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スキル獲得

 津村は左壁に張り付いたスライムに近づくと、右手のロングソードの切っ先を向ける。

 スライムは突如壁から跳ね、津村に襲い掛かるが、ロングソードに貫かれあっさり倒される。


ブルー+@「うほっ! 基本に忠実。突くのではなくスライムの魔核を打つように武器を向けることができている!」


 下に落ちたスライムは体が透明になり、消滅、後に半透明の欠片と小さな紅い石を残した。〈スライムの欠片〉と呼ばれるアイテムと魔石である。

 ダンジョン内のモンスターは死ぬと基本すぐに消滅して、ドロップ品というアイテムを残す。

 津村は同様の手段でスライムを8匹続けて、仕留めていく。

 がステータスビジョンで時間経過を確認すると、休みを取るために座り込む。

 ふとドローンのメッセージボードの、チャット欄にいくつも質問されていたのに気づく。


「あ、すいません! 完全に集中してました。レンタル装備が3時間しか持たないのでできるだけ倒しておきたかったんです! さきほどレベルアップしましたがスキル獲得はまだです」


虎キャン界隈@「どんまいどんまい大どんまい」

ブルー+@「ルーキーのダンジョンハイあるあるだな。しかしうまく休憩取れてエラい」

トゥルーにき@「何度も書いているが、いきなりスライムの魔核突きがそんなにうまいなんておかしいだろう! おまえみたいの見たことないわ」


 津村は水を飲んでからチャットの内容を頭で整理して答える。


「まずはスライムのジャンプ攻撃はだいたい時速40キロ前後なので、処理は難しいと思いません。イーファス・ピッチ……凄く遅い球の対応には自分は慣れていますので」


トゥルーにき@「いや、ダンジョン暗いし魔核小さいから、経験なしでできるのはやっぱおかしい」


「それはビジョントレーニングをしていたからだと思います。動体視力、深視力、眼球運動、瞬間視、眼と手の協調性を、モニターを使ったV-Trainingやラグビーボールで鍛えていましたから」


 津村はつらつらとスライムを倒せたわけを解説した。


虎キャン界隈@「云っていることがミリでわからん大理解不能」

トゥルーにき@「えっ? 今野球ってそんな訓練してんのかよ」


 津村がいつも妹たちから返される反応と同じであった。

 2人が戸惑っているのはわかったが、津村は動体視力のことを更にうまく説明できる自信がない。動体視力に関連するトレーニングはメニューの一つとしてこなしていただけで、理論的なことはよくわからなかったからだ。

 すると少し沈黙していたブルー+@が語る。


ブルー+@「そうか、伊江慶学園野球部の監督、ガチのセイバーメトリクス信者か。ちょっとネットで調べさせてもらったわ。どうりでコアなトレーニングにこだわっているわけだ。あ……説明するとセイバーメトリクスっていうのは徹底的統計に基づくデータによる野球分析の事だな」


 それは指摘通りであった。

 伊江慶学園野球部監督・新岡環二はセイバーメトリクス的なデータを重視し、それに適した最先端トレーニングを導入していたのだ。

 同じチームメイトの高砂武蔵は監督を「数字の奴隷」といって反発していたが、新興野球部にも関わらず結果を出していた。

 津村にしてもその理論・鍛錬は目から鱗で、役に立つと感じていた。


「休憩もマイクロブレイクの概念で定期的に取るように意識しています。自分は有酸素運動15分につき2分休憩がベストのようです」


 と津村は唐突に休憩した理由も説明した。


ブルー+@「ちなみにWPAはいくつあったの?」


「3.48です」


ブルー+@「すご! そんな高いなら野球続けろよ」

トゥルーにき@「やきうの話はもういいよ」

ブルー+@「出た『やきう』! 野球差別主義者ってどこにでもわくよな」

トゥルーにき@「専門用語で酔いしれるのやめろ」

ブルー+@「マイクロブレイクは野球用語じゃねえよ!」


「皆さん、できるだけ仲良く行きましょう。お願いします」


 これに津村は仲介に入った。

 野球に対する反発を目にするのは津村は慣れている。

 伊江慶学園は3年前の野球部の他県からの選手スカウトを大々的に行ったが、これには半分以上の教師・OBが反発していた。その余波で越境入学野球部部員に対して敵愾心を向ける一部の生徒がいるほどであった。

 津村は無理な作り笑いを浮かべ、再び探索に出る。


「それでは探索を再び開始します! ヒアウィーゴー!」


 スライムを倒しつつ、二階層に続く道を進むと灰褐色の肌の耳が長く、口から牙を生やした二足歩行の集団に遭遇する。

 ノッカーと呼ばれるゴブリンの一種で爪と牙、そして武器を操る小鬼モンスターだ。

 またその傍には双頭狐のヴァルドリンもいた。

 すると悪意のあるチャットが書き込まれる。


トゥルーにき@「ふふっ♫ はじまったな。下小山田の洗礼が!」


 下小山田ダンジョンは実は新人には向かないことで知られていた。浅い層に殺すのに忌避感を覚えさせるモンスターが集中しているのだ。

 小鬼の要素が少ないノッカーは人間のように感じられ、ヴァルドリンの容姿は比較的愛らしく、命を奪うことに抵抗感をもたらすのだ。

 なので下小山田ダンジョンの近くの新人探索者は、他の近隣のダンジョンを選ぶ傾向にあった。

 ノッカー4匹、ヴァルドリン2匹が吠えながら津村に反応する。


 ギャッ!! ジャッ!! ギァッ!!


 ヴァルドリンらが素早く駆け、津村の後方に陣取り、ノッカーが横並びで津村に迫る。

 あっという間に包囲された津村であったが、動揺は見せない。


 シャガァ~!!


 ノッカーの一匹が大口を開いて飛び掛かっていくと津村も反応する。

 左に持った盾で攻撃を弾きながら、ロングソードを豪快に鋭く振り抜く。

 その一閃でノッカーの一匹の頭部と、その隣の一匹の首を断ち切ったのだ。

 津村はすぐに倒れたノッカーのスペースを利用して反転、そしてまた一凪でヴァルドリンを葬る。

 さらには器用に蹴りも多用していく。盾をかいくぐって接近したヴァルドリンの鼻っ面をキックし、後退させる。

 楯の使い方もパワフルで、一体のノッカーは盾の縁での殴打が致命傷になった。楯はリクタングラーシールドと呼ばれる長方形の、畳の三分の一ほどの大きさをしたものである。

 結局遭遇して2分で津村は全てのモンスターを倒し切ってしまう。


虎キャン界隈@「いやいやいや、凄い・大凄すぎんだが!」

トゥルーにき@「おいおい! 新人がそんなことできるわけないだろう!! こいつ絶対嘘ついている!!!」

ブルー+@「糞草。剣の太刀筋がガチ勢すぎる!」


 チャット欄を確認した津村が額の汗を拭って小さく笑う。


「20日前から素振りをした成果が出ました。嬉しいです!」


トゥルーにき@「20日!? たったそれだけで、レベル2でノッカー2匹斬りとかできるわけねえだろう! 何回素振りしたっていうんだよ!」


 これに津村は少し暗算して答える。


「40万回ですね。横振り・縦振り・斜め振り・突きを一日五千回ずつ。マイクロブレイクを計算して6時間しか掛かっていません」


 そういうとチャット欄は何も文字が流れなくなる。

 20秒待ったところで津村はステータスビジョンの確認に移る。


「あっ、レベル3になりました。スキルが来ました! え~とスキルは〈熔解〉です」


 するとチャット欄はまたしばし沈黙した後に慰めのコメントが連投された。

「生産系スキルも仕事はある」「スキルがなくてもフィジカル凄いから大丈夫!」「どんまい! え~とどんまい!」と励ましの言葉が躍った。

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