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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第一章 異世界でぼっち篇
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第十話 奇襲作戦!(後編)

 ――今、奇襲作戦が始まろうとしていた。


 陽動で帝国兵を撹乱かくらんして注目を集めるのは、ウルバイン率いる自警団の面々である。その後方の闇に潜むのは、魔法使いの女性達だ。


 魔法による先制攻撃で、野営している帝国兵達のテントを次々に燃やす。辺り一面が突如として火の海と化し、夕焼け空の様に赤く染まった。炎から逃げ惑う者、必死に消火にあたる者、声を張り上げ指示を飛ばす者、ただ呆然と眺め事態が把握出来ないでいる者、そんな混沌とした現場に飛び込む影達。突然の火事による混乱に乗じて、ウルバイン率いる自警団も突入を開始したのだ。


 バルザックと共に森の中から海岸線を進んで帝国の船舶を目指す。見廻りの兵達も奇襲に気を取られて戦闘に加わって行く為、見咎める者は無い。帝国の船舶は沖に停泊している為、潜入するには途中から泳いで行く事になる。状況的に小舟を奪う事は容易いが、野営地を燃やす炎に照らされている海を小舟で近付けば、接近する迄に発見されるのは、自明の理であった。


 スキルの恩恵も有り、泳いで船舶に取り付くのは難しい事では無い。錨鎖をよじ登り、甲板の上に出ると辺りを見回し警戒する。バルザックも上がってくるが、鍛え上げられた肉体は、まだまだ余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった感じだ。


 幸いにして甲板には、森で狩って来た獲物やら、汲んできた水やらの積み荷が、所狭しと置かれ、整理されるのを待っている。明日にでも片付けるつもりなのだろう。この物資の量を見ると、出航は近かったのかもしれず、タイミング的にこの作戦は際どかったらしい。出しっ放しの物資の陰に隠れて、様子を窺っていると船底に向かう出入口から、数人の船乗りが出て来た。


 野営地での戦闘に気が付いたのだろう。戦場は火事により煌々と照らされ、戦闘により交わる剣戟と怒号は沖にまで轟いているのだ。陸地にばかり気を取られ、近くに敵が潜んでいるなどとは想像すらしていない。正に今がチャンスとばかりに飛び出し、剣を振るう。


「すぅぅ~……しぃっ!」


 バルザックが、背後から音も無く近寄り、瞬時に四人の敵を斬り捨てる。船の上で安心しきっていたのか、薄い布地の服だけで鎧の類いは装備していない。抵抗する間も無くこと切れた船員達は海兵では無いのだろうか。


「うぉぉぉっ、せいっ!」


『カラ~ン……カラ~ン』『レベルアップニャン?』


 リュージも、バルザックに気付き隙を見せた敵を斬っていた。覚悟は足らなかったが、躊躇ためらえば死ぬと思えば身体は動いた。不意討ちだからこそだったのかもしれない。三人の首を飛ばした瞬間、レベルアップしたらしい。だが、今はステータスを確認する暇は無い。隙を見せれば、敵と同じ運命を辿るのだから。


 これで九人、リュージが三人斬る間にバルザックは更に二人を斬っていた。甲板の人影が無くなったので、船底を目指す。これで背後からの心配は無用だろうか。いいや、出入口が一つとは限らない、油断は禁物である。そんな時に奥から足音が響いて来るが、そのバタバタと乱暴な足音からは全く警戒した様子など窺わせ無かった。


「誰か来るな。一旦やり過ごそう」


 仲間を呼ばれても面倒なので、近くの船室に潜み、様子を窺う事にする。


「ったく…あいつ等! 何やってやがる……何で俺等が、わざわざ甲板まで見に行かなきゃならんのよ?」


「まぁ、そう言うなよ。船長にまた、どやされるぞ?」


 ブツブツと文句を言いながら歩く奴と、宥める奴の二人組の様だ。通路は狭く、二人は並べない為、今回はリュージが行く事になった。


(倒した人数的にバルザックが六人で、俺は三人、この二人で五人だ、仕方無いかな)


「っすらぁーーっ!」


 二人が通り過ぎてから、そっとドアを開けて確認する。瞬発力を生かし、即座に一人を切り殺す。返す剣をもう一人の首を目掛けて振り上げる。


「なっ!なん……」


「……ふっ!」


 突然の凶行に驚き、敵が何かを言おうとした時には首が落ちていた。


「っふぅーーーーっ」


「大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だ怪我は無い」


 これで終わりでは無い。どんどん行かなければ、二人しか居ないこちらが不利になる。気配を探りながら先へ先へと進む。今は、考える前に殺さなければ、進むどころか動けなくなるだろう。深く考えるのを停めて無心になる様に心掛ける。正式な剣術など習った訳では無いので、只管ひたすらに首を狙って切り飛ばす。ステータス任せで両断しているが、かするだけでも致命傷を与える可能性が高いからだ。


 二人の姿は、既に真っ赤を通り越し、何色なのかも分からない。乾いた血の茶色と新たな血の赤で、どす黒い赤に染まっている。今現在、十三人ずつの敵を殺害している。先程から、敵を見ていないので全滅させたのか、或いは――


「目的地は近そうだな」


「恐らくだが、この階段を下りた先だろう」


 一歩一歩を慎重に、ゆっくりと階段を下りてゆく。


 そこには――


「よぉ~っ、まぁってたぜぇ~!」


「「……」」


 そこには、準備万端って感じで鎧兜を装備した敵が待ち構えていた。


「クックククッ、待ち伏せされて声も出ね~のかよぉ?」


「いや、予想通りだ安心しろ、お前はここで死ぬ」


 階段を下りると、待ち伏せして得意になっている男が、声を掛けて来る。不意討ちでもすれば良いのに、そんな簡単な事に頭が回らないのだろうか? 滑稽こっけい過ぎて黙っていると、調子に乗っている様なので、辛辣な言葉でバッサリ切った。言葉による先制攻撃では判定勝ちだろうか。名も知らぬ男が、顔を真っ赤にして睨み付けて来た! ……恐ろしく沸点の低い事である。


(偉そうにしている所を見ると、船長か? 駄目だな、イメージじゃない。三下と呼ぼう!)


「おいっ!」


 船長改め三下が、後方に向かって荒らげた声を掛けると奥から部下らしき男達が、三人の女性を引き摺る様にして連れて来る。


「なぁ、子供って言ってなかったか?」


「?……子供だろう?」


「……」


(子供が誘拐って言うから、もっと小さい子かと思ってたよ! 確かに未成年者かもしれないが、子供に誘拐されたんじゃないのか? 何? 馬鹿なの?)


「バルザックさん? ……バルザックさん!」


「バルザックさん、助けて!」


「パパは? バルザックさん、パパもいる?」


「お前達、助けてやるから安心してろ!」


 連れて来られた三人は、目の前に居るバルザックに気が付くと、一斉にまくし立てる。バルザックも安心させようと声を掛けるが。


「ええぃ、喧しいわぁっ!」


(……だよね。そうなるよね~?)


 そんな俺の内心を無視する様に、事態は勝手に進んで行く。


「お前ぇ等! 随分と好き勝手やってくれたなぁ~! たった二人だけとは思わなかったがぁ、こっちには人質が居るんだぁ! あっ、大人しくぅ~ぶっ殺されて、貰おぅかぁ~!」


「(何だ、そのしゃべり方は! ムカツク!)三下の癖に……歌舞伎の真似のつもりだったら、ぶち殺すぞ!」


「あぁ~ん? 今、何つった? もっ回言ってみろやぁ~! おぉ~ぅ?」


 リュージは、三下が騒いでいる間に三人に詰め寄っていた。三人は拘束されてはいるが、特に武器を突き付けられている訳でも無い、恐らく後々の為に傷付けない様に指示されていて、これはただのポーズなんだろう。ならば、このチャンスを逃す手は無い。油断している所に、一瞬で目前まで迫られて驚いているが、もう遅い!


 一人の喉に剣を突き刺し、更に左拳をもう一人の顔面に突き入れる。拳を引く際に女の子の肩を掴んでバルザックの方に放り、空いたスペースから最後の一人の脇腹を蹴り飛ばした。この一連の流れを一呼吸で完了し、残った二人の女の子を、ゆっくりバルザックの方に促すと、余裕を持って言い放った。


「さぁ、人質は返して貰ったが、何か?」


「だっ、だから何だぁ! お前ぇらやっちまえぇ~!」


 二人は目で合図を送り合うと、即座に理解し行動を起こす。アイコンタクトって奴だ。多少は広いと言っても、部屋の中で一度に攻撃して来れる人数は、精々が三人って所だ。まして通路まで後退してしまえばどうか? バルザックに先行させて、ジリジリと部屋から後退すると、自然に一対一の状況が生まれる。


 頼みの綱である人質はもう居ない。部屋から出て来る敵を、一人ずつ倒せば良いだけだ、死体で足場が狭くなったら後退し、階段を上れば良い。今度は、階下から上がって来る敵を突き落とすだけで、より被害を大きく出来る。


 何処かの船室で、仮眠でも取っていたのか、武器も持たずに出て来た敵は、危なげ無くバルザックが始末した。残るは、例の三下船長だけだと思うのだが、出て来る気配が無い。何が起こるか分からないので魔法を封じる手錠と足枷を、千切る様にぶっ壊すと三人のみならず、バルザックまでが目を見開く。


(あれ~っ? バルザックは知らなかったっけか? あぁ、牢の状況を見てないのか。まだ、残骸が牢の中に転がってると思うけどな? 片付けが終わってないからかな)


「なぁ、この道具って村にも在ったけど、一般的な物なのか?」


「いや、お前が頭に着けてる物も含めて、元々は帝国兵が所持していた物を奪っただけだ。それより、それをどうやったら紙を千切るみたいに切れるんだ?」


「ん~? あぁ、そうだな握力が強いだけだよ?」


(ステータスの数値なんて、簡単に教えるもんでも無いしな。誤魔化して置く、誤魔化せて無いかな? でも、他に言い様が無いしな)


「あっ……あのっ……ありがとう!」


 考え事をしていたからか、それとも案外鈍いのか反応が遅れてしまう。


「(あぁ、手錠と足枷を外したからか!)あ~別に良いよ~、帰りとか魔法が使えた方が良いんでしょ?」


「小僧、折角だから紹介しておこう。この娘がオリアスの娘のドリスだ」


「ドリスです……よろしく」


(なに~っ! これが、あの髭面の娘だとっ! 確かに同じ色の金髪だな、動き易い様に纏めているけど……、十七歳位かな? 背が高いなぁ~。はっ! 羨ましくなんか無いし! スタイルは良いけど、性格的には地味っぽい?)


「それから、この2人が牢番のエリックの娘で、双子の姉のシャノンと妹のシャロンだ」


「姉のシャノンです」

「妹のシャロンです」


「「この度は、助けて頂き誠に有り難う御座いました」」


(エリックって誰? えっ? 俺が水責めにした見張りの人? 娘が居たんだ。姉のシャノンは、茶髪ロングで清楚な感じのグラマーで、妹のシャロンは赤茶色のセミロングかな。姉より活発に見えるのは、スレンダーだからだろうか?)


 バルザックの紹介に合わせて、それぞれが挨拶をして来る。双子は声を合わせて礼を述べているがタイミングを揃える様な素振りは見せなかった。


「あっ、あぁ、俺の事は……リュージで良い。これも、仕事だから気にするな」


 そんな風にお互いに簡単な自己紹介をしながら甲板に戻って来たのだが、何処かに別の出入口が在ったんだろう。そこには例の三下が居た。ハッキリ言ってただの海賊なのだが、それは海賊にも失礼だろうか。何故なら初めて見るくらい三下なのだから。


(船内の部下を必死に探して、掻き集めたって感じだから、これで全部だろうな)


「ハッハァ~! まさかぁ、回り込まれるとはぁ思わなかったかよぉ?」


「あぁ、お前って待ち伏せ好きなんだな。挟み撃ちにするとか、考えなかったんだろうなぁ」


 待ち伏せて調子に乗ってる奴に、他の作戦を提示してみると言葉の途中からみるみると顔が青くなってゆく。そりゃそうだ、同じ事をしてさっき失敗したのだから。別の方法を指摘されるという事は、それについても対策があり、思い付かなかった自分よりも、上手である事を示しているのだから。流石にそれに気付けない程、馬鹿では無いらしい。既に致命的なんだが……。


「うぅ、うるせー、うぅるぅせぇー!」


「本気で勝てると思ってるのか? こっちには魔法使いが、三人増えてるんだぜ?」


「だっ、だからなんだぁ! しっ、知ってるんだからなぁ、そいつ等にぃ攻撃魔法なんかぁ無いってよぉ~! ハッ、ハッタリかましてぇ逃げよぉったてぇ、そうはぁいかねぇからなぁ!」


 リュージが、三人とバルザックの方を見ると、三人は目を逸らして明後日の方向に視線を向ける。バルザックは、何ともばつが悪そうな顔をした。


(ちっくしょ~ぉぉ……! 恥ずかし~じゃないか。そう言う大事な事は、最初から言って置いてよね!)


「まっ、まぁ、仕方無いな、挟撃は無い様だし、船内に戻れっ! バルザックは護衛をしながら、取りこぼしを頼むわ」


「一人で大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だ。こいつら強く無いし!」


 そう言って、敵に突っ込んで行く。ここにいる連中は、さっきまでの戦闘を知らないのだろう。返り血を浴びて赤黒く染まっても五体満足な者など、近付きたい類いの敵では無い筈だ。しかし、少人数を囲んでいるという状況が、力量の差を見誤らせたのだろう。誰一人として、逃げようとしなかった。追撃は非常に面倒臭い状況なので非常に助かる。


(残りは、三下を含めて十人か。どうしようかな~? あっ、そうだ、甲板の上なら広いから、槍を使おう。そうしよう!)


 オリアスからぶん取った槍が有った筈である。アイテムBOXから槍を取り出して適当に構えると実験というか検証を始める。


(ちょっと、試してみようかな)


 漫画に出て来る槍使いをイメージして、身体の動かし方はカンフー映画の棒術とかで補ってイメージ。試しに三連突きを放ってみる。若干、イメージよりも動きが遅いが、狙い通りに三人の喉を突き刺す。


(うん、悪くない。悪くないぞ~!)


 気を良くして槍をブンブンと、時にクルクルと振り回してみる。それは、演舞をイメージした動作であり、自分の動きをそのイメージに擦り合わせてゆく。そんな姿は、それを見ていた敵にしても堪ったものではないのだろう、徐々にだが後退ってゆく


「お前ぇ~等、下がるなぁ! 戦えぇぇ~!」


 三下が喚くが、誰も聞いていない様だ、そんな余裕すら無いといった感じで、絶望が顔に表れている。だが――


「お前ぇ等、あいつをブッ殺した奴にぃ、こいつをくれてやらぁぁ~!」


 何処に隠し持っていたのか、それは金貨だった。それが、何れだけの価値になるのか知らないが、敵の顔色は劇的に変わり、士気が上がる。欲に駆られ、無謀にも一人で突っ込む者、仲間と連携して囲む者、共に喉を突かれて絶命する。


 そして、残りはただ一人だけ――


「かっ、勘弁してくれぇ~! なっ? 頼むよぉ~! こっ、これっ! 全部やるからぁ~!」


「そういって後ろからグサリか? 俺を殺せたとしても、まだあのおっさんが居るぞ?」


「なっ、何を! そっ、そんな事ぉしないからぁ、助けてくれよぉ~! なっ? なっ?」


「部下だけ戦わせて、自分だけ命乞いか。嫌いだなぁ、そう言うの」


「くっ、糞がぁ~! 下手にぃ出てやってればぁ~っ! やって――」


「せいっ!」


 最後まで言葉を聞くのも煩わしい、その耳障りな台詞の途中で、槍を突き入れる。この時、大して見所の無い三下相手に、時間を取られ過ぎたとすら感じていたのは殺し過ぎた弊害だろうか?


 バルザックに終わった事を伝え、この後の段取りを確認する。野営地では、未だに争いの音が鳴り止まず、時間を稼いでくれているのだ、早く知らせてやった方が良いだろう。


「帰りはどうするんだ? この娘達も疲れてるだろうし、泳げるか?」


「いや、此処で合図を送ったら、後は待機だ。敵を殲滅したら、迎えが来る事になっている。戦利品の回収も有るからな」


 そういって合図を送るバルザック、強い光を放つ道具を使い、辺りは相当に明るい。


 手のひらサイズなのに、便利な道具が在るもんだな、流石に異世界だけある。


(はぁ~ぁ……疲れた~!)


 こうして、奇襲作戦でのリュージの仕事は、終わりを迎えたのである。

思いの外、長くなったので、ステータス等は次話で書こうかと思います。

此処で一章が終了ですが、二章も頑張ります!

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