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異世界ゆったり立志物語  作者: sawa
第一章 異世界でぼっち篇
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第九話 奇襲作戦!(前編)

「子供の誘拐ですか?」


「そうじゃ……この村には名前が無い。それは、隠れ里だからなんじゃよ」


「……さっき、関係各国に手配書がどうとか言わなかったか? 隠れ里なのに?」


「ふっ、ブラフだ」


「チッ……あぁ、そうかよ。――それで?」


 村長が不意に打ち明けた秘密は、リュージの予想を大きく上回る事だった。だが、それ以上にバルザックのドヤ顔が腹立たしい。リュージは、舌打ちしながらも話を続ける事にした。


「曾て、強大な魔力を持つ者達が集まり里を造った……それが、ここじゃな」


「(成る程、隠れないと暮らせない程の魔力を持っていて、それが狙われるって事か? しかし……)自警団には、魔法使いは居ないのですか?」


「残念じゃが……魔力を持って生まれてくるのは、女だけなんじゃ」


 確かに……脱獄する際に、誰も魔法を使って来なかった。例え使われていても、負けなかったかもしれないが、それは結果論である。


「つまり、魔力を持つ女の子が誘拐されていると?」


「既に、三人の子が拐われておる」


「それで、俺が疑われた理由を聞いても?」


「其れは、俺から説明しよう」


 村長に理由を質問した所で、今まで黙っていたバルザックが説明を引き継いだ。


「子供達が拐われた日に、見知らぬ子供と一緒に歩いていたとの目撃証言があるのだ」


「たったそれだけで?」


「そう思うのも無理は無いが昨日、村の外で若い娘に声を掛けただろう?」


 バルザックは、絶句しているリュージに対して、思いもよらない事を聞いて来た。


「挨拶しただけだぞ?」


「……かもしれんが、現状では怪しい者を捕らえる事しか防衛手段が無いのだ」


 最早、溜め息しか出て来なかった。何ともタイミングが悪い話しである。そして、オリアス達が拐われた子供達の親であり、子供を心配する余り暴走してしまったとの事だった。


「もう一つ、お前の魔力が問題でな……大きな魔力を見慣れている筈の者に、恐怖感を与えてしまってはな」


「何故?」


「あの娘は、魔眼持ちでな。お前の放つ濃密な魔力が見えたそうだ。むしろ魔力の塊にしか見えず、本当に人か疑わしいとさえ言っていた」


 要するに魔物に見えたから、一目散に逃げ出されて誤解されるはめになったと、そう言う話であった。


(その情報は、出来れば知りたく無かったな)


 地味にヘコむ内容に溜め息を吐く、今の精神は大ダメージで間違い無いだろう。


「はぁ~ぁ、疑われた理由は分かったが、スパイってのは何処から来たんだ? ただの人拐いとは違うという根拠はあるのか?」


「それなんじゃがな、帝国が絡んでおるのは間違いないんじゃ。奴等には情報班と工作班が居るらしい、今回の件は工作班じゃろう」


「生活は、自給自足で十分に成り立ち、外部との交流は一切無い。しかし、先月末に漂着した難破船の乗組員達が、悪い事に帝国兵だった」


 村長の説明をバルザックが、補足する形で引き継いだのだが、この里は空からでもなければ、見付からない様に隠蔽されていて、今までは他者に見つかった事が無かったらしい。


(俺が登った山は無人島に有るしなぁ)


 食糧を獲る為に森に入った帝国兵達と、油断した住人がニアミスした事で、隠れ里が発見されるに至った。当初は仕官の誘いが有ったが、女子供を渡す事は出来ないと、丁重に断った途端に強引な手段に出る様になったらしい。組織した自警団と女達の魔法で、相手が正攻法で攻めて来る内は何度も撃退したのだが、とうとうからめ手で来る様になったのだとか。


 国で訓練を積んだ戦闘集団に対して、互角以上に渡り合えるのは、魔法を含めた戦力差があるからであり、隠密行動に長けたスパイの搦め手にまんまとやられたとの事。今までに捕らえた帝国兵から、情報を引き出す為に拷問紛いの尋問もしたが、分かったのは僅かな情報とスパイによる誘拐計画が有る事だけで、分かった時には拐われた後だった様だ。


 急いで救出作戦を計画したが、情報が少なく焦っている所に俺が現れて。バルザックとウルバインが船の様子を探っている間に、冷静な判断が出来なかった者が暴走してしまった。つまり、見張りの男の事である。オリアスは脱走を止める為だったが、元々が脳筋であり結局は暴走した。本来、止める立場である副団長のオリアスが、暴走した挙げ句に返り討ちにされ、少数精鋭による救出作戦が難しくなったので、手伝って貰いたいそうだ。何とも勝手な話だが、報酬も勿論出るらしい。現在進行形で無一文のリュージとしては、取り敢えず損はしないのかもしれない。


「(相手の出方次第では一考の余地はあるかもしれないな……)報酬はなんだ?」


「基本的に、物々交換で成り立っておるこの里には金はたいして無いんじゃが、帝国の船にはそれなりに有るじゃろう、そこから働きに応じて出すというのは、どうじゃろうか?」


「そうだな、有るかも分からない金より、魔法を教えて貰えないか? 金は有っても困らないかもしれないが、この国で帝国の貨幣が使えるかも分からんしな。それに魔法を覚えれば、自分で稼ぐのも楽になる」


 隠れて暮らす程の魔力を持つ人達に魔法を教えて貰えるなら、金は要らないだろう。この世界の

何処かには、学校や塾の様な場所も有るだろうが、入れるかも分からない。何よりも、纏まった金が必要になる。ここで、報酬代わりに習ってしまえばタダだろう。


(俺には、この異世界での一般的な常識が全然足りない。いや、無い! 魔法を習っている間に、いろいろと吸収してしまえば良いのだ。題して、損して得取れ大作戦!)


「良いじゃろう、その代わり活躍して貰うぞ? 此処は隠れ里じゃからの、余所者が長く滞在するには理由が要る。皆を納得させるだけの手柄を持って来れば、許可しよう」


「(それって、失敗したら駄目って事かね?)善処はするが、子供達が無事とは限らないぞ?」


「帝国は、魔法使いを数多く欲しておる。拐われたのは一昨日じゃ、恐らくは無事じゃろう」


 それからの話はトントン拍子に進んだ、決行は深夜に奇襲を仕掛ける事になり、自警団の大半と魔法使いの女達は陽動作戦を行う。


 ウルバインが、他の団員と女達を率いて陽動に廻り、リュージは潜入班としてバルザックと同行する事になった。たったの二人で大丈夫なのかと、不安にも思うだろうが、それ程大きな船舶では無く、兵の数も百五十人には充たないらしい。それでも十分に多いが、その為の陽動である事や、狭い船内でなら一度に相手にする数は限られる。また、船の被害を恐れて魔法も無いだろうとの事だった。


 問題は、陽動に引っ掛かってくれるかどうかだが、その辺りはウルバインに掛かっている。あのハゲマッチョの実力は知らないが、行動を見る限り物凄く不安になる。帝国の船舶は里の北側の入り江に停泊していて、森で航海に必要になる水や食糧を集めており、村にも田畑を荒らしに現れる為、警戒をげんにして見張っているらしい。


 深夜ともなれば、辺りは真っ暗闇に包まれる。やはり、月も無い。足音を殺し、息を潜め、こっそりと北側の入り江に集まる。


 船の周りには、テントを張り野営をする帝国兵達。篝火かがりびを焚いて何人かは見張りに立っているし、見廻りの兵も居る様だ。野営をしているのも、狭い船室に閉じ込められ波に揺られるのに、うんざりしているのだろう。これなら陽動もやり易いだろうか。


「なぁ、子供達の場所は分かるのか?」


「それなら船底の部屋の様だ」


 即答するバルザックに、リュージが訝しげな視線を送ると補足説明してくれた。


「先程、感知系魔法が得意な者に、離れた場所から魔力を探らせたが、三つの大きな魔力が船底に集まっているらしい」


「(いつの間に?)……そうか、俺にした手錠みたいな道具で隠蔽や偽装されている可能性は?」


「あの道具は、魔力を妨害して魔法の発動をさせない為の物で、魔力を無くす物では無い。特殊な道具や魔法による隠蔽の可能性は、否定出来ないが、偽装するなら誘い易いテントを使うだろう。恐らくだが、三人を閉じ込める為の牢か何かが、船底に有ると考えている」


「成る程」


(魔力感知か、教えてもらえるかなぁ?)


 バルザックの説明を聞きながら、ついつい自分の事を考えてしまっていた。危機感が足りない、そんな立志の心境を見透かす様にバルザックはこう言った。


「殺す覚悟は出来てるか?」


「はっ? えっ! こっ、殺す?」


「そうだっ! 今を逃がせば、次はもっと多くの帝国兵がやって来るだろう。そうなれば滅ぶのは我々だ。子供達を救出した後は、魔法による殲滅戦になる。元々、陽動だけなら自警団のみで事足りるのだ、わざわざ女達を戦場に出すのは、その為でも有る」


「最初からそのつもりなら、子供が拐われる前に潰して置けば良かったんじゃ無いか?」


「そうだな……極力、穏便おんびんに済ませようとした我々の考えが甘かったのだろう。だが、帝国がどの様な国であるかまでは知らなかったのだ」


(まぁ、長い事外界との接触を絶っていれば、世間知らずにもなるわな。特に、他国だしな。しかし、殺すのか。俺に出来るだろうか?)


 怒りも憎しみも無い相手を殺す。喰うために殺す訳じゃあ無い。では、何の為に? 村人の為? 自分には関係無いのに? 魔法を習う為か? そう、結局は自分の為だ。戦場に立ってしまえば、後戻りは出来ない。殺さなければ殺される世界が、目の前で待っている。ここは異世界なんだ!逃げても、いつかは来るだろう。相手は盗賊かもしれないし、戦争かもしれない。野犬を殺した夜に、覚悟を決めたつもりでいた。しかし、人を殺す覚悟を問われ、初めて意識したのかもしれない。無意識に避けていた覚悟を。


(ここで逃げれば作戦は中止か? 全てが無駄になる。責められるだろうか?子供も助からないもんな…)


「殺せないって言ったら、……どうなる?」


「どうにもならんが作戦は中止。子供は助からんだろう」


「魔法使いが沢山居ても?」


「女達は、訓練を受けた兵や戦士では無い。例え潜入させても、子供を盾にされれば為す術も無く全滅、或いはそのまま拉致らちされるだろう。勿論、全力を尽くすが場合によっては諦めねばならない。里を救う為に娘達を犠牲にする覚悟も必要だ……。だからこそ、お前にこちらを任せるのだ」


(駄目だな、覚悟が足りなかった……殺しも嫌だが誘拐は駄目だ! 殺したい訳じゃ無いが、全力で振ろう! 罪悪感を感じる前に過ぎ去ろう)


 殺す覚悟なんて、そうそう出来る物では無い。殺しは罪であると教育を受けているのならば尚更、当たり前の価値観だ。長年の価値観を覆すには強烈な動機が必要である。怒り、憎しみ、恨み、或いは戦争か? 大概は覚悟する時間などは与えられず問われる事も無い。


 出来れば、未だ見ぬ帝国兵が、糞野郎であります様に。リュージは、月の無い夜空にそんな祈りを捧げる事しか出来なかった。

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