第十七話 錬金術師の幼女は師匠!
色々とやらかした感は有るものの、コリーンのお陰で、硬い岩盤でも切り出して加工する事が可能になり、夢中で切り出した石材も、かなりの数になっていた。ここからは方向性を定めて加工するべきだろう。切り出した石材を各種タイル状に加工するのだ。最初に切り出した方は、玄武岩とかだろうか途中から御影石も採れる様になった。場所毎で石質が違うのは非常に助かるといえる。
水回りは全てタイル貼りにする予定だ。浴室には天井と壁用として、仕上げに研磨した物を用意したい、床用はあまり磨かない方が、滑り止めとして有用だろう。他にはキッチン回りと洗面所にトイレだろうが、それぞれ色や仕上げを変えたい。石質を変えたり、仕上げを変えて対応するつもりでいるが、本磨きや水磨きとかが在っただろうか。後はバーナーで焼く様な仕上げも有った筈なので魔法で焼いてみるのも面白い。
内装の分は後回しでも構わないのだが、問題は外装である。見た目からして純和風にしてしまった為、外壁を石材にしてマッチするかがポイントである。屋根には瓦を用意する予定の為、違和感は無いだろうかという点が重要であるが、和風建築を知ってる人も居ないので問題は無いだろう。白っぽい御影石や大理石ならおかしく無いのかもしれない。城とか蔵も白いからだが、確か漆喰を塗ってるんだったか? 漆喰が在るのならば、そちらにした方が良いのだろうか。
さて、日が暮れるまでは、もう少しあるので、瓦を作ろう! 敷地から、魔力を使って粒子の細かい粘土を取り出した。瓦を造るにあたっては作戦が有った。電脳の活用が出来るのではという疑問から始まり、試行錯誤の末に実用化したものである。パソコンのデータの有効活用とでも言えば良いのだろうか……画像データから、同じ形を成形出来たのだ。
何度も言うが、魔法とはイメージが重要であり、魔力を素にしたイメージの産物という側面を持つ。したがって、電脳というスキルによりパソコンと繋がり、人の脳が持つ性能、全ての能力を機械的に引き出せるからこそ、可能な裏技と言えるだろう。通常であればイメージ通りの物を作るには、努力を惜しまず長い時間を掛けての訓練が必須である筈だ。そうして開眼した芸術家などが有する能力であるのだから。だが、電脳は訓練無しでこれを可能にした。
最初は一枚ずつ、同じ物がイメージ通りに出来てる事を確認したら、二枚ずつ、四枚、八枚と増やして行き、今は六四枚に挑戦中だ。いったい何枚造る気かと思うペースで造って行く。瓦の枚数が、一万枚を越えたところで、焼きに入った。少し多目に造ったのは、割れたりするかと思っての事だ。一言で瓦と言っても、非常に種類が多い。参考にした画像が国の重要文化財だったりするので、豪華で見栄えが立派なのは良いのだが、部品点数が多いのが泣き所である。好きで選んだので文句も言い辛いのだが……。無事に瓦は完成したが、上手く施工出来るのだろうか。当たり前ではあるが資格なんて取っておらす、見よう見まねになるだろう。リュージも無駄に仕事を転々とした訳でも無いので、意外と自信が有ったりするのだが。
翌朝、コリーンの家に向かったのを何故かと問われるならば、錬金術師なら良い接着剤を知ってるかと思っての事だ。製造方法のデータが有っても、材料の見分けが付かない為、頼る事にする。昨日の事も有り、若干気まずかったが気にしたら敗けである。コリーンは、手土産に鮪の切身を渡したら、快く招いてくれた……。これで、遠慮は要らない――どの道する気等無いのだが保証は大事だ。
「……何が、聞きたいの?」
「漆喰について、或いは石灰岩でも良いんですけど」
「……漆喰なら、自分で造るか里長に聞くと良い…石灰岩は、漆喰の材料」
古代エジプトのピラミッドにも使われていたらしいので在ると思ってはいたのだが、やはり漆喰は有るらしい。
「里長ですか? 成る程、里で保管してるのかな? 石灰岩は漆喰やセメントの材料になるので、採掘場所が知りたかったんですよ」
「……セメント? 何?」
(おっと、セメントは知らなかったか?)
使い方から主な材料まで、殆んど同じなのに固まり方とか性質がまるで違う物である。漆喰が有れば十分だったのか、発見されていないのか…。
「漆喰に似てるけど性質の違う物で、砂と水を入れて混ぜると、乾いた後に石みたいに固まるんですよ」
「……それ、見たい」
漆喰が有るなら造らなくても良いのだが、里の分だけしか無いという可能性もある。足りないのであれば、造った方が早いのかもしれない。
「そしたら、方法を知ってても造った事無いんで、手伝って貰えます?」
「……任せて」
コリーンは、無い胸を目一杯張って叩き、請け負った。実は、頼られるのが好きなのだろうか? あぁ、見た目がこれだからかな? なんて事をリュージが考えていると――
「……失礼だ!」
「(おおっと! 気付かれた)……何がです?」
「……別に」
(よ~し、乗り切った! たぶん?)
見た目についての考えを敏感に察知する様で不用意な思考は危険である。特殊なスキルだろうか。何にしても、自ら地雷を踏みに行く必要は無いだろう。
そのまま、二人で北東の岩山に来ていた。この辺りが石灰岩で出来ているらしい。確かに白っぽい岩が目立っている。
「粘土質の石灰石を摂氏一千度以上で焼成した物を、粉砕して粉末状にするらしいんですが……」
「……うん、簡単」
コリーンは、リュージの拙い説明を理解し、即座に実演してみせる。粘土質の石灰石を探す迄も無く、適当な石灰岩を魔力を使って粘土状にしてしまう。流石は錬金術師と言った所か。同じ物質であれば形状の変化は容易なんだそうだ。
(何それ、ズルい)
「……訓練で、錬成を錬金にする」
「スキル……ですか? スキルって変化するんですか?」
「……必ずじゃ無い。努力次第」
スキルにも上位互換があるらしい、努力次第がどれくらいなのかは不明だが、良い事を聞いた。
「どんな事をするのが、特訓になりますか?」
「……教えても良い。師匠と呼ぶ」
「師匠、宜しくお願いします!」
こうして、先生に続き師匠が出来た。別に、要らないのだが仕方無いと諦める。この後は、練習だと言われて、ひたすらに岩を石に、石を砂利にと魔力で砕き。また、それを圧縮して熱を加えて岩石に戻すのを繰り返した。ついでに、モルタル用の細骨材として砂も集め、セメントも確保する。漆喰は麻や海藻等を混ぜる為、ここでは作らない。っていうか、材料が足りないから作れないのである。
コリーンにセメントの使い方を見せる為に帰宅し、モルタルを作る。セメントに砂と水を混ぜて、よく練って均一化した物がモルタルと呼ばれる物であり、これに粗骨材として砕石を加えた物がコンクリートてなる。
作ったモルタルを、洗面所の壁に塗って均して、その上にタイルを一枚一枚並べて貼ってから、軽く圧着する。目地を埋めるのは、完全に乾いてからで良いだろう、床も後回しだ。現代のセメントと違い発見当初の物だ、効果は低く見積った方が安全だろう。こんな作業を見せながら、セメントの性質と共に、漆喰との違いを説明する。
(あぁっ! 結局、風呂を造って無いや……流しっ放しだと湿気が籠るかな? 蛇口の仕組みは解るから、外から引き込むかぁ?)
取り敢えず、内風呂はタイルも貼って無いので、露天風呂を先に作る。前回の反省点を生かし、先に風呂の形を作って置く。巨大な岩盤をアイテムBOXに収納して持って来たのだ! これに湯が溜まる様にくり抜くと、庭に埋めて高さを調整し、岩盤の端っこに三センチメートル程の穴を開けて行く、そのまま地下へ地下へと掘り進め、その穴も土管の様に成形して加工する。っと徐々に湯が染み出して来た。もう少しだなって所で、一旦止めて口を開けたライオンの頭を成形した。最後の一押しで貫通したのか、温泉が湧きだした。
穴の径を小さくしたので、天高く噴き出すまでは行かなかったのは予定通りである。口から湯を出す獅子の頭を模した装飾品も作り、ライオンヘッドと名付ける。前より温度は低いが、熱過ぎ無いので適温だろう! なかなか良い感じだった。
「……これは、何?」
黙って作業を見守っていたコリーンが、質問をして来るが、錬金術師でも温泉を知らないのだろうか。
「温泉って言うんです。温かい地下水を引き上げて、溜めてるんですよ」
「……知ってる、何の為?」
コリーンは、プルプルと首を振り、溜めてる理由を聞いて来る。温泉自体は知っていた様だが、身体を拭く位で入浴の習慣が無い為か、溜める理由が思い付かないらしい。
「此れに温泉を溜めて入るんですよ。入浴って言う、俺の国の文化なんですよ」
そんな説明をしながら、排水を流す穴を掘る。深くて広い穴を開けて、其所に排水が溜まる様にした。湧き出す量よりも、かなり大きな容量にしたので溢れるより染み込む方が早いだろう。落っこちない様に排水口以外は岩盤で塞いで完成した。
「……どんな意味が有るの?」
「う~ん、成分を調べて無いので確かな事は言えないのですが、成分によっては疲労回復だったり、美肌効果とか、腰痛や関節痛に効くとか、色々な効果が有りますよ」
「……入りたい!」
「う~ん、良いですけど。ちょっと待って下さい」
簡単な衝立を作って、着替えと洗い場のスペースを確保すると、師匠に許可を出す。
「師匠どうぞ~、そちらで脱いで入って下さい。俺は、タイルでも貼ってますから、出たら声を掛けて下さい」
「……入り方が分からない、一緒に」
「えっ? いや、濡れない様に服を脱いで、身体を洗ってから湯に浸かるだけですよ? 身体を拭くタオルはこれを使って下さい。石鹸とシャンプーにリンス……コンディショナーはこれで、トリートメントがこれっ!」
アイテムBOXから、タオルを取り出して渡しながら、入浴方法を説明するが――。
「?? ……師匠命令!」
「マジっすか! 勘弁して下さいよ~」
「……勘弁しない、やってみて」
結局、押し切られて混浴する羽目になったのだが、救いがあるとすれば出る所が出て無い事だろうか?だが、油断は出来ない。イヴァンジェリンと違い真っ裸なのだから! この里の女性は、男の目を気にしないのだろうか? 危機意識が低いのか、羞恥心が無いのか? 全く困った物だ。仕方無く先に身体を洗っていると、コリーンが隠しもしないで現れた。慎みが無い!
(うん、子供だと思おう)
「……失礼だ! それで、どうする?」
「えっ、あっ? はい、身体を洗って下さい」
やっぱり子供だと考えるとバレるらしい。本気で怒ったら面倒だ、リュージは気を付けようと心に誓うのだった。
「……やって、そしたら許す」
「はぁ~、分かりましたよ。ここに座って下さい」
手頃な大きさの切り株を切って、簡単な椅子と洗面器を作り出すと座る様に勧め、タオルを濡らして泡立ててからコリーンの腕と背中を洗う。
「師匠……万歳して下さい。はい、バンザ~イ!」
極力見ない様に前と脚を洗う。小さい姪っ子を風呂に入れてると思えば何でも無いさ! と無心を貫くうちに馴れて来るのだった。
「師匠、そしたら髪を洗いますよ~。一回濡らすので、目を閉じて下さいね~」
返事は無いが、目を閉じたのを確認してからお湯を掛けた。勿論、ツインテールにしていたリボンは外して濡れない様に置いてある。シャンプーを使い、頭皮をマッサージする様に洗うのだが、やっぱりブリュネットの自然な色合いの髪は綺麗だった。
髪を濯ごうとして温泉だと気付き、魔法で水を湯に変えて使う。恐らく気にするほどの問題は無いのだろうが、成分が分からないので念の為だろう。リュージの個人的な趣味からすれば、女性の髪は綺麗な方が良い。尤も、コリーンの髪は十分に健康なのでトリートメントまでは不要だろうと、その後はリンスかコンディショナーを使い、同じ様に流してから温泉に入ってからだを温める。因みに、今回はリンスにした様である。
「後は、ゆっくり浸かって身体を温めるんですよ。長く入ると逆上せたり、逆に疲れちゃうんで程々にですけどね」
「……成る程、確かに気持ち良い」
風呂から上がった後で、髪が濡れたままの師匠を呼び止めて、髪を拭く。魔法で髪を乾かす為に熱風をイメージすると、思いの外簡単に使えたのはアイテムBOXにドライヤーが在るからか? 何にしても、ブラシと魔法を使って髪を乾かしながら梳かす。
「師匠の髪は、綺麗ですね~」
「……ん、ありがと」
そうして、湯冷めさない内にコリーンを家まで送り届けた。ステータスを確認しながら歩き、内装をもう少し進めようかと考えながら。
ステータスを確認して電脳が上がっていたのは、魔法で頭を使ってるからなのだろうか? バージョンアップは無かったが、偶数毎なんだろうか。魔法関係は上がってるのだが他も鍛えねばならない、課題は山積みである。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属
種族 異世界人
レベル 5
生命力 1049/1049
魔力 ∞
力 771
体力 768
知力 3108 (1034upニャン↑)
素早さ 1544 (333upニャン↑)
器用さ 324 (30upニャン↑)
運 69 (5upニャン↑)
魔素ポイント 99998498
《スキル》
[電脳Lv3] [電化Lv2] [方向感覚Lv2]
[鵜の目Lv3][鷹の目Lv2][気配察知Lv2]
[剣Lv3] [料理Lv1] [魔力感知Lv2]
[伐採Lv4] [錬成Lv4] [魔法の心得Lv4]
蹴撃Lv1 槍Lv3 盾Lv1
登山Lv1 投擲Lv1 泳法Lv3
潜水Lv3 交渉術Lv1
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者 ムッツリ助平
イジメっ子 笑う切り裂き魔




