第三十二話 ドイツ語らしき言語!
里を出てから、西に向かってかれこれ三時間くらいだろうか? 休憩を挟みながら順調に進んでいた。それこそ道らしい道などは無いのだが、馬車が通れる程度には開けており、背の低い雑草があるだけでこれといった障害物は無い。整備された道と比べれば抵抗は大きいし負担も掛かるのだろうが、エアステとドリッテは何でも無い様に力強く突き進む。
(隠れ里までの道なんかが在ったら不味いもんな)
「リュージ、さっきから何をしてるの?」
「えっ? 何って、走ってるんですけど」
馬車に揺られるのに飽きたリュージは、馬車を操りたかったのだが……エアステとドリッテの信頼も得られていない現状では、無理をする訳にもいかずに走っていた。折角なので、足並十法の訓練にちょうど良いと思ったのだが、その動きは端から見ていると気持ち悪いのだった。
足並十法には、小足、大足、片足、常の足、走り足、抜き足、擦り足、締め足、飛び足、刻み足とあるのだが、それを常歩とはいえ馬の足に合わせて行えば、変な動きを早送りで見せられる事になるのだから気持ち悪いだろう。
「もっと、普通に走った方が良いんじゃないかしら」
「一応、訓練ですし! これでも、だんだん慣れて来たんですけどね?」
「とぉーっニャー! 御主人、その調子ですニャン。いっち、にー、さん、しー、ニャッニャ、ニャー、ニャン、ニャー」
リュージの頭から飛び出したクゥーは、頭の上に着地すると掛け声を発する。この猫型AIは、身体を作った際にアイテムBOX内の空間を通って出入りが自由になっていたので、神出鬼没である。アイテムBOXは触れてさえいれば良い。逆に言えば、リュージの身体なら何処からでも出て来れるのである。朝は寝ていたのか出ては来なかったのだが――目が覚めただけなのか、それとも暇になったのか。
「あっ、クゥーちゃん! こっちにおいで~」
「クゥー、悪いが先生の相手をしてやってくれるか」
「ごっ、御主人! それは、クゥーへの試練ですかニャ? ご命令とあらば、致し方無しですニャン!」
そんなやり取りを続けていると、徐々にスピードが落ちて馬車が停車した。何事かと思ったが、丁度良い場所を見付けたので休憩にするそうだ。馬車を牽き続けて疲れただろう馬を、馬車から外して休ませてやるのだが、水を飲ませてやった後でブラシを掛けたり濡れタオルで身体を拭いてやったりする。
「エアステ、ドリッテ、これ食べるか?」
「ブルルゥ、ブヒィヒィヒィヒィーン」
「ブルルゥゥ、ブルルゥ」
「そうか~じゃあ、お食べ! 順番だぞ~」
リュージは、二頭とのコミュニケーションを取る為に、積極的に手入れを手伝い……終わった後で砂糖で釣っていた。彼の持っていた砂糖は結晶が成長して氷砂糖の様になっていたので、わざわざ細かく砕いた物であるが、馬が舐め続けるとは思えず、かといって噛んだりせずに飲み込んで喉に詰まらせるのも怖かったので、手間を惜しまなかったのだ。それを押し固めたので、見た目だけならそれこそ角砂糖である。
「リュージ、何をあげてるの?」
「ふっふっふ、絆を結ぶ秘密兵器ですよ。なっ!」
「「ブヒィヒィヒィン」」
馬の世話を熱心に続けていると、やって来たイヴァンジェリンの手からクゥーが飛び出し、リュージの頭の上に避難する。それを尻目に質問をして来た彼女に、はぐらかす様な答えを返してエアステとドリッテに同意を求めると、タイミング良く返事をする様に啼くのだった。
「ニャ~、クゥーですニャ! よろしくですニャン。お揃いですニャン……そうですニャ……御主人ですニャン!」
「何て言ってるか、分かるのか?」
「何となくですニャ? 目を見てれば、御主人もその内に分かる様になりますニャン」
「クゥーちゃんは凄いのね、ほらっ、おいで~」
クゥーが二頭に挨拶を始めたと思ったら、会話が成立している様だった。その内、リュージにも分かる様になると言うのだが……ここで疑問が生じる。
「クゥー、お前って何語を話してるんだ? イヴ先生達とも会話が成立してるよな?」
「かなりドイツ語に近い言語だと思いますニャン! 完全には一致しないので、訛りの可能性もしくは、ゲルマン語等といった古い言語かもしれませんニャ。生憎と古い言語のデータが少ないので判別不能ですが、魔道具の効果も有りおおよそは理解していると思いますニャン」
「何故? いつ分かった?」
「翻訳ソフトにより、元の世界の主要な言語には対応してますニャン。辞書のデータや音声検索の機能も使えば、完全に一致しなくても似ている物なら予測は可能ですニャ! 同じ言語でも難しい方言など、不明な部分は魔道具の使用で得た情報を検証してからになりますニャ。分かったのは身体を手に入れて外に出てからですニャ。それから、すぐに何でも話せる訳では無いですニャ」
元の世界の言語を網羅しているのは知っていた、コンフィグにも表示言語を変更する設定が在るのだから。だが、異世界に対応出来るとは思わなかったのだ、少なくとも単語の登録や辞書の登録をしてからの話だと考えていたのである。だからこそ、その事実にリュージは絶句した。それと同時に、本当にドイツなのか混乱してクゥーの話を半分近く――特に、後半部分を聞き逃していたりするが、大きな問題は無いだろう。
「ちょっと待て! 俺にも分かるのか?」
「スキルを獲得する必要が有りますニャ。クゥーはそういう仕様ですニャン。翻訳は可能ですニャ!」
「そうか、勉強すればスキル出るかな」
「何れくらいかは、不明ですニャン」
スキルを獲得すれば魔道具を外しても理解出来る様になるらしい、こんな魔道具が在るのだから当たり前なのかもしれないが、壊れないとも限らないのだから練習してでも手に入れる必要があるだろう。
(師匠なら、練習相手に丁度良いかもな?)
今、この時もイヴァンジェリンは「こっちにおいで~」とクゥーを呼んでいた、スルーされてから結構な時間が経ったのに……めげない人である。
「……そろそろ出発……」
「了解で~す。師匠、こっちの言葉を覚えたいので、後で練習相手をお願い出来ませんか?」
「……良いよ! 任せなさい……」
「リュージ、私は? 私も手伝えるわよ?」
休憩も終わり、呼びに来たコリーンに会話練習の話を振ってみると、快く了承を得るがイヴァンジェリンも手伝うと言って来た。
「あ~、慣れて来たらお願いします」
「えっ、何でかしら?」
「慣れるまでは、師匠くらいのペースが丁度良いかと思いまして」
「……何か、失礼だ……」
頼られたと悦んでいたのに、丁度良いだけという理由だった事にショックを受けた様だ。もしかしたら、上げてから落とされた気分なのかもしれない。何はともあれ出発の準備をしなければ、いつまで経っても進めないのでエアステとドリッテを馬車に繋ぎに行く。
(う~ん、ボロは……誰も踏まないだろうし、このままで良いかな!)
リュージは、どちらかがしたのであろうボロをそのままに、二頭を馬車に繋ぐと「頑張ってくれな!」と再び砂糖を少しあげるのだった。
旅の行程としては、ひたすら西に向かうとラストックと首都を繋ぐ街道が現れるので、そこからは街道沿いに北西へと向かうのである。この旅の行程も積み荷はアイテムBOXに入れてしまったので、相当に軽量化されている。まだ、初日なので分からないが予想以上に短縮出来るのではないだろうか。
「ウルバイン、このペースで行けば何日くらいで着くのかって分かるかな?」
「……二十日は掛からない」
食糧をたっぷりと背負って徒歩で四十日、馬車でも道無き道を行く以上ペースはそれほど上がらないが、徒歩と比べれば半分近くは短縮出来る筈である。また、乗員は増えてしまったが四人でもせいぜいが二百数十キログラムであり、当初の積み荷は水も含めて一トン以上も有ったのだから、現在の馬車の重量が予定の六分の一以下だろう事は想像に難くない。
「じゃあさ、早く着いたら少しくらいゆっくりしても大丈夫だよな?」
「……」
「……どういう意味? ……」
「里に帰りたく無くなったのかしら?」
「違いますよ! 何が有るかは知りませんけど、図書館とかが在れば行ってみたいですし、観光も悪くないかな~なんて」
言葉が悪かったのか――忽ち剣呑な雰囲気が立ち込める。何処にそんな反応をする要素が有ったのかは疑問だが、命が惜しいリュージは慌てて弁解するのだった。
「……観光……」
「考えた事も無かったわね」
「えっ、じゃあ何しに来たんですか? 行って来るだけなのに」
イヴァンジェリンの返答に、尤もな疑問を呈するリュージ。コリーンは、観光という言葉でラストックに思いを馳せているご様子――何を考えたのか、幸せそうなので放って置く。
「なっ、何って(心配だったから、そんな事)かっ、考え無かったって言わなかったかしら?」
(あっ、何か久し振りに見たかも!)
何やら一部ゴニョゴニョ言ってて聞き取れ無かったが、一応は疑問に答えたイヴァンジェリンは下を向いて頬を手で覆う――隠しているつもりなのかもしれないが、赤面しているのはバレバレである。理由はさっぱり分からないのだが、赤面して照れてる女の子は可愛い物だと思うリュージであった。
現在のステータスです!
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 8
生命力 1303/1303
魔力 ∞
力 895
体力 932
知力 4245
素早さ 1935 (10upニャン↑)
器用さ 583
運 307 (10upニャン↑)
魔素ポイント 99968458
《スキル》
[電脳Lv4] [電化Lv3]
[心眼Lv3] [鷹の目Lv4]
[魔術の心得Lv1] [剣Lv3]
[錬金Lv4] [槍Lv4]
[夜目Lv4] [料理Lv4]
[足並十法Lv3] 2↑ [蹴撃Lv2]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1
交渉術Lv1 石工Lv1 音波感知Lv1 海中遊泳Lv3
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し 海洋生物




