第十二話 新築計画と地図!
リュージは、里長から報酬を受け取った後に、今後の事を相談していた。これから、この里に滞在して、魔法を教えて貰うのだから。
出来ればテントでは無く、屋根のある部屋で寝たいと思うのが人情であるのだが、隠れ里であるこの村に宿泊施が在る訳も無いのだ。そこで、空き家が在ったら借りたいと思って、聞いてみたのだ。
だが、非常に残念だが空き家は無かった。言うまでも無く落胆したリュージに里長が、思わぬ提案をして来た。それは、新築の許可である。
つまり、自分で森を切り開いて里を拡げるのであれば、何処に新築してしまっても良いとの事だ。開拓って言う奴である。折角の異世界なのだから、それも面白いかも知れない。
「ありがとうございます。取り敢えず、森を切り開くとして、お勧めの場所って在りますか?」
「そうじゃなぁ、村の東側なんてどうじゃ? 岩場が在って田畑には向かんが地盤は強いし、比較的に井戸の近くじゃしな」
(成る程、良さそうだ)
里長に許可を貰って下見に行く事にしたのだが、自分で切り開いた土地は、今後は許可など無くても遠慮せず自由にして良いそうだ。
(マジか! 異世界万歳!)
意気揚々と東に向かう途中で、リズミカルに金属を叩く音が聞こえた。金鎚の音? 鍛冶屋だろうか? 興味本意で覗いて見ると、むさ苦しいおっさんが、一心不乱に鎚を振るう姿が在った。邪魔をしない様に、黙って眺めていると、不意に声を掛けられる。
「いらっしゃ~い。えっと、修理?それとも、何か欲しいのかしら?」
「えっ? あぁ、そうだな…木を切り倒す為の斧と、大工道具なんて在りますか?」
「そうねぇ~、斧と大工道具なら……今は使ってないから、誰かに借りた方が良いんじゃない?」
商売では無いからだろうが、鍛冶屋の奥さんはそんな提案をしてくれた。その提案をありがたく受け入れ、三日分の食糧で使い終わるまで借り受ける事に成功する。無人島から、渡って来る時に獲った魚が有るので、渡す食糧には問題は無い。
因みに、奥さんの名前がリーラ。作業中のおっさんが旦那で、ルイスって名前らしい。村の金物を一手に引き受けてるので、かなり忙しいそうだ。跡取りとか居ないのだろうか。
結局、作業中のおっさんとは、一言も話さぬままだったが、斧と大工道具を代わりに借りて来てくれた奥さんに、お礼を言って再び東に向かう事にした。
さて、どの辺りが良いかな? あの岩山の脇が良いかな? この辺りなら、木を切り倒す本数は少なくても良いかな。いやいや、結局は家を建てるのにも、木材が必要だから切らないと駄目か。などと考えを巡らせながら歩き回る。材木は乾燥させないと、捻れたりして寸法が狂うので、今日中にある程度切り倒す事にする。
(あっ、伐採スキルを付けなくちゃ!)
伐採スキルを、投擲スキルと入れ替えて装備した後、伐採する範囲を考える。この辺りの木は大きくて、良い材木になりそうだ。
取り敢えず、適当な枝を杭代わりににして、ビニール紐を張って囲う。だいたい、百坪くらいだろうか? この範囲内の木は、全て切り倒す。材木集め序でに、密集しすぎて成長を妨げている木は、成長株を残して切り倒してゆく。これで、更に成長するだろう。伐採スキルの本領発揮である。
切り倒した木を、一ヶ所に集めて枝を払い、材木に加工する。その後は、切り株を力任せに引っこ抜く。……うん、無理だね。抜けるのも有るが小さい物ばかりで、ほとんどの切り株はビクともしない。これは、後回しにしようと今日は一旦戻る事にして、テントに向かう。こうして見ると鍛冶屋を始めとして、パン屋に八百屋、魚屋に精肉店……あれは、革製品の店だろうか? 全て物々交換で成り立ってるのだ。
(それぞれが、得意な分野で里に貢献して活躍してるんだよな。俺は、何か出来るのだろうか?)
そんな事を考えながらテントに戻り、食事の準備を始める。そういえば、今日はまだ飯を食ってない。まだ、陽は落ちてないが、直に夜がやって来る。二食抜いてしまった事になる。
料理スキルを装備する為に槍スキルと入れ換える。伐採は明日も使う筈なので、そのまま残すと他に候補が無かったからだ。その後、アイテムBOXから鮪を取り出して捌く準備をする。捌き方は解体ショーで覚えた。手順は完璧だが、実際に解体した事など無いので、上手く捌ける訳が無いのは理解している。だが、何事も挑戦である。しかし、ここで包丁が無い事に気が付いた。解体用は兎も角、普通の包丁すら無いのは問題であった。
鍛冶屋は忙しそうな感じで、とてもじゃないが特注品は頼めない。普通のでも良いのだが小さい包丁で、鮪の解体が出来る程の技量は無いのだ。大人しく魚屋に向かう事にした。
「すみませ~ん、どなたかいらっしゃいますか~?」
「はい、はい、今行くから待っておくれよ~、あらっ、見ない顔だね? あぁ、一昨日だかに自警団に取っ捕まったていう、その様子だと無事に出れた様だね! いらっしゃい何の用だい?」
「えぇ、まぁ、実は包丁が無い事に気付きまして、此れを解体して貰えないかと思って来た訳なんです」
そういってアイテムBOXから鮪を取り出すのだが、どこまで話が拡散しているのか、今のやり取りだけで不安だらけである。
「こっ、これは。あんた、これはもしかして鮪かい? どうやって手に入れたんだい!」
「えっ? えぇ……恐らく、鮪だと思って獲ったんですが、違うんですか? 普通に海で獲りましたが?」
「よく獲れたもんだねぇ! 村ではもう、何年も獲れなくてね。皆、食べたがってるんだよ」
そういって、おばちゃんがチラチラと見てくるのだが、決してタダではやれないのだ。
「解体は可能なんですよね? 全部バラして、部分毎に食べやすい大きさにしてくれたら、手間賃として少し差し上げますよ。頭とか骨や内臓も棄てずに残して置いて下さい」
「そんな棄てちゃう場所をどうするんだい?まぁ、手間賃くれるなら歓んでやるけどね」
おばちゃんは本当に嬉しそうだ。よっぽど好きなんだろう。だが、隠れてチョロまかさない様に監視をしなくては。
「えぇ、肥料にもなりますし、アイテムBOXなら腐らないので」
「へぇ~。肥料にねぇ~、あんた若いのに、よくそんな事知ってたね! 臭くならないのかい?」
「確かに臭いですね。でも、そのまま畑に蒔く訳では無いので、大丈夫ですよ」
おばちゃんと世間話をしながら、解体されていく鮪を眺める。話をしててもペースは落ちず、素晴らしい手際で捌くおばちゃんの技量に、感嘆の溜め息が漏れる。全く心配は要らなかった、チョロまかす事も無く、職人としてのプライドがあるのか、最低限しか受け取らなかった。疑ってごめんなさいと心の中で謝罪する。
(そうだ、やっぱり鍛冶屋にも寄らないと!)
鍛冶屋に向かうとおっさんは、まだ叩いていたが、何時まで叩くのだろうか。この世界には近所迷惑という言葉は無いのだろうか。
「どもども、リーラさん! さっきぶりですね~」
「あらっ! こんなおばちゃんにまた、会いに来てくれたの? ふふふっ、困っちゃうわね~」
「えぇ、料理道具もないので、鍋とか一通り欲しいんですけど、これでどうです? それから、リーラさんは十分にお若いですよ」
アイテムBOXから、捌いて貰った鮪を出して見せる。
「あらあら、お上手ね~。こんなおばちゃん口説いて、どうするつも……り……? それって、もしかして鮪かしら?」
「えぇ、魚屋さんで捌いて貰いました。何年も獲れてないって聞きましたが」
鮪を取り出した途端にリーラの言葉が弱くなって行き、認識した事実を確認してくる。肯定した後のリーラさんから漂う雰囲気に、若干気圧されながらも、芽生えてしまったイタズラ心を抑える事は出来なかった。取り出した鮪をゆ~っくり右に動かすとリーラの視線が追う。意識して追ってるのだろうか? それとも無意識なんだろうか? 今度は左に、右に、下に、上に、そして――。
後ろに隠した瞬間、リーラが飛び付いて来たのだ。リュージを抱き抱える様に鮪をキャッチしているのだが、鮪しか見えていないのだろう。リュージはというと。その暴力的なまでに大きな胸に顔を埋めて、そのボリュームに翻弄される事しか出来なかった。だが、いつの間にか金属を叩く鎚の音が聴こえないではないか! ヤバイって思った時には、おっさんが隣に立っていた。
(わっ、態とじゃないんだよ? 人妻を抱き締めているんじゃなくて、抱き抱えられてるんだからね? ほんの出来心だったのさ、そんなに怒るなよ。そりゃあ、俺も男だし? このボリュームを堪能しましたともさ! でもね、俺は触って無いよ? 触って無いんだからね!)
内心では言い訳をしつつも口に出せる訳も無く、殴られるかと思ったが結局、リーラに解放されても旦那のルイスにぶっ飛ばされる事は無かった。ルイスのおっさんも、鮪を見てたらしい。全然、気が付かなかったが、鮪がそんなに好きなのだろうか。
その後、無事に料理道具と鮪を交換したのだが、リーラの家でご馳走になっていたりもする。少し多目に渡したらご馳走してくれる事になったのだが、喜んでくれるなら良い事だろう。料理は、旨かった。調味料を始めとして、各種の食材に溢れた現代人として、物足りなく感じるかと思ったが、そんな事は無かった。勿論、米や味噌に醤油……所謂、ソウルフードが食べたくなるのは当たり前だと思う。でも、旅行先の食事としてなら、十二分に満足出来る味だった。
「ご馳走さまでした! とても、美味しかったです。料理する手間が省けちゃいましたね」
「ふふっ、満足してくれたみたいで嬉しいわ。また、鮪を持っていらっしゃいね~」
食事のお礼を言って、鍛冶屋を後にしたリュージはテントに戻って、ステータスの確認と実験を始める事にした。
(うん、伐採が上がってるな。さて、それでは本命の実験だ!)
報酬で貰った地図を取り出す。元の世界の地図にはとても敵わないが、それなりに詳細な地図だ、恐らく軍事機密になるんだろう。一番詳しい地図は、バートラン帝国の自国の地図なのは当たり前だろうか。次は恐らく海図って奴になるのだろうが、島や陸地の形は勿論、岩礁地帯等が事細かに記載されていた。間違えれば船が沈むので陸地の形はこちらの方が信用出来そうであった。他は、調査中なんだろう、中途半端な地図が幾つかある。この国、神聖ローマン王国の地図も、まだまだ中途半端だが、詳細な地図なんかが他国にあったら、戦争で奇襲か何かを受けて簡単に負ける可能性もあるが、今は実験が先である。
これは、メニューにあるマップにこの数々の地図を読み込む為の実験である。オートマッピングは有るが、もしマップの空白を埋めようと思ったら、世界を廻るだけで一生掛かるかもしれない。その為だけに世界を廻るのは不可能であるし、交通手段が限られた異世界の殆どを徒歩でなんて現実的では無い。そこで、チートの出番だ! 問題は、どうやって読み込むのかだが。
地図を見ながら、マップを開いても変わらないので、読み込みを意識してアイテムBOXに収納する。そうすると、マップは変わらないのだが、思考に引っ掛かりを覚える。よく考えれば、情報共有化がある! パソコンに地図を取り込めば良いんじゃないか? 電気は無いが、アイテムBOX内での機器の接続する事は出来た。ならば、アイテムBOX内なら起動出来るのでは? 可能性を模索しながら、検証を繰り返す。
起動に意識を集中するとカチッと入る感じがする。すると、目の前にモニターとキーボードが見える。モニターには、お馴染みのロゴが表れ起動が完了した。あぁ、俺のパソコンだ! アイコンの配置や種類に見覚えがある。リュージは久し振りに見る画面に、懐かしさを覚え感動していた。
(これは、他人にも見えるのだろうか? キーボードの操作とか、見えて無かったら不気味だよな。人前では出来ないな)
久しぶりにパソコンを操作して、地図を読み込む準備をするが。どこで、スキャンするのだろうか。地図を意識すると、アイテムBOXの中の地図が、複合型のプリンターに取り込まれた様だ。画面に表れた地図を、確認して実行した。すると、無事にマップが更新された。
(よしっ! これでまた、能力の確認が出来たな! 明日は、魔法のレッスンだし……早めに寝て、体調を万全にしなくちゃ!)
実験も成功してご機嫌なリュージは、明日のレッスンに備えて早目に寝る準備をするのであった。
ステータスはこうなりました。
《ステータス》
名前 鈴木立志
性別 男
年齢 42
職業 放浪者
所属
種族 異世界人
レベル 5
生命力 1049/1049
魔力 ∞
力 771
体力 768
知力 2059
素早さ 1211
器用さ 284 (5upニャン↑)
運 59
魔素ポイント 99998498
《スキル》
[電脳Lv2] [電化Lv2] [方向感覚Lv2]
[鵜の目Lv3][鷹の目Lv2][気配察知Lv2]
[剣Lv3] [料理Lv1] [交渉術Lv1]
[伐採Lv4] [潜水Lv3] [泳法Lv3]
蹴撃Lv1 槍Lv3 盾Lv1
登山Lv1 投擲Lv1
《称号》
スキルコレクター 殺戮者 無慈悲なる者




