探索部
相南と津村は同じクラスの1年C組であるが、普段は目を合わさない。1年C組には野球部排斥派が多くおり、津村をナチュラルにほぼ全員で無視する構造ができていた。
野球部排斥派とは4年前に赴任してきた校長の方針に逆らう一派である。
千校長は生徒減少に伴い、スカウトでやってきた学校経営の専門家で、野球部を盛り上げていく方針を打ち出したのである。
その手腕は強引で活動実績のない部を容赦なく廃部にし、野球部の練習拠点と予算を増大させるなど反発を買うものが多かったのだ。
そのために野球部排斥派が誕生し、集結し拡大していった。
最近、野球部排斥派は野球部の活躍と共に沈静化しつつあったが、千社長が国の方針に乗っかってダンジョン探索部にテコ入れしようとしたために活動が大きくなっていた。
ダンジョン探索部に見向きもしなかった千社長が国の補助金目当てに動いたとみなし、野球部排斥派を刺激したのだ。
元野球部で探索者となった津村は、まさに格好のターゲットでヘイトを集めてしまっているのだ。
そのヘイトが相南と会った屋上からの帰り道で炸裂することとなった。
教室に向かう途中でダンジョン探索部の者達とバッタリ出くわしたのだが、途端大爆笑が起きた。
津村は意味が分からなかったので通り過ぎようとすると、高身長で眉が太い、眼鏡の男子生徒が行く手をふさいだ。
「いや、うちの部員がすまない。気分を害したら申し訳ない。部長として心から謝罪しよう」
「いいえ、まったく気にしていませんからご安心ください」
「そうはいかないよ。面と向かって校内で人を罵倒したと噂が立ったらたまらないので、こちらの都合で謝罪させてくれ。本当に申し訳なかった!」
頭を綺麗に下げる部長の横にいる、足元までの金髪の女性が笑う。
「町田部長、ここには探索部しかいないのにそこまで強引に引き止めたら、それこそ因縁をつけているように映りますですよ!」
そういうと他の部員も笑い出す。これはさすがに津村も嘲笑しようとしているのだと悟る。
眼鏡の町田部長は少し笑いを堪えるようにした後に、再び津村に頭を下げる。
「こちらの壱角が失礼な口を――重ねて心から謝罪する!」
「はい。では!!」
きな臭さを感じた津村が謝罪を受け入れて去ろうとすると、すっと退路に高身長の女性が立ち塞がる。
女性は赤いミディアムヘアを揺らし津村を真っすぐに見る。
津村はかなりの美人だととっさに思う。
「初めまして、末廣白楽と申します。津村さまのスキルを聴きましたよ。〈熔解〉とお聞きしましたが、実のところ本当なのですか?」
「はい。〈熔解〉です」
津村が断言するとまた数人の部員が声を出して笑う。
白楽は長く白い指を自らの眉間に充てて、苦悩するような仕草をする。
「残念なのです。津村さまが優秀な戦闘スキルを得たらわたしから、入部のお誘いに伺ったかも知れなかったのです。実に残念なのです!」
白楽のどこか芝居めいた雰囲気に津村は唖然となっていると、今度は本気で心配そうな顔をした町田部長が動く。
「三度済まない! 本気でこちらの部員が問題を起こしそうな気がするので、君はもう行ってくれたまえ。心からすまない!」
町田の意志を組むわけではないが津村も危険な感じがしたので急いでその場を去ることにした。不安定で強い敵愾心が渦巻いている気がしたのだ。
恐らく津村を千校長の子飼いであると見なしているのだろう。探索部を急に厚遇を施しはじめた千校長を、探索部は嫌っているのだ。
津村にしても自分が悪くなくても騒ぎとなるのはごめんであった。
そんな津村の背に、白楽の声が掛かる。
「横濱究極さまはこちらで何とかするので津村さまは何もしないで構わないですよ!」
そういわれたが津村には何のことだか分らなかった。横濱究極が誰だか知らないのだ。
恐らくは人名なのだろう、ぐらいしか察することができない。
津村は探索部のニアミスに少しヒヤッとしたが、すぐに空腹の方に意識がいった。
ダメだ、空腹で少し眩暈が始まってしまった……。
津村は足を止め、大きくため息をつく。
しかたがないので食堂でお茶をがぶ飲みしようと決めた。




