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〈熔解〉

「甲子園出場者、レベル5の津村杉太です! 今日も配信、頑張っていきます!」


 そういって津村が配信を始めると同接は11名になっていた。


トゥルーにき@「来たな、待っていたぜ」

虎キャン界隈@「もうレベル5、一日でとか大すごいじゃん!」

ブルー+@「調べたけど甲子園出場者でダンジョンアタックしている人ってすでに4人いたわ」


 と昨日のメンツに加え、コメントをくれたのが2人いた。


ツイ廃帝@「なんで甲子園出た奴がダンジョン配信してんだよ!」

YELL三昧@「スキルが熔解と聞いて♪」


 いきなり同時接続者が3倍で嬉しかったが津村は今日はやるべきことがあったので、そちらに集中した。


「では今日はいきなりですが昨日獲得した〈熔解〉、早速使っていきたいと思います。そこでジャージャン! 昨日徹夜して流し込む型を造ってきました! さっそく昨日作った合成ブロックを流し込んでいきます!」


 そういってマーブル状の黄土色の煉瓦3つ分ほどの塊を取り出す。


「合成ブロックは昨日、500円出してダンジョン内の施設に預けておきました。はい、〈現実劣化〉を避けるためですね!」


 〈現実劣化〉とは〈迷宮劣化〉とは逆にダンジョン産のモノが地上で効果を失っていく現象を指す。そのため、〈現実劣化〉を恐れる者は砕いた魔石を入れた専用ケースで保管するか、ダンジョン内の保管施設を利用するのだ。


「では合成ブロックを型に流し込んでいきます。型はある人に3Dプリンターで作ってもらいました。型の素材はオガクズで、膠を使って固めているそうです。これが型です」


 型は淡いクリーム色の長さ一メートルほどの箱状であった。

 これに同接者の一人が反応する。


ブルー+@「オガクズを膠で? そんな迷宮劣化対策専用の3Dプリンターがあるのか? たまげたな」


 津村はそれに触れずに、型の一部にある窪みの上に合成ブロックを持っていき、スキルを使って溶かし始める。

 合成ブロックはゆっくりと液体化して、型の窪みを通過して中に流れ込んでいく。


「はい、流し込んでいきます。昨日の配信を見ていた方はご存じと思いますが、合成ブロックの材料は〈スライムの欠片〉〈ノッカーの錆びたナイフ〉〈ノッカーの爪〉〈ヴァルドリンの牙〉です。はい、全部売っても千円に届かない素材ばかりです」


 津村はしゃべりながら初めての作業をするということに必死であったが、アドリブではない。トゥルーにきが用意した、型に流す手順を詳細にメモ書きしたものに即していた。

 セリフまで書いていてくれたので、何とか配信素人の津村にもこなすことができた。

 合成ブロックは2分ほどで全て熔解して型の中に入り込む。最後の方が型から少しはみ出て、終了した。


「で、ではスキルが切れ、型の中で固まるのを待ちましょう。固まるまで3分ほどだと思いますが用心して5分ほどお待ちください」


YELL三昧@「はあ? もう終わり? まじ熔解、つまんないスキルだな♪」


 明らかなあおりであったが、配信では一回目はスルーするのがお約束なので皆も反応しない。

 5分経過している間に、津村はメモを凝視し、ぶつぶつとつぶやく。指を細かく動かして、これからすることをシミュレーションしているのが誰の目にもわかった。


「はい、では型から出していきますね。型からゆっくり外していきま~す」


 型は縦に割れる構造で、2つの素材を剥がすことで中の物が取り出せる。津村は静かに密着した部分を剥がし、ずらしていく。

 この間7分時間がかかり、YELL三昧なる者は3回「退屈。しゃべろよ♪」と繰り返した。

 が、型から出てきたモノを見て、皆が驚く。

 それは柄までが同じ素材の両刃のショートソードであった。鈍い光沢があり、ほかで見たこともない質感を覚えさせる。


「はい、剣ができました! では、これを実際に使って、ダンジョンを進んでみたいと思います! ヒャアウィゴー!」


 そういい津村は初の合成ショートソードを振って、手に馴染ませていく。柄の部分には窪みが3つあり、手からすっぽ抜けしそうもなかった。

 ヤジっていたYELL三昧も黙って経過を見る。その理由は津村以外はわかっていた。ダンジョン素材の合成ショートソードを武器にダンジョンで実際に戦う配信は世界でも初めてであったからだ。

 津村が8分ダンジョンを進むとスライム群に出くわす。13匹が密集しているが津村は迷わず接近する。

 そして跳んでくるスライムを次々と魔核を突いて狩っていく。


虎キャン界隈@「スライム突き職人かよw」

ツイ廃帝@「うぉ! 津村、絶対セーフティバントもうまいだろう? 絶妙なバットコントロール!」

ブルー+@「WPA3.48は伊達じゃないな」

ツイ廃帝@「えっWPAが3.48もあるの? あほか野球に戻れよ!」


 と実況は盛り上がった。


 2階層に入るとすぐに3頭のヴァルドリンと出会い、津村に迫ってきた。

 今度は津村は盾をうまく使い、直線突撃の多いヴァルドリンの進路をふさいでから合成ショートソードを振っていく。


ツイ廃帝@「これはよくない! 追突禁止のコリジョンルールじゃアウト判定だ」

ブルー+@「ダンジョンにコリジョンルールはねえよ!」


 野球ネタで盛り上がる実況を横目に津村は先に進むと、YELL三昧が突如歓喜する。


YELL三昧@「はは、ついてないな! カーポノッカーを2匹引くとは! 熔解で倒してみせろよ!」


 津村の前からほぼ真っ黒な通常の二倍はあるノッカーが2匹現れた。しかも片方は皮鎧を着ている。カーポノッカーと呼ばれるノッカーの上位種で、80体に一体の割合で存在するとされていた。


ブルー+@「逃げろ、津村。カーポノッカーは強いのにドロップが通常と変わらん、ハズレだ。下手すると死ぬぞ!」


 と忠告をする者がいるが、はっぱをかける者もいる。


トゥルーにき@「皮鎧をその剣で思い切り斬ってくれ! 1万円スペチャを出す!」


 そのチャットを見るや否や津村は弾けるように動く。

 皮鎧のカーポノッカーに一気に詰め寄ると、津村は合成ショートソードを胸目掛けて横凪に振りぬいた。


 グギャァ~!!


 斬られたカーポノッカーは激痛でのけ反り、後方によろめく。

 残った一匹が錆びたナイフを手に津村に襲い掛かる。津村は体勢を立て直すと同時に迫るカーポノッカーの足を、足で弾いてバランスを崩す。

 転倒したカーポノッカーに津村はすぐに接近、脳天目掛け豪快に合成ショートソードを降り下ろす。一撃でカーポノッカーは死亡する。

 皮鎧のカーポノッカーの方も、まだ痛みに苦しんでいたが、続けて津村に首を斬られて、息絶えた。

 そしてカーポノッカーが消えた後には、小さな魔石と錆びたナイフしか残らない。

 津村は戦果にガッカリする。今までにない強敵であったのに、ドロップ品に変化がなかったからだ。

 がチャットは盛り上がっていた。


トゥルーにき@「皮鎧は斬れなかったがダメージは通っていた! いやいや剣は十分な強度だぞ!」

YELL三昧@「嘘つけ! カーポノッカーをほぼ瞬殺とか、絶対嘘だろう! 戦闘スキル持っているだろう!」

ブルー+@「昨日より戦闘上手くなってんな。凄いセンスだ」

ツイ廃帝@「Bang-bang playのようだ! いや津村、ガチで野球に戻れよ」

虎キャン界隈@「すまん、凄いとしか云えん」


 ここで津村が深刻な顔をする。そしてゆっくり合成ショートソードを掲げるように持つ。


「ああぁ……すいません。刃が欠けちゃいました」


 確かに合成ショートソードの刃の中央の一部が中心辺りで欠落していた。

 津村はトゥルーにきがガッカリすると思ったが、チャット欄はかなり盛り上がっていた。

 見ごたえのある配信であったという反応を確実に覚える。

 現にトゥルーにき以外からも2250円のスペチャが入り、最終的には同接は22人となったのであった。


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