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第九話 吉祥天のちょっとエッチな話

先日、ある本を読んでいましたら、

吉祥天という仏像に関してちょっとエッチなお話ですが、

興味深いお話が載っていましたので御紹介します。

これは平安時代の末期に書かれた古本説話集下巻六十二、

「和泉の国国分寺の住持、吉祥天女にえもいはずたはぶれる事」というお話です。

文章は私なりの表現にしていますので、

原文のままではありません。


平安時代のことです。

和泉の国(現在の大阪府南部)の国分寺に、

一人の鐘撞きの法師がいました。

彼は毎日鐘を撞くのを仕事にしていましたが、

鐘楼に祭られている吉祥天像を見ているうちに、

いつしか恋心を抱くようになったのです。

それから、法師は誰も見ていないすきに、

像を抱擁したり、キスしたりしたのだそうです。

しばらくして、ある夜法師は夢を見ました。

いつものように彼は鐘を撞くために鐘楼に登って、

いつものように吉祥天像をいじっていると、

吉祥天がふと動き出してこうおっしゃりました。

「お前様が、常々私のことを思ってくれて、そんな風にするのに、

心を動かされました。私はあなたの妻になりましょう。

かくかくしかじかの日、

播磨の国(現在の兵庫県西部)の

印南野(いなみの=加古川付近)に、

必ずいらっしゃい。そこでお会いしましょう。」

彼はふっと夢から覚めたが、

嬉しいこと例えようもありません。

「ああ、早くその日にならないだろうか。」

と法師はわくわくして、

明けても暮れてもそのことばかり考えて、

心落ち着かぬ日が過ぎて行きましたが、

やっとその日になりました。

印南野にやってきて、

早く会いたい一心であちこち歩き回っていると、

この上もなく美しい女が、とても美しい衣を着て、

すそを取りながら現れたのです。

法師は「あ、あ、この方が吉祥天様か‥‥」

と思いましたが、足ががくがくしてすぐには近寄れません。

しかしその女のほうは、

「ああ、お会いできましたね。」

ときさくに挨拶をしてくるではありませんか。

そして、女は「まず、一緒に住むお家を一軒立てていただけません?」と言います。

法師は、「え、家なんてどうやって建てましょう?」と困惑しましたが、

女は「そんな大した事でもありませんわ。早くお始めになって。」

といとも簡単そうに言います。



そうこうしているうちに、

見知らぬ男が一人どこからともなく出て来て、

家を建ててあげましょうと言うではありませんか。

その男は土地の有力者で

大勢の配下を指揮してあっという間に

立派な屋敷を建てたのです。

こうして法師は、吉祥天と水入らずの暮らしをするようになりました。

さて新婚初夜のことになりました。

美しい吉祥天と枕を交わすことが出来るとは、

天にも昇る心地とはこのことを言うのでしょう。

寝物語に吉祥天は「これで私はあなたの妻です。

私のことを愛してくださるのなら、決して浮気はしないでね。

私一人だけを思ってくださいね。」

と言いますから、

「いかにも、あなたの仰せに相違なく従います。」

と法師は答えたのは言うまでもありません。

すると「ああ、よくおっしゃって下さったこと。」

と吉祥天はそう言って、法師を抱き締めたのです。

それからは、この法師が田を一反作れば、

よその田の十町分くらいはできるというように、

何でもかんでも足りないものは一つもなくなり、

裕福に暮らすようになりました。

こうなると、よいしょしてくる者がいるようになるもので、

ある日所要があって、

少し遠いところまで出かけた時に、

「粟生郡の某某という者の娘はたいそう器量良しでござりますれば、

召し出して足などおもませになってはいかがかと‥‥。」

と言うのです。

法師は「足をもませるだけなら構わないだろう。」

と答えたのですが、

現れた娘は若く美しく、足をもませるうちに、

やはり男女の仲になってしまったのです。



さて用事を済ませて法師が家に戻りましたが、

吉祥天のご機嫌がたいへんお悪いのです。

「どうしてあれだけ約束したことを破るのッ!」

「もう私は帰ります。こんな所にいられないわ!」

とおっしゃるのです。

法師は平身低頭で謝りますが、

許してくれません。

それどころか吉祥天は「この何年か分よっ!」

と言って、何やら白い液体を大きな桶に二杯分置いて、

どこへともなく消えてしまわれたのです。

悔やんで泣いては見たものの、

今となってはどうしようもありません。

この桶一杯の白いものは、

この法師の淫欲(=精液)を溜めておかれたものだったのです。

この後、法師はさすがにもとの通り

というわけにも行きませんでしたが、

それでもそんなに貧乏暮らしもせず、

人気もあって、お寺に属さない僧として

余生を過ごしたということです。


吉祥天は、仏教の守護神である天部の一つです。

もともとはヒンドゥー教の女神であるラクシュミーが

仏教に取り入れられたものです。

仏教では毘沙門天の妃また妹ともされ、

善膩師童子を子と持ちます。

鬼子母神を母とし、徳叉迦龍王を父とするとも言われます。

吉祥とは繁栄・幸運を意味し幸福・美・富を顕す神とされ、

密教においては功徳天ともいわれています。

また、美女の代名詞として尊敬を集め、

今では七福神で唯一の女神は弁才天(弁財天)ですが、

当初の紅一点は吉祥天であったとも言われています。


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