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相南岳

 創立84年の歴史を持つ伊江慶学園高等部の校舎は、東京都多摩市の異なる私鉄に挟まれた土地の小山に建っていた。

 電車通学する生徒が半分で後は学生寮で暮らしているが、その学生寮を見て驚くものが大半であった。

 伊江慶学園は元は東京のど真ん中にあったが、ダンジョンの素になるオークの城塁が出現し、多摩市に移転したのだ。

 その際に高級マンションに匹敵する豪奢な学生寮を建てたことで、多くの資産家・実業家の子女が集うこととなったのである。

 伊江慶学園高等部の校舎も一見質素に映るが、細部までフランス人によるゴシック調で作られており、校内は王宮といった感じの雰囲気が漂っている。

 そんな校舎の屋上で、今2人の制服姿の男子が少し離れた距離を保って話をしていた。

 一人はフェンスに手を掛け近隣の公園を見つめ、一人は昇降口の壁に背を預けて弁当を食べている。

 

「昨日はお疲れ! あと、スキルゲット大おめでとう!」


「ありがとう、相南。おかげで何とか配信を 乗り越えられたよ!」


「一応、掲示板とかSNSで大宣伝しておいたよ! 俺野球疎いから『甲子園』や『津村杉太』の名前でどんだけ反応あるかわからんけどね」


「助かるよ。自分はネットのルールとか形式の違いとかまったくわからないから本当に助かる!」


 視線を交わさずに会話をしているのは津村と相南岳であった。

 筋骨たくましい高身長な青年と、ソフトにチャラい容姿の少年の組み合わせは人によっては違和感があるかもしれない。

 相南と津村は同じクラスであるが、交流があることを隠してコンタクトをしていた。


「そんで津村の取得したスキルって『生産系』って奴なんだよね? どんだけ大ハズレなのさ?」


「自分も良くはわかっていないんだ。ただ〈熔解〉は一切戦闘に役に立たないっていうのは本当みたいだ。施設の人にも聞いたけど、そういう反応だったよ」


「やっぱり大ガッカリ? 戦闘系が欲しかったのか?」


「そうだね。戦闘系というより、お金が稼げるスキルがよかったかな。呪文を人に教える系だと儲けられるって聞いていたから――」


 そこは心底残念だと津村は思っていた。人にステータスビジョンを植え付けるスキルを持っている人は、年収550万円と聴いて憧れていたのだ。

 相南もまったくダンジョンに興味がないので津村の不運が良く理解できない。


「確かに凄いスキル、大当たりのスキルっていうのはあるみたいだな。〈天啓〉とかいうのは未来を見れるっていうし、〈隷属〉ってスキルは倒したモンスターと同じ種を支配できるらしいぞ!」


「本当か? 凄すぎてちょっと信じがたいな」


 相南は米を口に入れながら昨日の配信を思い出す。


「確かに〈熔解〉はちょっとどう使っていいのかわからなかったな。スライムのアレとか、小鬼の剣を手でしばらく持っているとドロドロにできたけど、どう使っていいかわかんないな」


「戦っている時には絶対に使えない。あと籠手とか装着するのは溶かしてしまうから難しいかもしれない」


 相南は津村の〈熔解〉を思い出す。握るほどに物体は硬度を崩し、最終的にはクリーム状になったことを。そして手から離して3分ほどで元の硬さに戻っていくのを目撃していた。


「でも津村は大凄かったよ。俺はダンジョン系とかグロいから絶対に見ないけど、あの戦闘はヤバかった。素人の俺でも大わかる!」


 相南は心底感じいった声でそう言った。だが津村はピンと来ていない反応を返す。


「そうなんだろうか? 自分が参考にした探索者はもっと早くて、正確だった。自分はまだまだ隙があって危ないところが多すぎた」


「おっ! 自分の配信見直したのか! えらい! 大偉いよ!」


「いや『絶対に見返せ』と何度も云ったのは相南だろう」


「いったけどそれをできる奴はあんまりいないんだよ。見ると恥ずかしさと大反省で超へこむからな」


「自分だって恥ずかしかったよ。でも確かに必要だと思ったし、野球部の時は普通に撮影した試合を見る機会があったから抵抗が少なかったというのもあるし」


「へえ、なるほどね! やっぱり甲子園行くような奴は俺みたいな雑魚とは違うな」


「いやいや、相南がいなければ配信なんか絶対にできなかったよ。自分はとにかくポーションが買えないから一撃受けたら撤退しかないからね。配信でも全力でやらないと!」


「ポーション高いのか?」


「初心者限定割引で4500円。3か月後には一万二千円になる」


「う~ん。とにかく稼いで状況を良くしないといけないな」


「そうなるとやっぱり津村がダンジョン探索部に入部を断られたのは痛かったな。元野球部っていうのがネックなんだろうけど」


「まあそうだね。探索部は部で配信ドローンも持っているほどだからね」


「ああ、探索部にはあの末廣白楽がいるもんな」


「あのショートヘアで身長の高い人だよね。相南は知っているのか?」


「いやいや学校の一番の有名人だろう。探索者としてマスコミにも出たことあるし、普通に末廣グループの令嬢だもの」


 グゥ~~ッ――ここで津村のお腹が派手に大きく音を起てる。


「津村、お昼食ってないの?」


「た、食べたさ。ただダンジョンでベストに動くために朝と昼は極端に少なくしているだけだよ」


「フィジカルエリートの人生は大厳しいな。俺なんか食事制限なんか絶対できんわ!」


 津村は金銭的に食べられないというのは流石に言えなかったが、相南は気づかないようであった。

 不意に相南の声のトーンが強まる。


「しかし昨日のトゥルーにきって人、口悪いよな! あれ、また来るようだったらアカウント弾いた方がいいぜ」


「あ、あの人、配信終わってからメールが来て、それで少しだけ配信を再開したんだけど、その時スペチャをもらったんだ。5000円分!」


「はあ? あんな態度が悪かったのにか?」


「自分はそれどころじゃなかったから気になっていなかったけど何回も謝ってくれて――それでちょっと実験に付き合って欲しいって言われたんだ。それで昨日のドロップ品を全部溶かして塊にしたんだけど、その塊を下小山田ダンジョン事務所に送るモノに熔解して流し込んで欲しいんだって」


「はっ? ……はぁっ!? なんだ、その要求、大意味わからん! トゥルーにき、大ヤバじゃないか?」


「実験に付き合ってもらう迷惑料っていって5000円くれたんだよ。ドロップ品なんか昨日の全部売っても700円くらいだから悪くないと思ったんだけど……よくなかったかな?」


「いや確かに迷惑料払っているなら――まあいいか。でも『事務所に送る』とかやっぱちょっと怖いな」


「送ってくるのは、なんでも3Dプリンターで作った剣の刃の型だって。その型に溶かして流し込んで作った剣をモンスター相手に使って欲しいんだってさ。戦ってくれたらさらに危険料を出すって」


「ん? んぅん? どういうことなんだ。目的がわからん。でも――別に津村に大きな損はないか」


「自分もそう思う。昨日の感じだとトゥルーにきさんは研究とかそういう仕事をしている感じだと思った」


「そうか……でもまあ、何かおかしかったら俺に相談してくれ。何にもできないけどな!」


「ああ、よろしくお願いするよ。おっとそれからトゥルーにきさんは3Dプリンターでのことは人に言わないで欲しいそうだから配信中には触れないでくれって」


「そうか、わかった。そんじゃ、俺は先に教室戻るわ」


「手を掛けてごめんな」


 相南は申し訳ない、といったトーンの声を出す。


「俺こそ大すまん。まだ津村の味方を大っぴらにするのが怖いからな!」


「いいや。変なことになってしまっている自分が悪いんだと思うよ、たぶん」


「いま、この学校で探索部以外にも何か独自で動いている連中もいるみたいだから状況がまた変わると思うよ」


「へえ……相南は色々物知りなんだな」


「俺はダンジョン関連の情報は全然、No.12の奴が……」


「No.12?」


「あ、いや、なんでもない。それじゃあまた!」


 そういうと弁当を片付けた相南が昇降口から降りていく。


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