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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第一章 異世界でぼっち篇
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第一話 見渡せば島だった!

 鈴木立志すずきりゅうじは、未だに目覚めない。あれから、何時間? はたまた、何日も経ったのだろうか? “神秘の湖”は、僅かな水溜まりを残す程度で渇れてしまった様だ。


(う~ん……痛い? 身体が痛いな。何の痛みだろう? 日焼けし過ぎて動けなくなった時の様な)


 幻肢痛げんしつうという奴だろうか? 身体は完全に回復しているし、手足が無くなった訳でもないので、痛むはずは無い。――であれば錯覚だろうか。


「やめろ! ……やめろ〇ョッカー!」


 ――ただの夢だった様だ。


「ハッ!? ……ハァ、ハァ……ハァ……」


(夢か、何か懐かしい感じの夢だった気がするんだが、たぶん……良い夢じゃ無いな。服がビショビショだし。って、汗のレベルを超えてるだろ!)


 自分自身に突っ込みを入れつつ、キョロキョロと辺りを見回して愕然とした。今、居る場所があり得ない事に気付いたのだから。


「此処は、……何処だ?」


(何故、野晒しで寝てたんだ? ……っていうか、何時寝たんだ? ゲームをやってたはずだが)


 そう、部屋では無かった。辺りは未だに湿った泥だらけであり、そこそこ広い範囲の窪み――“神秘の湖”が涸れた跡――の中だった。


 とりあえず、起き上がろうとして違和感を覚える。何かがおかしい? 自分の身体を見回してみるのだが。


「あれっ? 俺の腹って、こんなに細かったけ? それに、腕や脚も――って、えっ! おっ、おぉっ……俺の息子さんがぁ~! お子様になっとる~!?」


 調べた結果、確かに自分の身体だった! 見間違える筈が無い。子供の時に付いた傷痕きずあとが、そのまんまだったのだから。強いて言うなら、大分昔の話……部活動に励んでいた頃の身体に近いだろうか。


 ――だがしかし、納得の行かない事が一つだけあった。


(俺の息子さんが、こんなに可愛い筈が無い! こんなに可愛い筈が無いんだからね!)


 誰に言うでも無く、虚しい心の叫びが響き渡る。


(落ち着け……、先ずは落ち着こう。気が動転しているだけさ! 慌てても良い事なんて一つも無い。急いては事を仕損じるってね!)


 身体の事も気になるが、命に別状は無いらしい、ならば周囲の状況を確認して、警戒するべきだろう。此処が何処で、何が原因かも分からないが、外敵が居るかもしれないのだから。


(先ずは、この穴? 窪みから出ないと……。泥だらけでベチャベチャだし。……ん? あれは!)


 登り易そうな場所を探して振り返ると、そこには見慣れた物が散らばっていた。


「ぎゃぁー! 何故に、外にパソコンが! あぁっ、俺の家電や家具が全部有る!? ぬぁぁぁー! 濡れてるっ!? やっぱり、濡れてるー!」


 “次元のとびら”により、異世界転移した事など、これっぽっちも知らないこの男は、自分の身体や状況よりも、長年掛けて揃えた家電や家具類が駄目になった事の方が大事件であり。激しく落ち込み、泣き叫ぶのだった。


(ハァ~、何故こんな事に? 身体といい家財道具といい、精神的なダメージが半端じゃ無い。とりあえず散らばった物を集めて、確認……出来る物はして、トラックでも無きゃ持って行けないよなぁ。誰が……、誰がこんな酷い事を。こんな事まともな人間のする事じゃねぇよ!)


 突如として起こった理不尽に、溜め息を吐きつつ自分の荷物を確認して廻る。しかし、果たしてこれが人の手による犯行だろうか――。


 家財道具一式を住人まるごと気付かぬ内に、何処とも知れない大自然の中に放り出す。昔、放送されていた電波的なテレビ番組でも、ここまではしないのではないだろうか。


 そこまで考えて、よく見ると不自然な物がある。壁や天井、床材まで、あっちにはクローゼットの扉までが有る。っという事は?


「やっぱり、中の衣装ケースや収納棚も有る! これで着替えられると思ったら、濡れてるし! どんだけだよ。……乾く様に干して置くか」


 難しい事なんて考えて無かった。目先の事に捕らわれ、問題を先送りにする始末。本当に四十二歳なのだろうか?


 何にしても着替えは必要なので、濡れた服を絞りハンガーに吊るして干して置く。パソコンラックの上にでも、クローゼットの扉を乗せてやれば、服を干すスペース位は充分に確保出来る。


 服を干している間に、少し探検する事にした。着ている服はその内に乾いてくると思うし、クローゼットの奥の方に仕舞い込んだ荷物の中から、キャンプ用品が出て来たからだ。


 中学生の頃に、気の合う仲間達とサバイバルゲームをやっていた。その時に買ったブッシュマチェット、山刀というか鉈というか、大して切れ味の良い物では無いが、藪を切り開くには調度良いだろう。


 立志の時代には未だ中二病という言葉は無かったが、今思えば完全に患っていたと思う。技の名前を考えたり叫んだりと、重症では無かったけれど、大きな枠で捉えれば同類である。


 大人になってからは、殆ど使い道は無かった。っていうか、高校生の頃には別の事に興味が移り、サバゲーは卒業していた。銃刀法違反になるので仕舞い込んだまま、簡単に捨てる事もはばかられたので、思い出の品としての用途しか無かった。


 だが、こうして大自然の中に放り出されると、こんな物でも心強い。思わず中二病が再発しても仕方無いのではなかろうか。


 少し離れた場所に、比較的大きな木が在ったので、その脇に拠点としてテントを張った。数年前の夏にキャンプをする為に買った物で、その後はクローゼットの奥に仕舞ったままだった物だが――こうして役に立つのであれば、捨てられない性格も結果的には、良かったのではないだろうか。


 さぁ、出発だと方位磁石を片手に歩き出す。因みに食事は簡単にカップ麺で済ませた。冷蔵庫や炊飯器も落ちていて、近くに買い置きの野菜やカップ麺も在ったからだ。


 石を積んで釜戸を作り、火を起こした。水は沸かせば大丈夫だろうと思い、適当な水溜まりから汲んで来たが、見た目もきれいっぽいから、たぶん大丈夫だろうと判断した。


 ――とりあえず、北を目指して歩く事にした、それは何故かって? そこに山が在ったから! いや、高い所から景色を見れば人里が見付かるかと思っての事だろう。


 そうこうして、五時間は経過しただろうか。今は山頂付近の木に登り、上から下界を見下ろしている。


(……島か? 大した広さでは無いな。半日もあれば一周出来るんじゃないかな。……ただ、この島に住んでる人って居るのだろうか?)


 見渡す範囲に、人里らしき物は何も無かった。それこそ島全体を見渡せるのだが。仮に無人島だとしても、比較的近くに陸地が見えるのが救いだと思う。直線距離にして数キロ、泳ぐには遠すぎるか? 食糧等を持って行く事を考えると現実的では無い。となると舟かいかだでも造って渡る事になるのか。


(何れにしても、日が暮れる前にテントに戻るか、帰りは下り坂だし……間に合うかな?)


 疲れる事は疲れるのだが、休む事無く登り切れた。下り坂ならもう少しペースが上げられると思う。恐るべし子供体力! いやいや、違うか? 確かに子供の頃は疲れ知らずだった様な気がする物だが、そもそも行動範囲が違うのだ。実におかしい調子が良過ぎるのだ、原因はこの身体しか無いだろうけど。


 テントには、三時間半で戻れた。まぁ、同じ道程を逆に辿れば、新に藪を切り開く必要も無いし、そんなもんだろう。


 服は、乾いていたけど、やっぱり匂う。濡れている時間が長かったから、細菌が繁殖するのは仕方無い。今は贅沢は言ってられない。


 それより、ボディーチェックだ。予想はしていたが、水溜まりを覗き込んだ時にチラッと見た感じだと、若返った様だった。


 そうすると、ある懸念が生まれる。


(え~と、この木で良いかなぁ)


 そっと木に寄り掛かり、頭の位置で木に傷を付ける。そう、身長測定だ。地面は平らでは無いし、正確性には欠けるが大した問題では無い。


 持って来た巻き尺を当てて測って見る。およそ百三十五センチメートル位か? それは、中学生だった頃の身長だ。それも、二年生である。これは、中二病の呪いなのだろうか?


(今日は、いろいろ有って疲れたなぁ。特に精神面でのダメージが痛い。若返ったのは良しとしよう。だが、何故だ? 何故に縮まねばならんのか! 縮んだ分は何処に消えた? また、チビに逆戻り……折角、百七十二センチメートルになって、少なくともチビとは言われなくなったのに。またか、またチビと呼ばれ続けるのか? 俺は、成長期が遅かっただけだ。早生まれだし! 駄目だ……もう寝よう。寝る子は育つって言うじゃないか。おやすみなさい)


 こうして、異世界でのサバイバル生活、一日目の夜は更けてゆくのだった。

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