるなら人なんか襲わずに真面目に働けば良いんだ。辛くとも死ぬより増しだと考えれば良いだけだ……簡単だろう? 楽をしようとするのは勝手だが、道を踏み外した報いは受けるべきだ。ここで死ぬのが嫌なら、面倒だが役人につき出す事になる」


「……盗みは死罪だ!役人につき出されたら、どのみち死ぬだけじゃないか! ガキのくせに偉そうな事をゴチャゴチャと……良いだろう殺すなら殺せ! ――えっ?」


 正直な話、見ず知らずの人間に説教するなどリュージのがらでは無いのだが、何故か言ってやりたくなったのは迷っている男に向けたメッセージだからだろうか……裏切り者や敵対者は許さないが、特に敵対せず反省するならば見逃しても良いかと思い始めていたのだ。


 だが、この男は違う! 自分が助かる為ならばコロコロと裏切り、自分が楽をする為であれば罪すらも犯す……反省の言葉も無く、自分の事ばかりである。


「そんなに楽になりたいなら望み通りにしてやるよ、どのみち死罪なんだろう? お前の話は自分の事ばっかりだ、反省の言葉も無いしな……尤も、聞こえているかは疑問だがな」


 アイテムBOXから取り出された槍が愚かな男の胸を貫いていた。革鎧を着ているにも拘わらず、超高速で突き出された槍の穂先が貫通し、胸から背中に抜けている。ただ台詞の途中だったからか、それとも駆け引きの序章だったのか……間抜けな疑問の声が最後の台詞となり、この世を去った。


 何も聖人君子では無いのだ……自分に殺意を向けた者に殺せと言われて躊躇ためらう理由は無かった。降伏すると言うから捕虜扱いで気を使っただけであり、称号の影響か帝国兵を屠った時から敵対者に容赦する気は無くなったのだから。


「そろそろ答えを出せ……降伏するなら役人の所、そうで無ければ神の所だ。何の神かは知らんがな」


「虫が良い話なのは分かっているが……頼む! 子供を預ける時間をくれないか?」


 降伏した最後の一人に選択を促すと、猶予をくれと申し出て来た……どうやら子供の話は本当だったらしい。


「子供が……本当に居るんだな?」


「まだ、小さい女の子なんだ……」


 そこにクゥーを抱いたイヴァンジェリンとコリーンがやって来る。ウルバインは馬を落ち着かせている様だが、ポージングで馬が落ち着くとは聞いた事が無い……本当に謎である。


「御主人、意味が無くなりましたのニャ!」


「――全くだ」


「何の話かしら?」


「御主人とクゥーの内緒話ニャ。イヴァンジェリンは、大人しくしてるが良いニャン」


「何よ……イヴで良いって言ってるのにぃ! 内緒話ってずるいわよ」


 何やら言い争いを始めたクゥーとイヴァンジェリンは放って置いて、やる事をやらねばならない。


「あっちで昏倒してる連中で、心配する家族がいる奴はいるか?」


「さぁな、今回初めて手伝う事になったんで、詳しい話は知らないんだ」


「そうか……じゃあ、親しい奴も居ないな?」


「まぁ、少し会話をしたぐらいだが?」


 リュージは自分の剣を回収すると、昏倒してる者の首を一人ずつねて行く。頭を撃ち抜かなかったのは、人物の特定が難しくなるというだけの理由であり、これまでに鉢合わせた盗賊の首も回収してあるのだ。七人の首をアイテムBOXに放り込み、アビーを見てみると散々喚き散らしたり、氷を砕こうとしていたのが嘘の様に大人しくなっていた。


 脚全体を覆った氷は徐々に体温と共に体力を奪い砕き切る前に力尽きた様だ。死んではいないがグッタリしており真っ青になって唇を震わせている。抵抗するどころか声を出す気力すら失せているらしい。


「さて、反省の言葉はあるか?」


「……ガキが、生言ってんじゃ無いよ」


「そうか……そうだな――」


 リュージは、今までで最速と言える速さで剣を振るい首を刎ねた……出来る限り痛みを感じない様に……女を斬るのは気分が悪いが、改心をするつもりが無いなら仕方が無い。


 聞けば歴史があるだろう、壮大なストーリーが展開するのかもしれない――だが、手遅れだ。勝手な話だが、ここで楽にしてやった方が良いと思ったのだろう。


「お前の名前と、娘は何処だ?」


「名前はヴァルター。娘は、ラストックのスラムにいるんだ」


「盗賊はこれで全部か? アジトは?」


「たぶん……いや、全部かは分からないな、アジトは森の中だ」


 目的地に変更は無いが、アジトは途中にある森の中らしい、どうせなら潰してしまった方が後腐れが無くて良いだろう……。面倒になったリュージは纏めて始末しようと全てをアイテムBOXに放り込むのだった。

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