第三十話 旅立ちの準備!(後編)
快適な目覚めと共に、確認するのはステータスである。朝に弱いリュージは、目覚めるとまずテレビを点けてボーッとするのが日課だったが、今はステータスを眺めてダラダラするのである。
電脳がレベルアップしているのは、クゥーに色々と任せたからだろうか。ステータスを見ていると知力の上がりが半端無いが、頭が良くなったという実感は無い。クゥーがよく喋る様になったのも関係しているのかは不明だが、無関係とは思えない。他に気になるのは運だろうか? 一番上がり難い様だが、運が急上昇する様なスキルはないものか……? まぁ、数値が上昇しても幸運に見舞われた記憶は無いのだから、運勢とは違うのかもしれない。足並十法で運が上がるのだから、考えても答えは出ないだろう。
(おっと! 海洋生物? ……ついに、人類を卒業ですか?)
『哺乳類の括りは超えてませんニャ? 効果は、海中環境の適応力上昇ですニャン』
(鯨や海豚と同じ括りってか? まぁ、称号だしな)
釈然とはしないが、他に気になってる事もあるので適当な所で流す。そう、アップグレードの結果であるが、特に変わった所は見当たらない。
(何処が変わったんだ?)
そう、思った時だった。――隣に何かが現れてモゾモゾと動いたのである。寝る前には何も居なかった筈……いや、間違い無く一人だったのだ。では、隣で蠢く物は何だと言うのだろうか? リュージは、飛び上がる様に寝床を抜け出して確認をする。
「ニャ~」
「……猫?」
そこには、子猫が居た! 真っ黒でフワッフワな毛並みだが、何故か後ろ足と尻尾の先だけが白いのだ。その瞳は、エメラルドグリーンに輝いており、その神秘的な小さな瞳に見つめられてリュージは、触りたいという衝動が押さえきれない……手乗り子猫を愛でたい! 子猫は毛繕いをしながら、そのプニプニな肉球を見せて来るのだ。猫好きには堪らないその仕草に、リュージはノックアウト寸前である。
「御主人、何故ハァハァしてるんですかニャ?」
「えっ! その声は」
「クゥーですニャン!」
「なっ、何で?」
そこに鎮座する子猫は、クゥーと同じ声を発して本人であると主張する。猫なのに本人とはおかしいのだが、この際それはどうでも良い……。問題は何故、子猫の姿で目の前に居るのかという点をおいて他に無いだろう。
「アップグレードの際に、身体が欲しいと強く望んだのですニャ! 少しばかりメニューの項目が増えるよりも、クゥーに身体が有ればもっとお役に立てると思ったのですニャ! ただし、かなりの無茶だったのか身体を構成するのに、魔素ポイントを三万も使ってしまったのですニャ」
(……)
「おっ、怒ったのですかニャ? でもでも、きっと役に立ちますニャン! 御主人の中にも、アイテムBOXを使って戻れますニャン」
目の前の子猫は、耳を伏せ……明らかに怯えた様子で自分が役に立つのだとアピールをする。だが、リュージはそんな事はどうでも良かったのだ! 子猫のクゥーに、触りたくて仕方無いだけだったのだから。
「身体を構成する際に、御主人の髪の毛と幾つかの服に付着していた、猫の毛と思われる物から遺伝子情報を抜き出して合成した様なので、後ろ足と尻尾の先以外が真っ黒くなりましたニャン。クゥーは、御主人とお揃いで嬉しいのですが、お気に召さなかったのですかニャン?」
あたふたと慌てながら、必死で説明する様に癒されつつ……どうにも我慢が出来なくなったリュージは、ついに切り出した!
「さっ、触っても良いかな?」
「もっ、もちろんですニャン!」
「おぉ~、フワッフワだな! 小っちゃくって、可愛いな~。何でここだけ白いんだろうな~?」
「かっ、可愛いですかニャ! 御主人にそう言って貰えると、とっても嬉しいですニャ~」
どうやら、可愛いと言って貰って非常に喜んでいる様だが、これが目的で無茶をしたのだろうか? 見逃した前兆の正体はこれだったのか――しかし、本当に役に立つのなら問題は無いのかもしれない。リュージにとっては既に何も問題は無さそうであり、寧ろ嬉しそうにしているのだから。
「よ~しっ! 買い物に行こう! 大人しくしてるんだぞ~」
「了解でありますニャン!」
嬉しそうに身体を擦り付けるクゥーを、頭に乗せて出掛けるリュージ。なかなかに高性能なバランス感覚で、普通の猫なら落っこちる不安定な頭の上でも微動だにしないのは、お互いにバランスを取っている賜物だろうか。
西の朝市を目指して歩く中、風が吹く度にプルプルしているクゥーに聞くと、初めて体感する音や感触が少し怖いらしい。リュージを通して知ってはいたが、それは情報の一部でしか無く――知恵は有っても体感を伴った知識が圧倒的に足りて無いのだろう。それもその筈で、AIとして生まれてまだ十一日目……二週間も経っていない上に、身体を手に入れてから間も無い――正に赤ん坊状態である。
「怖がる事なんて何も無いさ! それより、頭の上で漏らすなよ?」
「しっ、失礼ですニャ! そそそ、そんな事しませんのニャ~」
明らかに動揺するクゥーを、からかいながら楽しく歩くと里が見えて来る。生まれたばかりの赤ん坊が漏らした所で如何ほどの物か? 食事すら取って無いのだから水みたいな物だろう。リュージも、分かっていながらからかい混じりに言ったのは、緊張を解してやるつもりだったのかもしれない。
朝市に着いたリュージは、物々交換用の切り身が少ない事に気付いて、鮪の解体をする事にした。鮪の切り身はまだ残ってはいたのだが、交換したり食べたりで大分消費しているのも事実であり、旅の日程を考えれば相当な量の食材が必要となるのだ。四十日間も鮪を食べ続けたら、栄養が偏って身体を壊しそうな気がするので、交換用の切り身を用意する為にも意味のある行動なのだが、何も朝市で解体をする必要が有ったのだろうか?
余った木材で、大きくて頑丈なテーブルを作り準備をしていると、何事かとチラ見をして行く人もいるのだが、然程の興味は無いらしく素通りして行く。だが、鮪を出した瞬間に道を歩く人々の目の色が変わり、次第に人だかりが出来てゆく。
「(料理スキルを付けて)……何か、見られてるな」
「御主人、どうせ見られるのなら解体ショーにしたらどうですかニャ?」
クゥーが突拍子も無い事を言い出すが、このままでは収まる筈も無く。その案を採用する羽目になった。
「さあさあ、お集まりの皆さま方! ここに取り出しましたるは、昨日獲れたばかりの鮪! 活け締めにして、血抜きも万全。冷やして保存しておけば、二、三日後には美味しく食べられると来たもんだ!」
「何だ、すぐには食えないのか?」
「よくぞ聞いて下さいました、そこのお父さん! しっかり下処理をしたので、今でも食べられる事は間違い御座いませんが、美味しく頂くなら熟成するのをじっくり待つのがお薦めですよ!! 熟成して行く過程を、食べ比べるのも乙なもんですかね~?」
ボソッと疑問の声を発した男性に声を掛け、その疑問に答える形で説明をしてゆく。疑問が出ると言う事は、興味が有ると言う事である。リュージは、営業をしていた頃の経験を活かして営業トークを展開する。
「熟成って……何れくらい変わるのかしら?」
「ん? 興味が出て来たのかな、お母さん! そうだね~、今日辺りはサッパリし過ぎて旨味も少ないだろうけど、スッキリした味わいは子供や女性に好かれる場合も有るかな? 二、三日でしっとりなめらかになって来て、誰が食べてもハッキリ分かると思うよ? 三日目以降は少し黒ずんで来るんだけど、黒ずんだ所を落として食べるんだ! ネットリとした味わいは、豊潤で深い旨味を感じさせてくれる美味! だけど、好みは人それぞれだからね! 二、三日で食べるのがお勧めかな~」
そんなやり取りを続けながらも、解体されて行く巨大な鮪。鰭と頭を落としてから、背骨に沿って切り込みを入れて、胴体の真ん中を縦に切る。これで四分の一となるので、次は当然腹側を骨に沿って切るのだが、反対側の残りも同じ様に切るのだ。要は五枚おろしって事になるのだろう。三枚おろしではデカ過ぎるのだから仕方が無い。頭と骨をアイテムBOXに仕舞い込み、四分割した身を更に切り分けて冊にしたら準備完了である。
見た所、病気や寄生虫で傷んでいる様子も無く、血抜きが上手くいったのは冊の色艶を見れば明らかである。この里の住人が、鮪の生食だけは大丈夫らしいというのは、リーラに確認済みなのだ。
「さあ、ただいま切り分けましたるは鮪の冊! 各部位それぞれと御座いますが……お集まりの皆々様は、これを何と交換して頂けますでしょうか?」
その言葉と同時に、リュージの周りは市場の競りの様相を呈する。朝市で手に入れたばっかりの食材や、交換用に持って来た獲物が飛び交い、鮪の切り身は冊単位で消えてゆく。価値は有って無い様な物なのが、物々交換という物であり価値はそれぞれが決めるのだが、こう混乱しては確認も儘ならないので、ある程度は信用するしか無い。やがて鮪が売り切れると人々は散って行き、周りにも人は居なくなる。ありがとうと礼まで言われたので、良い取り引きだったのだろう。
「御主人、大量ですニャン!」
「何処に、こんなにあったんだろうな?」
予想以上の収穫を得て、意気揚々と足りない物を探しに行く――なんだかんだで、必要な食材は揃ったんじゃないないだろうか? 里の中心部に戻り、朝市で手に入らないパンだとか、雑貨を扱う店に向かう。
「お早う御座います。いつも、パンって何れくらい焼くんですか?」
「なんだ? 藪から棒に」
ここのパン屋さんは、頑固そうな旦那が一人でやっているのだが、名前はカール――スナック菓子で有名なおじさんでは無い。奥さんは、数年前に病気で亡くなったそうだが、子宝にも恵まれなかったらしい。
「いえ、明日の朝にラストックを目指すので……こちらのパンを持って行きたいと思いまして。アイテムBOXで温かいまま運べますから」
「おぉ、そうか! う~ん、夕方に来い。焼きたてを用意しておいてやる! 何れくらい要る?」
「マジですか! ありがとうございます。無理の無い程度に有るだけお願いします」
頑固そうな見た目の割りに気の効く男である。お見合いの話も有るそうだが、亡くした奥さんに義理立てして、断っていると聞いたことがある。女性の弟子でも取って、上手く行けば良いのだが。
「そうだな、任せておけ!」
「それではまた、夕方に伺います」
パン屋を後にして、雑貨屋の中覗く。特に欲しい物が有る訳ではないが、見て気付く場合も有るだろう。尤も、無駄遣いの原因にもなってしまうので、あまりお薦めは出来ない買い物の仕方である。
(あぁ、そうか。手持ちの服だと目立つかな?)
リュージの服は、全て元の世界の物であり、楽なのでTシャツやジャージを着回しているが、意外と衣装持ちだったりする。この里では気にされた事は無いのだが、ラストックに着いた時に一人だけ作りの違う服だと、言い訳が難しい可能性もある。
「すみませ~ん、一般的な服ってありますか?」
「そんな声を出さなくても、ここに居るよ」
「おっと! お早う御座います」
「はい、おはようさん……服かい? いつも立派なのを着ているじゃないか。何色が良いんだい?」
そんなやり取りをしつつも、サイズの合いそうな服を出してくれるおばちゃんは、リネットという名前らしい。一人娘が居るそうだが、会った事は有るのだろうか?
「派手な色じゃ無ければ、何色でも良いですよ」
「それじゃあ、この辺りかね~」
おばちゃんが選んだのは、黒っぽい上下! 消炭色とでも言うのだろうか? 濃い目の灰色で、落ち着いた感じの色合いに仕上がっている。生地は、空手の道着の様な物と言えば想像し易いだろう。デニムよりも薄いので、葛城生地に近いのかもしれない。聞くと素材は亜麻との事だった。
「へぇ~、いい色ですね。鮪の冊で良いですか?」
「鮪? それだと、貰い過ぎだね。もう一着持ってお行きよ!」
そう言って差し出して来たのは、同じ服の色違いでこちらは萌葱色である。深い緑色で、歌舞伎舞台の引き幕も、一色はこの色である。残りは柿色と何だったかな?
「これも、いい色ですね。ありがとうございます」
「良いんだよ。鮪なんて、滅多に食べれない食材だしね! また、寄っておくれよ」
「明日から、暫くラストックに行くんで帰って来たら寄らせて貰いますね」
残っていた鮪の冊を、アイテムBOXから出して渡すと社交辞令が返って来たので、里を離れる事を伝えておく。その後は、雑貨屋の帰り道で魚屋が目に入ったので、貝の事を聞いてみる事にした。
「おはようございま~す」
「はいはい、ちょっと待っておくれよ? 何だ、リュージちゃんじゃないの。また捌き方かい?」
「何だ、って事は無いでしょうに。ちゃん付けもやめてくれませんか、ジョスリンさん?」
「良いじゃないのさ、捌き方も教えてるだろう?」
このおばちゃんは、鮪を捌いて貰ったり魚の捌き方を教わったりと、リーラさんの次くらいにお世話になっているのだが。最近、ちゃん付けする様になってしまった。鮫の捌き方を教わって以降、何かと魚の捌き方を教えてくれるのだが、それを言うなら対価を求めないで欲しい物だ。
「今日は、これを見て貰いたくて」
「あぁ、大きな貝だねぇ! 鮑に栄螺と尻高、床臥かい? これなら食べられるよ」
「あぁ、やっぱり食べられるんですね? 知ってる物より大きいから、不安だったんですよ~」
「なんだいそんな事かい? この時期の牡蠣じゃ無ければ大丈夫だね」
牡蠣の旬に関係して、“Rの付かない月の牡蠣は食べるな”とか言うが、五~八月の牡蠣は産卵期の為に痩せ細っていて旨くない。また、水温が温かいと毒性を持つプランクトンが増える為、それを餌にする牡蠣にも毒が蓄積されてしまう。所謂、貝毒という奴だがこれを食べると中毒を起こしてしまい、死ぬ可能性すらもあるのだ。尤も、輸送に時間が掛かって腐らせてしまう事から、ずっと昔のフランスで発令された法令が元であり、日本で言えば夏が旬の岩牡蠣も有るので絶対では無いが、わざわざ旨くない時期に危険を冒して食べる必要は無いだろう。
「ジョスリンさん、時間を取らせちゃってごめんね。これ良かったら」
「そうかい? 何だか悪いね~? それじゃあ、ありがたく貰っとくよ!」
鮑の食べ方でも考えていたのか、口を開けているジョスリンさんに、お礼として鮑を一つ進呈すると口では申し訳なさそうなのに、表情では満面の笑みを湛えていた。あのまま何も渡さずに帰ろうとしていたら、どうなったのだろうか? 過ぎた事だが、これ以上何かが起きては堪らないと挨拶をしてから、そそくさと退場する事にした。
目的は達成したので帰宅すると、太陽も真上の方に来ている。そろそろ昼だろうと思われる。食事の準備をするのだが、問題は献立を何にするのか!
(う~ん、取り敢えず鮑を捌くかな)
リュージの魔法である氷潔晶で出来た氷柱は、周りを包んでいるだけで鮑を凍らせた訳では無いので砕けば簡単に中身が取り出せる。鮑を一つだけ取り出して処理をするのだが、かなり大きいので十分だろう。まず表面を塩を使って軽く擦ってぬめりを取る。やり過ぎると固くなるので、ほどほどにしておく。
(それにしても、卑猥な形だな~)
「御主人の考えが、卑猥ですニャン?」
暫く大人しくしていたクゥーが、喋ったかと思ったらこれである。尻尾が首の辺りでペシペシと叩く様に揺れているが、何かが不満という訳でも無さそうだ。
「何故そう思うんだ?」
「何と無く、ですニャン」
「……」
「……」
何故、分かるのだろうか? 今は、頭の中では無く頭の上に居ると言うのに……。表情すら見えない位置に居て、何と無くで思考を読まれるという事は、全て丸裸にされているのと同義では無かろうか?
「それはそうと、その身体で飯は食えるのか?」
「分かりませんニャ」
「そうか……じゃあ、食ってみるしか無いな」
あまり追求しても不毛な気がするので、話を逸らしてみるが上手く行ったのだろうか?兎に角、仕込みの続きである。ぬめりを取ったら、殻の薄い方――穴が開いて無い方からスプーンを入れて身を外して行くのだが、ある程度力を入れてしまえば残りは手でも外せる。殻を外したら、身に付いている貝ヒモをはがし……?
「何だ、これ?」
「何ですかニャン?」
「真珠? 歪だけど」
「御主人、鮑玉じゃないですかニャ?」
鮑の身から貝ヒモを外していると、膜に包まれた石の様な物が有った。どうやら真珠の様だが歪な形をしており、知ってる物と比べて色も違う……クゥーの話だと鮑玉と言うらしいが、辞書にでも載っていたのだろうか?
「鮑玉か~ふ~ん、まぁ、今は良いや! 歪だし」
価値が有るのかも分からないので、今は保留して作業を続ける。貝の身から傷を付け無い様に肝を切り取り、口も取り除く……少し赤いのが歯なので分かり易いだろう。食べられない訳でも無いが、固いので取ってしまう方が無難である。後は念の為に軽く流水で洗い流して、足と呼ばれるヒダヒダの部分も取り除く。この部分は、少し硬いので軽くソテーすると柔らかく食べられるだろう。最後に貝柱の部分に、浅く縦の切り込みを等間隔で適当に入れておけば下拵えは終了だが、ここまでくれば殆んどの作業が終わった様な物である。半分は刺身なので、スライスしておく! 肝も半分に切り、醤油に溶けば肝醤油になるだろう。残りの半分は、適当な大きさでぶつ切りにでもして、バターと一緒に炒めるか……肝も入れれば味の深みが増すだろうか? バター焼きも完成である! かなりの大きさなので、一つで十分なボリュームが有り、クゥーと分けても問題は無さそうだ。
「ほれっ、食ってみな?」
「いただきますニャン」
クゥーを頭から下ろして、小さく切った鮑の刺身を与えるリュージ。バター焼きでは無いのは、味が濃いからだろうか? もしかしたら、熱いからというだけの理由かもしれない。
「こっ、これがお食事」
「どうだ? 美味いか?」
「はい、ですニャ! この、何とも言えない歯応え……噛めば噛むほど滲み出て来る旨味成分! これがお食事、これが美味しいって事なんですニャ~。クゥーは今、猛烈な感動を味わっておりますニャン! もっと下さいニャン」
「そうか、それは良かったな……もっと食え」
クゥーは刺身を与えると、器用に両手で受け取りかぶり付く! 最初は、何処かの評論家みたいな事を言っていたが、今では飲むかの様に刺身を平らげてゆくのだ。リュージも、食い尽くされる前に食べなければと自分の料理を味わって行くのだが、クゥーのもっとくれ攻撃により中断を余儀無くされる。そんな何処にでも有る、飼い主とペットの様なやり取りを繰り広げている光景を見ていた人物が、声を掛けて来たのは食事終わった時だった。
「こんにちは。リュージ、その黒いのは何?」
「あぁ、イヴ先生! こんにちは。こいつは、相棒のクゥーです。猫ですよ」
どう紹介しようか迷ったのだが、相棒だと紹介するリュージ。その後ろから、相棒だという言葉に感無量という感じで、クルクル回りながらクゥーが前に出て来る。実に器用だ! 既に猫の動きでは無い。
「相棒? 猫?」
「あれっ? 知りませんか? 猫……そう言えば見掛けなかったな? 犬も見ないし」
この里では、猫や犬を見た記憶が無いリュージ。そう言えば……と確認すると、犬は牧羊犬として居るらしい。奥まで行かなかったから知らないだけの様であったが、猫は居ないとの事だ。
「ねぇ、触っても良いかしら?」
「どうする? 自分で決めて良いぞ?」
「初めまして、イヴァンジェリン。クゥーと申しますですニャン!」
「しゃっ、喋った! 私の名前も知られてるのね。えっと、初めましてクゥー……ちゃん? うわぁ、小さくて軽い。ふわふわなのね!」
可愛い物に触りたいという気持ちが、滲み出ているイヴァンジェリンの問い掛けに対して、自発行動を促したリュージの意を汲んだのか、前に出て挨拶をするクゥー。
互いに挨拶を交わし、恐る恐る差し出されるイヴァンジェリンの手に飛び乗ったクゥーは、嫌がりもせずに身を任せていた。最初は喋る事に驚いていたのも忘れて、すっかりクゥーの手触りに夢中になったイヴァンジェリンは、何故喋るのか等の疑問も吹っ飛び夢中になっていた。
「ねぇ、リュージ! この子、頂戴?」
「駄目ですニャ! クゥーは御主人と一心同体なのですニャ。相棒ですニャン!」
「……だ、そうですから。諦めて下さい」
必死なアピールを見て、思わず吹き出してしまいそうになるが、何とか堪えたリュージは諦めてくれとバッサリ切り捨てる。だが、諦め切れないイヴァンジェリンによって撫で回され続ける事になったクゥーは、少し自重してくれと苦情を漏らすのだった。
結局、温泉が大好きになった女性達が全員集合し、同じ様な光景が何度も繰り返されたが、皆一様にクゥーの手触りにノックアウトされる。可愛いのは何処の世界でも、強い武器になるという事の証明の様であった。
その後、皆で風呂に入り――洗髪三点セットの問題が解決した事を伝える。トリートメントは使ってないので隠しておく事にしたが、問題は無いだろう。敷地の一画に陶製のタンクを三つ設置したので、無くなったら詰め替える事や、留守の間は自由に使って構わないが交代で掃除をするなりして、管理を任せる事等を約束させる。管理費代わりに氷砂糖も配って分けてあげたので、風呂上がりの飲み物は自分達で研究するだろう。帰って来たら、ここは銭湯になっているのではないだろうか?
露天風呂で、例の如くはしゃいでいると時間が経つのも早いらしく、夕方近くになっていた。パン屋で約束が有るので、皆を送る序でに向かう事にする。如何に裸体の美女達が戯れる桃源郷だろうと、以前のリュージなら先に疲れ果ててしまい、ここまで楽しむ事は無かっただろうが、今は違う! ひょんな事から異世界へと渡り、若返ってしまったのだ。ステータス等というゲームの様な仕様で、有り余る体力が七人もの美女達と時間も忘れて燥ぐ事を可能にした。
明日の朝、この里を離れるのかと思うと心残りも有るのだが、戻って来れない訳じゃ無いのだ。寧ろ、必ずや戻って来ようと目に焼き付けたオッパイに誓うのだった!
一応、これで第二章は完結なので、次からは第三章となります。
今後とも宜しくお願い申し上げます。
ステータスはこうなりました。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 8
生命力 1303/1303
魔力 ∞
力 895
体力 932
知力 4245
素早さ 1925
器用さ 583 (5upニャン↑)
運 297 (5upニャン↑)
魔素ポイント 99968458(30000downニャン↓)
《スキル》
[電脳Lv4] [電化Lv3]
[心眼Lv3] [鷹の目Lv4]
[魔術の心得Lv1] [剣Lv3]
[錬金Lv4] [槍Lv4]
[夜目Lv4] [料理Lv4] 1↑
[海中遊泳Lv3] [蹴撃Lv2]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 盾Lv1 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1
交渉術Lv1 石工Lv1 音波感知Lv1 足並十法Lv1
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 テクニシャン
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し 海洋生物




