第二十五話 一夜明けて、その後の話!
昨夜、巨大蛇を倒した後、夜が更けるのを待ってから帰宅した。心身ともに疲れている中で、周囲を警戒しながら休むのは難しい。ゆっくり睡眠を取りたかったのだ。
誰も居ない筈の我が家に、コッソリと近付くリュージ。抜き足、差し足、忍び足、周囲を確認しながらゆっくりと近づき帰宅する。
『足並十法Lv1を獲得したニャン?』
(それって何? 何のスキル?)
『忍者が身に付ける歩法ですかニャ? 十種類の歩法が在るとされていますが、足音を消して歩く事に細心の注意を払った結果、獲得条件を充たしたと思われますニャン』
(どれどれ、素早さと運か……素早さは兎も角、運は何で? 見付からない為の運か? それとも足運びに引っかけてたりするのか?)
『ニャー、不明ですニャン。仕様だとしか答えられませんニャ!』
途中、こんなやり取りも交えつつ、帰宅した我が家でゆっくりと休むのだった。
翌朝、壊した斧の謝罪をする為に鍛冶屋のルイスとリーラを訪ねていたリュージは、言い出し辛いのを誤魔化す様に、世間話から入ろうと口を開いた。いつもと里の雰囲気が違う事に気が付いたのも理由の一つである。ルイスは相変わらずだが、今は準備中で鎚を振るってはいないらしい。
「おはようございます、リーラさん! 今日って何か有るんですか?」
「あぁ、リュージ……昨夜なんだけど、北で何かが有ったみたいなのよ」
「え゛っ!」
「どうしたの? 変な声なんか出したりして!」
「あぁ……いえ、何でもありませんよ? 少しばかり驚いただけです」
「そう? え~と、何だったかしら……そうそう、それでね? 何でも凄い魔力を感じたって昨夜から大騒ぎだったんだけど、調査に出た自警団の人達も、夜は真っ暗ではっきりとは見えないから、原因が分からなかったらしいの。でもね、今朝になって大きな生き物が暴れ回った様な痕跡が見付かったらしくて、里長の所に集まって対策会議の真っ最中って訳なのよ」
「そっ、そうですか。じっ、実はですね? それの原因の一端が、自分にも有りまして……」
簡単に訳を話して斧を見せると、奥からルイスが出て来た。店先に出て来るのは珍しいのではないだろうか。
「リュージ、その斧を見せてみろ。序でに剣と槍もな」
「あっ、はい。これなんですけど」
ルイスは武器を受け取ると、一つ一つのチェックを始める。店では、あまり客と会話をする印象は無いが、馴れてくると意外と喋るという、若干人見知りの職人だった。
「槍は手入れをしてやるだけで良いが、斧と剣は駄目だ……これは、打ち直しだな」
「斧は借り物なので優先して貰えますか? リーラさん、お借りしてた方に直ったら返したいのですが――」
「もう、良いの? じゃあ、返して置いてあげる。それよりも、長の所に顔を出した方が良いんじゃない?」
リーラに促されて、里長の所へ事のあらましを報告する為に向かう事が決まった。武器は、そのままルイスに預けて修理をお願いしたのだが、代金として渡したのはお約束の鮪である。手間が掛かるので、請求された量も多いのだが、当然の様にリーラも魔法を使えるので、冷凍して保存するのだとか。尤も、交換用の食材と言っても在庫は鮫くらいしか無いので、鮪以上に効率の良い取引材料は無かった。量を減らす為の選択肢は、初めから無かったりする。
里長の屋敷を訪れたリュージは、自警団の面々の他に数名の女性の姿があるのを確認した。どうやら、会議には参加出来ずに待たされているらしい。その中には、最強と目されるイヴァンジェリンの姿もあった。
「リュージ、昨日は何処に行ってたの? 用事って聞いたけど……。コリーンにだけ伝えて行くとか、ちょっと水臭いんじゃないかしら?」
「えっ? えぇ~と、それよりもあの後、ダーナさんとか大丈夫だったかな~なんて思ったり、思わなかったり?」
「何? もしかして、それで逃げたの? あの娘は気にし過ぎなだけだから大丈夫よ。……たぶん」
「その間が気になるんですけど! たぶんって? ねぇ、たぶんって何!」
目を反らして、決して目を合わせないイヴァンジェリンの態度に戦々恐々とするリュージは、取り乱す様に言い募るのだが、逆に何をしに来たのかを問われて目的を思い出す。リュージにとっては一大事なのだが、イヴァンジェリン達にとっては里の存亡の危機かもしれず、遊んでいる場合では無いのだ。
「あ~、里長も交えて話したいんですが……呼んで貰っても良いですか? 外の方が都合が良いと思うんですよ」
「聞いてみるけど……今、会議中よ? つまらない事なら、後にした方が良いわよ?」
「はい、大丈夫です。たぶん、関係してるんで……」
一人ずつ説明するのは面倒なので、皆の前で説明しようと里長を呼んで貰う。暫く待つと、里長を始めとしてバルザックとオリアス……久々に見たが、ウルバインも居る様だ。他にも数名、リュージの知らない人が居る。
「どうしたんしゃ? リュージ、外じゃないと駄目な――」
「こっちは今、忙しいんだぞ! 何の用だ」
里長が話している途中であるにも拘わらず、オリアスが文句を付けて来る。途中から里長の台詞に割り込むのは失礼では無いのだろうか? 里長に威厳が無いのか? いや、オリアスが馬鹿なだけだろう。案の定、バルザックに蹴られている。それを無視してリュージは、アイテムBOXから巨大蛇の死体を取り出した。
「いや、昨夜の話なんですが……こんなのに襲われまして! 武器の修理で、鍛冶屋に顔を出した時にリーラさんから話を聞いて、里長にも見て貰った方が良いかな~なんて」
「むぅ、これ……は……!」
「しっ、死ん……で、るんだよな? こんなのが、近くに居たってのか!?」
「北の入り江付近に痕が有ったそうだが、そんな場所に何をしに行ったんだ?」
里長は息を飲み、オリアスはただ驚いている。真っ先に聞かれたくない質問をして来るあたり、バルザックだけは冷静な証拠だろうか? 場馴れし過ぎていて、驚いているのかどうか表情からは読み取れ無い。
「ねぇ、リュージ? どうして、こんなにパンパンなの?」
「えっ? あぁ、アイテムBOXの中だったんで、窒素が膨張したまま抜けて無いんじゃないですか?」
リュージは、昨夜の戦闘の様子を大まかに説明してみせるのだが……その間も、イヴァンジェリンはグルグルペタペタと巨大蛇の周りを回りながら、あちこちを触って調べていた。
「……成る程、死因は窒息死なのね。舌の根が気道を塞ぐ形で貼り付いちゃって、ガスが抜けて無いもの。何かの拍子に冷気で貼り付いたんじゃ無いかしら?」
皮膚の状態や口の中まで、一頻り調べて満足したイヴァンジェリンは、解剖もしていないのに死因を正確に特定して、解説を始めた。だが――
『御主人、魔法名はどうしますかニャ? このまま凍結弾で行きますかニャン?』
それを聞いていたクゥーが、追い打ちを掛ける。名前も貰って和解も成立しているので、他意は無いのだろう。現にクゥーには、蟠りも無いのだから――所謂、天然という奴である。
「(ぬぅぉおぉぉぉ~!)」
「ちょっ、突然どうしたのよリュージ! 具合でも悪いの? 怪我でもした?」
リュージは、その場で這い蹲り絶望感を漂わせていた。何をそんなに打ち拉がれているのか? 答えは簡単だろう。適当に付けたとは言え、考えたのは自分自身である。当時の己の姿を想像して、悶絶したいのを辛うじて我慢した結果こうなったのだ。他人から見れば訳が分からない状況だが、気絶出来れば楽だったのかもしれない。リュージは、久々に羞恥による自己嫌悪というものに陥っていた。
誰にも知られていない状況ならば、ここまでのダメージを受けなかっただろう。しかし、クゥーという目撃者が存在した! 共犯者でもあるのだが、日頃からユーモアと宣いながら地味に抉って来るAIに、実はかなり追い込まれていたのかもしれない。この場で確認する必要の無い魔法名を、羞恥を感じた瞬間に引っ張り出して来るあたりが、実に嫌らしい手口だ。狙っているのか天然なのか……知る由も無いリュージの精神は、磨り減りながらも鍛えられてゆく。
『御主人、どんまいニャ! 今は保留するニャン』
「イヴや、リュージは大丈夫なのか?」
「えぇ、身体に異常は無さそうだけど……疲れてるんじゃないかしら」
「そうか、もう少し詳しく聞きたいのじゃが……危機が去ったというのなら、そう急ぐ事もあるまい。少し寝かせてやると良い」
「だっ、大丈夫です、よ? 話を進めましょう」
何やら休ませる方向で話が決まり掛けるのだが、正体が知りたかったリュージは、何とか復活して続きを促した。結局、様々な意見が出されたが憶測の域を出ず、詳しい事は分からなかったが、これがはぐれの魔物である事だけは分かった。この国では、鋼蛇と呼ばれる北西の地域に生息する蛇だが、こんなに大きく成長する種類では無く、魔物になった事による突然変異体だろうとの事だった。北の入り江付近に居た事から、海を渡って来たのではないかという意見が多かったが、西から来た可能性もある。
海を渡って来たのならば兎も角、西から来たのだとしたら、ラストックの街から討伐隊が出ている可能性も少なからずあった。その場合は、隠れ里が発見される恐れがある為、誰かがラストックまで様子を見に行く事になった。
「ラストックって、四十日も掛かるんだろ? 本当に討伐隊なんて来るのか?」
「いや、先ずは調査に人を割く筈だ。探検者ギルドから数名が送り込まれるだろう。近くにダンジョンが出来れば金にもなるが、甚大な被害を出す恐れもある。気付いていれば放ってはおかんだろう」
バルザックは情報を集めているだけあり、ラストックの街にも詳しい様だ。被害に対する危機管理が十分に行き届いている為、はぐれの魔物に気付いていれば動きがある筈だと疑ってはいない。
「探検者ギルドがあるのか。……それって、誰でも入れるのか?」
「探検者ギルドは、国家がダンジョンを討伐する事を目的として支援をしておる組織じゃ。凶悪な指名手配犯でも無い限りは、大丈夫じゃろう」
里長が言うには、指名手配されていなければ犯罪者でも問題は無いらしい。尤も手配されている人間が出て来る訳が無いのだ。という事は、チェックすらされていない可能性もあるだろう。
「んじゃ、俺も行くわ!」
「当たりめぇだ! お前が行かなきゃ討伐した証拠がねぇーだろうが! こんなデカ物を誰が持つんだよ?」
話を聞いて質問をしていたリュージが、同行を求めるとオリアスの突っ込みが入る。意外に鋭い突っ込みだが、暴言にしか聞こえないのは言葉遣いのせいだろう。確かに、倒したから討伐は不要だと言ったところで、証拠が無ければ信用は得られない。運ぶ為にはアイテムBOXが必須である事も事実だった。
「マジか! 行くから良いけど、いつそんな話になった? 脳筋だと思ってたけど、意外に鋭いんだな」
「んだと、この野郎~! ちぃ~っとばかし強いくらいで、チビのくせに生意気だぞ!」
「……はっ、ははは、ふひふふふ、禁句って知ってるか? 髭面には分からないかな……俺が、直々に教えてやろう! 死んで覚えろ……ぶっ殺す!」
「そこまで! オリアス、身体的な特徴をあげつらうのは止せ。リュージも少し落ち着け!」
つまらない口論から、揉め始めた二人をバルザックが仲裁するが、少しだけ遅かった。禁句を口にしてしまったオリアスは、逃れる術もなくアイアンクローに捕らわれる。手錠を引き千切る様な握力を以て為される暴力に、最早抵抗すら虚しかった。
「ぐうぁぁぁおぉぉぉぉ、つっ、潰れるって!」
「リュージ! 弱い者虐めは感心しないわよ?」
バルザックも仲裁の為に二人を引き剥がそうとしているが、微動だにしないリュージをイヴァンジェリンが注意する。罰としては十分だろうと手を離したが、オリアスは解放された途端に気絶した。痛みで気絶する事すら許されなかった為、緊張の糸が切れたのだろうか? それとも抵抗の為に力んで脳の血管が切れたか……。
「ん? 死んだか」
「馬鹿言ってないで退きなさいな!」
「大丈夫ですよイヴさん。私が見たところ問題ありませんから、そのうち気が付くでしょう」
イヴァンジェリンがオリアスの手当てをしようと近付いて行くと、見知らぬ女性が声を掛ける。
「貴女がそう言うのだから、間違い無いんでしょうね。……安心したわセシリー」
「あの時は、ごめんなさい。見知らぬ人からは、逃げて自警団を呼ぶ事になっていたから」
「えっ? ああっ、あの時の!」
そこに居たのは、リュージが上陸して初めて遭遇した人物であった。今、現れたのか初めから居たのか……リュージは気付かなかったが、脱兎の如く逃走した人物であり、逮捕に到る一因を担う人物でもあるのだ。
「二人は、知り合いだったの?」
「知り合いって訳では無いんですよ。挨拶もこれからなんですから! 覚えていてくれて嬉しいわ。セシリーって言うの、よろしくね!」
「リュージです。こちらこそ、よろしく!」
その女性は魔眼持ちというだけあり、神秘的なオッドアイだった。右目は琥珀色で左目が青紫色の瞳はどんな力を秘めているのか……。ダークブロンドの暗い髪色が落ち着いた雰囲気を醸し出す。改めて挨拶を交わしたが、逃げた時とは違い気さくに話し掛けてくれたのだ。
結局、こんなゴタゴタを繰り広げている間も、里長とバルザックで話し合いは進行し、出発は明後日に決まっていた。それまでに、向かう人員の決定と馬車や食料の手配をするらしい。リュージが向かう事は決定らしいのだが、他は誰になるのだろうか……。
ステータスはこんな感じになりました。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属 隠れ里
種族 異世界人
レベル 8
生命力 1283/1283
魔力 ∞
力 895
体力 912
知力 3206
素早さ 1582 (5upニャン↑)
器用さ 578
運 252 (5upニャン↑)
魔素ポイント 99998498
《スキル》
[電脳Lv3] [電化Lv3]
[心眼Lv1] [鷹の目Lv4]
[魔術の心得Lv1] [剣Lv3]
[錬金Lv4] [槍Lv4]
[夜目Lv4] [盾Lv1]
[交渉術Lv1] [蹴撃Lv2]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
木工Lv3 料理Lv3 登山Lv1 投擲Lv1 伐採Lv4 斧Lv1
海中遊泳Lv1 石工Lv1 音波感知Lv1 足並十法Lv1 new
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 ムッツリ助平
イジメっ子 笑う切り裂き魔 三助 温泉伝道師
大蛇殺し




